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第二章

「よいな。そうするぞ」
「何と、あの武田にですか」
「戦を挑みますか」
「舐められて終わってはならん」
 戦国の世ではそれはこれ以上はない恥だ。そして家康には誇りがあった。それならばだった。
「よいな、戦じゃ」
「畏まりました。それでは」
「我等も」
 三河武士達は強いだけではない。忠義もまた凄まじいものがある。主の言葉に逆らうなぞ考えられないことだった。
 その主が言うならばだった。彼等もだった。
 すぐに立ち上がりだ。主に従い出陣した。
 家康は一万を超える兵で武田を追う。三万を超える武田の軍勢は丁度峠を越えようとしているところだった。その彼等をだ。
 家康は必死に追い総攻撃を仕掛けようとしていた。彼は屈辱を晴らそうと躍起になっていた。だが、だった。
 武田の軍勢は峠の頂点に来たところでだ。急にだった。
 反転し瞬く間に陣を整えた。そうしてだった。
 峠を一気に下り徳川の軍勢に攻め込んでいた。孫子の旗がそこにあった。
「き、来たぞ!」
「武田が来たぞ!」 
 さしもの徳川軍もだ。その炎の雪崩の如く来る武田軍を見てだ。
 震え上がった。そうしてだった。 
 戦は一瞬で終わった。勝負にさえならなかった。
 徳川軍は総崩れになった。その中でだ。
 武田軍は家康の馬印、日の丸の扇を見た。それを見てだった。
「徳川殿はあそこぞ!」
「家康殿の首を手に入れよ!」
「褒美は思いのままぞ!」
「家康殿お覚悟!」
 その武田の鬼の如き武者達がその馬印に殺到する。それを見てだった。
 三河武士達は口々にだ。こう家康に言った。
「殿、ここは危険です!」
「お逃げ下さい!」
「ここは我等が引き受けます!」
「ですから!」
「馬鹿を言え。この有様はわしのせいじゃ」
 家康は蒼白になりながらもまだ前を見ていた。そのうえでだ。
 こうだ。迫り来る炎の軍勢を見据えて言った。
「それでどうして逃げられるのじゃ」
「しかし今逃げねばです」
「殿は討たれてしまいます」
「ですからここはです」
「我等にお任せを」
「ならぬ」
 だが家康は頑固だった。それでだ。
 一向に引こうとしない。それでだった。
 旗本の一人が家康の采配を奪い取った。そのうえで武田の大軍に向かって突き進み叫ぶのだった。
「我こそが徳川家康ぞ!」
「馬鹿な、そんなことをすれば死ぬぞ!」
 間違いなくだ。武田の者達に討たれるというのだ。
 既に徳川の兵達は武田の者達に次々と討たれている。家康の目の前で兵達が薙ぎ倒されていっていた。
 だがそれでもだ。その者は武田の軍勢に向かって進む。それを見てだった。
 周りの家臣達がだ。家康に必死に訴えた。
「あの者の心を無駄に為されるな!」
「ここはお逃げ下さい!」
「我等にお任せを!」
「その方等もか」
 己の為に命を捧げんとしていることをだ。家康は悟った。その心を受けてだった。
 彼は遂に決断した。そうしてだった。
「済まぬ!」
 こう言ってだ。遂に逃げにかかったのだった。だが武田の軍勢はまさに鬼だった。
 恐ろしい勢いで来る。家康の首をここで討たんとする。だがその都度だった。 
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