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Blood Wolf

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第一部
  やってらんねえ

 
前書き
辛いわー。背中全体が痛い。
.._〆(´Д⊂
 

 
「あー、良い運動だったー」


龍ヶ崎(りゅうがさき) 美祢々(みねね)》と《白凰汀沙(はくおうなぎさ)》は背伸びしながら一年十一組を出た。教室は真っ赤に染まり鉄臭さが漂う。

男子達は天井に突き刺さったり、壁にめり込んだり、体に穴が空いたり、中身が(こぼ)れ落ちたりしていた。それはそれは見事な完敗である。


「みんなー生きてるかー?」

「【治療結界(ヒーリング)】が無かったら死んでるよ」


永遠(とわ)レイア》の呼び掛けに対してやけにスプラッターな《池田弥彦(いけだやひこ)》が答えた。


「エンド、俺の肝臓拾ってくれー」


声の方を見ると腹を七割がた失った《霜原海斗(しもはらかいと)》がズッタボロで寝転んでいた。彼の指はエンドの足下を指しており、そこには内臓が有る。

《エンド・エターナル》はそれらの中から一つ掴んで持ち上げる。やけにぷりんとしている生温かい人肉だ。


「これ~?」

「それは尼崎(あまがさき)のじゃね? なんか色が(わり)ーしな。俺の肝臓はもっと健康的だ」


内臓がぐっちゃ混ぜで誰のか解らない。何処かに名前は書いていないのだろうか。


「もしかしたら、みんな知らない内に他人と臓器入れ替わってるかもしれないな」

「そういやこないだは尼崎のやつが神宮(じんぐう)に腎臓一つ借りパクされてなかったっけ?」

「嘆いてたぞ。でも腎臓が三つだと健康になれそうな気がしないでもないよな」


エンドは再び足下の内臓を拾って投げる。


「おいコラ、雑に投げんなよ。人の内臓だぞ」


海斗は飛んできた肝臓をキャッチして体に戻そうとする。弥彦も千切れた腕をくっ付けた。すごい絵面だ。


「この一月でみんな慣れたよな」


神薙悠持(かんなぎゆうじ)》からすれば見た目は猟奇的だが雰囲気はほのぼのだ。怪我も治るし生き返ることが出来るだけまだ甘い。子供が見たとしたらトラウマものの光景であろうとも。


「ところで死んだのは何度目になるんだい?」


宮本終夜(みやもとよすがら)》が尋ねると男子が答えた。


「そろそろ100回くらいすかね」


喉に詰まった血を吐いて起き上がった別の男子は今まで抑え込んできた恨み節をつらつらと並べる。


治療結界(ヒーリング)は有り難いんだがあれが有るせいで藤堂のやつも遠慮せず甚振(いたぶ)りやがる」


手足がもげても、内臓が飛び出しても、脳がテイクオフしても、数分あれば自動で修復。痛みも殆ど無しときたもんだ。治った体には繋ぎ目一つ残らない。


「にしても、また負けちまった」

「ていうかさ。君達の攻撃って今までの1ヶ月間にあった戦闘でちゃんと女子の体に当たったことってあるの?」


神剣勇(みつるぎゆう)》の疑問に男子一同は一瞬、言葉に詰まってしまう。それだけ覚えが無いのだ。


「スカートに」

「上履きなら」


これは虚しい。聞いた勇が気の毒に思って落ち込んでしまう程だ。弥彦と海斗が溜め息を吐くのも無理は無いというもの。一生で一度しかない高校生活の三年間を、こんな奴隷生活で過ごさなければならないのは(むご)すぎる。


「ん?」


《ルキウス=アルグレント》が血の滲む一枚の紙を手に取って見ると何か文字が書いてある。


『今日の罰として、A棟の二階と三階の掃除を命令致します・《白凰汀沙(はくおうなぎさ)》/もし(ほこり)の一粒でも残していたら容赦なくミンチにしちゃうからねー・《龍ヶ崎(りゅうがさき) 美祢々(みねね)》』


二人が教室を去る前に残していった書き置きの内容は体が治った男子の精神に対し、かなりのダメージを与えた。


◆◆◆◆◆◆◆◆


「おい大丈夫か」


戦闘で死んで復活し、疲労困憊状態のまま二時間も雑巾がけをした弥彦にレイアとエンドが付いて家まで送る。弥彦の家は駅から少し離れた場所に在る広めのアパート。


「こんな時に誰も居ないんだもんねー」


弥彦の両親は仕事で海外を飛び回っており、子供が大きくなってからは一人暮らしなのだ。


「ただいま~」


弥彦は靴を脱いで自室へと向かう。


「あ、ヤヒコお帰りー。おや? 今日はレイア兄とエンドの二人とも一緒に居るんだね」

「お、不良少女」

「通報する?」


レイアとエンドがボケた。弥彦のベッドで寝ながら漫画を読んでいたのは『あほ毛』が一本跳ね立ち肩まで伸びた金髪の女子。

その細い首には赤いリボンを巻かれており、
青い瞳は漫画のページを眺めている。


「不法侵入かな?」

「そっすね」

「DQNですか」


エンドもレイアも知っている人物だ。


「幼馴染みなんだし良いでしょ」


彼女は《天野睦紀(あまのむつき)》と言って弥彦が住むアパートを所有する大家の娘であり三人の幼馴染み。


「アタシはアンタの保護義務があんのよ。アンタの父さんにだって頼まれてんだから」

「睦紀は弥彦と同級だよな?」

「家に上がり込んで御飯を(たか)りに来てるだけって聞いてるんだけど違うのか?」


レイアとエンドの指摘に睦紀が(うな)る。


「ヤヒコのボディーガードが主な仕事よ」


彼女は確かに強い。レイア達とは比べるべくも無いが、【血液魔法(ブラッドノア)】を専攻する小中学校を首席で卒業した天才。

しかし同じ高校になったにも関わらず、学校には殆ど行かないでバイト三昧。金髪に染め上げ露出度の高い服を着た不良となった。しかしその理由を知っているレイア達は何も言わず弥彦と睦紀を見守る。


「最近休みすぎじゃねえか。
また今日もバイトしてたのか?」

「うん」

「出席日数足りなくて留年するぞ」

「アタシは天才だから問題無いよ」 


真顔で言い切った彼女に弥彦は羨ましそうだ。


「ところでムツキって何でそんなにバイトしてんの? 散財してるところなんて見たこと無いし欲しいものでもあんの?」


睦紀は目を逸らして曖昧な態度を取る。


「弥彦。年頃の女の子に余計な詮索は野暮だぞ。色々と複雑な事情が有るんだよ事情が」

「そうそうそういうこと。レイア兄ちゃんの言う通りだよ。アタシお腹空いたから御飯作ってよヤヒコ」


レイアのフォローで誤魔化すことに成功したムツキはなし崩し的に食事の準備へと突入する。


「なあ睦紀。お金なら僕やエンドが無償で支援することも出来たんだぞ。そうすれば睦紀はもっともっと強くなれてたんだ」

「弥彦が知らないとはいえ、働きながら入学試験で次席になれたんだから。全部を強くなることに費やしていたんなら、《藤堂綾子(とうどうりょうこ)》に明確な差を着けた一位になれたろうに」

「確かに本来ならあっさりとアイツを倒して学年首席になってたでしょうね。でもお金を払うのは私が決めたことだから。というか二人の方こそ本気出したら一気に解決するでしょ」

「出して良い相手が身内しか居ないんだよ。相手が弱すぎてどうしようもないんだから。どう考えても手加減した第一覚醒だけで片手間に殲滅出来る程度の連中でしかないんだぞ」

「……は? いやいやいや、ちょっと待ってちょっと待って! 一体どんな風に修業して地獄を見たらそんな風に強くなれるの? アタシの立場無いんですけど!?」

「昔から俺とレイアお兄ちゃんはそれくらいすることは出来たよ。ただ血液魔法がその手段じゃなかっただけだからね。俺達は今でも第二覚醒は使えないわけだしな」


◆◆◆◆◆◆◆


「炊飯器二杯分食うのを遠慮とは言わない」


《池田弥彦》は《天野睦紀(あまのむつき)》に突っ込む。《永遠(とわ)レイア》と《エンド・エターナル》は既にカレーを食べ終えていた。


「ヤヒコはお疲れみたいね」


さっさと食べて風呂に入りたいのだが、
どうしても食欲が湧いてこないのだ。


「なあムツキ。どうにかして藤堂達からの男子に対するパワハラを何とか出来ないかなあ?」


いくら何でも横暴が過ぎるというのは解らないでもないのだが、それが通じるのなら『私立赤百合学園』という場所は存在していない。


「無理だよ。校則だもん。血戦で勝つ以外に誓約を覆したいなら国を動かさないと」


睦紀はカレーを頬張りながら話す。


「まあ男子を(うと)んで虐めたいのは藤堂綾子の一派だけみたいだしな。女子全員が敵じゃないだけ望みはあるだろう」

「不満があるなら弥彦が倒しちまえよ」


レイアとエンドは睦紀の意見に同調する。別に弥彦に対して赤百合を辞めてほしいわけではないのだが、彼がこれからも血液魔法に関わり続けるのなら、何時かは真実に辿り着くことになるだろう。


「三人揃って無茶言うなあ。俺が学年首席で一年最強【魔血法使(ソーサラー)】の藤堂と()しで()ったらどうなると思う?」

「派手に散る」

(なぶ)り殺し」

木端微塵(こっぱみじん)


三者三様に弥彦の死に様を予想した。


「御三方とも素直な回答ありがとう御座います。出来れば勝敗を言ってほしかったよ」


そこでレイアがピーンと思い付く。


「そう言えば弥彦と藤堂の力って何かに例えると一体どれくらいの差が有るんだろうな?」


レイアやエンド、他の仲間は【血法】でなら大体相手との力量差を感じ取ることが出来る。しかし血液魔法では睦紀より初心者なので自分達が藤堂より遥かに強いくらいしか解らない。


「うーん……。そーだね~。藤堂がライオンならヤヒコはハムスターの餌の種ぐらいかな?」

「生物ですらないのか」


エンドは変な笑いが浮かんできた。


「けどまあ修業次第なら勝てるかも。
五年くらい頑張ってみたらだけど」

「卒業しとるわ!」


弥彦の本領が、本当の力が発揮されれば明日にでも藤堂の首を取れるかもしれないのだが、睦紀もレイアもエンドも絶対に口には出さない。

そう。絶対に出すわけにはいかないのだ。

もうあんな思いをするのは二度と御免だから。


「アタシが面倒を見れば卒業までに藤堂達と戦って勝てるようになるかもしれないよ」


睦紀は手の平を上に向けて手首から先をクイクイと招くように動かす。二次元や映画でもたまにある、『かかって来い』というジェスチャーである。


「クタクタなんだ。止めてくれよ」


弥彦はカレーを食べ終えると片付けをして
自分のベッドへうつ伏せに倒れ込む。


「なあ、ムツキに聞くけどレイア兄ちゃんとエンドって一体どんくらいの力と強さなんだ?」


弥彦は二人と再会してからずうっと気になって考えていたことを尋ねてみることにした。


「二人だけじゃなく、ミディアさんや向子さんもそうだけど、レイア兄の仲間って実戦なら退学した男子と残ってる男子を合わせても一人で勝てるよねエンド」


睦紀は彼等が【血法】を使えることは知らないが弥彦達より遥かに知識も血闘値も有ることは確信していた。昔は血液魔法をどれだけ頑張っても敵わなかったことを今でも覚えている。


(あの頃から今も変わらずにずうっと鍛え続けているのなら、例え第二覚醒に至っていなくとも、赤百合でかなりの強さになるはず)

「まあ睦紀が言ってることは大体間違ってはいないだろうね。今のところ、藤堂の派閥に居る女子に全く負ける気がしないもん」

「というか《藤堂綾子》ごときの相手に対して負けるイメージを持つことが微塵も出来ないんだがな。あれくらいのやつなら戦闘プロの職業魔血法使(ソーサラー)に幾らでも居るんじゃないのか?」


それを聞いた弥彦は目を閉じる。


(ああちくしょう。強くなりてぇ……)
 
 

 
後書き
原作の弥彦と睦紀がしている
互いの名前の呼び方はカタカナです。 
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