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レーヴァティン

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第二十三話 堺の街その七

「命を奪った相手は一人もなし」
「命は粗末にしないか」
「そうした方でして」
「人に教えることもか」
「見事な方です」 
「そうだな、こうした道場は稽古にも木刀を使うが」
「危ないので」
 打ち所が悪ければ大怪我か死ぬ、英雄も江戸時代までは稽古で死んだ者が多かったことも知っている。
「ですから竹刀にです」
「防具だな」
「その二つを使っています」
「いいことだ、強くなるならだ」
「まずは生きることですね」
「そうだ」
 こう若い門弟に答えた。
「生きていればだ」
「それこそですね」
「幾らでも強くなれる」
「死んで魂までなくなれば」
「もう元も子もない」
「はい、稽古で死んでも魂はすぐに戻せますが」
 それでもとだ、門弟も話す。
「生き返るまでも時間がかかったりしますし」
「どうしてもだな」
「その分の時間の浪費に最初から怪我をしない様にとのことで」
 怪我にも治療が必要だ、その為の術をかける分だけだ。
「それなら出来るだけです」
「怪我をしないことだな」
「まずは、ですから」
「竹刀と防具を使っているのか」
「そうです」
「この道場ではそうだな」
「その通りです、お師匠様はそこまでお考えです」
 まさにというのだ。
「立派な方ですね」
「そうだな、安全な稽古だな」
「それが第一とのことで」
「いいことだ、ではだ」
「はい、入門ですか?」
「いや、その師範代に会いたい」
 外の世界から来たという彼にというのだ。
「是非な」
「そうですか」
「そしてだ」
 さらに言うのだった。
「そいつと話がしたい」
「それでは」
「今から会わせてくれるか」
「はい、それでは」
 彼も頷いてだ、そしてだった。
 門弟は英雄を師範代という外の世界から来た者のところに案内した、その男は小柄な老人と話していた。その老人を見て門弟は自分が案内する英雄に話した。
「あちらの方がです」
「この道場の主でだな」
「我が師匠です、束原流犀といいます」
「いい名前だな」
「まるで流れる犀の様に動き」
「敵を倒してきたか」
「そう言われてご自身でも号されました」
 流犀と、というのだ。
「左様です」
「そうか、犀の様か」
「流れる」
「大体どうした剣かもわかった」
 その号からとだ、英雄は門弟に言った。
「一刀でだな」
「突き進む剣術ですが」
「しかし決して硬くはない」
「流れる様に柔らかです」
「そうした剣技の流派か」
「そうなのです」
 まさにというのだ。
「そして師範代は」
「その動きをか」
「最も見事に体現されている方です」
「入門して短いのにか」
「それでもです」
「そのこともわかった、ではな」
 これよりとだ、英雄は応えてだった。門弟に案内されたうえでその二人と会った。するとその若い長身痩躯の黒い袴に青い上着の男がだ。  
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