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シークレットガーデン~小さな箱庭~

作者:猫丸
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第三章
  第三章 大都市で起きた不可解な事件

第三章 大都市で起きた不可解な事件-宿での選択肢-







「おーきー。ちゅーおーれっしゃー」
「ランファー早く来ないと置いてくよー」
「あーん。置いてかないでー」

今ルシア達が居る場所は森の国と海の国の国境大橋を渡る唯一の巨大列車が走る駅の中にあるホーム。中央列車の前に立っているのだ。黒光りしていてモダンでアンティークな仕上がりで、記念写真を撮っている客やランファのように見とれて口を大きく開けてポカーンとしている客があちらこちらにいるようだ。
そろそろ列車が出発する時刻だ。ランファには悪いが中へ入ることにしよう。やだーと駄々をこねるランファがの腕を引っ張り列車の中へ。さすが国境を渡ることが唯一許された列車。内装は豪華絢爛そのもので乗客一人一人に個室がありウエイターが廊下を歩いているのでなにかあれば、彼らに言うと物の数秒で解決してくれるらしい。貴族様の列車は庶民のものなんかとは大違いにもほどがあるぞ。
個室の中にある寝室にはキングサイズの天窓付きふかふかベットやジャグジーが楽しめる泡風呂などなど、見たことない驚きものが沢山あった。

ルシア達が泊まるのは三人でひとつの広い個室からの中へ入ると三つに分かれている寝室。

「でもたしかに…大きいよね」

それぞれに用意された寝室に荷物を置き終わり真ん中の個室に集まってすぐ、ルシアはひとり言のようなぼやきのような声をだした。居心地の悪そうな顔をしながら。

「…最高級列車……貴族のたしなみ」

持参した紅茶をティーカップに人数分いれながらシレーナはうんうんと頷いている。それを見てルシアもだよね~と苦笑いで返す。

「貴族列車にタダで乗せてくれるなんてっ、ドルファはふとっぱらだね~」

緊張気味の二人とは真逆に、列車内を走り回り備え付けの施設・設備を片っ端しから見て回っていた、幼い子供のような、探究心の塊のような探検隊ランファ隊長のご帰還だ。
帰って来て最初の一言がそれとは恐れ入る。さすがランファ隊長だ。

「でもなんか申し訳ないような……。僕達には場違いなような気が……」

元気いっぱいの隊長とはうって変わってルシア隊員は後ろ向きな発言ばかりだ。これにはランファ隊長もばっかもーんと怒るほかない。

「ダメダメ! こんなチャンス滅多にないんだからっ、めいいっぱい満喫ないとっ!!」

出来の悪い隊員に説教を言ったあとランファ隊長はまた貴族の列車の探検を始めるのだった。部屋を出て行く隊長の背中を見送るルシア退院は

「ランファは満喫しすぎなんじゃ……」

やや呆れ気味言うのであった。それはごもっともな意見であった。これから数分後、立ち入り禁止区域足を踏み入れたランファ隊長は機長に見つかり物凄く怒られて泣きながら帰って来たそう。

――ニ三日で復活したが。

貴族様御用達の中央列車の旅から数日。今日は国境を越えて海の国に到着する日。
次の日にある遠足が楽しみでなかなか寝付けない子供と同じランファは昨日の朝から一回の休憩も、一睡もせす窓のガラスの外を見つめ"それ"が見えるその時をスタンバっている。
大丈夫かな…と心配しつつも、何を言っても聞かないランファのことだし温かく見守るしかないかな、と若くも親目線になっているルシアはシレーナが入れた紅茶を飲みながら温かく見守っている。

――その時はいつの時も突然やってくるものだ。

「海だぁぁぁぁあああ!!」

窓を開けて身を外へ乗り出して叫ぶランファの身体を落ちないように引っ張りつつ、一緒になって外を景色を見てみる。

「……国境越えた」
「あれが……海」

青い透き通るように綺麗な水面。太陽の光が反射してよけいどもそう見える。ずっと森の奥地にある村で暮らしていたルシアにとっては初めての海だ。

「これが……"ホンモノ”の海なんだ……」

ランファが零したこの言葉、どうゆう意味なのだろうと気にはなったが聞けなかった。なんだか聞いてはいけないような気がしたのだ。
この言葉を言った時のランファの表情がとても悲しそうで辛そうだったから。

――しばらくの間。みんなで初めて見る海に、久しぶりに見た海、感動に見とれていることにした。

[皆様、長旅ご苦労様でした。間もなく海の国首都、大都市ゼルウィンズに到着致します]

目的地到着したことを告げるアナウンスが列車に流れた。聞いてすぐにハイテンションで大はしゃぎのランファは荷物も持たずに部屋を飛び出して行ってしまった。やれやれと深く息を吐くとルシアは自分のとランファが置き忘れて行った荷物を持って

「行こうか。シレーナ」
「……うん」

シレーナとゆっくり列の順番を守って列車を降りてすぐ

「お待ちしておりました。ルシア様。そしてお連れの方々」

肩に着くぐらいまでに延ばした綺麗な金髪の髪に蒼いサファイアのような綺麗瞳に白いスーツを華麗に着こなした美しい青年がルシア達に向かって丁寧な言葉遣いで出迎え深々とお辞儀をする。その動作は白馬がいればどこかの国の王子様だと紹介されてもおかしくないはない優雅さと気品を感じさせる。

「えっと……あの……」

青年の放つ王族の雰囲気に圧倒されつつも聞いて見る。あなたは誰ですか? と。最初は人違いだと思ったが、彼はルシアの名前を呼んだ。それはありえない。ならばなんの用で?
ランファはルシアの背に隠れてまるで不審者を見るような目で青年を見つめている。失礼でしょっと怒ろうかとも思ったが。相手が良く分からない相手の場合それは仕方のないことだろう。

「申し遅れました。私めはドルファフィーリングの紫龍(しりゅう)と申します。長旅ご苦労様でした」

山奥に流れるせせらぎのように美しい声で流ちょうな口調で話す彼。素敵な笑顔を崩さないまま。一応不審者じゃないことが分かり、ランファはルシアの背中から顔を覗かせ紫龍に質問をする。

「なんでドルファの人が来てるの?」
「実は……」

一瞬、紫龍の笑顔が崩れ悲し気な表情となった。そして申し訳なさそうな顔で

「本日予定してましたドルファ立食パーティー。それが先日あった事件のせいで、二週間延期する事になってしまったのでそのことをお伝えしにまいった次第です」

紫龍はぺこりと頭を下げた。その動作につられてルシアもつい頭を下げしまう…というよりもだっ。

「えぇぇ!!? ご飯は延期なのっ」

食べる事なかり考えているランファのことは置いておくとして

「……事件?」
「申し訳ありません」

シレーナが聞き返してみたが紫龍は申し訳なさそうにまたぺこりと頭を下げ

「お詫びと言ってはなんですが。我がドルファフィーリングが運営する宿で長旅の疲れを癒してくださいませ」

沈んだ悲し気の表情が一転、またあの素敵な笑顔となり紫龍は説明を続ける。ランファでも分かるように優しく丁寧に。

「それからルシア様の身にもしもの事があってはいけないので、せいげつながらボディーガードをつけさせていただきます」
「ぼでぃーがーど…?」

紫龍は斜め後ろに建っている丸い大きな柱に視線をやる。

「ムラクモさん。いつまでも隠れてないで出てきなさい」

ルシア達に話しかけた時の優しい口調とは違う、冷たく少しトゲを感じるような口調で柱の後ろに隠れている人物に対し言う。

「……ッ!! は、はひっ!!」

噛んだ。第一印象はそれだった。
柱の後ろから出て来たのは、林檎のような真っ赤な伸ばした神を頭の左側でひとつに(まと)めているサイドテールと呼ばれる髪型で、エメラルドのような瞳で紅いドレスのような服を着た女性だった。彼女が服の上に羽織っている赤いポンチョは、ランファが着ている赤いポンチョとよく似ているような気がするがこちらの方が新品同然で綺麗だ。
美人の登場に思わず綺麗な人…と見とれてしまうルシアはそれを横で見て不満そうに見つめる乙女が二人居たことなんて知る由もない。
出て来た女性はもじもじとしてなかなかルシアたちの方へとやって来れないでいる。柱の後ろから出て来てルシアと目合って林檎のように真っ赤な顔になると、また柱の後ろに隠れてうぅうと鳴き声が聞こえてくる。この繰り返しを何回か見さされている。

「申し訳ありません。彼女は極度の恥ずかしがり屋で…」

紫龍が上司として彼女の代わりに謝る。彼女も柱の後ろに隠れたまま「すっ、すいません…」と謝るが

「そう言うことは面と向かっていいなさい」

と怒られて「はひっ!!」と柱の後ろから出て来るが…

「………ッ」

また顔を林檎のように真っ赤に染め。柱の後ろに隠れてしまった。その光景を見て紫龍ははぁ~~と大きなため息をつき申し訳なさそうな顔で苦笑いし頭を軽く下げた。
ルシアは軽く苦笑いすると、彼女が隠れる柱の方へと近づいて行き優しく声をかけた。

「僕も初めて会う人の前では緊張してしまう方なんです。だから気にしなくていいですよ」

ルシアに真正面から見つめられて彼女の顔は林檎を通り越して沸騰した湯のようだ。耳まで真っ赤にして頭からは湯気が立ち上っている。「はぅ~~」と力なく息を吐くとその場にへたり込んでしまった。
はぁ……とため息をつきやれやれといった感じで首を振ると、紫龍はへたり込んでしまった彼女に手を差し出し立ち上がらせて改めてルシアの方を向いて

「ムラクモはこんな恥ずかしがり屋で役立たずのように見えますが。腕は確かなのでご安心ください」

皮肉ととらえていいのだろうか、そう言うと「それでは行きましょうか」と駅を出てすぐに止めてあった黒いリムジンにまでエスコートしてくれた。この間柱の後ろに隠れていた彼女はずっと、どこかに隠れながらルシア達の跡を付いて来ていた。その光景に思わずくすりと笑いがこみ上げる。

「おーーリムジンだー! すげー!」
「こらっ。はしゃがない」

これは何メートルあるのだろう。横に長い黒色のリムジンに大興奮のランファを嗜めつつ、ドアを開けてどうぞと言っている紫龍に誘われるがままに乗り込んでみる。
さすが貴族様の車だ。仲は普通の車とは大違い。車内の内装がプラネタリウムになっているのだ。薄暗い車内にやんわりと光る星。
椅子も車に対して横ではなく縦に設置されており、皆で並んで座れるようになっている。冷蔵庫も完備しているため、飲み物も飲み放題らしい。……さすがに遠慮させていただいたが。
ランファにとってこのリムジンの中は遊び放題の空間らしい。遊ばせないが。絶対に。
 
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