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仮面ライダーLARGE

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第二話「変身ッ!」

 
前書き
主人公が変身します。
……もちろん仮面ライダーに! 

 
巨大な地下空間の中、古代ローマのコロッセウムを復元させた闘技場、そのフィールドのエリアにはありとあらゆる実験台として生み出された醜く恐ろしき怪人たちが、己が能力をもってして、互いに殺し合いを続けていた。
そんな闘技場の特等席より見物しているのが、真っ赤な西洋の鎧をまとう大男である。右目に眼帯、左頬に縫い傷をした、見る限り強者を思わされるような武人である。
彼こそは、猛狂カルト教団「グランショッカー」より日本支部の幹部グロリアス指令である。
その、圧倒的な剣豪の武術さの実績により、今ではグランショッカーを統括する大いなる存在「大首領」に使える四天王の一人でもある。
その彼が属するグランショッカーとは、かつてより世界征服に向けて幾多もの生物兵器をバイオ科学力で生み出しては全世界を脅かしてきたが、後に自らの傑作である強化人間、「ホッパーシリーズ」の裏切りによって壊滅の道を幾度なく迎えたが、今では歴代のありとあらゆる同業の組織が結成し合い、再び世界へとその牙を向け始めたのである。それが「グランショッカー」である。
「……」
「いかがでしょうか?グロリアス指令」
黙って、コロッセウムの円内を見下ろしているグロリアスの隣に現れたのは白衣を着た薄気味悪い男の姿である。彼は、グランショッカー日本支部であらゆる怪人の開発と育成に携わる冷酷非情なマッドサイエンティスト、ドクター・ジルキスである。
「貴様の生み出した怪人、どれも期待以上の強者であることはわかった。しかし……」
ゆっくりと、隣で不気味に笑うジルキスへと振り向くグロリアスはやや険しい表情を浮かべた。
「……例の新型がそこに紛れてはおらぬではないか?」
「はぁ……新型、ですか?」
「そうだ。新型の『ショッカーライダー』だ! ホッパーシリーズに唯一太刀打ちできる、あの新型ショッカーライダーの開発はどうした?」
苛立ちながら、クワッと自分よりも背丈の低い小男をにらみつけた。それに対し、ジルキスはやや困り果てた様子で唸った。
「うぅむ……新型のショッカーライダーの件ではこちらでも四苦八苦中でございますよ?何よりも、ベルト部分の核なるパーツの技術が、いまだに理解できないでいるのです。この、私のIQをもってしても……」
「しかし、それでも時は迫りつつある。一刻も早く新型のショッカーライダーの完成を急がせるのだ。我々がグランショッカーなる連合組織を結成したのと同じようにライダー共も大勢の同士が集結しあっている」
「どうです? 完成する合間に善にこだわらぬライダーを味方につけては?」
「なに?」
その提案に、グロリアスは目を細めた。
「地獄兄弟に依頼されては?」
「きゃつ等は、金にものをいう。守銭奴過ぎて話にならん。どこまでこちらに尽くすか分かったものではない。我が実力をもってすれば、あのような義兄弟などザコにすぎぬ!」
「では……王蛇やベルテは?」
「あいつらは必ず裏切る。そもそも、奴らも我にとっては虫けら同然よ?」
「シザースは?」
「あいつ……食われただろ?」
「あぁ……食われましたね?」
「他にもっとマシな奴はおらぬのか? 下手をして、これ以上シャドームーンに笑われたくはない!」
「えぇっと……ディエンド?」
「馬鹿を申すな! 逆にこっちの物が盗まれるわ! いや……まて?」
顎を抱えて、グロリアスはディエンドと聞いて何かをひらめいたようだった。
「どうしました? 指令?」
「ふむ……良き案が余に浮かんだぞ?」
「ほう?」
「ジルキスよ、新型ショッカーの核について、オリジナルを見ればすぐにも解明できそうか?」
「それはもちろんでございます。しかし……オリジナルが手に入ったらのことですが?」
「ジルキス、すぐにでもレプリカを作る用意をいたせ?」
「は……?」
「なに、余の案を聞け……?」
と、グロリアスはジルキスの年老いた耳元へつぶやいた。

俺は今、人生の中で初めて真の「緊張」というものを感じている。小さい頃は無意識にも、今では落ち着きが保てずにいる。
何せ……俺は今、「女の子の家」に行こうとしているのだ。冷静もなにもあったものじゃない。先ほどから心臓がバクバクしている。
一旦自室に戻って私服を着、その合間も緊張を抑えようとしてが、どうも心が言うことを聞いてくれなかったのだ。
――あぁ……緊張過ぎる!
街一帯が見渡せる山のふもとまで来ると、石段の通じるそれなりに立派な境内と神社が出迎えた。これはまるで大社だ。前回来たときは夜で暗かったからあまりわからなかった。
「つ、ついた……」
石段を登り切って、俺は汗だくになる。これを毎日、当たり前のように朱鳥は登っているのか? そうだとしたら、根性だけはすごいな?
「えっと……あ、いた!」
境内を見渡すと、真っ先に竹箒で掃き掃除している巫女の少女を見つけた。あの、爆乳は間違いなく朱鳥である。
「あの……?」
驚かさないように、俺は慎重に声をかける。すると、少し、ハッとしたような感じだが、それでも巫女装束を身にまとう朱鳥は笑顔で俺に振り向いてくれたようだ。
「あ、いらっしゃいです!」
「ご、ごめんね? ご奉仕中だっていうのに……」
「いいよ? 社務所に来て? ちょっと家が散らかっているから……」
すこし、顔を赤くして言う朱鳥を見て、俺は少し安心した。なんだ、彼女の部屋に入るんじゃなくって、社務所なら……と、いささか緊張がほぐれた。
俺は、巫女の朱鳥に連れられて社務所の休憩室へ招かれた。従業員は朱鳥以外誰もいないので、これもこれでホッとした。

「ほう……?」
雷馬たちが社務所へ入ってからしばらくした後、境内にもう一人怪しげな青年が足を踏み入れた。
帽子を深くかぶり、その視線で周囲の状況を見渡す。
「……ここが、熊牙神社か? 聞いた通りの大社だな? さて、例のベルトはここにあるのかね?」
気配を殺し、青年は砂利の上でも足音を立てず、そのまま潜むように境内の奥へと突き進んでいった……

「はい、どうぞ?」
社務所の休憩室にて、僕は朱鳥からお茶をもらっていた。休憩室は神社らしく和風で畳と、卓袱台があった。
「あ、どうも……」
俺は、冷たい麦茶と和菓子を頂いた。そして、卓袱台が挟んだ向かいの畳に座って、同じように麦茶を飲んでいた。
「あの……桑凪さん?」
「何ですか?」
「……どうして、俺を誘ったの?」
「それは……あ、無理に正座しなくていいですよ? 足を崩してください。胡坐とか楽な姿勢で結構ですから?」
と、朱鳥はやや踏ん張る表情で正座を維持している俺を見た。俺は正座ができない。両足のしびれに耐えながら和室ということと、他人の部屋にいるということで、つい……
「じゃ、じゃあ……遠慮なく」
俺は、足を崩して痺れた両足をほぐした。
「そ、それで……どうして俺を誘ったの?」
「あ、そうでしたね! えぇっと……これを?」
そういうと、朱鳥は一枚の文通を俺に見せた。その内容は意外なもので、俺にも見覚えのある文中であった。
『本殿に眠りし数十年の封印を解き放て。また、それを九豪雷馬なる若人に装着させるのだ。それまでの間、盗人や「ショッカー」の出現には十分に注意すること。さすれば、桑凪朱鳥の記憶もよみがえらん……』
……と、ここで文章は終わっていた。何やら、意味の分からない中二病めいた文章なことだ。いったい、宛先人は何を伝えたいのか? そもそも、俺のメールと同じ宛先人の可能性が高い。これは単なる悪戯にすぎないとしか考えられなかった。
「この……手紙の内容、心当たりない? 九豪君」
「それ……この前、俺のパソコンのメールにも届いてたよ?」
俺も、心当たりと言われて咄嗟にそのことを思い出した。
「……」
「お、俺じゃないよ!? 俺じゃないって!?」
疑われているかと思い、俺は焦って全力否定すると、それに驚いて朱鳥は胸元を揺らした。
「べ、別に疑ってはいませんよ? ただ……この内容に九豪君のお名前が載っていたから……違う意味で」
「……怖かったら、警察行く? 俺のところにもメールは来ているけど、一通しか着てなかったし、俺はともかくだけど……そっちは?」
「私のところにも一通しか……宛先人は、なんていう名前ですか?」
「あんまみなかったけど、確か……『KWS』っていう三文字のアルファベットだったとおもうよ」
「K,W,S……」
その三文字に、朱鳥は顎を抱えて何か心当たりでもあるように考え込んだ。もしかして、知っている人間なのか?
「知っているの? 心当たりとか?」
「えっとぉ……どこかで見たことがあるんです。その三文字、確か私の家の押し入れにあったと思うんですよ?」
「本当?」
「ええ……小さいころに見ただけだからあまり思い出せないのですが……」
ひょっとすると、相手は朱鳥の顔を覚えているんじゃないか? その人に関するものが彼女の家に保管されているというのなら……
「……で、どうする? やっぱり、怖いなら一緒に警察に行くか?」
すると、朱鳥は「うぅん……」と、唸ってから次にこういいだした。
「もし、よかったら探すのを手伝っていただけませんか? 結構大きな荷物があるので、それを持っていただけたら……」
そう言って、朱鳥は俺に協力を要請する。俺も、俺でよかったらと手伝うことにした。しかし、いったい彼女の家で保管されているその「物」とは何だろうか? アルファベットの頭文字で書かれている物といったら……絵か? だとしたら、相手は画家か何かを手掛けている人間だろうか?
俺は、彼女に連れられて外の物置小屋へと向かった。中には祭りや舞などに使う物が棚に整列されており、手に取るときは慎重にならなくてはいけないと思った。
「……その、俺が言うのもなんだけどさ?」
俺は、大きな段ボールを両手に抱えながら、後ろでえっちらと荷物を持つ朱鳥に訊ねた。
「なんですか?」
「勝手に入って大丈夫なの? いくら、家が神社って言っても両親の人か誰かに一言言った方が……」
「あ、ここには私しかいませんから大丈夫ですよ?」
「え? どういう……」
「……私、両親がいないんです。お母さんは病気で死んじゃって、お父さんは突然行方不明になったりして……」
「あ……ご、ごめん!」
まさか、彼女にそんな過去があったとは思わなかった。今まで、俺みたいにいじられるか空気にされるかの存在で、つねに教室の隅っこにいる、居るか否かの曖昧な存在と思っていたのに、そういった悲しい過去があったとは以外であった。下手すれば、俺よりもたくましいかもしれないな……
「気にしないでください。もう慣れっこですから?」
「その……こういう力仕事とかあったら遠慮なく俺を頼んでよ? こういうことぐらいしか取り柄がないしさ?」
「そんなことありません。だって、九豪君はクラスの中で一番話しかけやすいんですよ?」
「そんなことないよ? 俺なんて……」
手を動かしながら作業を続けていると、ふと外から何かの物音が聞こえた。音がしたのは外の拝殿の方からだ。
「なんだろう?」
まさか、泥棒か? 俺たちはいったん境内に出ると、目の前の社を見た。
「あ、もしかして……!」
すると、朱鳥は何かを思い出したのか咄嗟に走り出した。俺もその後を追った。
俺たちは、拝殿に入るとそのまま縁側を走り、本殿に通じる長い渡り廊下に出た。本来は本殿に向かうにはそれなりの準備か、立ち入りが禁じられているかもしれない。しかし、朱鳥のその異様な慌てように俺はよほど重要なことを抱えているのだと感じた。
「本殿がどうしたんだ?」
「本殿が危ないんです!」
「危ない?」
「だって、今朝私のもとに……」
すると、本殿の俺たちの目の前に映る本殿の扉がゆっくりと開いた。中から誰かが出てくる。
「……!」
朱鳥は怖くなって、咄嗟に俺の後ろへ隠れた。
「だ、誰だ!?」
俺は叫ぶ。すると、本殿から出てきた罰当たりな奴、そいつは一人の若い青年であった。見るからに二十代半ばほどである。
「あれぇ? 見つかったか……」
能天気な口調で目の前の俺たちを見下ろす男を見て、朱鳥は目を丸くした。
「あ、あなたは……!」
「あっ、今日俺の『予告状』読んでくれたかな?」
と、にやにやしながら男は朱鳥に問う。
「桑凪さん……この人だれ?」
如何にも怪しいといわん限りの男を前に俺は後ろの朱鳥にささやいた。
「今朝、私のもとに変な手紙が来まして……」
「おいおい? 変な手紙とは失礼な? 『予告状』って言ってもらえないと心外だよ?」
「も、もしかして桑凪さん!?」
俺は目を丸くして彼女に問う。
「……泥棒が来たってこと、警察に言わなかったの?」
「えっとぉ……忘れちゃいました」
ガクッと、俺はずっこけそうになった。いや、むしろいたずらかと思ってスルーする場合もあるけど、これはさすがにない。俺は、彼女が放つ俺よりもすごい天然ぶりに呆気を取られた。
「ま、忘れてもらった方がこっちには好都合かな? それじゃあ、『お宝』は手に入ったことだし?」
と、彼は輪のような、ベルトのような機器を肩にかけている。
「あ、そ……それは!」
朱鳥は、そんな彼が持っているベルト状おものを目に驚く。
「長居は無用ってことだから、アディオス!」
そういうなり、男は高い身体能力で頭上の渡り廊下の屋根へ飛びあがるようによじ登ると、そのまま屋根を伝って逃げてしまった。
「たいへん! あれに例の三文字の名前が入っているんです~!!」
「えぇ? あれに!?」
「今咄嗟に思い出しました!」
「って、それよりも早く追うよ!?」
「あ、待ってくださ~い!」
俺たちは、渡り廊下から降りてすぐさま表の境内へ回った。しかし、そのときはすでに青年は先ほどの身体の力で鳥居の上に腰を下ろして、こちらを見下ろしていた。
「そ、それを返せ!?」
俺は叫ぶが、そんな俺を前に男は余裕の笑み。もしや、これは噂に聞いた「怪盗」というやつか!?
「もう遅いよ? この、『ライダーベルト』は頂いていくね!」
「ら、ライダーベルト!?」
その言葉に、俺は目を丸くする。まさか、いや……嘘だろ? 本物だというのか? いやいや、絶対にありえない。
「アンタ、何モンだよ!?」
「僕? 僕は……そうだね? 『通りすがりの仮面ライダー』とでも言っておこうかな?」
「か、仮面ライダー……!?」
どこまで、なり切ったやつだ。そんなの嘘に違いない。
「う、嘘つけ! お前みたいな泥棒が仮面ライダーなわけないだろ!?」
「本物なんだけどな~? ま、君たちの知っているような正義の仮面ライダーじゃないけどね?」
「どういうことだよ!?」
「そのまんまの意味さ……」
「そ、それを返してください!」
泣きそうな顔と口調で朱鳥は叫んだ。しかし、そんな彼女の前にして男は微笑んでいる。
「フフフ、そう簡単に返すつもりはないよ? こんなマニアックなベルト、そう見つからないからね? これは想像以上の掘り出し物だな? 『あんな奴ら』に渡してしまうなんて勿体ないし……やっぱこれは僕が持っておくべきだね!」
シュンッ……!
刹那、風を切る音とともに男が座っている鳥居に鳥の羽をも要した刃物が数本、男の手元のあたりに突き刺さった。
「ッ!?」
男はとっさに鳥居から飛び降りると、次に俺の上空にもう一人の新たな人影が表れる。
それは俺の目を疑わせる光景であった。
IS? 違う、人だ。メカニカルなスーツを纏い、背にはその身長をも越すと思われる黒い鳥の翼が両翼、そして正体の頭部は……鳥の頭であった。その様子はまるで烏でもある。それも鴉だ……
「ディエンド、お前何の真似だ? 依頼通りこちらにそのベルトを寄こせ!」
「チッ……誰かと思えば、ショッカーの怪人かよ? それも鳥型の『カラスロイド』か?」
「つべこべ言ってないで、とっとと俺にベルトを渡せ! そうすれば、グロリアス様には黙っておいてやろう?」
「ッ!」
すると、男は腰から青い線の走る銃身のようなものを取り出そうとしたが、それもカラスロイドと名乗る鳥頭の化け物が飛ばす羽の刃物ではじかれてしまった。
「無駄だ。強化人間以外のアフターライダーごときでは俺たちグランショッカーの第4世代の怪人(ロイド)シリーズを倒すことはできないぜ?」
「くぅ!」
すると、男は一瞬俺の方へ振り替えると、すぐさま肩にかけていたベルトを俺の方へ投げてよこしたのだ。
「おデブ君、パス!」
「へっ!?」
俺の足元に投げ落ちたそのベルト、それが俺のつま先に触れてしまった。
「なんだ?」
途端、ベルトは光を発してひとりでに浮遊し、それが俺の腰回りに装着されたのだ。
「はぁ!? こ、これって……」
「ビンゴ! やっぱりそれが君のライダーベルトだったのか……やっぱそれ君に返すよ? じゃあね!」
状況的に危機感を抱いた男は、そのままはじかれた銃身の物体を拾上げると、そそくさと素早い身のこなしでその場から逃げ去ってしまった。
「あ……」
押し付けられてしまった感が半端ないが、ベルトがこちらに帰ってきてよ……くない! 全然よくない!! こともあろうに、原理も理屈も全く理解できないまま、俺の腰回りにそのベルトがひとりでに装着してきたのだ。
「お、お前……そのベルトが装着できたってことは、キサマも『仮面ライダー』か!?」
カラスロイドは地面に降り立って、俺に指を向けた。俺は何のことやら混乱する。
「えっ? えぇっ!?」
――その様子だと、素人か?
カラスロイドは、目の前で突然ベルトが装着されてしまった青年の動揺さを窺い、こちらに有利があると見た。
「クックック……そうなれば、俺の力を使うまでもないか? 戦闘員ども!!」
カラスロイドの叫びに、地面の玉砂利を突き抜け、砂利を飛び散らせながら数人の黒づくめのスーツをまとう連中が表れた。それは、あのときの夢の中に出てきた奴らで、俺を襲おうとしたした奴らと同じ姿だった。
――……これって!?
まるで、夢と同じ展開じゃないか!? 
「フン、殺せ! ライダーになる前に殺せば容易く済むはずだ」
カラスロイドの一言で、黒い戦闘員らはそいれぞれ刃物を手に俺に襲い掛かろうとした。
「ちょ、ちょっと!?」
瞬く間に俺は奴らに囲まれてしまった。そして、後ろにいた朱鳥までも奴らに囚われてしまう。
「は、放してくださぁ~い!」
「桑凪さん!?」
「ハハハ、ライダー? 最後に言い残すことはあるか?」
両腕を組みながら、カラスロイドは俺を見下ろした。
「ま、待ってくれよ! ライダーだなんて……そんなの知らないって!? そもそも、この俺がライダー!? 何かの冗談だろ!?」
「表の世界では迷信扱いされていたとしても、裏の世界では『仮面ライダー』は実在するんだ」
――マジ、かよ……!?
俺は目を丸くして、黙ってしまった。言葉が出なかった。言っていることは信じられないも、目の前にいる戦闘員やカラス頭の怪人現れたりと、そんなものを見れば信じなければならないと思ってしまう。
「哀れだな? 自分が強化人間だなんて知った直後に死ぬなんてな? 恨むなら自分の非運を恨むんだな!」
カラスロイドは、両手をかざした。それを合図に戦闘員は一斉に刃物を向けて四方八方から襲い掛かってくる。
「……ッ!!」
そのとき、俺の背後から捕らえられた朱鳥より声が届いた。
「九豪君ッ! 叫んで!? 『変身』って!!」
「!?」
「変身して! 『仮面ライダー』にッ!!」
「……!」
刹那。襲い来る戦闘員の動きが止まってみたのだ。いや、スローに見える。俺は、朱鳥の放った一声に突き動かされるかのように、両腕を構えた。まるで次から次へとやるべき動作が頭から浮かび上がってくる。
「変……」
右腕を額の前まで掲げ、左手がベルトの脇をつかんだ。すると、先ほどまで止まったままであったベルト中心に埋め込まれた赤い球体から歯車状の模様が点灯し、次第に激しく回転し始めたのである。
「……身ッ!」
言い切った叫びに連動するかのように、周辺から生じた緑色の竜巻が俺を覆いつくす。その瞬間、竜巻はすさまじく破裂して消滅し、俺に突っ込んでくる戦闘員の一団は一斉に弾き飛ばされた。
そして、破裂した竜巻の目の中にいた姿は……
「仮面……ライダー……?」
朱鳥は目を見開く。
大柄な黒いライダースーツに銀色の新緑のプロテクトアーマー、そして、どこかバッタをかたどったその仮面のヘルメット、そして首から赤いマフラーが風になびく。それは紛れもなくあの「仮面ライダー」であった。
「こ、これは……!?」
俺は異変が起きた自分の身なりを見下ろし、両手の掌を見つめた。
「くそっ! あと少しのところで……あのデブ小僧、変身したのか!?」
だが、カラスロイドはためらうことなく戦闘員に命じる。
「ひるむな! 相手は成りたてのライダーだ! 殺せ!?」
すると、戦闘員どもは奇声を発しながら、構うことなく再び起き上がって俺に襲い掛かる。
だが……
「うわぁ!」
俺はとっさに片腕で防ごうと体制をとった。しかし……
パリンッ……!
振り下ろす戦闘員の刃物が俺のアーマーや他の個所へ切りつけてくるが、刃物の刃がそこに当たった瞬間に、刃物を跳ね返されて刃が脆く砕け落ちてしまった。
「キィ!?」
その、事実を目に戦闘員は衝撃を受けて砕けた刃物の握り手を見つめた。
「こ、このぉ!」
その隙に、俺はがむしゃらに戦闘員へ鉄拳をふるった。もちろん、ケンカなんてやったためしがない。だが、やるしかない。ケンカは苦手だが、とにかく暴れまわるしかない。
戦闘員を相手に大立ち回りしながら暴れだす俺。
殴って殴りまくって、逆に殴られてもすぐに殴り返して、体力がつく限り俺は必至で暴れまわり、抵抗し続けた。
俺のでたらめな殴り方で、戦闘員は激しく飛ばされてしまう。これが、仮面ライダーの力だというのか? ダメージを受けようとも俺はなりふり構わず暴れ続けた。
次々と戦闘員が俺のがむしゃらな拳や蹴りを受けて吹き飛ばされていく。どうやら俺の攻撃は続いているようだ。
あらかた、周囲の敵を倒したと思う。次はだれが相手だ!? 俺は、視界から索敵するも、しかし……
「く、九豪君!?」
「桑凪さん!?」
暴れるのはいいが、朱鳥のことは頭に入っていなかった。彼女がはじめから戦闘員の数人に捕らえられていることを忘れていた。
「やっべぇ!」
くそ! こうなったら手も足も出せない。かといって、このまま奴らに好き放題されるわけには……
「九豪君……」
不安を抱く朱鳥を目に、俺は苦虫をかみしめるほどであった。
「くそ! どうすれば……」
「ホッパー! これ以上抵抗するなら、その小娘の命はないぞ? おとなしく抵抗をやめることだ!」
カラスロイドが背後から叫ぶ、俺はそれに従って抗うのをやめて、構える両腕をゆっくりおろした。再び、戦闘員らは俺に向けて牙をむく。しかし、朱鳥が人質に捕らえられていることで俺は何もできないだろう。
「……わかった、だから桑凪さんに乱暴はやめてくれ!」
「フン、いいだろう……」
「九豪君……」
両腕を鷲掴まれたまま、朱鳥は雷馬に不安を抱いた。
「お前たちは下がれ? この若造は、俺が仕留める!」
「くぅ……」
「オラァ!!」
カラスロイドの素早いケリが、俺の鳩尾をどっついた。そのいきなりの素早い蹴りに
カラスロイドの一言に再び周囲から戦闘員が刃を向けて襲い掛かる。
「うっ……ぐうぅ……!」
鳩尾を抱えて膝をつける俺に、カラスロイドは容赦なく追撃を加える。奴の手足は素早く、蹴りや拳は肉眼では捉えにくい。
俺は、なすすべもなくカラスロイドにタコ殴りにされる。
「や、やめて!」
その状況を見て朱鳥が叫ぶも、彼女すらとらえられている以上声を上げることしかできないだろう。自分がせいで雷馬が傷つくのを、これ以上見るのは彼女にとって耐えがたい苦痛である。
「ハハハッ! どうした? 仮面ライダー? あの時のように二度にわたって我々ショッカーを滅ぼして見せろ!?」
「く、強い……!」
そして、カラスロイドの細く鋭い片手が俺のマフラー越しの肉太の首元をつかみ上げて、持ち上げたのだ。
「その程度か? 歴代『仮面ライダー』の名が泣くぞ?」
――ちくしょう! どうすれば……
しかし、そのときだった。
「……やめてぇ!」
朱鳥は叫ぶとともに、彼女の周囲から巨大なエネルギー派が生じ、それはたちまちにして彼女の両腕をとらえる戦闘員を弾き飛ばしたのである。
「なんだ……!?」
カラスロイドは、背後から発せられた強いエネルギー反応に気を取られて後ろへ振り向いた。
「桑凪……いったい、何が起こった!?」
俺でさえも何があったのか状況がつかめない。しかし、これは好機だ。彼女のほうへ視線を向けるカラスロイドに俺は片腕を振り下ろし、俺の首をつかむ奴の片腕を思いっきり殴った。
「は……離せッ!」
「なに……!?」
すさまじい力がカラスロイドの片腕に襲い掛かり、それは彼の片腕の骨格の強度へ容赦なくのしかかり、そして人工血液を散らしながら片腕だけが激しく宙を舞ったのだ。
咄嗟に距離をとるカラスロイドは、ちぎれた腕の肩部を抱えた。
「くう……なんて力だ……!」
「く、桑凪……!?」
そして、一方の朱鳥はにも俺と同様の異変が起きた。この状況からはっきりと見えないが、光に包まれた彼女は途端に巫女装束を模様した身軽な姿へと変わりだす。
「桑凪!?」
「あ、あれ……この格好、何なの!?」
その姿を見て、周囲の戦闘員よりも真っ先に動揺していたのがカラスロイドである。
「な、なんだあれは!? まさか、あの小娘も『強化人間』だというのか!?」
『カラスロイド、ここはひとまず撤収せよ!』
体内の無線から聞こえる老人の声が聞こえた。
「し、しかし……目の前にジルキス様の狙っていな……」
『今、あの二人の強化人間が同時に襲ってきたら、お前は無事では済まん! お前の体内のビデオレコーダーから奴らの映像は十分に撮影できた。直ちに帰還しろ!』
「くぅ……」
悔しくも、絶対君主であるジルキスの命であれば従う以外は他ない。カラスロイドは、悔しくも、ちぎれた片腕を拾い上げて黒い両翼を広げると、その場から撤退していった。

「やれやれ……」
バッタをかたどった標準ライダーのメットを脱いで、汗だくの髪と肌を風に当てる俺は、ふと隣でモジモジしている朱鳥をみた。
レオタード? いや、緋袴をかたどったミニスカのような、レースがレオタードの足の付け根部分で揺れて、そこら中ピッチリのムッチリだ……やべッ、エロ過ぎる。
しかし、時期に彼女の姿がもとの巫女装束に戻った。俺も、戦意が薄まると変身は溶けてしまった。そうか、自分の意志で変身を解いたりすることができるのか。
けど……あの、怪人達。「ショッカー」と名乗っていたけど何者なんだろう?

 
 

 
後書き
次回の仮面ライダーLARGEは!

弾「……お前らさ? もしかして、『仮面ライダー』?」
朱鳥「仮面ライダー? ええ、九豪君がそうですよ? 私はちょっと違う強化人間です♪」
雷馬「なっ!?」

一夏「仮面ライダー?」

弾「ライダーなんていねぇよ? わかったら、さっさと受験勉強してろ!」

IS「死ね! デブライダー!!」

雷馬「無理なんだよ……俺に、『仮面ライダー』なんてっ!」
 
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