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大坂の茶

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第一章

                            大坂の茶
 ようやく天下は定まった。豊臣秀吉が統一を果たしたのである。
 このことに喜ばない者はいなかった。それは秀吉がいる大坂でも同じだった。
 大坂には人が次々と集まり太平を祝い商いに精を出そうとしていた。そうしてだった。
 織田信長からはじまっていた茶も盛んになっていた。信長の頃から茶は流行りだしていたが泰平になりそれが一層盛んにかつ賑やかになっていたのだ。
 だがそれでもだった。茶は贅沢なものであり普通の民の口には中々入らなかった。そのことを聞いてだ。
 秀吉は大坂城において大谷吉継、彼が取り立てた男に対して言った。
「御主はどう思う」
「茶のことですか」
 見れば大谷は頭に頭巾を被って顔全体を覆っている。業病故にそうしているのだ。
 その彼がだ。こう秀吉に答えたのだ。
「そのことですな」
「天下は泰平になった」
 まずこのことはよかった。
「そして茶も広まりだしているがじゃ」
「どうにもまだまだですな」
「武士や公卿の方々だけのものじゃ」
「民百姓の口には入っておりませぬな」
「茶は美味い」
 これは確かなものだとだ。秀吉は天下人の座から言い切った。
「あんな美味いものはそうはない」
「確かに。あれはいいものです」
「そして茶を楽しめるのは泰平であるが故じゃ」
「信長公もそれを見据えてでしたな」
「左様。茶を広められたのじゃ」
 茶には殺伐としたものはない。戦の場にある様な。
 それとは正反対の侘び寂び、そして独特の美がある。だから信長も広めたのだ。
 彼は戦による天下布武の後の泰平を見ていた。そのことは秀吉もわかっていた。
 それ故にだ。彼は茶を天下泰平の象徴と見ていた。
 しかし今の茶はどうかとだ。彼は大谷に言うのである。
「限られた者達だけが飲みしかも茶器じゃな」
「誰もがよい茶器を求めますな」
「古田織部とかのう」
 秀吉は当代きっての茶器好きの名前も出した。
「茶器がよいのは確かにそうじゃが」
「太閤様はそれよりもですか」
「もっと。そうじゃ」
 首を捻り考えながらだ。秀吉は大谷に話した。
「茶器だの。作法にもじゃ」
「そうしたことにこだわるよりもですか」
「そうしたこともよいが他の飲み方があるのではないのかのう」
「しかも民百姓が飲める」
「誰でもな。そうした飲み方はないか」
「そうですな」
 大谷もここで首を捻って述べる。
「では今度花見がありますな」
「うむ、梅のな」
 まずはそれだった。春のはじまりには梅が咲く。桜の花見の前に梅のそれだった。
 それは秀吉が催す。大谷はその花見について言うのである。
「大掛かりにされてはどうでしょうか」
「ふむ。そうか」
 大谷の話を聞いてだ。勘のいい秀吉はすぐに察した。
 そのうえでだ。こう言ったのである。
「ではじゃ」
「それですな」
「この度の花見は大掛かりにやるぞ」
 楽しげに、にんまりとして言う秀吉だった。そのうえでだ。
 花見が開かれることになった。それに当たって大坂の街にお触れが出た。それはどういったものかというと。
「何じゃ?何と書いてあるのじゃ?」
「ええと。これはじゃ」
 字が読める者がだ。そのお触れ書き、立てられているそれを見て言う。 
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