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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百二十話 生還


お待たせしました、テレーゼのターンです。
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第百二十話 生還

帝国暦483年8月5日 午前10時〜11時

■オーディン ノイエ・サンスーシ 謁見の間

「ハハハハ。父上は今日この場で崩御なされるのですよ、君側の奸リヒテンラーデ侯の手によって」
「ルードヴィヒ、お前は・・・」
「何寂しくはないですよ、あの女《アンネローゼ》もあの娘《テレーゼ》も一緒に旅立つのですから」

「陛下に銃を向けるとは、気でも狂ったか!」
クラーゼン元帥が陛下を守るように前に出る。
「元帥、直ぐさま其処をどけ」

「幾ら皇太子殿下のお言葉とはいえ、皇帝陛下をお守りするのが我らの勤め、退くわけには行きませぬ」
皇太子の言葉にもクラーゼン元帥は一歩も引く事がない。
「ならば、そのまま聴くが良い」

「ルードヴィヒよ、お前は何がしたいのだ」
「父上、私は皇帝になりたいのですよ」
「馬鹿な、何れお前は儂の後を継ぎ皇帝になれるものを、何故この様な真似を」

「フフフ、ハハハハ。あの雌狐《アンネローゼ》が妊娠したようで、そうなれば父上はあの女の子を皇太子とするでしょうな。私は皇帝になりたいのであって、皇帝兄に成りたいわけでは無いのですから」

皇太子の言葉に皇帝もリヒテンラーデ侯も驚いた顔をする。
「アンネローゼが妊娠と、その様な話し聞いてはおらぬ」
「ハハハ、それはそうでしょうな、グレーザーは私の間者ですから」

「アンネローゼに子が出来ても、お前を皇太子として遇するのは違いない」
「その様な事信じられませんな」
「ルードヴィヒよ、おぬしは修羅が宿っておるのか」

「修羅なら父上こそでしょう、兄リヒャルト大公、弟クレメンツ大公を謀略にて排除したのですから」
「その様な事してはおらん、誰からその様な事を」
「クロプシュトックが教えてくれましたよ。父上がしてきた悪行の数々を」

「殿下、クロプシュトックの世迷い言を信じるなど、何と情けない」
「黙れ、リヒテンラーデ!貴様は君側の奸として死ぬのだからな」
「ルードヴィヒ、テレーゼを如何した」

「あの娘は今、リッテンハイムの荘園でヘルクスハイマーとシャフハウゼンの決闘を見学しに行きましたな」
「何故それを」

「ハハハハ。国務尚書の秘書官は優秀だな」
「まさかワイツめが」
「アハハハ、その通りだ、飼い犬に手を噛まれるとは如何なモノかな」

皇太子の言葉にリヒテンラーデ侯の顔が歪む。

「今頃、あの娘は死んでおります。あの娘は今日ヘルクスハイマーとシャフハウゼンの決闘を見に行っていて、其処でヘルクスハイマーの雇った決闘者に暗殺されたのですよ。なぜならリッテンハイムとヘルクスハイマーとシャフハウゼンとリヒテンラーデとグリューネワルトとシェーンヴェルトが共謀し決闘を起こし誘い込んだのですよ、こういうシナリオが出来ている訳ですよ」

「お前は妹を手にかけるか」
「そうです、父上、更に他の兄弟も皆私が手に掛けましたよ、何と言っても父上の子達を17人も殺したのですからな、いや18人ですな。そうしなければ私の地位が危ないですからな」

「ルードヴィヒ、おぬしは鬼か」
「アハハハ、鬼で結構!テレーゼのおかげでリッテンハイムは処刑、残る有力な対抗者はブラウンシュヴァイクだけになりますからな、兄に尽くしてくれる良い妹ですよ、アーハハハハ」

「ルードヴィヒ、おぬしは何を考えるか。この様な事しても誰も付いてはこんぞ」

「ハハハ、父上が死にテレーゼが死にグリューネワルトが死にリヒテンラーデが死ねば全てが進むのですよ」
「何をする気だ」

皇帝の言葉に皇太子が答える。

「簡単ですよ、君側の奸リヒテンラーデ侯が寵姫であるグリューネワルト伯爵夫人と情を通じて出来た子を皇位に就けようと策謀を行い、其れを知った父上がリヒテンラーデ侯を問い詰めた所、逆上し父上を弑逆しようとしたところへ、我々がたどり着くが、後一歩で間に合わず残念ながら父上は死亡、私が弑逆犯リヒテンラーデ侯を倒すのですよ」

「その様な事をしてもグリューネワルトの子がリヒテンラーデの子で無ければ理由が付かぬ」
「心配は要りません、あの女の侍医《グレーザー》は私の息が掛かっておりますからな、幾らでも偽の診断書をだせますよ」

「ルードヴィヒ、お前は・・・・」
「クラーゼン元帥、余に付けば、公爵の位と帝国軍全てを任せても良いぞ」
皇太子の言葉にもクラーゼン元帥は一歩も引かない。

「フ、お断り致します。臣は銀河帝国皇帝フリードリヒ4世陛下より元帥杖を頂いた身、その大恩有る陛下を裏切る事など出来るか!」



帝国暦483年8月5日 午前10時01分

■オーディン リッテンハイム侯爵荘園競馬場  テレーゼ・フォン・ゴールデンバウム

黒マントが現れたとき嫌な予感がしましたが、まさかこんな事に成るとは、10を待たずに振り返った黒マントが銃口を私にむけて来たのです。鈍く光る銃口の輝きが目に写り、その直後に炎が迸ったのです。

まさか此処で死を迎えるのでしょうか。ラインハルトによって帝国は簒奪されるのでしょうか?父上や母上は無事にいられるのでしょうか。そしてみんなや、帝国臣民達はラインハルトの為に艱難辛苦を加えられるのでしょうか、一瞬に此だけの事が頭に浮かびます。

しかし、目の前に巨大で逞しくそれで居て暖かい感じのする背中が視線を遮ったのです。


帝国暦483年8月5日 午前10時〜

■オーディン リッテンハイム侯爵荘園競馬場

テレーゼがヘルクスハイマー伯爵家の決闘代理人によりいきなり銃撃された瞬間、テレーゼの隣に座っていたオフレッサー大将がその巨体から全く想像できない程の俊敏さでテレーゼと暗殺者の銃撃線を遮り自らの肉体を楯にしたのである。

テレーゼの頭を狙った弾丸はオフレッサーの腹部に次々に命中した、しかしオフレッサーは倒れずにテレーゼの前面に立ち楯と成っている。横にいた娘ズザンナが素早い動きで、馬場へ飛び込み暗殺者を倒しに走り込む。

黒マントは、狙撃失敗直後直ぐさま懐からボーガンを出し更にテレーゼを撃とうとするが、オフレッサーが楯になった為に狙撃できない、其処へ突っ込んで来る、ズザンナを撃退しようと矢を放ったが、ズザンナが右手に持っていた鉄扇で矢をはじき返した。

その間、ラインハルトは何も出来ずに居た。いったい何が起こったか判らない状態で有った。キルヒアイスは素早くラインハルトの元へ向かいラインハルトを守るように立ちながら右手を懐に入れ、ブラスターを握りながら、警戒をしていた。

無言でズザンナは突撃を行い、剣を抜き斬りかかってくる黒マントの攻撃を鉄扇だけで凌ぎきり、蹴りを多用した攻撃で相手の剣を鉄扇ではじき飛ばし、そのまま踵落としで延髄蹴りを行い一気に黒マントを昏倒させたのである。その間僅か2分。

その2分間の剣舞は競馬場に詰めかけていた人々の度肝を抜いた戦いで有ったが、多くの人々はいったい何が起こったのか全く判らない状態で有った。

貴賓席のリッテンハイム侯、ヘルクスハイマー伯は何が何だか判らずに混乱していた。
「な、なんなんだ」
「ヘルクスハイマー、あの決闘人は何をしたのだ」

「観客席を撃つなど、前代未聞です」
「何が起きたのだ?」
「貴方、いったい何なのかしら?」

「侯爵、直ぐに見て参ります」
ヘルクスハイマー伯はリッテンハイム侯に挨拶をし、競馬場へ事情を聞きに降りて行った。

観客席では変装して潜入していたテレーゼを守るシークレットサービス達が素早く正体を隠したまま狙撃者などが居ないかを確認している。又テレーゼの影守り達やオフレッサーの部下数人がテレーゼの回りを取り囲み身を守る。

テレーゼがオフレッサーを心配する。

「オフレッサー妾を守ってくれて、礼を申す。傷はどうなのだ?」
「はっ、このオフレッサー、叛徒の攻撃に比べたら、鉛玉ぐらいたいした事は有りません」
「そうか、良かった」

「勿体ないお言葉です」
「ズザンヌ、その者を殺すな!生かしておくのだ!歯に毒を仕込んでおるかも知れん、猿ぐつわもはめよ」
「御意」

テレーゼの言葉にズザンヌは素早くベルトで足と手を縛り、ハンケチで猿ぐつわをして捕縛した。
「オフレッサーよ、馬場へ行き事を収めるぞ」
「御意」

テレーゼの覇気にヴェストパーレ男爵夫人シャフハウゼン子爵夫婦も驚きを隠せない。

やっと競馬場の人々が虚無から戻ってきたとき、決闘場に少女が狙撃された大男に守られるように現れた。ラインハルト達は端へ避けさせられた。何が起こるのか判らない人々、中には事件自体がパフォーマンスだと思っていた者も居た。ざわつく競馬場に大男の声が響いた。

「者共静まれ!儂が装甲擲弾兵副総監オフレッサー大将だ!」
オフレッサーの名前を聞いた観客達が一様に引きつった顔をする。
それほどオフレッサーは貴族に恐れられているのである。

そしてテレーゼがウィックを脱ぎ捨て変装を解き、オフレッサーに負けないような声で宣言する。
「妾はテレーゼ・フォン・ゴールデンバウムじゃ皆のモノ静まれ!」
ドスの利いた声で皆がテレーゼを見つめる。

「ヘルクスハイマー!リッテンハイム!妾を害しようとは見上げた根性じゃ!」
その言葉に馬場に降りてきたヘルクスハイマー伯と貴賓席のリッテンハイム侯が驚く。

「良いか皆の者、この決闘はヘルクスハイマーとリッテンハイムが仕込んだモノじゃ。そしてヘルクスハイマーの決闘者が妾の命を狙ったのじゃ、2人の害意は明々白々なのはみながみておろう!」

慌て始める2人。
「知らん!」
「知りません!」

「ほう、妾に対してその言い様は不敬であろう!リッテンハイム!そこに居らず降りて参れ、逃げれば謀反人ぞ!」
その言葉にクリスティーネ皇女が夫を呵る。
「貴方、テレーゼを害するとは本当なのですか!」

クリスティーネ皇女の言葉にタジタジのリッテンハイム侯。
「知らん、知らんのだ」
「貴方、直ぐに下へ参りますわよ!」

「既に全員が見て居る、しかも既にノイエ・サンスーシには連絡済みじゃ!」
バウマイスター少佐が既にノイエ・サンスーシに連絡をはじめていた。
妻にせっつかれて観念して降りてくリッテンハイム侯。

「リッテンハイム候、そちは、サビーネを帝位に就けようと度々運動しているそうじゃな」
何故それをと蒼くなるリッテンハイム候。
「兄上が居るのにかの、兄上諸共妾の暗殺を狙ったか?」

蒼くなったリッテンハイム侯は、震えながらヘルクスハイマー伯を非難し始める。
「あの男はこやつが連れてきたのです。私は関係有りません!」
リッテンハイム侯はヘルクスハイマー伯に全てをおっ被せるつもりであるし、暗殺など考えて居なかったので必死に弁解するが、テレーゼはそんな事では許さない。

「関係有るかどうかは、其処の暗殺者を調べれば判る事じゃ!言うておくが、その男が不審死や急死、只死んだだけでも。卿等が口封じを行ったと思うぞよ、心せよ!」

完全に真っ青なヘルクスハイマー伯とリッテンハイム候。

其処へリッテンハイム候の私兵が割って入ろうとするが、競馬場入り口から正体を明かしてもよいシークレットサービスが現れ排除を始める。

またテレーゼが睨みながら宣言する。
「手向かい逃亡すれば、謀反人として討伐いたす。努々忘れぬようにな」
その言葉に観客席の貴族達は動くに動けなくなった。

テレーゼは姉を呼ぶ。
「姉上、此方へ」
「判りましたわ」

クリスティーネにしてみれば、夫は野心家でサビーネを皇位に就けたいなど戯言を言ってはいるが、テレーゼは、サビーネとも年が近く仲が良く、自分自身、テレーゼを可愛い妹として見ているために、普段見る妹と全く違う雰囲気の妹に困惑しながらも、シークレットサービスに両脇を抱えられた状態の夫を無視して、妹の元へと向かったのである。

姉に対してテレーゼが丁重に話す。
「姉上、直ぐさまサビーネを伴って本宅で待機してください」
クリスティーネは、何か言おうとするが。

「サビーネに罪を着せない為です」
テレーゼが小声で、そう言い聞かせると、クリスティーネは頷いて、夫をガン無視して帰って行く。
その姿を見ながら、リッテンハイム侯は何か言おうとするが、シークレットサービスにより小突かれる。

テレーゼが宣言する。

「リッテンハイム侯、ヘルクスハイマー伯両人はノイエ・サンスーシへ来て頂く」

テレーゼの横にバウマイスター少佐が来て宮殿と連絡が付かないと耳打ちされた。

テレーゼは此が壮大なクーデター計画かと思いながら冷静にケスラー達に連絡を入れるように頼んだ。

 
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