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魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者

作者:niko_25p
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第三十八話 機動六課のある休日 1

今日も厳しい訓練が早朝から行われている。

だが、今日はちょっとだけ嬉しいお知らせがあった。





魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。





outside

「はぁい。今朝の訓練と模擬戦も無事終了!お疲れさま」

なのはの合図で、アスカがバタリと倒れ込む。

ほかのフォワードメンバーも、地面にへたり込むようにして座った。

今朝の訓練の仕上げはフェイトとヴィータを相手にしての模擬戦。

かなり当たりが激しかった。

ヘバっているアスカ達にヴィータとフェイトが近づく。

「……ヴィータ副隊長。オレに何か怨みでもあるんッスか?」

模擬戦中、執拗にヴィータに狙われていたアスカがヴィータを恨めしげに見る。

「バーカ。アタッカーの位置にいるんだから、相手とは真っ先にぶつかるだろうが。たまたまだ」

避難めいたアスカの視線を、ヴィータはシレッと躱す。

だが本当の所は、シグナムの攻撃も受けきる防御がどれだけの物かを見定める為に、しつこくアスカを狙っていたのだ。

「ぜってーウソだぁ……」

そのまま地面に突っ伏すアスカ。フォワードからセンターに下がっても強引に攻めてきたヴィータの言葉を信じることはできなかったらしい。

「アスカさん、しっかり!」

キャロが駆け寄ってヒーリングをかけた。

それでようやく身体を起こす事ができるようになるアスカ。

そんなやりとりを、なのはは優しい笑みで見つめていた。

「結構厳しかったと思うけど、実は何気に今日の模擬戦が第二段階クリアの見極めテストだったんだけど」

唐突に衝撃の事実を口にするなのは。

「「「「「えぇ!!」」」」」

当然、その事実に驚くフォワードメンバー。

「どうでした?」

なのははフェイトとヴィータに尋ねる。

「合格」

ニコッと笑って、フェイトが答えた。

「「「はやっ!」」」

アスカ、スバル、ティアナがツッコミ気味に声を揃える。

「ま、こんだけミッチリやってて問題あるようなら大変だってこった」

「あ、あはは…」

ヴィータの言葉に、エリオとキャロが苦笑する。問題があったら、どんな事をされていたのだろうと考えると、ちょと怖くなってしまう。

「私も、みんな良い線行ってると思うし。じゃあ、これにて二段階終了!」

「やったー!」「おっしゃー!」

スバルとアスカが無邪気にはしゃぐ。こちらはエリオ、キャロと違い能天気だ。

ティアナ、エリオ、キャロはそこまではしゃがないが、二人と同じく嬉しそうに笑っている。

「デバイスリミッターも一段階解除するから、後でシャーリーの所に行ってきてね」

喜んでいるフォワードメンバーにフェイトが伝えた。

「明日からはセカンドモードを基本形にして訓練すっからな」

その浮かれた様子を呆れ顔で見ていたヴィータがみんなに言った。

「「「「「はい!………え?明日??」」」」」

元気よく返事をしたアスカ達が、思わず聞き返した。

「ああ、訓練再開は明日からだ」

念を押すようにヴィータが答える。

「今日は私達も隊舎で待機する予定だし」

「みんな、入隊日からずっと訓練漬けだったしね」

なのは、フェイトもそう言うが、全然ピンときていない様子のフォワードメンバー。

そこに、ヴィータが悪戯っぽく笑って、

「まあ、そんな訳で、今日一日は休みだ」

休暇だと告げた。

「「「「「えぇぇぇぇ!!」」」」」

一瞬驚き、それがすぐ歓びに変わる。

「ヤッホー!」「やったー!」

アスカとスバルがバシバシ激しく肩を叩き合って喜びを表す。

「街にでも出て、遊んでくるといいよ」

激しく喜び合うアスカとスバルに若干引きながらなのはが言う。

「「「「「はい!」」」」」

自然と声がそろうフォワードメンバー。

「あ……」

喜んでいたフォワードメンバーを見ていたフェイトが小さく声を上げた。

気まずそうにアスカを見るフェイト。

「どうかしたの、フェイトちゃん?」

何となく困った顔のフェイトを見て、なのはが尋ねる。

「えーと、喜んでいる所悪いんだけど、アスカはこの後すぐにシャーリーの所に行って欲しいんだけど」

ガン!

仰け反って喜んでいたアスカがそのまま後ろに倒れる。

「おー、見事なブリッジ」

スバルが思わず手を叩く。

「って何で……あっ!」

起きあがったアスカは、以前シャーリーに言われていた事を思い出した。

”モード2をアスカの希望通りにするなら、ちゃんと変形調整しなくちゃいけないんだから、その場にいてよね”

モード2の仕様を決める時にシャーリーに注文をつけたのはアスカ自身だった。

「そうだった。忘れてた」

自分から頼んだことをすっかり忘れていたのだ。

「え?アスカさん、お休み無いんですか?」

エリオが残念そうな顔でアスカを見る。

「大丈夫だよ、エリオ。みんなとは少し遅れるけど、すぐに終わる事だから」

フェイトがエリオを安心させるように言った。

「まあ、オレが頼んだ事だから。とりあえず、朝飯にしようぜ」

アスカはポンポンとエリオを撫でた。





アスカside

オレ達は食堂で朝飯を食っていた。みんな一緒に食堂にきたから、別テーブルには隊長達もいる。

いやー、しかし久しぶりの休暇だ。

ここん所いろいろあって忙しかったし、ちょっとリフレッシュできそうだ。

スバルもご機嫌なのか、食べる量がいつもの二割り増しだ。なんでだよ。

と頭の中でスバルの食欲に突っ込んでいたら、

「アスカさん。シャーリーさんの打ち合わせってどのくらいかかるんですか?」

キャロがそんな事を聞いてきた。

くぅ~!優しいなぁ!お兄ちゃん、涙出ちゃうくらい嬉しいよ!

オレも本当ならエリオとキャロを連れて街に繰り出したいけど、さすがに待たせるってのも可哀想だしな。

「そんなに時間はかからないよ。今回は一緒に出かけられないけど、次の休みの時はみんなで行こう。その時に、案内してくれると嬉しいな」

オレがそう言うと、キャロは可愛く笑って返事をくれた。

「はい!」

うんうん。いい子だ、キャロは。

【……続いて政治経済。昨日、ミッドチルダ管理局、地上本部において来年度の予算会議が行われました。三度目となる再申請に、税制問題など各世界の注目が集まっています】

和やかに話していたら、テレビのニュースの音が聞こえきた。

何気なくそちらに目を向ける。

【当日は首都防衛隊の代表、レジアス・ゲイズ中将による管理局の防衛思想に関しての表明も行われました】

そこで美人アナウンサーから、恰幅の良い厳つい髭面のおっさんに映像が切り替わる。

朝飯食ってる時に見る顔じゃねぇな。

【魔法と技術の進歩と進化。すばらしいものであるが、しかし!それが故に我々を襲う危機や災害も10年前と比べ物にならない程に危険度を増している。兵器運用の強化は、進化する世界の平和を守る為である!】

中将の演説に、議会場のあちこちから拍手が巻き起こる。

オレにはあんまり良い内用には思えないけど。

【首都防衛の手は未だ足りん。地上戦力においても我々の要請が通りさえすれば、地上の犯罪も発生率で20%、検挙率においては35%以上の増加を初年度から見込む事ができる!】

おいおい、そりゃ極論過ぎるだろ。誰かコイツを止めるヤツはいないのか?

「ふん、力は力を呼び込む。武装強化をした所で、それは新たな驚異を呼ぶだけさ」

つい、ポロリと言ってしまった。朝飯の時にする会話じゃねぇのにな。

あー、つまんねぇ事言っちまった。

「でも、困っている人達を助ける事ができるんじゃないですか?」

オレの呟きを聞いたエリオがそんなふうに言ってきた。

まあ、おっさんの言葉を素直に受け取るとそう思うかもしれないけどなぁ。でも、力だけに頼ったやり方は危険過ぎる。

ちょっとエリオに問題を出してみるか。

「例えばさ、ある男がドロボウをしたとする。これは悪い事だ。そうだよな?」

「はい」「そうですね」

エリオとキャロが答えた。スバルとティアナは、オレが何を言うつもりかをジッと見ている。

「その男は随分前に仕事を無くしてしまったんだ。でも、家族がいるからお金を稼がなきゃいけない。でも、中々再就職ができない。思い悩んだ男は生活保護の手続きをしようとした。だけど、今度は役所がそれを通さなかった。いよいよ追いつめられた男は、犯罪と分かっていてもドロボウをしなくちゃいけなくなった。これだと、どうだ?」

「え?」「それは……」

エリオとキャロが言葉に詰まる。まあ、そうだよな。オレも、オヤジからこの話をされた時は、何も言えなくなったからな。

「レジアス中将がやろうとしている事は、犯罪を犯した人達を断罪すると言うだけの事だ。でも、力で押さえつけようとしても犯罪は無くならない。じゃあ、どうしたら良いんだろうな?」

あの時、オレはこの質問に答えられなかった。もちろん、今ではオレなりの答えはある。正しいか正しくないかは別にしてだけど。

「……犯罪をしなくても良いような社会を作る…って事なんでしょうか?」

迷いながらもキャロがそう答える。うん、いいぞ。自分で考えて出した答えだな。

「そうだな。できる事は小さいかもしれないけど、やらなければ始まらないよ」

10歳にしては上々の答えだと思う。

そんな問題を出したオレにティアナが少しだけ避難めいた目をしている。

「ずいぶん意地悪な問題をだすのね」

う……やっぱエリオとキャロに出すには意地悪過ぎたか?

「あはは、確かに意地悪だったな。ごめん」

とりあえず笑って誤魔化そう。と思っていたら、

「そんな事ないです。ボク、ただ漠然と平和を守るって考えていたんですけど、考え方は一つじゃなんだって思いました」

「私も、普通の幸せを守る事が大切なんじゃないかって思いました」

エリオとキャロはそう言ってくれた。

……お兄ちゃんとしては嬉しいけど、この子達、本当に10歳??





ティアナside

アタシは朝食の後、ヴァイス陸曹を捕まえた。個人持ちのバイクを貸してもらえないか相談する為にだ。

「貸すのはいいけど、こかすなよ。プロテクターは?」

文句を言いつつも、ヴァイスさんは倉庫からバイクを引っ張ってきてくれた。

「自前のオートバリアです」

今はクロスミラージュもいるし、前よりも安全にバリアが張れるはず。

その辺は心配ない。

「しかし、何だな。俺は時々、お前等の訓練とか見るんだけどよ」

バイクを持ってきたヴァイスさんがアタシを見る。なんか、優しい目をしているな。

「最近お前、立ち回りがちょっと変わったよな」

「え?あ、はい」

突然そんな事を言われて、少し戸惑ってしまった。

「お前、今まではシングルでもチームでもコンビでも動きが全部同じだったけどよ、最近はだいぶ臨機応変になってきているように見えるぜ。センターらしい動きになってきたんじゃないか?」

ヴァイスさんに言われた事は、自分自身でも感じる事ができていた部分だ。

いろいろと、なのはさんとぶつかったりアスカとぶつかったりしたけど、その中で自分を見つめ直す事ができた。

本当にそう思う。

「皆さんのご指導と、仲間のおかげです」

アタシにしては珍しく、素直な気持ちを口にした。自分でも、この性格は厄介だとは思ってるんですけどね。

すると、ヴァイスさんがクスクスと笑い出した。

「仲間ねぇ、アスカの事か?」

からかうような言葉にアタシは焦った。

「べ、別にアスカだけって訳じゃないですよ!」

思ったよりも大きな声になってしまう。

確かにアスカには助けられたし感謝もしてる。だけど、仲間ってアスカだけじゃないし……って、なんでアタシはこんなに焦っているの?

「へぇ~」

ヴァイスさんは楽しそうに笑いながら、バイクのエンジンを掛けてアクセルを軽く吹かした。軽快な音が響きわたる。

「よし、いい調子だ。ほら!」

「え?わぁ!」

いきなり鍵を投げてきて、アタシはそれを慌ててキャッチする。

あっぶな~、落とす所だったわ。

「おし、良い反応だな?」

ニッと笑うヴァイスさん。

「あ、ありがとうございます?」

アタシは微妙に疑問系で返してしまった。





outside。

ティアナはバイクにまたがり、ヘルメットを装着する。

「あの……これ、聞いちゃいけない事だったら申し訳ないんですけど」

準備を終えたティアナがヴァイスに遠慮勝ちに尋ねる。

「ん?」

「ヴァイス陸曹って、魔導師経験ありますよね?」

ティアナは以前からの疑問をぶつけてみた。

たまにヴァイスがアドバイスをくれるのだが、それが的を得ていて的確なのだ。

それだけなら経験者の意見で終わる話なのだが、ヴァイスは今、魔導師として仕事はしていない。

高給取りの魔導師の仕事を手放す何かが、過去にあったのだろうかと思ったのだ。

「……まあ、俺は武装隊の出だからな。ド新人相手に説教くれられる程度にはよ」

そう言ってティアナを見つめるヴァイスの瞳には、僅かな影があった。

「とは言え、昔っからヘリが好きでなぁ。そんで今はパイロットだ」

「……」

何かを隠している素振りが見える。だが、これ以上は踏み込むべきではないとティアナは判断した。

「ほれ、相方が待ってんだろ?行ってやんな」

行った行った、とヴァイスがティアナを促す。

「あ、はい!じゃあ、お借りします!」

ティアナはバイクを発進させて、その場から立ち去った。

それを見送るヴァイス。

「感の良い女ってのも考え物だな……いや、女は昔っから感が良いか?」

ヴァイスは一人、そう呟いた。





アスカside

オレとエリオとハラオウン隊長は、食堂で出かける準備をしているキャロを待っていた。

本当ならシャーリーの所に行かなくちゃいけないけど、エリオとキャロがよそ行きの格好をするのだから、これを見逃す手は無い。

見送るって言ったらエリオが遠慮しますみたいな事を言ってたけど、

「なんだよ~、キャロのおめかしした所を独り占めか~」

とグリグリ絡んで今に至ったりする。

そのエリオの服を、ハラオウン隊長が直している。

親子、とう言うよりは年の離れた姉弟みたいな感じだね。

「ハンカチ持ったね?IDカード、忘れてない?」

「えと、大丈夫です」

色々世話を焼きたがるハラオウン隊長に対し、エリオは少し戸惑っている感じだな。贅沢なヤツめ。オレなら大喜びだよ!

「あ、お小遣いは足りてる?もし足りなくなると大変だから……」

……いや、ハラオウン隊長?いくらなんでもそれは過保護ではないのですか?

「ハラオウン隊長、エリオもちゃんと給料もらってるんですから、大丈夫ですよ」

流石に見ていられなくなったオレが言うと、エリオもそれに乗っかってきた。

「そうですよ、フェイトさん。心配いりません」

ちょっと困ったようにエリオが隊長に訴える。

「あ、そうか」

ちょっと残念そうにハラオウン隊長が財布を引っ込めた。

心配なのは分かるけど……いや、本当は一緒に行きたいんだろうな。

最近じゃエリオとキャロとあんまり話もできていないみたいだったし。

甘える事も礼儀かな?エリオも、もう少し隊長に甘えて良いんじゃないかと思う。

まあ、エリオの性格からして、あんまり人に迷惑をかけるのを良しとしないからな。

そんなエリオの頭を、ハラオウン隊長が撫でる。羨ましい……

「エリオは男の子だし、キャロより2ヶ月歳上なんだから、ちゃんとエスコートしてあげるんだよ?」

「はい!」

エスコートって、10歳なんだからそこまで気を使わなくても?と思うオレはおっさんなのか?

「ごめんなさい、お待たせしました!」

そこにキャロが走ってきた。そんなに慌てなくても……お?

「あ、キャロ、いいね。可愛いよ」

白のワンピースにピンクのブラウスを着たキャロに、ハラオウン隊長が顔をほころばせる。

「おぉ、いいじゃないか!よく似合ってるよ、キャロ」

うん、年相応に可愛く着飾っている。贔屓目なしに可愛いぞ、キャロ。

「ありがとうございます!」

オレとハラオウン隊長のほめ言葉に、キャロは上機嫌でクルリと回ってみせた。普段、そういう仕草をしないから、余計に可愛く見える。

ニコッと無邪気に笑うキャロ。

「あ……」

おう、エリオが見とれているぞ。でも、黙ったまんまってのはいただけないな。

オレはポンとエリオの肩に手を置いた。

「エリオもなんか言ってやれよ。キャロ、すごく可愛いじゃないか」

オレはエリオを促した。って言うか、本当に見とれてたんだな。

「え……あ、はい。すごく似合ってるよ、キャロ」

頬を赤く染めて、それでもエリオははっきりと素直な感想を言った。

「あ、ありがと…」

キャロも顔を真っ赤にして、はにかんだ笑顔を見せる。

いいねぇ~、初々しくて、微笑ましい。

本当、いい雰囲気なんだけど……なんだこの敗北感は!

何となく負けた気がするのは何故なんだぁぁぁぁ!!!!





なのはside

スバルとティアナを見送る為に、私は隊舎前に出ていた。

どうやら、ティアナの運転するバイクに乗っていくみたいだね。

ツーリングするにはもってこいの天気だし、充分楽しんできて欲しいな。

「じゃあ、転ばないようにね」

大丈夫だとは思うけど、一応そう声を掛ける。

「大丈夫です。前の部隊にいた時は、ほとんど毎日乗ってましたから」

「ティア、運転うまいんです」

二人がそう答える。

「そうなんだ」

まあ、ティアナは慎重だし、スバルもいざとなればウイングロードを使えるから事故は起こさないよね。

ティアナがアクセルを吹かしてユックリとバイクを前進させる。

「あ、お土産買ってきますね!クッキーとか!」

スバルが振り返ってそう言ってきた。スバルらしいなぁ。

「嬉しいけど、気にしなくていいから。二人で楽しく遊んできてね!」

「はい!」「いってきまぁす!」

返事が返ってきたと思ったら、あっという間に見えなくなっちゃった……

大丈夫だよね?

さて、隊舎に戻ろうとしたら、ライトニング隊が外に出てきたのと鉢合わせする。

フェイトちゃん、エリオ、キャロ、フリードは良いとして。

その中に、制服姿のアスカ君がいる。デバイスの調整、やったのかな?

「あれ?アスカ君。シャーリーの所には行ったの?」

制服姿って事は、まだだとは思うけど、なんで外に出てきたんだろ?

「エリオとキャロを見送ってから行きます。何しろ、おめかしした二人を見れるチャンスですからね!」

グッと拳を握って力説するアスカ君。

うーん。お兄さんと言うより、兄バカになってるような気がするのは何故なんだろう?

だ、大丈夫だよね?私、引きつった顔してないよね?

「エリオとキャロは一緒にお出かけ?」

私は慌てるように二人に尋ねる。決して話を逸らす為じゃないからね?

「「はい、行ってきます!」」

元気な声で答えてくれるエリオとキャロ。うん、可愛いなぁ。

「あんまり遅くならないうちに帰るんだよ。夜の街は危ないからね」

フェイトちゃんが心配して二人を抱き寄せてそう言った。

相変わらずの心配性だな。

エリオとキャロを見送って、私達は隊舎の中に入った。

「大丈夫かな?」

フェイトちゃんがソワソワしながら心配そうな声を出す。

心配なのは分かるけど、少し冒険させてもいいと思うよ?

「大丈夫だよ、フェイトちゃん。二人とも、しっかりしてるから」

私はそう言ってフェイトちゃんを安心させようとする。

「そうですよ。それに、何かあったらデバイスの直接通信をしろって言ってありますから、大丈夫ですよ、隊長」

ドヤ顔でアスカ君が言うけど……アスカ君も、大概心配性だね。

なんて言うか、本当に兄バカ化が進んでるような気がするよ。

私のお父さんやお兄ちゃんみたいに、何かスイッチ入っちゃったら大変な事にはならないよね?

私がそんな心配をしていたら、反対側からヴィータちゃんとシグナムさんが歩いてきた。

「お疲れさまです」

ピッとアスカ君が敬礼する。うん、こういう事はしっかりやるんだよね、アスカ君は。

「外回りですか?」

フェイトちゃんがシグナムさんに尋ねた。

普段は持たないタブレット端末を持っているから聞いたのかな?

「ああ、108部隊と聖王教会にな」

「ナカジマ三佐が合同捜査本部を作ってくれるんだってさ。その辺の打ち合わせ」

シグナムさんとヴィータちゃんがそう答えた……あれ?ヴィータちゃんって直接捜査に絡んでいたっけ?

「ヴィータちゃんも?」

予定では、シグナムさんが打ち合わせをやる筈だと思ったけど?

「アタシは向こうの魔導師の戦技指導。まったく、教導資格なんて取るもんじゃねぇな」

そう言いつつも、満更でもない様子のヴィータちゃん。

最近は良くフォワードメンバーのデータを見直しているし、色々アイデアを出してくれている。

「捜査周りの事なら、私も行った方が……」

「準備はこちらの仕事だ。お前は指揮官で、私はお前の副官なんだぞ」

フェイトちゃんび最後まで言わせず、少しだけ意地悪な笑みを浮かべるシグナムさん。

「えと…ありがとうございます……で、いいんでしょうか?」

組織の中の役職と言うのは、どうにも収まりの悪いものだ。

私もフェイトちゃんも、シグナムさんやヴィータちゃんを部下とは思えない。

「好きにしろ」

シグナムさんもそれを分かっているから、身内の時は昔と同じ口調でしゃべってくれる。それは大変にありがたい。

「で、アスカ。お前は出かけないのか?」

あ、忘れてた。アスカ君、いたんだっけ。

「モード2の最終調整でこれからシャーリーの所です。それが終わったら、晴れて自由の身です」

アスカ君は大げさに肩をすくめる。

モード2と聞いて、シグナムさんの目がキラン!と光った。

「ほう、モード2か。なら、私が帰ってきたら模擬…」

「全力でお断りします!今日ぐらいは平和でいさせてください!」

思いっきり喰い気味に叫ぶアスカ君。

そのあまりの必死さに、思わず私達は笑ってしまった…ごめん、アスカ君。

「冗談に決まってるだろう。そこら辺は、明日からミッチリ仕込んでやるからな」

おかしそうに笑いながら、シグナムさんとヴィータちゃんは出かけて行った。

そこに残されたアスカ君は……

「言わないでよ~。明日が怖いじゃないですか~~」

ガックリと肩を落としてた。

「ア、アスカ。とりあえず今日を楽しもうね!」

「そ、そうだよ、アスカ君!シグナムさんも明日からって言ってるんだし!」

悲壮感溢れるアスカ君を、私ちフェイトちゃんは必死で慰める。

すると、アスカ君はジト目で私達に目を向けてきた。

「……シグナム副隊長を止めるって選択は無いんですか?」

「「それ、無理だから」」

思わず真顔でハモる私とフェイトちゃん。

「マイガッ!!」

アスカ君は、頭を抱えてオーバーアクションにリアクションした。

………センス古いよ、アスカ君。





outside

シャーリーとリインは今、研究室でフォワードメンバーのデバイスリミットの解除を遠隔操作で行っていた。

「最初のリミッター解除、無事に済んで良かったですね」

リインが各データを確認し、シャーリーへ転送する。

「はい。明日からは5機の調整で慌ただしくなりますし、今のうちに、なのはさんとレイジングハートさんの限定解除モード、エクシードモードの最終調整もしておきたいところですね」

「バルディッシュのザンバーもですね!」

「あぁ!忙しいですねぇ、楽しいですね!」

「うふふふふ」

デバイス整備をしている時のシャーリーは、本当に楽しそうにしている。

デバイスを道具とは思っておらず、友達のように感じているのだろう。

シャーリーがそう思っている事が伝わったのか、リインも嬉しそうに笑う。

「あ、リイン曹長も、そろそろ完全チェックとかしておきましょうか」

ふと思い出したようにシャーリーが言う。

「あぁ!そうですね。お願いするですぅ」

「了解です!」

シャーリーは一旦データをまとめて、レイジングハートの調整プログラムを止めた。

「最近はどなたとも融合されてないですよね?」

シャーリーはリイン用の調整プログラムを起動させた。

「そうですねぇ。はやてちゃんは勿論、シグナムもヴィータちゃんも私を使う程の状況にはならないですし」

リインはそう言いながら、チェックポッドの前まで飛んでいき、制服のボタンに手をかける。

「それ自体は良い事なんですけどね」

シャーリーがチェックポッドの蓋を開ける。

ユニゾンは、言わば奥の手。使わないことに越したことはない。

「でも、いざと言う時に動けなくては、祝福の風、リインフォースの名が泣きますから」

一糸まとわぬ姿になり、リインがポッドに入ろうとした時に……

「おーい、シャーリー。きたぞ……」

間の悪い男が研究室に入ってきた。

「「え?」」

アスカの突然の乱入に固まるシャーリーとリイン。

一方、アスカも凍り付いていた。

目の前には引きつった顔のシャーリーと、素っ裸のリイン。

嫌な沈黙が流れる。

(え?えええ???な、何?何なの??何でリイン曹長が裸なんだ!?)

動揺が治まらないういに……

「キャアァァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

引き裂くような悲鳴と共に、フリジットダガーがアスカに向けて放たれた!

「ちょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

降って湧いたような休暇日に、撃沈回数を増やしたアスカだった。





「ひどい目にあった……」

ボロボロのアスカがイスに座ってボヤいた。

「アスカ!ちゃんと反省してるですか!」

そのアスカに、リインの怒った声が飛んでくる。

「は、はい!」

その声に、アスカはピョンとイスの上で正座をする。

リインはふくれっ面でラピッドガーディアンを調整していた。

裸を見られた事で相当怒っている。

普段は、ちっちゃい上司が頑張ってるなー、くらいにしか思わないのだが、今回はリインの怒りがはっきりとアスカにも感じ取る事ができた。

「リインさん。あの、私がいけないんです。アスカがくる事をすっかり忘れてて…」

シャーリーがそう言うが、リインは取り付く島もない。

プンプン怒りながらも、ラピッドガーディアンの変形機能の最終調整をしていた。

アスカは、リインの背中をイスに正座したまま見ていた。

(とにかく今は逆らうな!何とかリイン曹長の機嫌が直るまでは耐えろ、オレ!)

ちっちゃい上司の怒りが治まるまで、無条件降伏をし続ける覚悟のアスカ。

しばらく待ち、リインの動きが止まった。

「はい、終わりです」

振り返ったリインがアスカに向き直る。まだふくれっ面のままだ。

「アスカ。ラピを起動してモード2にしてみるです」

リインは怒り顔で、待機状態のラピッドガーディアンをアスカに手渡す。

「は、はい!」

それを両手で受け取ったアスカは、イヤーカフを耳に装着する。

「ラピ、デバイスのみの起動。ダブルソードモード」

《了解》

いつも通りの双剣になるラピッドガーディアン。

「モード2、スピアモード」

命令と同時に、アスカは双剣を縦に重ねる。すると、双剣が合体して一本の棍のようになる。

「やった!成功ね!」

シャーリーが合体記録を取りながら話す。

「あぁ、なんの違和感も感じなかったよ。さすが、リイン曹長!」

アスカは笑って言うが、リインはふくれっ面のままだ。

「あはは…いや、あの……スミマセン…」

リインの無言の圧力に、アスカはシュンとなって頭を下げる。

「リインさん。もうそれぐらいにしてあげたらどうですか?アスカも充分に反省してますし、そもそも悪いのは私なんですから」

さすがに見かねたシャーリーが助け船を出す。

「…もう、しょうがないですね」

ようやく、リインが表情を和らげた。

「すごく恥ずかしかったですよ?」

「はい…反省してます」

「でも、アスカには初出動の時に助けてもらったですから、許します。だから、もう気にしなくていいですよ」

リインはニコッと可愛らしく笑った。

「は、はい。ありがとうございます」

ホッ、と胸をなで下ろすアスカ。もしこれがシグナムの耳に入ったらどうなるか、気が気でなかったのは秘密だ。

「それにしても、アスカは八神家の裸を覗く相でもあるんですかね?」

油断していた所に、とんでもない事を口走るリイン。

「え?ど、どういう事です?」

心当たりがないのも関わらず、動揺するアスカ。

「派遣任務の時、シグナムの裸をみたですよね?」

「ウボォアァ!」

アスカは大きく仰け反る。

完全に忘れていたのに、まさかここで蒸し返されるとは思ってもみなかった。

「な、なんで知ってんですか!」

アスカはリインに詰め寄り、真相を確かめようとする。

「シグナムの様子がおかしかったからって、はやてちゃんがじっくりゆっくり尋問したらしいですよ?」

涼しい顔で、恐ろしいことをサラッと言うリイン。

そこに…

「どーゆーシチュエーションだったのかしらぁ?」

それまで大人しく事の成り行きを見守っていたシャーリーが話に加わってくる。

「い、いや、あれは事故だから!」

「って事は、本当に見たんだ。シグナムさんの、は・だ・か」

キラン!とメガネを光らせ、ジリジリとにじり寄るシャーリー。

「あわわわわわわ」

アスカはキョロキョロと辺りを見回して脱出口を探そうとする。

「そーんな楽しそうな話を、このシャーリーさんに内緒にしておくのは許せないなー。あっ!」

「シャーリーに話したらすぐに六課中に知れ渡るだろうが!」

シャーリーが手を伸ばした時、アスカはその僅かな隙間をくぐり抜けて研究室のドアから駆け出て行った。

「逃げてもむだよー。って事で」

クルリとリインに向き直るシャーリー。

「そこん所を詳しく!」

「もちろんですぅ!」

かくして、詳細はリインからシャーリーに伝わる事になった。





アスカは研究室から脱出して、そのままの勢いでオフィスまできていた。

「あー、どうすっかな…」

シャーリーが追いかけてこない事を確認したアスカは、自分の席に座る。

特に何かをやる為ではない。やることが無くて、途方に暮れているのが正直な所だ。

今からエリオとキャロに合流すると言うのも、何だか間抜けな感じだ。

「あれ?アスカ、今日はもうお休みじゃなかったっけ?」

オフィスで仕事をしていたアルトがアスカに話しかけてくる。

「えぇ、まあ…デバイスの調整をしてもらってたんですが…」

そのまんまの流れで、アスカはアルトに研究室であった出来事を話した。

「……それじゃ、リインさんからシャーリーさんに詳しい事は伝わってるよ、たぶん」

一切合切、包み隠さず自分に言うアスカに、半ば呆れながらアルトはそう言った。

(まあ、信頼してくれてるって事だよね)

そう思うと、少し嬉しいアルトだったりする。

「バレてますよねぇ…まあ、しょうがないや」

「あれ?結構冷静だね」

「だって、言いふらしたら怒られるのはオレだけじゃなくて、シャーリーとリイン曹長も一緒にですよ」

「あ、自分も入ってるんだ、怒られるメンバーに」

アスカらしいと言えばらしい言いぐさに、アルトは苦笑した。

「で、どうするの?このままオフィスにいる訳にもいかないでしょ?出かけてきなよ」

手持ちぶさたなのは見て分かったので、アルトは出かける事を勧める。

少し考え込むアスカ。

「えーと…そうだ!アルトさん、ちょっと頼まれてくれませんか?」

ぽん、と手を叩き、アスカはアルトに頼みごとをする。

「交通管理局の地下高速道路管理センターに連絡をとってもらいたいんですけど」

「地下高速道路?いいけど、なんで?」

「知り合いがそこにいるんで、久々に会ってみようかなーって。いいですか?」

「いいよ。センターの何て言う人?」

アルトはアスカの端末から連絡をとる準備を始める。

「デューク。デューク・キズムです」

「はい、デュークさんね。ちょっと待ってて」

パパパッとアルトは端末を操作して交通管理局に繋げる。

少しして、モニターに体躯の良い男が映し出された。

「お待たせしました。時空管理局、交通課、地下高速管理部のデューク・キズム一等監視官です」

まだ若い青年だ。年の頃は24、5といった所か。

「こちらは、機動六課、アルト・クラエッタ二等陸士です。お呼び立てして申し訳ありません。キズム監視官とお話したいと言う者がおりましたので連絡をしました。はい、どうぞ」

そこでアルトはアスカと交代する。

「よう。久しぶりだな、デューク」

そこそこ歳の差がある人物に、アスカは馴れ馴れしく話しかけた。

「え…アスカ?アスカ・ザイオンか!いや~、久しぶりだな!少しは背が伸びたか?」

「髪の方が伸びたよ」

デュークはアスカを見て懐かしそうに話す。

「最後に会ったのが、デュークの結婚式の時だろ?2年ぶりくらいかな」

「そうだったな。オヤジさんは元気か?」

「相変わらずだよ、オヤジは。そっちも元気そうだな」

「おうさ!しかしビックリしたぞ、機動六課から連絡なんて、出世しやがったな、アスカ!」

「そんなんじゃ…まあ、いいや。それより、ここは六課のオフィスだから、話はそっちに行ってからしたいんだけど」

「ん?お前、今日休みか。なら来いよ!」

「分かった。じゃあこれから向かうわ」

「おう!しかし懐かしいな。099の頃は、一緒に女湯を覗きに行けなくて拗ねてたヤツが機動六課か…」

「六課のオフィスだっつーてんだろが!」

デュークの発言に焦ったアスカは、叩きつけるように端末の電源を切った。

チラッと横目でアルトを見ると、クスクスと笑っている。

「そうなんだ…拗ねていたんだ」

可笑しそうに笑うアルト。

「いや、あの!違いますから!099部隊に女性が宿泊する時に、オレが風呂の哨戒任務をやらされていたんですよ!ウチの馬鹿共は絶対に覗きにくるから、それを絶対に阻止しろってオヤジに言われて!」

アタフタしながらアスカはそう説明する。もの凄い汗をかいているのは何故だろう?

「んで、拗ねてたの?」

アルトはからかうように言う。

「だから違いますって!ウンザリしてたんですよ!あいつらガチンコでくるし、阻止しろって言ってたオヤジが先頭で覗きにきてたんですよ。女湯の外で大魔導戦ですよ?!どんだけ覗くのに情熱燃やして…」

言っていて虚しくなったのか、アスカはハァ、とため息をついた。

「考えてみれば、あの時からオレの防御魔法って鍛えられてたんだなぁ…覗き阻止って、情けない」

ガックリと肩を落とすアスカ。

「それって、みんながアスカを構いたいから、そうやってたんじゃないかな?」

落ち込んでいるアスカに、アルトがニコッと笑って話しかける。

「え?」

「少しでも寂しくないように。それに、みんなアスカの事が好きだったんだよ。デュークさん見てると分かるもん」

フフッと笑って、アルトはアスカの背中を叩いた。

「さあ、いつまでもこんな所にいないで、さっさとでかける!」

バンバンと背中を叩かれたアスカは、嬉しそうに笑い返した。

「アルトさん…はい、ありがとうございます!」
 
 

 
後書き
えー、何とか投稿できました。
相変わらずの長文で申し訳ありません。約13000字です。

今回から休日編です。今回はみんなが出かけるまでの話……の筈なのに、何故かリインに
撃墜されている主人公です。
ティアナがヴァイスにアスカの事でからかわれて動揺しています。色々あってアスカを意識
し始めているのかもしれません。
そしてアルトさん。出番そのものは少ないですけど、そうのうち大化けしそうな感じもします。
この子は結構度量が大きい感じですね。

 
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