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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百十九話 意外な共謀者


お待たせしました。未だ未だ続きます。
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第百十九話 意外な共謀者

帝国暦483年8月5日 午前9時05分

■オーディン ノイエ・サンスーシ 皇太子宮殿

ルードヴィヒ皇太子はクロプシュトック侯と共に、ノイエ・サンスーシ宮殿謁見の間へと向かう為に車止めへと向かった。其処には既に帝国軍儀礼服を着た1人の人物が待ち構えていた。

帝国軍准将の姿をした闖入者にルードヴィヒはクロプシュトック侯を問いただす。

「クロプシュトック、この者は誰だ?」
「殿下、ヨハンめにございます」
「ヨハンは艦隊では無いのか?」

「はい、その為にヨハンの代わりと成る協力者でございます」
ルードヴィヒはマジマジとその人物を見る。
その男が最敬礼をしながら自己紹介をする。

「皇太子殿下におかれましては、ご機嫌麗しく。小官はヘルマン・フォン・リューネブルクと申します」
暫し考える皇太子であるが、思い出したのかハッとしてクロプシュトック侯に詰め寄る。

「リューネブルクと言えば、叛徒共のローゼンリッター連隊長で有った者ではないか!その様な者を信用できるのか!」
皇太子はリューネブルクの名前を聞き拒否反応を示した。

「殿下、リューネブルクは、リヒャルト大公股肱の臣リューネブルク侯爵の跡継ぎにございますれば、殿下のお役に立つべく、恥を忍んで帰国してのでございますぞ」
その言葉に皇太子は少し落ち着いた。

「そうか、リューネブルク侯爵と言えば、伯父上を最後までお守りし、先帝陛下に処罰された忠臣の家系だな。そうか、そうであったか、生き残っておったか」
「御意に、ございます」

皇太子の言葉にリューネブルクは膝を折り最敬礼をする。
「良い、リューネブルクよ、お前を同士と認めよう。ノイエ・サンスーシへ行く傍らにお前の話を聞かせよ」
「御意」

地上車に乗り込む3人であった。

「そうか、ではクロプシュトックが、お前を匿い亡命させたのか」
「御意にございます」
「嘸や辛かったであろう」

「クロプシュトック侯爵ほどではございません、侯から付けて頂いたお付きの者と共に安全に過ごして参りました。何時か帝国に帰る事を夢見て、今日まで来ました。侯のお陰で今の私がございます」

「そうか、それはご苦労で有った。恩を返すために危険な逆亡命をするとは、見事だ!」
リューネブルクの話を関心しながら、皇太子は頷いている。
しかし口でそう言う、リューネブルクの内心は全く違う考えであった。

「殿下、事が終わりますれば、リューネブルク侯爵家の復活をお願いします」
クロプシュトック侯がお願いをする。
皇太子は気分良く願いを聞き届ける。

「うむ。侯爵と言わず公爵でも良いぞ」
「ありがたき幸せ」

その様な話をしている間に地上車はノイエ・サンスーシ本殿車止めへと到着した。





帝国暦483年8月5日 午前9時45分

■オーディン ノイエ・サンスーシ宮殿 謁見の間控え室

ノイエ・サンスーシの謁見の間控え室に皇太子、クロプシュトック侯爵、クロプシュトック侯爵長子ヨハンに変装したリューネブルクは到着した。この日は皇帝陛下に皇太子がお願いに上がるとの事で普段の謁見は中止されていたために、普段多数居る謁見希望人の姿は何処にもなく、御茶を出す女官の姿しか無かった。面会は午前10時からで有るため、一旦此処で時間調整を行うのである。

午前9時50分フレーゲル内務尚書が現れた。彼も先頃の綱紀粛正で自らの職責を冒された挙げ句にハルテンブルク侯爵が内務次官の地位に就いたためにすっかり権力から遠ざかっていた為、今回の謀に乗ったのである。

表向きは今回の皇帝と皇太子の会談は30年近く閉居の身であったクロプシュトック侯爵が皇太子の口利きで、30年前のフリードリヒ4世陛下への非礼を詫びて、自らは隠居し息子ヨハンに跡を継がせるという願いをしに来る事と成っていた。尤もこの事はテレーゼの耳には入っておらず、更にクロプシュトックの危険性を注意する事が出来ていなかった。





帝国暦483年8月5日 午前9時

■オーディン ノイエ・サンスーシ 近衛兵総監部

近衛兵総監ラムスドルフ上級大将の元へ10人の中堅幹部が面談を求めてきていた。
「どうした?皆が皆、雁首そろえて、いったい何があったのかね?」
ラムスドルフの質問に、カール・エドゥアルト・フォン・ノビリンク大佐が、皆を代表するように話し始めた。

「ラムスドルフ閣下、上意であります」
「上意だと?」
考え込むラムスドルフに大佐が袱紗に包まれた書簡を出した。その書簡はゴールデンバウム王家の家紋である双頭鷲の文様が描かれた紙に書かれていた。大佐は書簡を恭しく読み始める。

「君側の奸、クラウス・フォン・リヒテンラーデ侯爵、毒婦アンネローゼ・フォン・グリューネワルト伯爵夫人を成敗する為、近衛師団は直ぐさまノイエ・サンスーシ宮殿及びグリューネワルト伯爵邸を包囲せよ。尚その他寵姫邸にも小隊を配備し警戒に当たれ。銀河帝国皇太子ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウム」

その言葉に、ラムスドルフは目元に皺を寄せながら聞き入る。

「閣下、御聖断が下ったのです。直ちに命令を出して頂きたい」
ラムスドルフは考えを纏め反論する。
「我々は、皇帝陛下の近衛である。例え皇太子殿下のご命令とはいえ、はいそうですかと、悪戯に兵を動かす事など出来ん!500年兵を養うはいったい何の為かと考えるか」

意外な反論に、ノビリンク大佐以下が顔を見合わせる。皇太子の上意があればラムスドルフなど簡単に動くと思っていたからである。

「では、閣下は皇太子殿下の御聖断に楯突くというおつもりですか!」
「まずは皇帝陛下に真をお聞為さるのが筋という物で有ろう。卿等の言っていることは横紙破りも甚だしい」

「ですから、皇帝陛下が、君側の奸と毒婦により操られているのです。それを憂いた皇太子殿下が断腸の思いで、御聖断為されたのです」

説得が旨く行かずに次第に焦りはじめる幹部達。
「閣下!閣下は逃げるおつもりか!」

ラムスドルフとしては、現在幹部の言うような自体には全く成っておらず、逆に綱紀粛正で世の中が良くなってきているのにも係わらず、この様な命令書が出る自体が可笑しいと、説得しているのであるが、相手が聞かないために、体を張った賭に出た。

「逃げはせぬ。卿等のしようとしている事は、暗赤褐色の時と同じではないか。頭を冷やすのだ」
「どうしても、命令を出して頂ける事は出来ませんか!」
「くどい」

その言葉に、マックス・フォン・ヘーデル大佐がブラスターをラムスドルフに向け構える。
「ノビリンクもういい、俺が代わる」
「判った」
「承諾して頂かないと、閣下のお命に係わりますぞ」

その様な脅しに乗るラムスドルフではない。最初から命を賭けているので、立ち上がると睨み付けるように言葉を放った。
「卿等は国を割るつもりか!卿等の企みなどに荷担する気は毛頭無い!卿等がそれでも企みを諦めぬならこの老骨の屍を踏んでいくがよい!撃てるモノなら撃ってみよ!」

ラムスドルフの信念言葉にたじろく幹部達。
ノビリンク大佐が叫ぶ。
「ラムスドルフ上級大将も君側の奸だ、撃て!」
刹那、ヘーデル大佐が引き金を引いた。

胸を撃たれて崩れるラムスドルフ上級大将。
「馬鹿め、騙されおって・・・」
そうの言葉と共にラムスドルフは倒れた、体からの出血で絨毯が真っ赤な鮮血が広がっていく。

ノビリンク大佐達は、総監公印を使い偽の命令書を作成し直ぐさま近衛兵に出撃を命じたのである。参謀長などの将官は貴族で有るために完全なお飾りで、皇太子殿下の御聖断に逆らわない事を約束して事後の事は、ノビリンク大佐達に任せたのである。その為唯一ラムスドルフ総監だけが殺害されたのである。

午前10時前には次々に完全武装の近衛兵がノイエ・サンスーシ内の近衛兵総監部より、皇帝宮殿とグリューネワルト伯爵邸へと向かっていった。





帝国暦483年8月5日 午前9時58分

■オーディン ノイエ・サンスーシ 謁見の間控え室 ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウム

此から行われる大事に、ルードヴィヒの脳裏には生まれて来てからの事が走馬燈の様によぎっていた。生まれてこの方、父であるフリードリヒ4世を尊敬した事など一度としてなかった、幼少から見続けた父は何時も酒と女に溺れ、だらしない格好で居たのであるから。

自分に中にもあの血が流れているかと思うと虫酸が走った10代後半、だからこそ、妻を1人として自分は不逞な行動を取らずに来たのだ。父が次々と女を変え子を作る姿に、汚いモノを見るような感覚に陥っていったのだ。

私を含めて父の子は全部で27人もいる。しかし、皇后たる母上のお産みになって下さった子は、私、アマーリエ、クリスティーネと21で死んでしまった、可哀想なフランツィスカと3歳と1歳で夭折したヴィルヘルミーネ、マクシミリアンを除けば、皆犬っころ同然の輩だった。

そいつ等は流産死6人、死産7人、夭折7人、そして今頃死んでいるあの娘だけだ。クロプシュトックに会い、私はその殆どを仕切ってきた、最初の頃は恐ろしさもあったが、次第に慣れてきた。クロプシュトックの手配する者達は次々に処分を成功させたのだから。

実際に私が仕掛けた人数は、流産死4人、死産6人、夭折7人になる、いやもう8人目が出来ているな。あの様な者達が生きていれば、何れ帝国に災いをもたらすだけだ、外戚による政治の壟断が起こりかねない。

その点我が母上は子爵家の出で有るため、政治に親族が口を出す事もなく、理想的にな皇后一族といえたのだ。からこそ、我が妻、イングリットは野心のない子爵家の出なのだからな。私は妻一筋で生きてきたのだ。

それなのに、父は母の生前から、多くの女をはべらかし、外戚を作る可能性を作りまくった。このまま行けば、私の帝位継承も反古になるかも知れないと考え、処分したのだ。あの娘《テレーゼ》の時には失敗したが、今日既にヴァルハラへ旅立ったであろう。

今日の事は、クロプシュトックが忍び来ませた、グレーザーにより、あの毒婦《アンネローゼ》が妊娠の兆候有りと連絡が来たのだ。何時ものように死産を狙うはずが、父が異様に執着している毒婦の事だ、直ぐさま殿医を女性に返るはずだとの事で、忙しいが決めた事だ。

更にブラウンシュバイク、リッテンハイムを落とし入れて、エリザベートとサビーネに家を継がせ、皇室の藩屏としての、ブラウンシュバイク公爵、リッテンハイム侯爵とする事も、今回の義挙の目的の一つなのだ。その為の餌としてあの犬《テレーゼ》は生け贄に丁度良い訳だ。

曲がりなりにも、ルドルフ大帝以来の高貴なるゴールデンバウム帝家の血が半分は流れているのであるから、贄としてはこの上ない物になろうというモノだ。大神オーディンも嘸や御喜びであろう。

大神オーディンよ御照覧あれ、我が義挙に力を与えたまえ。






帝国暦483年8月5日 午前10時

■オーディン ノイエ・サンスーシ 謁見の間

午前10時丁度にフレーゲル内務尚書を除く3人が謁見の間へと入室した。

謁見の間には、壁際中央の豪勢な椅子に皇帝フリードリヒ4世陛下が鎮座なされており。その両脇に国務尚書リヒテンラーデ侯爵と幕僚総監クラーゼン元帥が立って謁見時の介添えを行うべく付き従っており、其処から離れた位置に侍従が2名待機している。

「皇帝陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
皇太子の挨拶に鷹揚と答える、フリードリヒ4世。
「うむ、そちも元気そうで何よりじゃ」

「皇帝陛下、此より話しまする事をお聞きどけください」
「ルードヴィヒ、神妙にどうしたのじゃ?」
神妙な表情で話す、ルードヴィヒを皇帝は不思議そうに見つめた。

「本日、帝国暦483年8月5日は銀河帝国第36代皇帝フリードリヒ4世とその皇女テレーゼの命日でございます」

いきなりに話しに、ルードヴィヒ、クロプシュトック、リューネブルク以外のフリードリヒ4世、リヒテンラーデ侯、クラーゼン元帥、そしてお付きの侍従2名は何のことだか判らない状態で有った。

意味の判ったリヒテンラーデ侯が、思わず窘めるように喋ってしまう。
「陛下の御前であるぞ、幾ら皇太子殿下でも仰って良い事と悪い事がございますぞ」

次の瞬間、リューネブルグが皇太子が隠し持ってきていたブラスターを受け取って、皇帝に狙いを定めたのである。一瞬で固まる時間。笑い出す皇太子。

「ハハハハ。父上は今日この場で崩御なされるのですよ、君側の奸リヒテンラーデ侯の手によって」
「ルードヴィヒ、お前は・・・」
「何寂しくはないですよ、あの女《アンネローゼ》もあの娘《テレーゼ》も一緒に旅立つのですから」

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テレーゼの運命は未だ不明。
リューネブルクの目的とは?
そして、クロプシュトックの目的とは?

御聖断も本来なら皇帝の言葉がメインですが、敢えて彼等はルードヴィヒが新帝であるとの感覚で使っています。

500年兵をの下りは日米会戦前の山本五十六の言葉を弄って使ってます。本来は100年兵を。

 
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