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哲学者死す!?

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第一章

           哲学者死す!?
 ケーニヒスベルグには一人の有名人がいた、それはこの街にあるケーニヒスベルグ大学の教授でその名をエマヌエル=カントという。
 生来虚弱な体質であり自身もそれがわかっているからこそ日々の生活には注意している。時計の様にいや街の者が彼の行動を見てそれで時計の針の狂いを正す程だ。そこまでの人物だ。
 カントは毎日早朝に起き大学での午前の講義それに友人達と共の食事を楽しみ読書の後は散歩を行う。とかく時計の様に正確な生活を送っていた。
 何故そうした生活を送っているのかをとだ、カントは親しい者達に語っていた。小柄だが頭は大きくそこに深い知識と教養を備えている。その知識と教養を言葉にも含ませつつ言ったのだ。
「私は身体が弱いからだよ」
「だからだね」
「あえて規則正しい生活を送り」
「そしてそのうえで常にいい体調を整える」
「そうしているんだね」
「私は天寿を全うした」
 弱い身体だがだからといって早世する気はないというのだ。
「両親から愛情を受けた、それならばね」
「ご両親からの愛情に応えたい」
「長く生きたい」
「天寿を全うしたいが為にだね」
「君は常に規則正しく生きている」
「そうしているんだね」
「そう、毎日規則正しく生きる」
 全ての日課を決まった時間にすることがだ。
「そうして天寿を全うするよ」
「だからその生活を崩さない」
「絶対に」
「何があろうとも」
「そうしていくんだね」
「そう、私はそうして最期まで生きていくよ」
 その命が終わる時までというのだ。
「規則正しくしていって」
「では後で読書を行い」
「そしてだね」
「散歩も行う」
「そうするんだね」
「そうするよ」
 こう言って実際に決まった時間に読書を行い散歩をする。誰もがその彼を見て時間を確かめる。しかし。
 ある日だ、カントが決まった時間散歩に来なかった。それでだ。
 ケーニヒスベルグの者達は慌てふためいてだ、口々に言った。
「どうしたことだ、一体」
「カントさんが散歩に来られないぞ」
「もう散歩の時間だというのに」
「どうして散歩に来られないんだ?」
「一体何があったんだ」
「事故か病気か」
「本当に何があったんだ」
 中には最悪の事態を考えた者もいた、しかし。 
 外の騒ぎを聞いたカントの家の使用人が慌ててだ、主の部屋に行くとそこには主がいた。その主を見ると。
 熱心に一冊の書を読んでいた、使用人はその主に声をかけた。
「旦那様」
「何だね?」
 カントは使用人の言葉に我に返って顔を彼に向けて応えた。
「散歩の時間かね?」
「いえ、終わりました」
「終わった?」
「はい、お散歩の時間は」
「そういえば」
 ここでだ、カントは壁にかけてある時計を見てその時計の針をチェックして言った。
「もうその時間だね」
「あの、またどうして」
「どうしてとは?」
「時間を忘れられたのですか?」
「ううむ、しまった」
 今更という感じでだ、カントはこう言った。
「全て予定通りの時間にしないとな」
「それが旦那様のお考えですね」
「迂闊だった、だが」
「だが?」
「この書を読んでいるとだ」
 今度は書に目を戻して言った、身振り手振りはほぼなく極めて静かだ。
「忘れてしまった」
「時間の推移を」
「そうなのだよ」
「それでどういった書ですか?」
「これだよ」
 カントはここで自分が今まで読んでいたその書を使用人に見せた、それはフランス語でありプロイセン人の使用人には読めなかった。だがここでカントは使用人に話した。 
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