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昔の美食

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第五章

「ですから」
「味も違うね」
「当時とは格段にです」
 それこそというのだ。
「美味しくなっています、ですから」
「それで、だね」
「美味しい筈です」
 間違いなくというのだ。
「相当に」
「その通りだね、当時の料理でも」
「味は全く違っています」
「時代が違えば同じ料理でもね」
 違うとだ、ヴィットリオはまた言った。
「そうなっているね」
「その通りですね、では」
「うん、最後まで食べよう」
「全て残さずにですね」
「残ることは好きじゃないよ」
 食べるものをだ、これは彼の考えだ。
「だからね」
「はい、ではこの場にいる者全員で」
「いや、屋敷にいる者全員でだよ」
「シェフの方々や当直の」
「どうしても来られない者には彼等の分を置いておいてね」
 そうしてというのだ。
「屋敷にいる者全員で」
「食べてそうして」
「残さない様にしよう」
「わかりました、それでは」
「皆お腹一杯になるまで食べるんだ」
 ヴィットリオはこうも言った。
「いいね」
「あの、実は古代ローマは」
 ホワンはここでヴィットリオに顔を近寄せそっと耳打ちをした。
「ご存知と思いますが」
「バロック時代のフランスでもだね」
 ヴィットリオも小声で返した。
「満腹になれば」
「はい、鵞鳥の羽根で喉の奥を刺激したうえで」
「食べたものを吐いてだね」
「また食べていましたが」
「それはしないよ」
 ヴィットリオはホワンに笑って答えた。
「僕はね」
「だからですね」
「うん、満腹になればね」
「それで、ですね」
「終わりだよ。確かに美食は好きだけれど」
 それでもというのだ。
「満腹になればね」
「それで終わりですね」
「そうだよ、そこまでするつもりはないよ」
「そこもローマとは違いますね」
「再現しても何でもその通りにはならないね」
「時代、そしてそれぞれの人の考えで」
「そうなるね、今回のことでこのことがわかったよ」
「それは何よりです」
 ホワンも微笑んだ、主のその言葉を聞いて。
「それでは」
「うん、今日は楽しく食べよう」
 引き続きだ、こう言って実際にだった。
 ヴィットリオは屋敷の他の者達と共に寝そべったまま古代ローマの馳走を食べた、それは確かに美味かったが明らかに古代ローマのそれをそのまま再現してはいなかった。今の時代のものが明らかに入っていてそれが実に美味かった。


昔の美食   完


                         2017・2・16 
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