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人非人

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第一章

           人非人
 この時巷ではあるカルト教団が起こしたテロ事件が何か話題になっていた、それでだった。
 逮捕された教祖の裁判についても何かと話題になっていた、だが。
 裁判には弁護士が必要だ、しかしその教団特に教祖の行いの悪さに誰もが弁護士を引き受けたらがなかった。しかし弁護士は必要だ。
 だからだ、国の方も苦慮していた。
「誰も引き受けてくれませんね」
「当然と言えば当然ですが」
「あんな奴誰も弁護したがらないですよ」
「どう考えてもクロですし」
「社会的に注目されていますし」 
 それも日本国内はおろか世界中でだ。
「変な弁護したら叩かれます」
「色々あることないこと書かれて言われます」
「そんな裁判ですから」
「幾ら何でもです」
「引き受ける弁護士もいません」
「いる筈がないです」
「流石に」
 国の方もわかっていた、だがそれでもだ。
 弁護士は必要だ、それでだ。
 国の方は最後の手段に出た、それは国選弁護人だった。だから彼等は教祖の弁護士にそれをつけたが。
 その弁護士達の顔触れ、特にその弁護団の団長の名前と顔を見てだ、この事件の検事の河原崎恒三はその瞬間に顔を顰めさせた。
「こいつか」
「どうしたんですか?」
 補佐役の山田大樹は河原崎の言葉に思わず問い返した。
「一体」
「一体も何もないぞ」
 河原崎はその顰めさせた顔で山田の面長で黒髪を短くしていて小さめではっきりとした目を持つ端正な顔を見つつ言った。山田の背は一七五あり河原崎は一七三程だ。河原崎の顔はやや額が広く五十代相応の皺があり強い目をしている。髪の毛は七三にしている。その彼が山田に言うことはというと。
「我々の担当するあの事件の国選弁護人だがな」
「そのことですか」
「主任は安田健一だ」
「えっ!?」 
 その名前を聞いてだ、山田も思わず声をあげた。
「安田健一っていいますと」
「大学時代は過激派だった」
「そうでしたね」
「それもかなり酷かったらしいですね」
「そして弁護士になってもな」
 それからもというのだ。
「過激派とかばかり弁護してだ」
「殺人犯の弁護士を買って出て」
「それで死刑判決を無期懲役にしたりな」
「死刑廃止論ですね」
「それはいいさ」
 死刑廃止論自体はというのだ。
「しかしこいつはな」
「過激派とつながりがあって」
「しかも死刑廃止論もだ」
 それもというのだ。
「人道主義じゃない」
「また別の考えですね」
「イデオロギーだ」
 人道主義というよりはというのだ。
「そちらだ」
「だからやってるんですね」
「テロ国家とのつながりも噂されていてだ」
「他の受ける裁判も」
「過激派だの戦後補償だの慰安婦だのな」
「そんなのばかりですね」
「イデオロギーでやってる奴だ」
 そうした弁護士だというのだ。
「とんでもない奴だよ」
「俺も知ってますよ」
 山田は呆れつつ河原崎に言った。 
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