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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百十四話 改革の元で


戦陣訓がいよいよ発布です。
後半は艦長キルヒアイスです。

エッシェンバッハ=原作のミュッケンベルガー元帥です。
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第百十四話 改革の元で

帝国暦483年3月1日 午後

■オーディン ノイエ・サンスーシ

午前中の叙勲、叙爵に続いて、軍事、政治、省庁に皇帝の大権により勅令が発せられた。

最初に軍改革が命じられた。

一・帝国軍三長官の兼任は此を禁ず。

此は、オトフリート三世が帝国軍三長官を兼任しては居たが、ルドルフ大帝以来、臣下は不文律としてその職に就かなかったが、成文化されておらず、これを機に成文化する事にしたモノである。

実際はラインハルトが兼任する事を出来なくさせるためであるが。


二・帝国軍三長官より上位の職責【帝国軍最高司令長官】等の令外官の制定は此を禁ず。

此もラインハルト対策で、勝手に上位官を作成し軍を牛耳る事を出来なくするためである。


三・帝国軍三長官の任命権は、皇帝、皇帝幼き時は摂政たる皇族と国務尚書、残りの帝国軍三長官との協議により許可を受けたときのみ此を、皇帝が親補する。


四・全ての総監職、及び全ての宇宙艦隊司令官職、及び全ての司令官職の任命権は、皇帝、皇帝幼き時は摂政たる皇族、帝国軍三長官との協議により許可を受けたときのみ此を、皇帝が親補する。


五・元帥府改革、帝国暦485年1月1日以降に元帥府を開府するときは、元帥自身を含み所属中将以上の将官は六名までとする。元帥府に所属する、中将未満の将官佐官尉官が中将以上の将官に昇進し時、人数過剰の場合は元帥府に所属する事を此を堅く禁ず。


六・勅任以外の二階級昇進は、緊急時における戦場任官以外、此れを禁ずる。
皇帝陛下へ推挙するは、三長官との協議後なら可。
将官の生前二、三階級昇進は勅任以外、此れを禁ず。


一〜六までの宣言は完全にラインハルト対策と言え、勝手な艦隊司令官の交代や必要以上の将官の抱え込みなどを出来なくする為の布石であった。日時はエッシェンバッハが元帥府を開くまでは猶予するためのものである。


七・昨今の軍規の乱れを鑑み。此処に新たなる詔を示す。

【帝国軍人 心得の条 我が命我が物と思わず 無用なる死、あくまで禁じて 奮戦勇戦し刀折れ矢尽きし時 堂々なりて降伏せよ、無用なる死迎えし者  死して屍拾う者なし 死して屍拾う者なし】

第一条 軍規の粛正。
略奪、暴行、虐殺等の帝国軍人にあるまじき行為の厳禁、また其れを行いし者は厳罰を処す。

第二条 降伏要項。
帝国軍人として、奮戦虚しく俘虜になりし者の罪は此を問わない。

第三条 玉砕、自決の禁止。
上記要項に鑑み死に逃避する考えを禁じ自滅玉砕を禁ずる。


八・徴兵制の変更

第一条 各家庭に男児が1人残るようにするべし。

第二条 研究者、熟練工等の徴兵免除。
 

九・女子士官学校の開設。女子の徴兵。

現代は総力戦である、その為には女子力も積極的に採用すべきである。後方勤務の多くを女子にすれば、前線に男子を送れる、又男子徴兵数の減少に対処可能である。
現在でも女子士官は存在しているが、大半が女性皇族等の侍従武官としてである。それを一般職にまで広げるモノとする。


十・補給軽視への意識改革。

近代戦は補給が無ければ戦えない。【腹が減っては戦が出来ぬ】ナポレオンの言った言葉である。此を鑑み補給の重要視を行う、此に伴い兵站課の職責拡大と権限の拡大を行う。又戦闘に於いて商船などを戦果と考えない考えを改める。

七〜十は人員の無駄死にを減らすための布石である。

このほか幾つかの命令が発せられた。

これらの詔は今回の断罪により軍部に巣くう不良将兵が軒並み消え去った結果、良識派は元より戦争大好きな者達さえも、練度向上、士気上昇、モラル上昇による、戦闘力の強化に繋がると受け入れられたのである。さらに三長官や元帥の事など雲の上の存在で有る者達にしてみれば、殆ど気にならない条項で有った。



続いて、省庁に関する詔が発せられた。

一・皇帝直属の惑星開発庁の設置。

此は、功績を挙げた貴族に対して下賜するために惑星を開発する事とされたため、貴族も反対しなかったが、実際はフェザーンによる過度な帝国開発をさせないための布石であった。

二・軍務省、司法省共同の外郭団体に保安庁を設置。

此は所謂星間パトロールである。現在は各星系の警察と宇宙軍が治安を委ねられているが、広域の犯罪や密輸等に対処出来ていない。更に軍に過度の負担をかけている。此を是正する為に開庁させる。此により宇宙艦隊は対叛乱軍戦に全力を向ける事が出来る様になる。

裏の理由は、広域捜査権で門閥貴族、フェザーン、地球教などの暗躍を調べる事も仕事であった。

本来であれば、内務省の権限縮小を図りたいが、時期尚早として今回は見送られた。
その代わり、ハルテンベルク侯爵が内務省警察総局長在職の状態で兼任として内務省次官に親補され、社会秩序維持局に対する監視の強化を行う事と成った。


最後に政治に対してである。

一・帝国宰相、各尚書の任命権は皇帝、皇帝幼き時は摂政たる皇族と、国権の最高責任者たる、帝国宰相或いは国務尚書との相談に拠る物とする。

ラインハルトが勝手に帝国宰相とかを自称する事を防ぐためであるが、クーデターを起こされたら反古になるかも知れないが、臣民の力で簒奪者《ラインハルト》を倒させる布石に成ればとの事であった。


これらが皇帝の大権により帝国自体の改変の一石と成っていくのである。


帝国暦483年3月1日

■オーディン 軍務省

叙勲と叙爵と階級特進を受けたキルヒアイスは、非常に複雑な思いで悩みながら指定された軍務省人事局へ出頭した、しかも時間が指定されていた上に他の士官と一緒の車両で会ったため、ラインハルトに連絡すら出来ない状態で有る。

人事局でハウプト中将から新たな配属先が提案された。
「キルヒアイス大尉、卿にグリューネワルト伯爵邸を守る宮中警備隊からの移動願いと、宇宙艦隊からは駆逐艦艦長への推薦が来ている」
その言葉にキルヒアイスは絶句してしまった。

アンネローゼ様とのお約束がある以上、ラインハルト様を1人にする訳にはいかない。しかしアンネローゼ様を警備する事で何時でもアンネローゼ様とお会いできる。しかしラインハルト様は武勲をお望みだ、前線勤務であれば、直ぐに武勲を上げられる。そう考えると凄まじい葛藤がキルヒアイスの心の中で暴れ回る。

「いったい何故小官なのでしょうか?」
「聞くところに依ると卿はグリューネワルト伯爵夫人の幼なじみだそうだな、今回警備の強化により各夫人達には縁の者による警護をせよとの陛下の思し召しでな。艦隊の方は単に今回の事件で減った艦長職を求めているだけだそうだが」

「警備について、シェーンヴァルト少尉では駄目なのでしょうか?」
「卿も知っているように、彼は武勲を立てたいようだ、その為に前線勤務を求めているから、最初から想定外なのだよ、それに必要とされているのは大尉の中隊指揮官だからね」

キルヒアイスにしてみれば、非常に魅力的な提案であるが、アンネローゼ様から『ジーク、ラインハルトをお願いね』が耳に残っている為、一緒にラインハルト様と武勲を立てる為、お役に立つには、駆逐艦の艦長の職でないと、立てられない為に艦長職を受ける事に決めた。

その葛藤を見ていたハウプト中将が『猶予を与えよう』言ってくれたが、その場で駆逐艦の艦長の方を選択する事にした。
「閣下、ありがたいお言葉ですが、駆逐艦の艦長の方をお願いします」

「キルヒアイス大尉、本当に良いのだな?」
念を押すようにハウプト中将は聞いてくるが、キルヒアイスの決心は揺るがない。
「はい、お願いします」

「それならば、新造駆逐艦ナッサーブの乗員リストだ、副長は卿の自由に決めて構わん」
「シェーンヴァルト少尉でも宜しいでしょうか?」
「構わんよ」

キルヒアイスの言葉にハウプト中将は大らかに答えてくれた。
「では、副長はシェーンヴァルト少尉でお願いします」
「了解した」

その受け答えが終わると、キルヒアイスは人事部を退出して、ラインハルトの居る資料室へと走っていく。僕が艦長でラインハルト様が副長とは、ラインハルト様に何と言えばいいのだろうと考えながら。

ラインハルトが資料整理をしている部屋へキルヒアイスが駆け込んできた。
「ラインハルト様」
「キルヒアイスか、遅かったな」

「ラインハルト様、申し訳ありません」
いきなり謝り出すキルヒアイスを見てラインハルトは怪訝な顔をした。
「いきなり何だ?キルヒアイス」

「ラインハルト様に武勲のチャンスをお知らせできずに」
ラインハルトも一応は考えて、キルヒアイスに応対している。
「気にする事は無い、俺は俺自身の才覚で武勲を立てるのだから、拾った武勲で昇進する気は毛頭無い」

拾った武勲で昇進したキルヒアイスにしてみれば、十分な嫌みに聞こえる。
「ラインハルト様。ありがとうございます」
「所で式典で何を貰ったんだ?」

そう言われたキルヒアイスは非常に気まずい気分でラインハルトに伝えるのである。
「はい、男爵号と双頭鷲勲章を頂きました」
「キルヒアイス、凄いじゃないか、良かったな」

ラインハルトは、あっさりと祝福してくれる。
しかしキルヒアイスは未だ伝える事があるので、浮かない顔である。
「実はラインハルト様」

「どうした?」
「階級も三階級特進で大尉になってしまいました。申し訳ありません」
その言葉にイラッとした雰囲気になるラインハルト。

「そうか、それは目出度いなキルヒアイス」
こめかみに引きつりが見える状態で取りあえず、ラインハルトは賞める。
「ラインハルト様、本当に申し訳ありません」

「気にするな、キルヒアイス、俺が武勲を立ててお前より上に行けば良いだけの事だからな」
気のするなと言いながら、相当気にしているのが判る状態で有る。
キルヒアイスは、アンネローゼ様の話は絶対しない方が良いと感じていた。

「それで、新しい配属先なのですが」
「何処に決まった?まさか別々じゃないだろうな?」
「いえ、一緒ですが」

良かったと言う感じのラインハルトであるが、キルヒアイスにしてみれば、胃が痛い!
「新造駆逐艦の艦長に任じられました」
「凄いじゃないか。此で武勲を上げられるぞ」

喜ぶラインハルトだが。
「済みません、ラインハルト様、私が艦長で、ラインハルト様が副長なのです」
キルヒアイスは深々と謝り続ける。

ラインハルトは確かに中尉で艦長は無理だと考えたが、キルヒアイスの下に付くのかと少々考えたが、今回ぐらいは我慢しなければと理性では判るのだが、顔に不満が出てしまう。
「気にしないぞ、キルヒアイス、お前が大尉だからな、俺も副長で武勲を早く上げて昇進するさ」

「ありがとうございます。ラインハルト様」

翌日から、軍ドックに向かい訓練を開始するのであるが、艦長と副長の権力構造が逆であるために乗組員からは、『艦長は副長の下僕』という意識が全員の総意になった。

ある日の訓練での出来事。
「ラインハルト様、敵艦隊に対しての攻撃は如何致しますか?」
「キルヒアイス、敵艦隊の鼻面を掠めるぞ」
「判りました。ラインハルト様」

「どっちが艦長か判らないぜ」
「うちの艦長は平民出だから、生まれながらの貴族様には敵わないのかね」
「副長は貴族のボンボンで、グリューネワルト伯爵夫人の弟だからな」

「艦長はいい人なのに」
「副長は嫌な野郎だぜ」
「違いない」
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駆逐艦の名前はアラビア語の詐欺師という言葉です。

第4条をYVHさんのアイデアで改訂しました。
第5条をhama123さんのアイデアで改訂しました。
第6条をYVHさんのアイデアで追加しました。
 
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