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ダンジョンに闇の王子が迷い込むのは間違っているだろうか

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1章 兎との出会い
  冒険のはじまり


「……ううっ」


 微かに頭痛を感じ、うっすらと意識が戻る。
 俺は、一体……? 確か、あの時、アイリスが……ッ!!!


「アイリスッ!!」


 いつの間にか寝ていた布団から飛び起きる。
 意識がはっきりと分かるようになって、思考がまとまった時、俺は無意識に彼女の名前を叫んだ。


「あ、起きたんだね。おはよう」


 その時、後ろから幼い子の声が聞こえる。
 振り向いてみると、美しい黒髪をツインテールにした、美麗さと可愛らしさの間にいるような少女がいた。

 しかし、彼女には一部、大人よりも成長している部分があった。
 それは、少女の幼い顔には不釣り合な程に成長した胸。
 一瞬目についたが、失礼だとすぐに悟り、視線を外した。


「……何故ここに……?」

「道端に倒れていたからね、ボクがここまで運んであげたんだよ」

「そうなのか、ありがとう」

「いやいや、困った時はお互い様だしね!」


 彼女の優しい反応に、少し胸をなでおろす。
 しかし、そんなこともつかの間、俺はいくつかの疑問を覚えた。


「自己紹介忘れてた。ボクはヘスティア、名前は何て言うの?」


 彼女が顔を覗かせて聞いてくる。


「……グレン」


 拾ってくれた恩人に嘘はつけない、というか、嘘をつく必要が無い俺は、彼女の質問に正直に答える。


「へぇ、グレンか……いい名前だね!」

「そうか……」

「上の名前は?」

「……ない」

「……え?」


 俺の答えに、彼女は目を丸くする。


「俺に親はいない、代わりに村の人に育ててもらったから、俺に姓はないんだ」

「そ、そうなんだ……ごめん」


 俺の言葉を理解したのか、後悔しているように振り絞って誤ってきた。


「謝らなくていい、親の顔すら覚えていないんだ。君のせいじゃない」


 そう言って慰めるように頭を撫でる。


「そう、かい……ありがとう」


 俺の返しに安心したのか、こわばっていた顔が元に戻る。


「それでヘスティア、一番聞きたいことがあるんだ」

「うん、なんだい?」

「黒の王国、白の王国、世界の《均衡》、《大崩壊》……どれか聞いたことはあるか?」

「うーん、無いけど……?」

「そうか……」


 やはりおかしい、何かが、決定的に。
 黒の王国と白の王国は、世界の《均衡》を保つための中心。しかも戦争をしていた。

 第一、世界の《大崩壊》で、ほとんどの国は滅んだはず……なのに何も知らずに、こうものんびり過ごしているのは、はっきり言っておかしかった。


「じゃあ、ここはどこなんだ?」

「へっ? 逆に聞くけど、グレン君は知らないの?」

「……ああ」


 次はヘスティアが、俺に疑問を抱き始めた。


「ここは、世界で唯一ダンジョンを所持する巨大都市『オラリオ』だよ? 冒険者を目指してない人でも、知っておくべき常識の1つさ」

「……オラ、リオ……?」


 そんな都市の名前など、俺は一切聞いたことがない。
 俺はベッドから起き上がり、隣にかけられていた上着を着る。


「何してるの?」

「外に出る」

「……! まだダメだよ! 自分がどれだけ怪我してるのか、分かってるのかい!?」


 確かにそうかもしれないが、そんな状況など何度もあった。
 今ここで引き下がる気は無い。


「すぐに戻る、1つ確認したいこたがあるだけだ」

「……はぁ、分かったよ。ただし、ボクもついて行かせてもらうよ」

「……ありがとう」







「こ、これは……!」


 外に出て、しばらく歩き続けると、どうやら街の中心まで出たようだ。
 黒の王国では見られないほど活気にあふれ、人々が交差している。

 何よりも目を引くのは、街の中心にそびえ立つ巨大な『塔』。


「やはりここは──」


 これでやっと確信した。


「別世界だ──」


 自分たちのいる世界とは異なる時間軸を進む世界、それを俺がすぐに理解出来たのは、ある者の存在が関わっていた。

 《智の賢者》、彼が認識をすれば、別の世界だって作れるはずだ。もし、彼が本当に別の世界を創造していたとしても、何ら不思議ではなかった。


「別世界? 別世界って、どういうことだい?」


 隣をついてきたヘスティアが、俺のつぶやきに疑問を覚えた。


「ヘスティア、君は別の世界があると言ったら、信じるか?」

「うーん、ボクも見たことはないけど……あるんじゃないかな?」


 ヘスティアは曖昧だが、可能性があると考えているようだ。


「──なら俺が、その別の世界から来たと言ったら、信じるか?」

「……うん! 君は嘘を言ってないようだしね! 信じるよ!」


 軽い……いくら子供でも、こういったことは簡単に信じてしまうのだろうか?
 いまいち腑に落ちないな。

 まあ、信じてくれるだけ、好都合だと考えよう。
 後は──


「ヘスティア、この辺で簡単に出来る仕事はあるか?」


 生活だ。
 元いた世界に帰るまでは、ここの世界で過ごすことになる。
 ならば金が必要だ。

 ふと、隣のヘスティアを見ると、目をキラキラと輝かせ、こちらを見つめていた。


「じゃあ、冒険者なんかどうだい!?」


 鼻息を荒くしながら、俺に向かって問うてきた。
 冒険者か……元いた世界でも、王子になるまではやっていた。
 何かと都合がいいかもしれない。


「そうだな、それがいい」

「じゃあ、早速【ファミリア】に所属しなきゃね!」

「……? ファミリア?」


 また新しい単語が出てきた。


「ヘスティア、それって……!?」

「そうと決まったら早速【ファミリア】入団の儀式をやろう!」


 意味もわからないまま、凄い速さで手を引かれる。

 子供なのになんて力だ……!

 そんなことを思いながら、ヘスティアの思うがままに引きずり回されていった。







 戻ってきたのは、最初の廃教会。
 そのままベッドに押し倒され、服を引き剥がされそうになっていた。


「やめろ! これは一体どういうことだ!?」

「そっちこそ大人しくしてくれ! 儀式ができないじゃないか!」

「まずは1から説明をしろ!」


 強い語勢とともに、ヘスティアの頭を1発殴る。


「ぷぎゅっ!?」


 頭を殴られたヘスティアは、ゴロゴロと地面を転がって、壁にもたれかかる。

 全く、誰が最初に安静にしろって言ったんだ。
 これじゃ余計疲れ……


「ううっ……グレン君が僕のことぶったぁ……ベル君にもぶたれたことないのに」


 よほど痛かったのか、ヘスティアは頭を抑えて半泣きになっていた。


「……悪かった、謝るから泣かないでくれ。俺はただ、ファミリアのこととか、儀式のことを、落ち着いて聞きたかっただけなんだ。教えてくれるかい?」

「ううっ……」


 半泣きになった目を抑えながら、コクコクと首を縦に振る。

 そこから数十分ほど、【ファミリア】について、事細かな説明が始まった。







「なるほどな」

「じゃ、早速始めようか!」


 数十分後、【ファミリア】や、儀式についてのひと通りの説明が終わり、早速実践に移ることとなった。


「ここにうつ伏せになって〜」

「……こうか?」


 ヘスティアの指示通り、ベッドの上でうつ伏せになる。

【ファミリア】とその儀式。それは、団員の証であり、力の源。
 神の血『神血イコル』から編み出される『ステイタス』を駆使し、団員たちはダンジョンと呼ばれる地下で戦う。

 もちろんそうなれば、神がいるだけ党派は別れる。
 だから争いにならないように、互いが干渉することを避けている……か。

 しかし……まさか神がいるとはな。少し驚いた。
 それもまさかここの主神が、こいつとは……。
 首を少しだけずらし、ヘスティアの顔を見る。


「む……今失礼なことでも考えたんじゃないかい?」

「……悪かった」


 これ以上見ると、本格的に睨まれそうなので目をそらす。
 こいつだから、俺が別世界から来たと言っても、信じたのかもしれない。

 『ステイタス』には、俺にとって大きな利点があった。
 それは、さらに強くなれるということ。
 素質があれば、成長は未知数。
 これは、再び元の世界に戻った時にも役に立つ。

 俺が生きているんだ、アイリスも、もしかしたら……。
 そうなったら力は必要不可欠だ。
 2度と彼女を失わないためにも、俺は強くならなくちゃいけない。
 再び、約束を果たすことが、出来るといいな。


「……っ!!」


 突然、背中に乗っているヘスティアが、体を震わせる。


「……? どうした、ヘスティア?」

「……っ! あ、ああ、グレン君、少し見て欲しいんだ。今書き写すから──」


 そう言ってヘスティアは1枚の髪を俺の背に乗せ、円を描く。


「はい……」


 ヘスティアから、『ステイタス』の写された紙を受け取る。


グレン Lv.1


力:0I

耐久:0I

器用:0I

敏捷:0I

魔力:0I


《魔法》

【崩壊暗黒剣|《アサルト・ダークブレード》】

・敵に闇属性の防御無視ダメージを与える。
・体力自動回復(5分)
・ダークシールド(5分/耐久2000)

【 

【 】


《スキル》

【闇の王子|《シャドー・プリンス》】

・早熟する。
・闇の力を使う限り効果持続。
・闇の力を使うほど効果向上。

【真理への問い|《トゥルー・ジャッジメント》】

・パーティ全員の全ステイタス最大100アップ。


「すごいな……」

「凄いなんてもんじゃないよ! 異常だよ! 別世界の人ってみんなこうなの!?」


 ヘスティアが一人でワタワタと暴れ回っている。

 俺は自分の腕を見て感じる。
 やはり力が落ちている。
 『光』を浴びすぎたのか……?


「神様、かえって来ましたー! ただいまー!」


 そんなことを考えている時、少年の声が聞こえる。


「グレン君、服着てステイタス隠して!」

「わ、分かった……」


 そう俺に指示を出した後、ヘスティアは玄関の方へと走っていった。 
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