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雨の日も

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第一章

             雨の日も
 今里有紗は雨が嫌いだ、それでこの日は朝から不機嫌で学校でも窓の外を見て曇った顔でこんなことを言った。
「嫌な天気ね」
「仕方ないでしょ、それは」
「雨の日だってあるわよ」
 その彼女に友人達が言う。
「雨だって降らないと駄目だし」
「晴ればかりだったら旱魃になるでしょ」
「人間お水がないと駄目よ」
「雨も降らないとね」
「わかっていてもね」
 それでもとだ、有紗は曇った顔で言うばかりだった。
「髪の毛も収まり悪いしね」
「それに野球の試合もサッカーの試合もないっていうのね」
「阪神の試合もガンバ大阪の試合も」
「甲子園ドームじゃないしね」
「それでっていうのね」
「そうよ、だからね」
 それでとだ、有紗は不機嫌な顔のままで述べた。
「私は雨が嫌いなの、降るならせめて夜に降って欲しいわ」
「寝てるから髪型も気にしないで済むし」
「野球にもサッカーにも関係ない」
「しかも傘を差して登校しなくていい」
「下校の時もっていうのね」
「そうよ、濡れなくて済むし」
 実際有紗はこの日傘を差してそうして登校している、この時身体が濡れない様に気をつけてもいた。
「とにかく雨の日はね」
「嫌なことばかり」
「だから嫌いっていうのね」
「じめじめしてるし」
 こうも言う有紗だった。
「全く、どうにかならないかしら」
「どうにもならないわよ」
「お天気のことだからね」
「だからもう諦めたら?」
「言っても仕方ないでしょ」
「そうね、雨が降るのは仕方ないわね」
 自分で言って結局こう納得した有紗だった。
「我慢するしかないのね」
「そうよ、本当に」
「これこそ言っても仕方ないことじゃない」
「だからもう言わないでね」
「諦めていきましょう」
「そうするわ」
 嫌々ながらも頷いた有紗だった、そうして不機嫌な顔のままその日を過ごした。とにかく雨の日は不機嫌な彼女だった。
 しかしその彼女もだ、ある日のことだった。
 不意にだ、学校の帰りこの日は晴れだったがたまたま寄った商店街の傘屋において一本の傘を見付けた。それは鮮やかなえんじ色の傘だった。
 その傘を見てだ、有紗は店に入ってすぐに店員に言った。
「えんじ色の傘ですけれど」
「あの傘がどうかしたの?」
「はい、あの傘幾らですか?」
「千円です」
「税抜きで、ですよね」
「はい」 
 若い男の店員は有紗ににこりと笑って答えた。
「そうです」
「そうですか、じゃあ」
「どうされますか?」
「買います」
 こう店員に答えた。
「そうさせてもらいます」
「それでは」
 こうしてだった、有紗はそのえんじ色の傘を買った。そうして雨の日にその傘を差して登校すると。
 その途中に会った友人達は傘を見て彼女に口々に言った。
「奇麗な傘ね」
「お洒落ね」
「その傘何処で売ってたの?」
「随分奇麗だけれど」
「商店街の傘屋さんで買ったの」
 そこれでとだ、有紗は友人達に笑顔で話した。 
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