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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百九話 イゼルローンの朝駆け


サイオキシン麻薬密売撲滅作戦直前のイゼルローン要塞です。
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第百九話 イゼルローンの朝駆け

帝国暦482年10月19日

■イゼルローン要塞

ウォルフガング・ミッターマイヤー、オスカー・フォン・ロイエンタール、フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトの三名はこの日何故か休暇を与えられ、軽く飲んだ後それぞれの居場所へと帰っていった。

ミッターマイヤーは官舎へ、ロイエンタールは無論レテーナと共に自室へ、ビッテンフェルトは酒瓶持ったまま、自分のヤークト・ティーゲルへと。

官舎へ帰るミッターマイヤーを追う影が一つ、幾ら酔っているとはいえ、戦場で鍛えた感があるミッターマイヤーは素早く気づくと、人気のない公園へ誘い込みブラスターを手にしながら誰何する。
「何か用かな?」

すると、両手を上げた状態で糸目の若い女性が現れた。
「えーと、道に迷いまして、ロイエンタール少佐の官舎を探しているのですが」
照れくさそうに、話す女性。

ミッターマイヤーは先ほどまでの緊張感も無く呆気に取られる。何故なら先ほどまでこの女性から殺気が感じられたからである。
「貴方は、ロイエンタールの知り合いか?」

すると女性は真顔になって話し出した。
「オスカーったら、私との約束をすっぽかして、他の女と!!、それでお友達の貴方を偶然見かけたので付いてきたんですの」

彼奴、未だ懲りてないのかよ。
「お嬢さん、今日はもう遅いから、俺が奴を問い詰めてやるから勘弁してくれ」
「ミッターマイヤー様はお優しいのですね。オスカーから乗り換えようかしら」

「おいおい、俺には妻も子もいるのだからな」
女はそう言うミッターマイヤーにしな垂れて来て、耳元で囁く。
「ヴァネッサお嬢様よりの伝言です。今から憲兵隊が来ますので一緒に来て下さい」

ミッターマイヤーは驚いた、テレーゼ殿下からのメッセンジャーだったとは、しかしロイエンタールも弄られまくりだなと。そして小さく呟いた。
「判った」

すると憲兵がどこからともなくやって来て、ミッターマイヤーが酔っぱらって女性に絡んだとして、連行して行った。


酒瓶を持ち酔っぱらいながら、愛する我が艦へと帰るビッテンフェルトが人気のない公園へとさしかかると、がたい良い男がビッテンフェルトに肩を態とぶつけてきてイチャモンを付けてきた。
「おいおい、兄ちゃんぶつかっておいて、無視かよ」

「はっ?卿がぶつかってきたんだろうが」
「何だと、この馬鹿が」
「なんだと!」

言葉の殴り合いから実際の殴り合い寸前まで行くと、何故か突っかかって来た男がいきなり倒れて『痛い痛い』と叫びだした。するとどこからとも無く憲兵が来てビッテンフェルトを連行していこうとする。
「傷害の現行犯で連行する」

「はぁ?俺は悪くないぞ」
「良いから来なさい」
文句を言うがそんな事はお構いなしに、ガタイの凄く良い憲兵に押さえられて、ビッテンフェルトは憲兵隊護送車に乗せられ連れ去られていった。

十数分後に憲兵隊本部へと、招待されたミッターマイヤーが見たのは、応接室でふて腐れた顔で座っているビッテンフェルトだった。

「どうしたビッテンフェルト?」
「おう、ミッターマイヤーか、どうもこうもない、あの後帰るとき肩が当たったと口論になったら、憲兵隊が来て、此処へ連れて来られたまま放置だったんだ。全く忌々しいったらありゃしない」

「卿らしい、連行のされ方だな」
「そう言う卿は、何をしたんだ?」
不満顔も何のその、品行方正なミッターマイヤーが憲兵隊に連れて来られたことに興味津々のビッテンフェルトが聞いてくる。

ミッターマイヤーは一つ担いでやろうと思い嘘をつく。
「俺は婦女暴行の容疑者だな」
「なんと、やはり奥方と離ればなれは辛いのだな」

ビッテンフェルトらしからぬ言動に驚く。
「嘘だ、ビッテンフェルト」
「何だ嘘か」

「素っ気ないな」
「卿がそんな事をしないことは、俺が保証する。ロイエンタールは保証出来んがな」
そう言いながらビッテンヘルトはニヤリと笑う。

「違いない」
「ハハハ」
「ハハハ」

笑っている最中に扉が開き、先ほどの女性が士官服を着て現れた。
「ミッターマイヤー少佐、ビッテンフェルト少佐、ご足労いただきありがとうございます。小官は憲兵隊総監部第7課マリーシャ・フォン・グリンメルスハウゼン大尉です」

「グリンメルスハウゼンと言うと、憲兵隊総監グリンメルスハウゼン大将閣下の縁者の方ですか」
「はい、孫になります」
「なるほど、殿下は我々にどの様な御用でしょうか?」

「おい、ミッターマイヤー、殿下って誰だ?」
「ビッテンフェルトは知らんのだな、テレーゼ殿下のことだ」
「はっ?卿はテレーゼ殿下と知古なのか?」

「言ってなかったが、俺とエヴァの大恩人だ」
「なんと、驚きだ」
「えーと、宜しいでしょうか?」

「あっ申し訳ない」
「ご両人をお呼びしたのは、他でもありません、ミッターマイヤー夫人からのビデオレターを渡すためです」
身構えていたミッターマイヤーとビッテンフェルトが呆気に取られる。

「その為に、俺達を呼んだのか?」
ビッテンフェルトが大声を出すが、グリンメルスハウゼン大尉は冷静に一言。
「冗談ですよ」

「で、本当の御用は何なのですか?」
「ビデオメール自体は本当ですが、その後があります。極秘事項ですから他言無用に願います」
「殿下のご命令と有れば無論」
「良く判らんが俺は喋らん」

「明日早朝、帝国全土においてサイオキシン麻薬密売撲滅作戦が開始されます」
「なんと」
「ほう」

「この案件は憲兵隊が主体となり行います」
「しかし、我々にその様な事を話して良いのですか?」
「それなのですが、このイゼルローン要塞にも密売組織が存在しているのです」

「何と、軍内部にも」
「うむー」
「その代表者が、イゼルローン要塞兵站部次長帝国准将ブルーノ・フォン・ノームブルク子爵」

「あの締まり屋の兵站部次長か」
「ビッテンフェルト、何かされたのか?」
「彼奴は、俺の艦の諸経費が高いと何度となく補給を減らしやがったんだ」

「それは卿が、派手にミサイルを撃ちまくる為だとおもうが」
「昔から言うだろう。獅子は兎を倒すときも全力を尽くすと」
ビッテンフェルトは、航海主任のオイゲンからの受け売りを話しただけだった。

「一理はあるが、それで、兵站部も密売に参加していると言う訳か」
「そうです、調べた結果、イゼルローン回廊近隣の辺境星域の軍補給敞にてサイオキシン麻薬が作成され兵站部の補給部隊が帝国本土へ輸送、イゼルローン回廊近隣にはカイザーリング艦隊が販売を手がけているのです」

「なんだと、それでは完全に帝国軍自らが麻薬の密売人なのか!」
「由々しきことだな」
冷静なミッターマイヤーと声を荒げるビッテンフェルト、それを見ながら紅茶を飲むグリンメルスハウゼン大尉の姿が対照的であった。

「其処で、お二人には明日の襲撃に参加して頂きたいのです」
「何故我々が?」
「今回の件で軍は大混乱になるでしょう、その際にお二人には我々と同行して頂きたいのです」

「お話は判りますが、我々が何か役に立つのでしょうか?」
「自慢じゃないが、俺は捜査とか全く得意じゃないぞ」
ビッテンフェルトが得意げに胸を張る。

「いえ、捜査協力ではなく、その後の問題を手伝って頂きたいのです」
「その後とは?」
「ミッターマイヤー少佐は要塞司令官クライスト大将の参謀をしておられますね、その為に明日一番で司令官へ細評を説明する際に同行をお願いしたいのです」

「それは構わんが、手伝うことは他にはないのか?」
「それは後でレクチャーします」
「判った」

「俺はどうするんだ?」
「ビッテンフェルト少佐は、駐留艦隊指揮官ヴァルテンベルク大将への説明の際に一緒に居てくれればいいです」
「何も話さないでいいのか?」

「ええ、その辺は口のうまい上司が来ますので、単に巻き込まれた形でお願いします」
「まあ、いいが」
「その辺をレクチャーしますが、タンクベット睡眠で酒を抜いてから説明します」

そう言われて、仕方なくタンクベット睡眠をする二人であった。

翌20日午前三時に起こされた二人は、すっきりした頭で考えながら待っていると、グリンメルスハウゼン大尉がやって来て、『オーディンからの連絡が有るので一緒に見て下さい』と言われたのでモニターを眺めることにした。

モニターが映し出したのは、グリンメルスハウゼン大将閣下ではなく、テレーゼ殿下ご自身であったのは、ミッターマイヤーもビッテンフェルトも驚きを隠せなかった。

『マリーシャ、御苦労様。ウォルフ、ビッテンフェルト、久しぶりですね。元気にしていましたか?』
殿下のお言葉に、ミッターマイヤーとビッテンフェルトは慌てて頭を下げまくる。
「「「御意」」」

自然と言葉が出てくる。
『ウォルフ、一両日以来ですね。元気にしていましたか?』
「御意、この通り元気でございます」

『それは良かったわ。エヴァちゃん、フェリックス、エリーゼ共に元気ですよ。昨日逢ってきたからね』
「勿体ない、お言葉です」

『ビッテンフェルトは士官学校以来ですね。ヤークト・ティーゲルは快調ですか?』
態々一少佐の事まで気にかけて下さるとはとビッテンフェルトは益々感動していく。
 
「御意にございます」
『良い事です。ウォルフやビッテンフェルトには何れ、艦隊を率いて貰いたいのですよ』
その言葉に驚きを隠せない二人。

「艦隊をいただけるのですか?」
『うん。准将になってからだけど、取りあえず分艦隊からだけどね。ウォルフにはウォルフ・デア・シュトルムの渾名を付けた旗と袖章を作ってあるし、ビッテンフェルトにはシュワルツ・ランツェンレイターの渾名を付けた旗と袖章を作ってあるわ』

「艦隊名までいただけるとは」
「黒色槍騎兵か俺にピッタリです」
『でしょ、二人に合うのを考えたんだよ』

「しかし何故此処までして頂けるのですか?」
『ウォルフがお友達で、ビッテンフェルトが私のファンクラブ員だからではないわよ。貴方たちの能力と人柄を買ったのです。今の貴族出身提督に無い戦略戦術眼を買っているのです』

自分たちの事をよく知っていてくれる、殿下に忠誠を尽くそうと二人は思うので有る。
「「誠心誠意勤める所存でございます」」
『あー、其処まで力入れないで良いから。家族のために生き残るように、此が私の命令です』

「「殿下」」
『私の考えは、出来る限り死者を出したくありませんので、早朝襲撃頑張って下さいね』
「「御意」」

その言葉を最後にテレーゼとの連絡が終わり、ミッターマイヤーとビッテンフェルトも会議室へ移り作戦会議に参加しはじめた。
 
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