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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第63話『水泳』

結月の看病を行った翌朝のことだった。
目覚めると、なんと二人の美少女が晴登の横に並んで寝ていたのだ・・・って違う。寝ていたのは妹の智乃と異世界出身の結月だ。まさか寝込みに忍び込むとは予想していなかった。今後は要注意だろう。



「──ってことがあったんだけどさ」

「……それ、聞いてる分には羨ましがられると思うぞ」

「そうなの?」

「そうなの…って、大丈夫かお前」


晴登は、呆れる伸太郎の考えを汲み取れない。尤も、脳の作りが違う人の思考を読み取ろうだなんて、考えたくもないのだが。

時は放課後、場所は魔術室。いつものメンバーで、いつもの通りグダグダしている。伸太郎の体調も回復したようで、晴登は昨日の出来事について話していた訳だが・・・どうやらウケは良くない。

ちなみに、結月はクラスメイトに捕まっていて、教室で話し込んでいるらしい。変なことを口走らないか心配である。
もちろん、晴登だって捕まりかけた。が、何とか生き延びて今に至る。


「やめとけ暁、三浦はそういうことには疎い」

「そうっすけど、このままもマズくないっすか?」

「良いんだよ。ピュアな奴ら同士なら、見ていて面白い」

「そういうもんすか…?」


終夜が話に割り込んでくるが、言っていることがピンと来ない。ピュアかは置いといて、男女が一つ屋根の下で同棲する時点でマズいというのは、さすがに理解できるのだが・・・


「まぁ何にせよ、本人がこのザマならしばらくは何も無いだろうな」

「それは同感っす」


何か納得しているみたいだが、こっちは納得しない。さっきから一体何の話をしているのか。自分についてというのはわかるが──


「大変だよ、ハルトっ!!」ガラッ

「お、結月」


部室のドアが勢いよく開けられるものだから少し驚いたが、正体は結月だった。廊下を走って来たのか、かなり息が上がっている。


「大変って何が?」

「明日の授業って"水泳"なんでしょ?!」

「あーそうだったかな」


時間割を思い出すと、確かに明日の体育は水泳だった気がする。水泳と云えばこの時期の醍醐味。晴登の実力は言わずもがな"中の中"なのだが、まぁカナヅチでないだけマシである。
もうそんな時期なのかと、少し心が躍る訳だが、しかしそのどこが大変なのだろうか。



「ボク、水泳って知らない!!」


「「「そこから!?」」」


予想の斜め上を行く答えに、晴登だけでなく部員全員が反応してしまう。つまり異世界には、水泳という概念が無かったということだろうか。そういえば、川とかすらもあまり見なかったような。


「とすると、それは大変だな」

「でしょ!!」

「でも、授業だから泳げなくても教えてくれるって」

「違うの。泳ぐってことがわかんないの!!」

「あ、それは手に負えない」


まさかの"泳ぐ"という概念すらも無かったことに、頭を抱える晴登。これでは、いくら授業だろうとカバーできない。公共プールは少し遠いから平日で行ける訳じゃ無いし、これは手詰まりだ。


「……何とかならないかな」

「……そうなって欲しい」


今回ばかりはこれといった打開策が見当たらない。潔く、明日を迎えるしかないようだ。募った不安に、二人は大きくため息をつく。


「…じゃあ今日はこの辺で解散するか。お前らは水泳頑張れよ」

「あ、ありがとうございます」

「それとな三浦・・・」


解散を命じた終夜が晴登の元にやって来る。何かと思う晴登を他所に、耳元で小さな声で、


「水泳の授業は男女一緒だから、手取り足取り教えてやりなよ」コソッ

「な、いきなり何を…!?」

「それに気になるだろ? 結月ちゃんの水着姿とか」

「いや、その、別に──」

「まぁいい。じゃあな」


手を振って帰って行く終夜に、晴登は何も返せずに立ち尽くす。自分でも頬が紅くなっているのがわかった。


「何話してたの、ハルト?」

「え!? あぁ、その・・・特に何も……」


突如結月にそう訊かれた晴登は、慌てて応える。お陰で凄く怪しい返答だ。結月が訝しげに顔を覗いてくる。
晴登は目を逸らしながら、そそくさと昇降口へと向かう。結月も詮索を諦めたのか、トテトテと後ろをついてきた。


「水着…か…」ボソッ


口に出すと恥ずかしく聞こえる。終夜の言葉が中々頭から離れない、ピュアな晴登であった。







「よっし、水泳だ!」

「元気だなぁ」

「そりゃ、夏は水泳だからな!」

「まだ6月だけど」


時は進んで、翌日の体育。空は雲一つない快晴で、水泳するにはうってつけの日だ。蒼い空と燦々とした太陽、思わず夏と錯覚してしまいそうになるほど暑い。

そして、我々男子は教室で、女子はプール近くの更衣室で着替えていた。


「ほら、プールに行くぞ、晴登!」

「着替えるの早くね!?」


早くも水着姿になった大地。やる気満々ということが見て取れる。


「先行ってていいよ」

「そうか、わかった」スタスタ


大地がプールに向かうのに合わせて、他の男子も動く。どうやら、晴登以外は全員着替え終わっていたようだ。


「マジで…?」


皆のやる気に驚きつつ、晴登はそそくさと着替えた。





「うわぁ…!!」


プールに着いて開口一番、晴登は感嘆の声を漏らした。

眼前に広がるのは、小学校のとは大違いの広大なプール。正直、遊園地とかに在りそうなレベルだ。事前に水泳部である莉奈から話を聞いていたが、予想を遥かに上回っている。


「短水路も長水路も在るとか、とりあえず凄いな」

「何それ?」

「25mプールと50mプールのことだ」

「なるほど」


伸太郎の知識に納得しつつ、晴登は再びプールを見渡した。
先程説明し損ねたが、伸太郎の言う通り、プールは二種類存在している。小学校でお世話になった短水路のプールと、テレビで見たことがある長水路だ。どちらも10コース以上はある。


「しかも、深さは俺の身長とほぼ同等…か」

「足つったら溺死するぞ」

「凄いリアルなこと言わないでよ」


口々に感想を述べた二人は、クラスで集まっている所に向かう。どうやら、長水路は高学年のクラスが使用しており、一年生は短水路で授業をするようだ。


「あ、ハルト、おーい」

「……っ!!」


晴登は、クラスの女子と集まっている結月の姿を発見する。呑気にも、彼女はフリフリと手を振ってきた。しかし、いつもなら振り返すところだが、晴登はすぐに目を逸らしてしまう。理由は至極単純、結月の水着姿を直視できないからだ。

一瞬でわかる。結月の健康的な真っ白な肌に、スク水はよく似合って……似合い過ぎているのだ。他の女子よりも明らかに目立つ。


「「うぉぉぉぉ!!」」


結月だけに留まらず、スク水姿を晒している女子達にクラスの男子は大興奮。怒る者、恥ずかしがる者、女子達には様々な反応が見られた。
無論、申し訳なさから、晴登はずっと目を逸らし続けている。

そんな晴登の気を露知らず、彼女は話しかけて来たのだが。


「ねぇハルト、どうかな…?」

「あ、あぁ、よく似合ってるよ」

「…? 何でこっち見てくれないの?」

「え、そりゃ・・・」


「『そりゃ、結月が可愛すぎて直視できない』でしょ?」


「莉奈!?」


今しがた晴登の声真似で恥ずかしい発言をしたのは、莉奈だった。彼女はニヤニヤと晴登を嘲笑う。


「そんな…恥ずかしいよハルト…!」

「いや言ってないから!?」

「ダウト。ホントは思ってるでしょ? 私だって、結月ちゃんのスク水姿は可愛いと思うもん」

「う……」


否定ができず、つい言葉に詰まってしまう。その様子を見て、さらに莉奈は不敵に笑った。


「そりゃ晴登も男の子なんだし、仕方ないよねー。もしかして、私もそういう目で見てるの?」

「どういう目だよ!・・・って──」


そこで、またも晴登は言葉に詰まった。莉奈の水着姿を直視してしまったせいだ。

競泳水着なのだろうか。スク水とは一風違い、シンプルなデザインが表面に施されている。それを身に纏う莉奈は如何にも水泳部の姿であり、活発なイメージを連想させた。


「おやおやぁ、どうしました三浦君? もしかして見とれちゃってます? ちょっと、結月ちゃんに嫉妬されるじゃない」

「なっ…違うし!」

「そんなに赤くなって・・・説得力無いね」

「ぐ……」


…ダメだ。調子が狂う。このままでは、どんどん評価を下げられて、惨めな気分になってしまう。どうにか打開せねば・・・



「──皆さん集まりましたか? では、水泳の授業を始めるに当たって、まずは準備運動をしましょうか」

「「はい!」」


「む、惜しいタイミング……」

「じゃあハルト、また後でね」

「お、おう…」


助かった。山本の助け船とも呼べる一声に、晴登は感謝する。誇張無しで、九死に一生を得た気分だった。





適当に準備運動を終えた全員は、ようやくプールに入ることが許される。あくまで授業であるから、楽しむのは本来違うのだが、やっぱりプールは楽しい。


「それでは各自、アップを兼ねて、まずは一往復してきてください」

「「「はい!」」」


全員の返事が重なり、山本はうんうんと頷く。

しかし、どうしたものか。短水路の一往復というのは、もちろん50m。正直、それは晴登にとって頑張って泳ぐ距離であり、準備運動で行くには幾分ハードである。


「鳴守 大地、行っきまーすっ!!」ドボン

「飛び込んだ!?」


・・・と、考えていた矢先、大地が先陣を切ってプールに飛び込んで行く。そのフォームは洗練されたそれであり、彼の運動神経の良さを如実に示していた。

大地につられて、クラスの男子が少しずつプールに入り始める。不格好な飛び込みのせいで、水しぶきが飛び散った。


「飛び込みとかしたことないし・・・って、ん?」


飛び込み台の前で戸惑う晴登だったが、その時、隣のコースの一人の少年に目が留まった。


「水……」

「どうしたの、柊君?」

「うわ、三浦君!? いや、その、僕って水が苦手で…」

「あーなるほど…」


大きなケモ耳を垂らし、しょぼくれてるのはクラスメイトの柊 狐太郎。水に触っては、「ひっ」などと小さく叫び、フードを深く被る動作を繰り返している。


「見学すれば良かったのに」

「それだと、授業日数が足りなくなるかもしれないんだよ」

「でもフード被ってたら泳げないでしょ?」

「うぅ…やっぱり恥ずかしいから…」


そう言って、さらに彼はフードを深く被る。
ちなみに彼の着ている水着は、他の男子達みたいにスク水ではなく、海水浴で着るようなラッシュガードと呼ばれる水着なのだ。フード付きで、彼には持ってこいである。


「別に水は怖くないって。確かに深いけど・・・それでも大丈夫だよ」

「大丈夫な要素が感じられないんだけど…」

「俺が一緒に入るから。ね?」

「うーん…」


誘っても、まだ迷いを見せる狐太郎。彼にとって、この決断は大きいことなのだろう。
次なる言葉をかけようと、口を開いた瞬間──


「ハルトー、泳ぎ教えてー!」

「結月!? おい待て、プールサイドを走るな──」


向こうから駆けてくる結月に晴登が叫ぶも、時すでに遅し。濡れた地面に滑って、彼女はバランスを崩してしまった。

しかし、問題はここから。彼女はバランスを崩した訳だが、コケることは無かった。その代わり、晴登達の方へふらつきながら、それまでの勢いまま走って来る・・・もとい、突進してくる。この後の展開は、晴登にも狐太郎にも予想がついた。


「おっとっと!」ドン

「「あっ」」


軽い衝撃だったが、それでも晴登と狐太郎の身体はプールへと投げ出された。ドボン、と音を立てながら、二人の身体は水中へと沈む。
少し経って、二人とも顔を水面から出した。


「ごめんハルト、大丈夫!?」

「俺は大丈夫。けど、柊君が・・・ん?」


そこまで言って、晴登は目の前の光景に言葉を止めた。


「はぁはぁ…」バシャバシャ


「・・・犬かき…?」


眼前、急いでプールサイドへと戻ろうとする狐太郎。ただ、その時の彼の泳ぎというのが、なんと犬にも劣らない犬かきだったのだ。
余談だが、ここでようやく晴登は、狐太郎が決して泳げない訳では無いことを知る。


「大丈夫…っぽいね」

「なんか、悪いことしちゃったな…」

「"プールサイドは走らない"大事だから覚えとけよ」


水泳について何も知らない結月には、やはり一から教える他あるまい。こうして、晴登の水泳教室(仮)が始まった。







「それでは、手始めに50mのタイム測定を行います。この結果次第で、今後のコースを分けることにしますので、皆さん頑張って下さいね」



「…あーあ、水泳教室って言っても、5分もできなかったな」

「でも、クロールだっけ? 泳げるようになったよ」バシャバシャ

「毎度の如く、お前の上達の早さはどうなってるんだ」

「えへへ」


推測だが『異世界人は元のスペックが高い』というのが挙げられる。となると、教えていく全てのものを、きっと晴登より上手くこなすようになるだろう。そう思うと、結月の屈託ない笑顔が恐ろしく見えた。


「それじゃあ、男女に分かれて出席番号順に行きましょうか。こちらのコースは1番暁君から」

「うっ…!」


小さく唸った伸太郎を、晴登は見逃さなかった。
運動が苦手な彼にとって、人前で泳ぐことは実にハードルが高い。しかし、逃れることは不可能なので、彼は覚悟を決めなくてはならないのだ。


「それではお願いします」

「うっす……」


おぼつかない足取りでスタート台に立つ伸太郎。その脚は、若干震えていた。


「よーい・・・ドン!」

「っ!」ドボン


「……あれ?」


伸太郎が勢いよく飛び込むのを見て、晴登は異変を感じた……いや、異変と言うのは失礼か。ある事に気づく。


伸太郎の飛び込みは、異様なくらい綺麗だった。


「何だ今の飛び込み!?」
「一切ブレが無かったぞ!?」
「あれホントに暁か?!」


普段の運動苦手な伸太郎からは想像もできない飛び込み。それを目の当たりにしたクラスメイトは、ガヤガヤと騒ぎ始める。晴登もその一員だった。

伸太郎は水中を真っ直ぐに進み、5mを過ぎた辺りで浮かび上がってくる。皆の視線を浴びながら、伸太郎は腕を上げて一掻き・・・


「すげぇ、超フォーム綺麗じゃん!!」
「ホントだ、やばっ!!」
「ちょっとカッコよくね?!」


男子からは賛美の嵐。それほどに、伸太郎のフォームは洗練されたものだった。

しかし誰一人として、ある事実には触れない。


「えー25mで・・・32秒」

「「……」」


伸太郎は泳ぎこそ綺麗であったが、全くスピードは無かったのだ。
結局彼は、50mを1分以上掛けて泳いでいた。







「はぁっ…もう水泳なんて懲り懲りだ…」

「お疲れ。でもフォームは綺麗だったと思うけど?」

「そりゃ、昨日調べたからな」

「あっ……」


もしかしたら伸太郎には水泳の素質が有るのかと思いきや、そういう訳では無かったらしい。きっと彼も結月と同じように、"学ぶとすぐに身に付くタイプ"なのだろう。


「てことは、結月は天才になれるってことか…!?」

「何言ってんだお前」


伸太郎の冷静なツッコミが刺さる。しかし、勉強では敵無しの伸太郎と同じような性質であるならば、今しがたの晴登の言った可能性は否めない。まぁ実現してしまうのは嬉しい反面、自分が惨めになるから嫌なのだが。


「次は鳴守君」

「よっしゃあ!」

「頑張れよ、大地」

「お互い様だ」


晴登に対して、大地はグッと親指を立てる。その(たくま)しさは、少なからず劣等感を覚えるほど立派だった。


「よーい・・・ドン!」

「……!」ドボン


その時の様子を、晴登は鮮明に憶えている。無駄の無い、もはや専門ではないかというほどのフォームとスピード。その強烈さは、晴登の目を釘付けにした。

その勢いはターンした後も衰えることなく、そのまま彼は50mを泳ぎ切った。


「えっと・・・32秒」ピッ

「「速っ!?」」

「俺の25mと一緒だと…!?」


大地の速さに驚愕の色を露わにする男子一同。
無理もないだろう。大地は小学生の頃からも、最速を誇っていた。晴登も散々驚かされたのだ。

ただ、そんな大地と並ぶ人物が居た訳で・・・


「春風さん、32秒」

「「「えぇぇ!?」」」


今度は男子だけでなく、女子の驚きも重なる。
莉奈の運動神経は小学生の頃から男子に劣らない・・・どころか、むしろ優れていた。特に、水泳に至っては最速の大地と並んでいる。昔に習い事でやっていたようだが、素質が有ったのか、グングンと伸びたらしい。


「相変わらず速いな、莉奈」

「そっちこそ、いつも通り普通だね、晴登」

「俺まだ泳いでないから!?」


真顔で貶してくる辺りが莉奈らしい。全く喜ばしくは無いが。

そして、そうこうしている内に、いつの間にか晴登の出番が回ってきた。どうやら、隣のコースでは結月も泳ぐらしい。


「前回みたいに負けそうで怖いんだけど」

「さすがに有り得ないと思うよ」


勝負には拘ろうとしない結月を見て安堵する反面、なおさら負けられないと心に誓う晴登。ついに二人はスタート台に立つ。


「それでは同時に行きましょうか。よーい・・・ドン!」

「「……っ!」」ドボン



正直な話、飛び込んだのは初めてだ。飛距離は全くと言っていいほど無く、かつ不格好であったと自分で思う。
もちろん、そんな飛び込みをした時点で、晴登は最初から息が上がっていた。

息継ぎのついでに隣を見ると、結月は真横に位置していた。置いていかれたかと心配したが、やはりまだ初心者だ。スピードは晴登と大差ない。

「なおさら負けられない」と思ったところで、晴登はターンに入る。クイックターンという回るやつはできないので、手を壁についてタッチターンを行う。

必死に腕と脚を動かし、ゴールを目指す。大地・・・いや、伸太郎と比べても雑なフォームだろう。しかし、晴登はただがむしゃらに泳いだ。

ゴールまで残り10m。もう息継ぎするのも億劫になるくらい疲れてきた。だが泳ぎは止めない。

5mを示すラインがプールの底に見えた。もう少し、あと少しだ。晴登はラストスパートとして、死にものぐるいで腕と脚を動かした。

そしてついに・・・



「……っ、はぁっ!!」バン


音が出るほどの勢いで、壁をタッチした。隣を見ると──結月も着いている。どちらが先かはわからない。

二人は静かに山本の結果発表を待った。


「晴登君は41秒、結月さんは36秒ですね」


・・・晴登は、完全に敗北した。






場面は変わって晴登の部屋。下校中の晴登の暗い様子を見て、結月が晴登を励ましに来たのが事の次第だ。


「ねぇハルト、ごめんね」

「いや、結月のせいじゃないよ。それより、凄いじゃないか。初心者なのに40秒切るなんて」

「うん……」


褒めてみるも、いつものように結月は喜ばない。晴登が心の中で落ち込んでいることがわかるから、素直に喜べないのだろう。

結月は考え込む様子を見せて・・・そして口を開いた。


「──でも、それってハルトのお陰だよ」

「俺の…?」

「うん。ハルトが教えてくれたから、ボクは泳げるようになった訳だし。今回ボクが勝ったのは・・・たぶん偶然。次からはハルトが勝つと思うよ」

「……」


結月の本心からの言葉は、晴登の心を温かく包んでいく。何と返せば良いのか、わからなかった。


「ボクはいつも、ハルトのお陰で頑張ることができてるの。テストの時も水泳の時も、ハルトが教えてくれたから結果を残すことができたの」


結月は押し黙る晴登に近づき、そっと抱きつく。


「ボクはハルトにいつも助けられてる。そして、そんな優しいハルトが、ボクは大好きなの。だから、元気出して?」





「……そう言われて、元気出ない奴とか居るのかよ」

「ハルト?──うわっ!?」


晴登もまた、静かに結月を抱き締める。結月のほんのりとした温かさが、晴登の心を満たしていった。


「ありがとう結月。元気出た」


いつも助けられてばかりだと思っていたが、違った。結月もまた、晴登に助けられていると言ってくれた。二人で支え合えていたということである。晴登はそのことがとてつもなく嬉しかった。


「これからも、俺は結月のことを頼ると思う。だから、その…結月も、俺のこと、頼って…くれて、良い……」


言いながら、晴登は恥ずかしくなる。つい、マンガに有りそうなセリフになってしまった。頬を赤らめながら、晴登は結月の様子を窺う──


「ほえぇ……///」

「え、結月!? どうしたの?!」

「ハルトがカッコ良すぎて、目眩が・・・」

「大丈夫か、しっかりしろ!!」


この時、結月がまた熱を出しかけたのは、また別の話。
 
 

 
後書き
何か無理やり感のあるラストですが、気にしないでください。書きたい衝動のまま書いただけですので(←バカ)

さて、一ヶ月ぶりの更新で、謝りたいこととか多く有りますけど、今後もこのスタイルは変わらないと思います。ご容赦下さい。

次回はストーリーの繋ぎの話をしたいと思います。夏に入って一発目のストーリー、乞うご期待下さい。では!


*追伸
もう現実は秋ですよ(´・ω・`) 
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