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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
  第48話 大将の行方

北斗杯大盤解説会場 side-Kumiko

「久美子、ヒカルの形勢どうなってかわかる?」 あかりから声をかけられた。

 モニターを見るだけでは私には形勢が判断できない。いろはちゃんに目を向ける。

「ボロボロ。残念だけど終わってる碁」「え?」 あかりの顔色が変わる。

「左辺の黒地につけた手が問題。黒の形が崩れた」 いろはちゃんが残酷な見解を語る。

 ちょうど大盤解説者も進藤君の対局を見て、いろはちゃんと同様の意見を述べた。

「正直、形勢は絶望的です」「……ヒカルっ」 あかりからは動揺の声が漏れる。

「ちっ、せっかく他の二人がイイ勝負してんのに!」

「情けねェ! 進藤のバカヤローが!」「何で初段のヤツが日本代表になってんだよ?」

「えーまじ初段!?」「初段が許されるの新入段までだよねー」

 そんなに大きな声じゃないけど進藤君のことを知りもせず心ない罵声を吐く無責任な観客の人達もいる。

「あかり、大丈夫?」「ごめんね、久美子、私帰るよ」「え?」

「私が今日来たことはヒカルには黙ってて」「――逃げちゃダメ」

 立ち去ろうとしたあかりの手をいろはちゃんがギュッと握って足止めする。

「まだ終わってないよ。きっと進藤初段もあきらめてなんかいない」

「そうだよ、あかり! せっかく応援に来たのに、ここで帰っちゃダメだよ」

 進藤君は勝つか負けるかの世界で生きてるんだ。

 今、目をそらしたら……あかりは進藤君のいる世界に手が伸ばせなくなるよ。

 いろはちゃんがどうして呼び止めたのか分からないけど、私も必死になって止める。

「だって序盤に崩れてからの追い上げはあつぽんが合宿で課題として挙げてたもん」

「そうなの?」「そう。だから想定内」「じゃあ、ここから大逆転?」「……さあ?」「え?」

「だって今打ってるのは進藤初段だもん」

「この碁を投了するのも立て直すのも進藤初段にしかできないよ」

「けど最後まで見守ってくれる人がいる方が……わたしは嬉しいよ?」

 そう言って、いろはちゃんが握っていたあかりの手を放す。

 あかりはハッとした表情で進藤君の手が映るモニターを見つめて静かな決意を秘めて席に座り直した。

「ほら? 面白いことが始まった……よ?」

 モニターを見ると進藤君の黒石が隅の白石にツケられた。

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北斗杯関係者控室

 関係者控室には対局室の盤面を移した3台のモニターの他に大きなテレビが1台置かれ大盤解説の様子も映している。

 アキラくんTUEEEよ!大差の中押勝ちじゃん!!

 原作でも勝ってたけど大差じゃなかったはず。もう細かいところは覚えてない。

 そして奈瀬も趙石に危なげなく勝利。院生時代の中国武者修行の恩返しを果たした。

 まずは日本チームの1勝が確定。僕の知る原作という物語は遠い昔に活動を停止し……歴史が変わったのだ。

 残るは進藤ヒカル。今は2手ヨセコウを制したところだ。

 ガラにもなくモニターを食い入るように見つめる。
 やっぱり生観戦は音楽やスポーツのライブと同じでテレビ観戦とは違う。

 進藤ヒカルが碁盤に手を伸ばす。必死に。必死に――手を伸ばす。

 挽回できるのか?

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対局場 side-Asumi

 趙石が投了して対局が終わる。少しだけ天井のカメラを見つめる。ちゃんと見守ってくれたかな?

 そうだ!進藤と塔矢君は?

 周囲を見ると大将の塔矢君が席を離れ進藤の対局を後ろで見守っている。
 対局を終えた陸力五段の表情から察するに塔矢君は勝ったようだ。
 とりあえず二勝でチームの勝利は確保。私も進藤の対局を見ようと席を離れる。

 状況は細かいヨセの勝負。進藤が追い上げてるけど……たぶん半目の争いになる。

 隅をツガずに、キリに回った?

 そうか!黒は抜くしかなく、白は利かしてオサエてる。

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同日夕刻 日本代表チーム宿泊室 side-Asumi

 午後から行われた韓国と中国の戦いは韓国チームがストレート勝ちを収め
 明日の試合で私たちと優勝をかけて戦うこととなった。

「……倉田さん、夕食の前に呼び出して何かありました?」

 倉田さんが腕を組んで真面目な表情で珍しく考えこんでいる。

「なあ、塔矢?」「はい」「大将だけど進藤に変えてもいいか?」

「!?」「「えっ!?」」 進藤が大将?ムチャでしょ?

「あの、倉田さん? 急にどうしたんです?」 固まる二人に代わり私が問いかける。

「合宿前の進藤じゃ、今日の対局のあの猛追はなかったはずだ――」

「そして合宿の後でオレが挙げた課題を進藤は見事にクリアしてみせた」

「最後のヨセの際にオマエが打ったキリに、逆転の一手に気付けたのは……検討室では高永夏だけだ」

「今日の進藤は、昨日の進藤に勝った。そして明日の進藤はもっと強い。――そうだろ?」

「倉田さん?」「オレ、大将やっていいの?」「まだ決定じゃない」

「塔矢はどう思う? オマエは賭け碁のご褒美だって残ってるしな。
 オマエが大将というなら、流石のオレもワガママは止めるさ」

「なら一ついいですか? どうして、そこまで進藤を?」

「道楽だ」 「「道楽!?」」

「ふつうに楽しいんだよ。一日一日と……成長がはっきり見てとれるからワクワクしちゃうんだよね。
 師匠が天才のオレを育ててたときも同じような楽しみを抱いてたんじゃないかってな」

「それって進藤の成長の為にチームを使うってことですか?」

「ハッキリ言えばそうだ」 「「!!」」

「進藤には高永夏との一戦が必要なんだ」「……必要ですか?」

「人生には成長をうながす勝負ってのは必ずあるだろ?
 正直なところ今の進藤は塔矢に二歩、奈瀬に一歩くらい遅れてるところがある」

「明日、高永夏に食らいついて勝ってみせろ。そうじゃないと10代のうちに二人に追いつけなくなるぞ」

「それにチームの勝利条件にしても、副将が塔矢で三将が奈瀬なら韓国相手でも二勝は取れる。
 ぶっちゃけ大将の進藤が勝とうが負けようが日本チームは優勝できる」

「つまり進藤も成長できて一石二鳥だと?」「おうよ!」

「いやいやいや。倉田さん、開き直らないで下さいよ! まるで捨て石作戦じゃないですか」

「オレはストレート勝ち狙ってるよ?」「本気で言ってるんですか!?」

「進藤の前半のマイナスは舞台に不慣れなための緊張だろ? 明日は問題ないよな?」

 進藤の横顔を見つめる。中国の陸力を一蹴した高永夏の強さは分かってるはずだ。迂闊な返事はできない。

「……わかりました。進藤の大将を認めましょう」「塔矢?」「塔矢君!?」

 進藤が答えを発する前に塔矢君が口を開き進藤の大将を了承する。

「ただし一つだけ要望があります」「おう! ワガママは一つだけ聞くって約束だからな」

「優勝した場合の和-Ai-と公開対局を行う権利をボクに下さい」「「!?」」

「ん? オマエなら二連勝でMVPだってあるだろ?」「はい。もちろん明日も勝つつもりです」

「だけど、どうしてもボクは和-Ai-が去る前に戦いたい。そして今のボクの碁を見せたい相手がいます」

「フーン。なら保険ってことか? いいよ。どちらにしろ日本のエースは間違いなくオマエだ」

「……進藤」「塔矢?」「キミの成長はボクも望むところだ」「塔矢!」

「進藤、キミが何を背負っているか知らないが、ボクの代わりに大将として出るんだ――」

「無様な結果は許さない」「そうよ進藤!」「期待してるからな!」

「よし! じゃあ夕メシ食べに行くぞ!!」 
 

 
後書き
いよいよ北斗杯編もクライマックスです! 
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