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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
  第33話 北斗杯選手選抜戦

H14年4月初旬 日本棋院 side-zelda

 Aブロック 

 進藤初段(15) vs 柴田二段(18)-中部総本部
 奈瀬二段(17) vs 社 初段(15)-関西棋院

 Bブロック

 和谷初段(16) vs 秋山初段(17)-関西棋院
 越智二段(14) vs 津坂三段(18)-中部総本部

 今日行われる北斗杯選手権の組み合わせ表を進藤が眺めている。
 1回戦では東京の4人はバラバラに振り分けられている。
 総当たりはやってられないから午前から1回戦、勝った4人が3時から2回戦。
 Aブロック、Bブロックから各1名。それで代表選手2名が決定する。

「ま、オレとおまえはあたらないんだ。昼休みは気兼ねなく一緒にメシが食えるぜ」

「おはよー、二人とも相変わらず仲が良いわね」「あ、奈瀬」「おはよ」

「これで進藤とはようやくプロ初対局ね」「ハハ、気が早いって」

 オレは進藤や奈瀬の二人とあたらない。正直な気持ちを吐けば――ありがたい。

 進藤はオレを追い越し院生1年でプロになった。プロ試験での差は紙一重だったと思ってる。
 手合いをサボってた時期もあったけど復帰してからは好調で今では七段以上が打つ木曜の手合いにも頻繁に顔を出している。森下師匠にも敗れたとはいえ本因坊戦二次予選で戦っている。
 勝負の場で先生と戦った進藤が羨ましかったし、冴木さんから結果を聞いたときはホッとした。やっぱり師匠への恩返しは自分が先にしたいという思いがある。
 いつも近くにいるせいで、いやおうなしに力の差を感じさせられている。

 奈瀬は院生1組で上位陣に勝てず燻ってた時期もあったけど2年前のプロ試験の年から加速度的に伸びた。そしてプロになってから化けた。新初段シリーズ、若獅子戦、天元戦の快進撃、女流棋聖戦に、竜星戦……。
 マジでこだわってた天元位を逃した後は見るからに落ち込んで連敗が続いたけど完全復活してる。

 オレのアパートの研究会で二人のヨミの深さや柔軟な発想についてけないことがある。

 森下師匠にも「他人をスゲェと思うのもたいがいにしとけよ」って言われたな。

 悔しい気持ちも、見返してやりたいっていう反骨心もあるけど……。

 水曜日の低段の手合いで戦っていると一年という差を感じてしまう。

「越智、おはよー」「おはよ」「まだ6人しかいないね?」

「関西棋院の2人がまだ」「お休みだとボクは不戦勝でラクなんだけどな」「ハハ」

 越智は東京予選は香川いろは新初段を相手に最後の細かい勝負までもつれたギリギリの戦いだった。稲垣三段に快勝したオレなら越智と戦っても十二分に勝機がある。本田さんの言ってた関西の社ってヤツも別ブロックだ。くじ運はある。

 このチャンスを掴んで代表になる。そして進藤や奈瀬に並びたい。

 イカンイカン。バカかオレは。まずは一回戦だ。一回戦!

 進藤と奈瀬の強気がヘンに感染しちまったぜ。

●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇

 近くのバーガーショップで進藤を誘って昼メシを食べる。
 秋山初段を相手に快勝し、余った時間で越智の対局を観ることもできた。

「和谷の相手は越智?」「ああ 越智は強いけど院生のときは相性は悪くなかったんだぜ」

「オレは新入段の初段だけど手合いではまだ低段相手に負けはない……。勝ちたいぜ!」

「まァ、少ない人数でやってんだから仲間同士でも、どこかでぶつかるよな」

「進藤の相手はやっぱり奈瀬が来たな」

「……和谷はsaiって覚えてるか?」「覚えてるけど……どうしたんだいきなり?」

「和-Ai-の碁を学ぶヤツは大勢いる。けど誰も佐為-sai-の碁を学ぼうとはしない」「ん?」

「本田さんが並べてくれた関西の社の一局。初手天元はAiの影響なんだろ?」「らしいな」

 奈瀬と社の対局は少し覗いたが一回戦屈指の戦いだった。
 社の初手5の五に対して、奈瀬が二手目天元で応戦した壮大な空中戦。

 オレに敗れた秋山初段、早めの決着がついた進藤と柴田二段。
 立会人の渡辺八段まで食い入るように対局を見つめていた。
 終盤には越智と津坂三段も加わったが……乱戦の力碁を制したのは奈瀬だった。

「緒方先生や一柳先生、関西の石橋先生、大勢の棋士が和-Ai-に注目してる」「そうだな」

「saiはAiに敗けて消えてしまったけど…オレはsaiのことを忘れてない」「……」

「saiの碁がみんなの記憶から消えてしまっても、オレだけは絶対に忘れない」「……」

「和谷はいつかsaiのことを秀策の碁みたいだって言ってたよな?」

「ああ、現代に蘇った本因坊秀策。今は道策の方がメジャーだけどな」

「オレは秀策の方が好きだぜ」「オレもAiよりsaiの碁の方が綺麗だと思ったぜ」「そっか!」

「奈瀬はオレにプロ試験のリベンジがしたいって言ってたけど、オレだって奈瀬に勝ちたい!」

「奈瀬がAiの碁に憧れるように、オレだってsaiの碁に憧れてるんだ。他の誰よりもずっと―ー」

「楽しみだけど、それより勝ちたい、いや……負けたくないって気持ちが強い」

 ツイてる。社との戦いを見てオレにはアノ奈瀬を相手に勝てるビジョンが浮かばなかった。

 二人で潰し合いでも何でもしてくれ。運も実力の内だ。 
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