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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
  第31話 一柳棋聖 vs 奈瀬明日美

side-ichiryu

 ここんとこ新人がだらしないって言われてたけど、塔矢さんとこの息子さんがプロになってからポツポツと将来はタイトル争いに加わり活躍するだろうって思わせる若いのが出てくるようになったね。

 白石を持つのが奈瀬女流。この布石を研究して戦いに臨んだのが分かる。

 研究会の人間なら100%この手で打つ。どうも他には良い手が無いことらしいね。

 白は3線でしっかり受けて左辺の打ち込みを待つ。

 2線をハウのは良くない。特に序盤では損だと、ボクらは昔から習ってきた。

 ところが和-Ai-は平気で2線ハイを打つ。
 何局かの似たような序盤の棋譜を集めて研究し、ひっくり返された碁の常識の中でも大きな要素の一つ。
 本当にハイが損ではないか、周囲の状況に特徴があるのか、殆んどの棋士はまだ判断できていない。

 最初はどこの馬の骨や牛の骨やらって思ってたのが懐かしいね。

 これから凄い勢いで碁の打ち方は変わって行くだろう。

 自分のスタイルを保ちながら、新しいものを柔軟に受け入れられる姿勢が必要となるだろう。

 なるほどねー。この白のトビが欠かせない急所なのかい。
 いい判断。しかも和-Ai-の手が見えてるのか早い。下から学び吸収する。

 研究会を主催する若手女流棋士。その秘めた可能性に真っ直ぐな期待を抱く。
 和-Ai-の碁に憧れて強くなったって公言するだけあって固定観念にはとらわれてない。

 天元戦で敗れた後は明らかに気落ちしてたから心配してたんだけどね――。

●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇

side-Asumi

 黒石が左上の星に置かれて白石を挟む。
 和-Ai-も毎回ここに打つから、必然のある一手なのだろう。

 ここまで白は悪くないと私は判断してる。そうでなければ前例を外すはずだから。
 この手で右辺に打ち、黒がここに下がったのが前例。ここを厚く受けるのが用意してた対応だ。

 黒石の一柳棋聖が右辺に仕掛けてくる。
 この手順はかなり研究が進んでいて、もちろん私も詳しく知っている。

 黒のこの手は見たことが無い。あっさりかたちを決める。

 右辺の2線を平気で這うってことは……。全てはこれを避ける為の研究だったのに。
 これでは黒がダメだ。っていうのが感覚が常識的な碁打ちとして根強く残ってる。
 2線の右辺の黒石と3線の下辺白を比べても黒の効率が悪く見えちゃう。

 黒が白の壁を狙いながら上辺を盛り上げる。

 分かってたけど、やっぱり強い!

 碁打ちとして誰にも負けたくないと思う一方で、私なんか遠く及ばないって思えるような力や存在に憧れる気持ちもある。あのときは迷ってた。今も迷ってることはある。けど――。

 未来は今の延長だ。だからこそ、今を大切に、悔いのないように。

 手が見えた。コウを見せて、黒の利きを先手で無くそうとする。もちろん黒は受けない。

 この右下の連打はかなり有効で、白が有利に進んでいるように思える。
 けど一柳棋聖はフリカワリの損得判断が非常に明るい。油断なんてできない。
 これで黒はやれると見ているのだ。対局の空気が変わる。一柳棋聖も本気だ。

 これで隅は黒の左右どちらかが取れるかたち。
 黒が隅を捨て石に、右辺の白を狙ってくる。

 これで白が取れているの? 味が悪くて怖い打ち方だ。

 見た目は悪いのに手が出せない驚きだった。一旦引くしかない。
 黒が右上の死を見せながら右辺を味よく取った。けど白だって狙ってた左辺のオキがある。

 左辺の黒は眼を作ろうとせず白を破りにくる。けどこれで隅の手段はなくなった。

 この手を受けると、もう白のコウ立てが無い。右下からの力技で右辺を取られた。

 また大きなフリカワリになった。こうなると味が悪いって思った手が効果的だ。
 お互いに50目レベルのやり取りで、損得の判断にはプロでさえ時間がかかる。

 けど逆ヨセで大きい。

 えっ!ノータイムで!?やっぱり黒の方が大きいの?? 

 白も勝負手を放つ。けど、手を……離せない。呑まれちゃダメっ!

 黒の手を厚く受ける。白はコウを残しキリを狙う。
 キリが生じたが、一柳棋聖は損をしないことを見こしている?
 白は20目近く増やしてるけど、そっちの辺を先手で打てた方が大きいの?

 タイトル保持者が持つ強烈なプレッシャー。
 けど、私だって今や女流棋聖なんだ!
 女流を代表する棋士の一人だ。相手が誰であれ簡単に負けるわけにはいかない。

 黒は白が残したコウを先手で利かすため準備をする。
 もう白は勝負するしか手が無い。

 形勢が良いときに、こういったフリカワリは普通は避けたいはずなのに――。

 一柳棋聖はミスを恐れない。和-Ai-の碁を意識してるのが分かる。
 黒中央の減り具合も、かなり大きく見える。
 けど活きていた石がコウになったのが白のマイナス。
 黒はコウ立てがたっぷりある。コウ立ての為に2目損の手を打つ。

 比較的小さく抑えたけど随分と黒には余裕がある。

 必死に抵抗したけど盤面は15目ほど黒地が多い。ここで投了する。

「――ありません。ありがとうございました」

 一柳棋聖は大きなフリカワリになっても損をすることがなかった。
 むしろ正確に得な道を選んでいる様に思えた。本当にすごい判断能力だと思う。

 その盤面の全体を判断する視野の広さに経験の差を感じた。

 積み重ねて来たプロ棋士の経験と、和-Ai-から学んだ新たな経験をつなぎ合わせることで、今までにない強さを生み出している。

 一柳棋聖が和-Ai-と出会い、悩み、苦しみながも道を切り開いて辿り着いた新境地。

 恩返しはできなかった。また多くのことを教えて貰った。

 足りないものだって沢山あるけど、喰らいついて進むしかない。

 対局の後に一柳棋聖に言われた。上で待ってるからと――。

 負けたからって、下を向いてたらダメだと言われた。

 また目指そう。 そして行こう。“高み”へ

 私も走ろう。ファイト! 
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