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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
  第30話 棋聖と女流棋聖

H14年2月某日

 東京枠4名を決める北斗杯の東京予選は奈瀬、進藤、和谷、越智が突破。
 中部・関西の4人と合わせた計8人で北斗杯代表メンバーの2枠を争う最終予選は4月初旬に行われる。

 エキシビションマッチは各国の代表メンバーの発表と合わせて行われることになっている。
 海外では韓国で最も格式のあるタイトル国手(国で一番の打ち手)の挑戦者となった高夏永が内定しているそうだ。

 高永夏は漫画では随分と大人びた印象があったけどアキラやヒカルの一つ上なのか……。
 ってことは和谷と同い年か。

 漫画だと塔矢行洋が塔矢アキラと対等の力を持ってる棋士とか言ってた記憶があるけど、原作だと本因坊リーグ落ちしたアキラくんとタイトル挑戦者では差がある気がするんだけど……やっぱり親バカなのか?

 どうもトッププロの棋力の差ってのが分からん。調べたら高永夏って他の国際棋戦の出場経験も既にあるし。あと僕の(未来)世界では中国が随分と強かったから、何だかジェネレーションギャップ(なのか?)を感じてしまう。
 
 将来的に楽平とかが国際棋戦で大活躍するのかな?そしたら和谷はそっくりさん扱いになるか……不憫だ。

 妄想に浸りながら文豪が愛した大きな豆大福(めちゃくちゃ美味い)を手に取り囲碁界のニュースを眺める。

 新春の棋聖戦七番勝負は久しぶりに関西にタイトルをもたらし勢いに乗る石橋天元を相手に一柳棋聖が見事な打ち回しで四連勝を飾り防衛に成功。何と棋聖戦4連覇で来年は名誉棋聖の称号が懸かる。

 防衛後に一柳棋聖は再び和-Ai-との公開対局の許可を日本棋院に直談判。
 流石に名誉棋聖が懸かる棋士に引退カードをちらつかされては折れるしかなく……あくまで表向きは指導対局というかたちで桐嶋堂が主催するイベントでの公開対局が決まった。

 たしか棋聖位って序列1位で賞金が七大タイトルで最高額だったよな。もう十分に稼いでるから引退発言ができちゃうのだろうか?
 先日も緒方先生が自分よりも桑原本因坊の方が稼いでるって言ってたもんな。三大タイトルは別格か。つうか塔矢先生も名人のままで急な引退とか健康上の理由もあったけど批判がなかったのかな?

 何か気になるわ。碁ちゃんねるにアクセスして調べようっと――。

 碁チャンネルでは引退した塔矢行洋の参戦が決まり日本からの注目も集まる中国リーグが話題になっていた。オフシーズン中に中国No2の華松力が楊海が所属する雲南チームに移籍することが発表されニュースになっている。
 
 表向きは若手の実力派たちから新しい刺激を受けたいと移籍の理由が記事にはあるが…実際は和-Ai-との対局が目的だ。

 実は雲南チームとは楊海を通じて契約を結んでいる。

 中国棋院への根回しなど中国での和-Ai-の活動をサポートするなど便宜を図る代わりに、ネット碁で構わないから自分たちのチームを鍛えて欲しいと頼まれた。というわけで今の和-Ai-はKGSで雲南チーム所属の選手と優先的に対局するようにしている。
 お陰で優先的に和-Ai-と対局できる聞いて雲南チームには中韓の若手実力派が集まるようになったらしい。

 最初にメールを貰ったときは楊海って頭回るなぁって思ったよ。ホントに面白いことを考えるもんだ。その後に韓国での炎上事件とか対局禁止令とか予期せぬことが続いたので渡りに船の提案で助かった。

 奈瀬とも少しだけ色々あったけど春休みに昨年できたばかりの千葉にあるTOKYO-夢の国の海-に行く約束をした。春休みが終われば大学四年生だが就職活動をしなくて良いから時間的な余裕だって充分にある。

 とりあえず5月開催の北斗杯に向けて物語は順風満帆と言えるだろう。

「それにしても奇しくも同日か……」

 本因坊リーグでは、緒方精次十段・碁聖 vs 塔矢アキラ三段が、本因坊戦二次予選で森下茂雄九段 vs 進藤ヒカル初段が……それぞれ教わって来た相手と戦っている。

 この二つは漫画で行われた対局だ。今や原作とは違った世界で結果がどうなるかは分からないけど。

 そして残る一つが――。

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竜星戦本戦ブロック side-Asumi

 場所は市ヶ谷にある竜星スタジオ。私は此処の常連。
 女流棋聖の挑戦手合三番勝負もホテルで行われた初戦以外は竜星スタジオで行われた。

 竜星戦は囲碁将棋チャンネルが主催するテレビ棋戦。
 情けない話だけど天元戦で負けてから私の中の好調の糸が切れてしまっていた。

 けど彼の目に対局の姿が映るであろうテレビ棋戦でみっともない戦いはできない。
 最後に残った女の意地(プライド)に縋りつくようにして勝ち進んで来た。

「大変な一局ですね……」「どうしたの?」

「いえ、和-Ai-の碁と自分の碁を比べられるかなって思っちゃうと」

 相手は一柳棋聖。私の主催する桐嶋研で一緒に和-Ai-の棋譜を研究している。

「いやぁー、そりゃあ比べるってーのは失礼かと思うんだけどさァ」

「はいはい。熱望してた和-Ai-との公開対局が決まりましたもんね。分かってますよ」

 お互いに気安く会話を交わす。いっとくけど私は年上に気を遣う方よ。

 一柳棋聖とは新初段シリーズまで面識がなかったんだけど、今では一番と言って良いくらいにお世話になっているプロ棋士だろう。

 お喋りが大好きで抑揚の利いた軽快な言い回し巻き込まれてしまって、最初は堅い口調で返事を返してたけど、乗せられて気安い間柄になってしまった。

 研究会はあくまで和-Ai-の棋譜検討が中心。実戦形式で対局することはない。

 けど和-Ai-の碁に関しては互いに知り尽くした相手ともいえる。教わたことも多い。

「うんうん。期待もらいたいねェ。差もきっちり詰めつもりよお」

 調子の良い言葉だけど誇張はない。それほど棋聖戦の棋譜は見事だった。

 石橋天元だって関西で最も和-Ai-を研究している棋士として知られているし関東に来たついでに桐嶋研に顔を出すことだってある。

 棋聖戦は和-Ai-の研究によってトッププロが磨いた最先端の手筋のオンパレードだった。

「もちろん、今日の対局もずっと楽しみにしてたさ」

 口調が改められ、一柳棋聖の目つきが真剣なものに変わる。

「それは光栄です」

「ま、いいタイミングで望みがかなったてえのは否定しないけどねェ」

 扇子で頭を叩き茶目っ気のある顔に戻る。

「大変だろうけど上を目指すなら、どんな相手でも勝たないといけないよ」

「……はい」

 調子を落としてる私に対してのエール。分かってるんだ。逃げたままじゃ駄目だってことは。

「じゃ、はじめようか」「よろしくお願いします」

 タイトル保持者を相手にしたプロ棋戦での初対局。

 弟子が師匠に勝つなど世話になった人に勝つことを勝負の世界では恩返しって言ったりする。

 ご恩返しをしよう。私は弟子ではないけど――。

 落ち込んでるとき励まされた。

 プロの道は長い。長いうえにゴールもない。一生が勉強なんだって。

 私も春からは高校三年生だ。同級生はそれぞれの進路に悩んでる。
 私はプロの囲碁の棋士として生きる。この道を歩んでいくと決めたんだ。

 後悔なんてしている暇はないって分かって私は女流棋聖になれた。

 自分がここまで来れたのは色んな人たちの力があって、そのすべてに感謝してる。

 気持ちを込めて白石を握った。 
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