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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
  第23話 最強女流

H13年11月某日 NHN放送センター 棋院役員

「ゼッタイに数字が取れるかくきー(企画)だと思いませんか?」

 NHNのディレクターが言葉をかけてくる。

「本当であればウチのテレビ囲碁トーナメントで対決して欲しいのですが……断られちゃって」

 流石に理事会も前例のないアマのNHN杯の参戦はスポンサーの要望とはいえ了承できなかったらしい。

「世間が囲碁界に注目している今が絶好のチャンスです!」

 今年の囲碁界は世界はもちろん、日本においても囲碁界は激動の年といえるだろう。

 日本では塔矢行洋先生の引退騒動、中国リーグの北京チームとの契約。
 
 韓国で起った第一次AIショック騒動からの和-Ai-による囲碁界への宣戦布告。

 そしてNHNが囲碁ブームの火付け役として目を付けたのは二人の女性棋士だ。

 一人はプロの奈瀬明日美二段。彼女は突然現れた囲碁界のシンデレラだ。
 16歳での入段は突出して早いわけではないが一般採用試験による女流棋士の最年少記録だ。
 若獅子戦の優勝で囲碁界では徐々に注目を集めたが、やはり本戦出場を果たした天元戦の活躍が大きい。先日も倉田七段を破り、今や女流棋士による初のタイトル挑戦さえ現実味を帯びてきている。

「こないだ放送されたクローズアップ現在も大評判でしたよ!」

 ディレクターが放送された番組を流す。画面に映るのは俯いて顔が隠された男性の棋士。

>>意識しないようにしても、女流の後輩に負けてはいけないという考えに苦しめられています。

 彼が吐き出した独白が心に沁みをつくる。そこにナレーションが流れる。

>>彼のスランプは女流棋士の奈瀬明日美二段に連続二対局を負けて本格化した。
>>入段初年の女流棋士が高段の男性棋士を連破するというのは想像するのが難しいことだ。
>>だが彼は天元戦の最終予選で半目逆転負けした後、翌々月に別の棋戦で会ってまた敗れた。

>>しかし今やリーグ入り経験がある高段の棋士でしか彼女の勢いを止めることができていない。

 棋戦で彼女に敗れて放心する年配の棋士の後ろ姿が映る。あれは御器曽七段だろうか?

「若き女性棋士の活躍と、敗れていく中年の男性棋士の葛藤のコントラストがいいでしょ?」

>>なんでこんな強い子がアマチュアにいるのよ。勝てるわけないじゃない。

 次に映ったのは全日本早碁オープン戦の映像だ。
 相手は四段以下の女流棋士だから一次予選の映像だろう。

>>日本囲碁界で信じられないことが起きている。
>>プロとアマが戦う唯一の公式棋戦、全日本早碁オープン戦。
>>出場したアマチュア棋士20名の内の一人が史上初の本戦出場を果たした。

 そして、もう一人のシンデレラガールがアマチュア棋士の東堂シオンだ。

 知る人ぞ知る囲碁界の異端児。

 世界囲碁選手権5年連続優勝の元学生チャンピオンという肩書と桑原本因坊による推薦で出場。

 アマチュアが史上初めて16人の本戦トーナメントに進出し新聞にも取り上げられた。

「彼女の独占インタビューはウチが最初に放送しますよ!」

 彼女はアイドルになれるテーマパーク番組アイパラTVで活躍する現役の中学生アイドル。
 所属する芸能プロダクションは業界大手でメディアも無理は通せないらしい。
 番組による仕掛けでもなく彼女の大会出場や一次予選での活躍は当初ある程度抑えて報じられていた。

 そして今までは全日本早碁オープン戦の対局に影響が出るという建前で各メディアからの取材を
断り続けて来た彼女の独占インタビューを取り付けたのは流石に天下のNHNといったところか。

「あとNHNニュースの特番も大きな反響がありました!」

 東堂シオンの活躍により一般の人が囲碁界に注目し興味を持つようになった。
 それが図らずしも棋院の制度的な問題を浮き彫りにし世間が知ることとなった。

>>また一人、プロ界の頂点だった最高位の九段が彼女の前に敗れ去っていく――。

 一次予選の初戦で低段の女流棋士を破った彼女は九段の男性棋士を連続して破り予選を突破。
 最終予選でも三大リーグ入りやタイトル経験のある九段を破って本戦出場を果たしている。

>>こんな女子供を相手にオレが打たないといけないなんて……。

 ある九段が漏らした明らかな失言が公共の電波に流れる。
 この棋士は負けた後に繁華街で酒を飲んで酔っ払い道端で寝てしまったことが写真週刊誌で報じられた。

>>日本のプロがだらしないのか、それとも彼女が強すぎるのか……。

 今まで一般にはあまり知られていなかったが囲碁のプロは九段の棋士が将棋に比べてずっと多い。
 囲碁の段位は大手合と呼ばれる対局で規定の点数を挙げることで昇段する。
 今の制度では将棋界とは違い棋戦で活躍しても飛び段もなく年功的な昇段制度の意味合いが強い。
 降段制度がない段位は現在の実力を表すものではなく、あくまでキャリアの到達点に過ぎないのだ。
 だから各棋戦での大きな活躍も優勝歴もない一般にはまず知られていない無名の九段もいる。

 だが囲碁を知らない人にとって九段がアマに敗れる続けるというインパクトは大きかった。

>>彼女の活躍が囲碁界に大きな波紋を呼び、世間は疑問を投げかけています。

 今や100名を超える九段のうち、近年勝ち越しているのは半数にも満たず三割ほどしかいないこと。
 ベテランの高段者が、伸び盛りの若い二、三段に負けることも、近年では珍しくないことが番組で紹介された。

>>このままでは日本の囲碁は世界から置いて行かれるのではないか。

 棋士の実力が段位に比例していた時代の日本は中国や韓国を圧倒していたが、近年の国際棋戦では負けが続いているということが指摘される。国内の甘い昇段規定などが国内の競争意識をそいでいるのではないかという疑問が番組の中で提示される。

>>段位と実力の逆転現象が起こっても年功的な昇段制度が今も残っているのは何故か。

 番組では視聴者からの質問に答える形で、段位が上がれば予選が免除されたり、また段位が高い方が貰える対局料の多いこと、また対局で勝てなくてもアマチュアの指導碁などの活動料金が上がり、段位という肩書で稼げることがあげられるとが紹介された。

>>棋戦とは別の昇段制度である大手合は必要なのか?

 ある写真週刊誌では大手合では大相撲で噂される八百長のような「星の貸し借り」があるというスクープが報じられた。また一部の棋士が昇段にうま味がなく負担も大きい大手合に出場しないことがあることも紹介された。

 すでに棋院は再来年から大手合を廃止し昇段条件を厳しくすることを発表。
 棋院の理事会も入れ替わり今後も高段者の特権を減らすなどの棋界の改革に乗り出すことを表明した。ただ大手合の廃止は棋院の財政難もあって以前から検討されていたことだった。

 小手先のブームに踊らされず10年先、20年先を見据えた改革ができるのだろうか?

「いやー、プロとアマチュアの最強女流を決める対局!高数字(視聴率)間違いなしですよ!」

 新春アイパラ囲碁パンダ対局という無茶な企画は断ることができたが、こちらは理事からの働きかけもあって断るのは無理だろう。 
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