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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
  第09話 宇宙の広さ 前編(vs toya koyo)

H13年7月某日 side-toya koyo

 碁を打つ者なら誰しも大模様を張って攻める碁に憧れを持った時期があるだろう。
 地を守る手を全く打たずに大きく構え入ってきた相手の石を攻める。

 気がつくとあちこちに地が増えていて大勝となる宇宙流と呼ばれる様な碁だ。

 囲碁は地をたくさん作った人が勝つゲームだ。隅や辺を占める方が地を作りやすい。簡単に言えば実利を整えやすい。

 その反面中央は地を作るのが難しくて大変で、仮に地を作ったとしても空しく崩れるのが常だ。

 それでも果敢に中央で闊歩した棋士がいた。しかし彼は10年以上前に若くして亡くなった。

 共に日本囲碁界の黄金時代の一翼を担った存在。
 棋聖・名人・本因坊を同時に保持する事を大三冠と呼び、これを達成した初めての棋士。
 世界選手権設立当初に活躍し「世界最強の男」の異名を持った男。

 彼の囲碁は天元に向かう。

 多くの棋士が隅や辺で実利を探している時、彼はこれに対し執着せずに中央を合わせる勢力を積む。

 あたかも地球を離れて宇宙に向かうように彼の囲碁は中央を拠点として壮大に繰り広げられる。

 人々はこのような彼の碁を宇宙流と呼んだ。

 とある韓国のプロが「宇宙流は布石の革命と呼ぶべきであり、彼は世界の碁を一人で変えてしまった」と評した。

 しかし相手が強くなるにつれ、攻めて勝つ事は難しくなる。
 碁のレベルが上がるほど、シノギ、攻めをかわす技術、相手の囲いの中に手を作る能力がに巧みになるのだ。

 低い中国流で始まった黒Aiの布石に自らがかつて憧れたライバルの碁を思い起こす。
 右上定石途中の手抜きが行われる。今後はこの手抜きが定石になるのは間違いだろう。
 黒石の縦のトビは今まで力戦や模様作戦を目指す趣向として打たれてきたが運用が難しくメインの手法でなかった。

 宇宙流を生み出した彼でさえ驚くであろう広大な宇宙が盤上に出現する。
 級位者が好みそうな模様の広がり、しかし広大で複雑な碁をまとめることは至難であろう。
 白の大ゲイマの揚げ足を取ってくる黒。相手に塔矢行洋という名に対する畏れなど何一つない。

 同門だった彼にあるとき「勝敗に執着しないか?」と尋ねたことがあった。
 亡き盟友は「もちろん勝つことが負けることよりいい」と前置きした上で、「本当の勝利は自分の考えを碁盤の宇宙に一手一手広げながら相手に勝った時だ」と言った。
 そして「多くの人々はただ勝つための利己的な碁を打っている。それは私にとっての囲碁ではない」という答えが変えて来た。彼の言葉にはプロとしての自負があった。

 Aiに関しては緒方君の見方が正しかったのかも知れない。Aiと私が求める神の一手は違うものなのだろう。

 しかし神の一手を究める道のりは人それぞれなのだ。ただ私はAiの強さを尊重できなかった。

 それぞれ違う棋風が出会うからこそ、そこから新たな宇宙が広がっていくにも拘わらず……。

 それにしてもsaiやAiに出会えたことは碁の神が私に与えてくれた贈り物のようなものだろうと感じる。

 この年になって気持ちを新たに最善の一手を追い求めることができるのだから。

 そして行洋が確実なシノギでは不満あるいは充分成立するとみて一歩踏み込んだ瞬間。

 黒石が白石を愚形の好手でねじ伏せた。 
 

 
後書き
*諸注意*
塔矢行洋の回想で登場する人物はオリキャラです。亡きライバルであり盟友といった設定です。
モデルは「宇宙流」という愛称で知られる武宮正樹先生です。
あと大三冠の趙治勲先生や将棋界の村山聖先生とか色々な人物のエピソードを混ぜてます。
囲碁AIの布石について言及するためにキャラを出ちあげましたが名無しで通します。 
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