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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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サラトガ救出作戦~下準備~

 さて、忙しくなって来やがった。まずは救出部隊の選定だ。まさか鎮守府総出で乗り込む訳にも行かねぇし、基本上陸しての白兵戦がメインとなる。出来れば駆逐艦や軽巡のような小回りが利いて接近戦が得意な奴がいい。それを四人一組のフォーマンセルで10ユニット。それに俺と記録係の青葉を含めた42名で上陸部隊を形成。俺も現場に行くのかって?当然だろ。鎮守府一番の白兵戦力、遊ばせておくのは無駄ってもんさ。

 メンバーの選抜は他の奴に任せるとして、俺は他の下準備に移る。迅速且つ完璧に作戦を遂行するには入念な根回しと下準備が欠かせないからな、料理と同じだ。

「大淀、ラバウルの荒木に打電を頼む」

「了解です、文面は?」

「『マグロの解体ショーを近日予定。マグロ拾いの意思はあるか?』だ。それだけ打てばあいつにゃ伝わる」

 大淀は頷くと、無電を打つ為に通信室へと向かって駆け出して行った。さてと、お次は……

『誰じゃ、こんな朝早く……と思うたらレイジか』

「よぅ、悪いなぁ朝早くに」

『何、よいよい。お主が儂に電話を寄越すなぞ、何か緊急の話なのじゃろ?』

「さっすが国王、話が早いぜ」

 そう。電話の相手はブルネイ現国王。昔ちと縁があってそれ以来懇意にさせてもらっている。

「……なぁ、アメリカに一泡吹かせたくねぇか?」

『ほぅ、面白そうな話じゃな』

 向こうも乗り気だ。俺の頭の中の絵図面じゃあ、ブルネイに駐留してる米軍と国王。この2つの協力は必要不可欠だったりするが……これならどうにかなりそうだな。





 早朝の総員起こしから数時間後、時刻は昼前。選抜されたメンバーが装備を整え、鎮守府の滑走路に集結していた。基本装備は長良や五十鈴が持っているアサルトライフル型の主砲を流用した自動小銃。勿論明石工房謹製である為に、深海棲艦にもちゃんとダメージがある。それに各々が使い慣れた近接用の武器多数。こっちもお馴染み深海鋼製の為、敵さんにゃ大ダメージ。後はそれぞれ必要そうな装備を身に付けている。

 俺は野戦服に鉄板を仕込んだ編み上げのブーツ。それに腰には刀と投擲用の小刀。それにアーミーナイフ。その他にも色々と持ち込んではいるが、まぁそれは追々だ。そして滑走路では米軍に借り受けた輸送機が発動機を回して待機している……そう、上陸部隊の侵入経路は海上からではなく、空から。落下傘降下によっての奇襲攻撃である。さしずめ『親方、空から大量の女の子(とゴツいおっさん)が!』といった所か。まぁ俺は〇ズーではなく降ってくる立場の方な訳だが。

「darling……」

「留守は任せたぜ?襲われる事は無ぇとは思うが、俺達の帰る家をしっかりと守っててくれ」

 不安げな顔をして抱き付いて来た金剛の頭を、ワシャワシャと撫でてやる。鎮守府最高錬度のウチの嫁さんは今回留守番だ。毎朝梳いてセットしている頭がグシャグシャになってしまっているが、そんな事を気にする余裕も無いらしい。そんなに人望無いかね?俺。そんな今生の別れと勘違いしそうなシーンに、パタパタと大淀が駆け込んで来た。

「提督、ブルネイ政府からの回答来ました!上陸部隊に先んじて、病院船3隻を作戦海域に向かわせるそうです」

「あいよ、聞いての通りだ。鎮守府に残るメンバーで護衛艦隊を4つ編成、病院船の護衛に当たれ。帰りの大事な足だ……沈められるなよ?」

 そう、これがブルネイ国王に頼んだ策だ。トラックから逃げ出した避難民の救出の為に、ブルネイ政府が病院船を出す。そしてその護衛任務を正式にウチが受注する。そうすりゃ大手を振ってトラック泊地周辺まで近付けるって寸法さ。それに、事態の収拾に焦って何処かの国が核ミサイルぶっ放そうにも、ブルネイが『人道に基づく支援』として出した病院船を巻き込んだりしてみろ?国際問題どころか、アメリカが国際社会から孤立するまで有り得る。要するに余計な横槍を入れさせない為の盾でもあったりするんだがな。

「よっしゃ、そろそろ出発しようかい」

 俺の声を合図に、上陸部隊の面々が輸送機に乗り込んでいく。全員が乗り込むと、ゆっくりと滑走路を走った後にふわりと離陸する。さて、トラックまでの間だけだが空の旅を楽しむとしよう……窓とか無いけどな!





「あのー、司令?」

「あん?何だよ青葉」

 離陸してから少しして、青葉が俺に声をかけてきた。他の連中は本格的な陸上戦闘が初めてでガチガチになってるってのに、青葉の表情は何故か気まずそうだ。

「青葉、ちょ~っと……いえ、ものすご~く場違いな気がするんですけど」

 青葉の出で立ちは他の連中とは丸っきり違う。頭には防弾ヘルメット、左肩からショルダーバッグを提げ、その反対側にはコンパクトなビデオカメラ。どう見ても戦場に戦いに行くというよりは取材に同行してる報道関係者にしか見えない。

「いやぁすげぇ似合ってるぞ?戦場カメラマンぽくて」

「そうじゃないですよぉ!何で青葉だけ戦闘モードじゃなくて取材モードなんですかっ!?」

「まぁまぁ。実はお前の撮る映像こそ、ウチの切り札なんだからよ」

「ふぇ?それって一体どういう」

「ま、お前が生きて帰ってこれたらな?」

「何でそんな巨大な死亡フラグを立てるんですか司令!」

「いやまぁ、普段から迷惑被ってるから……意趣返し?みたいな」

「ひどいっ!?けど言い返せないのがまた辛いっ!」

 こうやってからかってはいるものの、青葉の撮影する映像が戦闘後の切り札になるかもしれないというのは本当の事だ。その為にも青葉の事は守ってやるさ。そんな事を考えながら、俺は煙草に火を点けた。本来なら禁煙だが、高い金払ってチャーターしたんだ、これくらいの我が儘は許されるだろ?




『そろそろ作戦地域上空です、降下準備を!』

 輸送機と共に貸し出された米軍のパイロットから、そんな呼び掛けが入る。一気に格納庫内は騒がしくなり、それぞれがパラシュート付きのバックパックを装着してハーネスの具合などを互いに確かめている。俺もバックパックを背負ってハーネスを締めると、青葉のバックパックと自分のバックパックをハーネスで繋いだ。

「あのー、司令?何してるんです?」

「だから言ったろ?俺はお前のボディーガードも兼ねてっから。一緒の所に降りなきゃ意味無いだろ」

 落下傘降下の難しい所は、狙った所に降りられない可能性もある所だ。まぁ単独で暴れつつ合流を目指せばいい話だから、そこまで悩む事でも無いんだが。しかし記録係兼俺の荷物持ちである青葉は傍らに置いとかないとまずい。だからこそハーネスで身体を繋いで、一緒に降りる訳だな。

「よし、ハッチ開け!」

『了解、ハッチ開きます!』

 操縦席に内線でハッチの解放を指示。それと同時にゴウゴウと音を立てて空気の流れる音が聞こえてくる。眼下にはうっすらと雲があり、その下には目標の島が見える。上空6000m……スカイダイビングとしては平均より高いが、ヘイロー降下には及ばない高度だ。落下傘降下の訓練はウチの連中一通りはやってあるからな、操作などに心配は無い。

「さてと、鳥になりに行くぜ!」

 そう言って俺が真っ先に飛び出す。続けて後続も航空機のハッチから続々と飛び出して来る。対空砲火が無い所を見れば的に察知された可能性は低い、ひとまず奇襲は成功ってトコか。しかし想定外が1つ。

「いぃぃぃぃぃぃやあぁぁぁぁぁぁ!」

 一緒に飛んだ青葉が苦手らしく、無茶苦茶煩い事だ。 
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