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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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憂いの雨と陽への祈り
  小規模な諍い

 蟻との戦闘はほんの一瞬で終結した。 アマリとユーリさんも早々に蟻を排除したらしく、またも楽しく談笑中である。 もっとも楽しそうなのはアマリだけで、ユーリさんは若干引き気味なのが唯一の救いだった。

 「こっちは終わったよ」
 「お疲れ。 悪いな、うちの馬鹿を押し付けて」
 「いいよ、別に」「ちょっとユーリ!」

 僕の返事とシィさんの抗議が同時に起こった。 こうなればユーリさんはシィさんの対応に追われることになるようで、ようやくアマリとの間に隙ができる。

 「アマリ、お疲れ」
 「あはー、フォラスくんもお疲れですよー」
 「……爆裂、普通に使ってるんだね」
 「そう言うフォラスくんも双剣を使ってるです」
 「まあ、そうだけどさ」
 「…………」
 「…………」

 沈黙。

 あれ? 僕って普段アマリとどんな話しをしてたっけ? って言うか、なんか言葉に棘が生えているぞ。 いや、お互いに。

 ううむ困った。 何がどう言う風に困ったのかは定かじゃないけど困った。 会話のネタ会話のネタ、と視線を巡らせたら良い笑顔でサムズアップしているシィさんと目が合った。 どうやらアシストしているつもりらしい。

 「そう言えばユーリさんのあのケモミミはどう思う?」
 「可愛いと思うです」
 「いや、そう言うことじゃなくて……えっと、あれ、何かのスキルなのかってこと」
 「ユーリちゃんが黙ってることは教えられないですよー。 黙秘権を行使するです」
 「そっか」

 そっか。 そっか。

 「フォラスくんこそシィちんと一緒で楽しく浮気はどうだったです?」
 「浮気じゃないんだけどね。 まあでも、巻き込まれようって決めたのは僕だから言い訳の余地はないか」
 「それは私もです」
 「…………」
 「…………」

 そしてまた沈黙。 さてはて本当に困った。
 ユーリさんと一緒に行動していたことを怒っているのかと言えば否だ。 少なくともアマリに対しては怒っていないし、ユーリさんに対しても色々な思いが渦巻いているとは言え怒っているわけではない。 どっちも巻き込まれただけのことであり、そもそもの発端はシィさんと僕にある。
 ……そうやって理性で判断して口を噤んでしまえる点が状況をややこしくしているのも一応は自覚している。
 結局、シィさんが正解なのだ。 遠慮をしてしまう、遠慮をしてしまえる僕は喧嘩にも和解にも向かない性格なんだろう。

 「ねえアマリ、アマリはさ……」
 「うに?」
 「……ううん、なんでもない。 先、進もっか?」

 言葉を飲み込んで溜め込んで。
そんなことを続けていればいつか腐り落ちてしまうことをわかっていても僕はそう言って精一杯の笑みを浮かべるのだった。

 「シィさん、ユーリさん。 イチャついてないで先に進もうよ」
 「イチャついてない!」「イチャイチャの邪魔すんな!」

 こうして綺麗に息の合ったカップルを見ると本当に気分が沈む。 自分にできないことを他者に求めるのは不実と言うけれど、自分にできないことを他者がしている状況を見せつけられるのは眩しすぎた。

 「僕、クエスト終わらせてゆっくり休みたいんだけど」
 「とか言いながらちゃんと待ってるんだから結構お行儀いいよねー」
 「忘れたの? クエスト終わらせるには2人の協力が多分必要になってくるんだって」
 「そんなに機嫌悪いならちゃっちゃと本人にぶつければいいのに」
 「本人? ならぶつける相手はユーリさんになるけど」
 「ふざけんな。 こっちはお前んところの鬼嫁に散々振り回されたんだぞ」
 「それを言われると耳が痛いよ。 まあお互い様だろうけどね、この場合は」
 「まったくだ」

 フンと鼻を鳴らしてユーリさんが僕の隣に立った。 間近で見ると耳がピコピコ動いているし尻尾はフワフワだし、中々に面白い。 本人が至って真面目な顔をしているので一層。

 「俺たちは外野だからとやかく言わねえけど、お前、もう少し素直になってもいいと思うぞ」
 「十分とやかく言ってるよね、それ」
 「茶化すんじゃねえ。 ったく……どっちかが折れなきゃいつまで経ってもこのままなんじゃねえの?」
 「それはまあ、そうだろうね」
 「それがわかってんならさっさと謝れよ。 それで解決じゃねえか」
 「とは言えそんな簡単じゃないんだよね」
 「簡単だろうが」

 ズバッと、一刀両断で断言された。 しかも鼻で笑われるおまけ付き。

 「お前たちがそんな単純に恋人だの夫婦だのって括れるような関係じゃねえのは察しがついてるけどよ、お前は許してほしくてあいつは許したがってんだ。 だったら簡単なことじゃねえか」
 「アマリが許したがってればね」
 「ああ言えばこう言いやがって……」

 処置なしと言いたげに頭を掻いてユーリさんが唸る。 シィさんに至っては苦笑いで呆れている。
 とは言え、今はクエストを終わらせることの方が先決だ。 これ以上ここで時間を無為に過ごすのはあまり楽しくはない。

 「もう何度も言ってるけどさ、先に進もうよ。 どうせ着地点も妥協点も僕とユーリさんとの間にはないんだから」
 「……だろうな。 おいシィ、行くぞ」
 「ほいほーい」

 ようやく諦めてくれたのか、シィさんを伴って歩き始めたユーリさん。 その背中を見送っていたらアマリと目が合って、そしてすぐに逸らされた。 そのままユーリさんたちの後を追ってパタパタと走り去られてしまう始末。
 ううむ、本格的に気分が沈む。

 「まあ、どうにしようもないよね、こればっかりは」

 毎度お馴染みのため息を吐いた。






 「うぅ、また壁です……」
 「ユーリ、四隅にレバーっぽいのあるよー」
 「それが解除スイッチ、だよな……」
 「がっこーん」
 「おいこら馬鹿、なんの躊躇もなく弄るんじゃねえ!」
 「なんにも起きないですよー? がっこんがっこんがっこーん」

 ガコガコとレバーを上下させるアマリを尻目に、僕は周囲をグルリと見回した。 シィさんの言う通り部屋の四隅にはレバーがあって、その上部にはランプが備えられている。 レバーの上下に合わせて明滅していると言うことは、恐らくあれを全て点灯させれば先に進めるのだろう。 通路を進んだ先がこれなのはいい加減飽き飽きしてきた。

 さて……

 「アマリ、そのレバーを下げてみて」
 「らじゃーです」

 ガコンと下げてそのまま放置。 すると1秒も経たないうちに何もせずとも勝手に元の位置へと戻ってしまう。

 「ふむ……」

 今度は僕自ら、別のレバーを下ろしてみた。 が、結果は同じ。 下げるとランプが点灯し、1秒と経たずに元へと戻る。
 なるほどね、と納得してみるけど、ギミック自体は単純明快だった。

 「全部を同時に下ろせばいいってことだよな」
 「だろうね。 謎解きとかそんな面倒なのがないのは正直助かるよ」
 「だな。 じゃあちゃっちゃと終わらせようぜ」

 友好度のない短いやり取りは気楽でいい。 互いに歩み寄る気がない仲なので気兼ねは必要なかった。
 そのまま言葉を交わすでもなく、対角の隅に向かう僕とユーリさんを見てシィさんが苦笑う。 その表情は「しょうがないなぁ」とでも言いたげで、けれど気付いていて無視しておく。 どうにもシィさんは僕のことを子供扱いするので苦手だ。 それでも何も言わないで残ったひとつのレバーに向かうのだから特に言うことはない。
 ちなみにアマリは未だにガコガコとレバーを上下させ続けている。 どうやら余程ご立腹らしい。

 「ほんと、やれやれだぜ、とでも言うべきなのかな……」

 答えはない。 求めてもいないのだから当然か。

 「じゃあ行くよー」

 気の抜けたシィさんの声がカウントを刻む。 さすがのアマリも終わらせたいのだろう。 大人しく指示に従っているのがなんとも言えない気分にさせられる。

 「――ゼロ!」

 ガコン、と四方からの音が連なる。 目に見えた変化はないけどこれで先に進めるようになったはずだ。
 確かめるようにパタパタと駆け出したのはアマリで、そのまま先程まで不可視の壁によって阻まれていた通路の先へと入って行く。 その後を呆れ顔で続くのがシィさんで、次に不機嫌そうに何事かを呟きながら追うのがユーリさんだ。 僕は最後尾から続く。

 そろそろ終わりになるだろう。この階層でボスとの連戦があるのならゲームバランス的に微妙なものになり兼ねないので、恐らく戦闘はないと思う。 少なくともボス戦はないはずだ。

 「おぉー」
 「うへぇ」

 先行していた女子2人の乙女らしからぬ声の正体は数瞬遅れて判明した。
 通路の先。 シィさんに見せてもらって記憶した限りそこは行き止まりで、実際にそうなっていた。 そして、その部屋の半分を見たこともない複雑な紋様が刻まれた岩によって閉められていた。 状況から鑑みるにこれが例の装置だろう。
 装置と言いながらも自然物なのかと一瞬首を傾げたけど、よく見れば岩のような外観をしていても人の手が加わっているのは一目でわかる。 多分、浮遊城から消失してしまった魔法的な技術の残滓を集めて作り上げたものなのだと思われた。 言ってしまえばオーバーテクノロジーか。

 「これ、どうやって止めるんだっけ?」
 「さあ? ぶっ壊せばいいんじゃないかな」
 「んな投げやりな。 エルちゃんなにか言ってなかった?」
 「『操作法がわからないのでお任せします』って言ってたよ」
 「ってことは投げやりなんじゃなくて正解だったんだ……」

 このメンバーの中で破壊に特化しているのはアマリだろう。 ついと視線を投げると既に準備万端のようで、でぃーちゃんを構えて口端を吊り上げていた。 早くやらせろと全身が語っている。

 「と言うわけでアマリ。 お願い」
 「はいですよー」

 言うが早いか岩に向かって踏み出し、ズッとでぃーちゃんを振りかぶった。 さり気なく3歩ほど後退したのは僕とユーリさんだけで、シィさんは動くことなくその様子を眺めている。
 振りかぶり、紅蓮の光を灯すでぃーちゃん。 ユーリさんは有無を言わさず無言のままシィさんの首根っこを引っ捕まえ、グイッと引き寄せた。 不満げに振り返るシィさんの抗議の目線を無視する形でアマリの後ろ姿に視線を集中していると言うことは、やっぱりこれから何が起こるのかを正確に理解しているからなのだろう。

 爆裂。

 言語不要の圧倒的暴力が岩と周囲の空気とを蹂躙し、先程までシィさんが立っていた地点までを丸々と飲み込んだ。 さすがのアマリも威力をかなり抑えているらしく、あそこに立っていたからと言ってダメージは受けないけど、それでも爆風の煽りを受けるのは間違いなかった。

 ――と言うかユーリさん。 もしかして爆裂の効果範囲をある程度は理解し始めているのかな……

 だとすれば危険である。 今後、もし彼と敵対した場合、こちらの手札のひとつが読まれていることになってしまう。 ううむ、対策するべきだろうか?

 僕の思考を他所に噴煙が晴れる。
 立っていたアマリは回転さながらに振り返り、退がっていた3人にVサインを突き出した。

 「ぶいなのだーですよー」
 「お疲れさん」
 「お疲れー。 って言うか私、巻き込まれるかと思ったんだけど⁉︎」
 「あはー、ユーリちゃんが引っ張らなくても巻き込まれなかったと思うですよ。 ……多分」
 「多分⁉︎ ってことはもしかしたら巻き込まれてたってこと⁉︎」
 「あはー」
 「うわなにそれ怖い」

 和やかな空気と共にクエストログが更新される。 会話の輪に入っていなかった僕が最初にそれを確認し、シィさんに声を掛けた。

 「後は報告だけみたいだね。 結晶でパッと脱出する?」

 その提案は首を振られて却下された。 確かに面倒ではあるけど高価な結晶を使うまでもないと言う判断だろう。 僕はそれに従うだけだ。

 「じゃあ行こうか。 もうここには用もないしね」
 「待てよ」

 制止を投げてきたのはユーリさんだった。 アマリは我関せずと言った様子で眠そうに目を擦り、シィさんは少しだけムッとしたような表情をしている。

 「お前、本気で放置するつもりかよ?」

 何を、はあえて言っていないのだろう。 主語のない言葉は、けれど正確に伝わっている。

 「放置って言うと聞こえは悪いけど、こればっかりは外野にとやかく口出しされる謂れはないよ」
 「あのなぁ……」
 「何? 一体何が不満なの?」

 返答は苛立ちの篭った舌打ちだった。

 「ああうぜえ。 ガキの相手ってのはこれだから苦手なんだよ」
 「……なにそれ」
 「なあフォラス。 お前はアマリの気持ちって考えてねえのか?」
 「だから外野が口出しするなって言ってるんだけど?」
 「ああそうかよ、そうですか……」

 苛立ちを隠しもせずに呟いて、ユーリさんは天井を仰ぐ。 やがて落ちて来た視線は、今までの鋭さを倍するほどに鋭利に尖っていた。

 「フォラス、戦おうぜ」
 「え?」
 「デュエルだ。 負けたら勝った方の言うことをなんでも聞く。 文句は言わせねえぞ」
 「ちょ、ユーリ⁉︎」「ユーリちゃん?」
 「……本気」
 「うじうじしたガキを凹ませたくなった」

 へえ。 それはそれは……

 「いいよ、やるよ。 それで全部終わらせよう」

 ユーリさんの返答はデュエル申請のメッセージだった。 
 

 
後書き
 ユーリちゃんはデュエリストだった⁉︎(錯乱

 と言うわけで、どうも、迷い猫です。
 もはや恒例となったデュエルです。 戦おうぜ(白目

 ちなみにこのネタ、人狼の作者であるざびーさんが感想版で振ってきたネタで、いつかやりたいと思っていました。 どうでもいい裏話でしたね、はい。

 次でデュエル。 そしてその次は……どうなるのかなぁ←おい

 ではでは、迷い猫でしたー 
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