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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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憂いの雨と陽への祈り
  パズルタイムを始めよう

 「おい待て馬鹿、お前本気でここら一帯を吹き飛ばす気か⁉」
 「うに? だって出口ないですよ?」
 「だからって力尽くでどうにかしようって、その頭に詰まってるのは筋肉か!」
 「詰まってるのは0と1ですよー」
 「いつから人工知能になったんですかねぇ⁉ つーか今時のAIは二進法なんてちゃちなもんでプログラミングされてねえ!」
 「じゃあ、123456789ABCDEF10です」
 「十六進法ならいいって話じゃねえぞ⁉」
 「その間髪入れない突っ込み、ぐっじょぶ」

 ニヘラと笑いながら親指を立てる暫定相棒にユーリは頭を抱えたい気分だった。

 フィールドに強制転移させられ、同様に転移させられていたアマリとの突発的共闘の後、暴れたがるアマリをなんとか宥めて街へと向かった2人だが、待っていたのは更なる転移だった。 正確に言えば街に入る直前、街区とシステムが認識したその瞬間に発動した強制転移。 出てきた場所は一辺10mそこそこの正立方体の空間で、扉も窓もない完全な密室だった。
 誰かにヘルプを求めようにもダンジョン扱いでメッセージは使えず、そもそもここがどこなのかもわからない以上、外部からの救援は望むべくもないだろう。 クエスト用に生成されたインスタンス・エリアであり、自分達以外には辿り着くことはないとユーリは予想している。 そしてそれはおおよその正解だ。

 「出口がないなら作るまで、とは言っても錬金術は使えないからな……」
 「怪しいのはやっぱりこれですよね?」
 「だよなぁ」

 はぁ、と深いため息を吐いて部屋の床に視線を落とす。
 そこにあるのは縦横8マスから成る方陣。 そこには1から80の石板が並べられている。 並べたのはユーリとアマリだ。 もっとも、アマリはユーリの指示に従っていただけだが。

 「ユーリちゃんユーリちゃん、『パズルタイムの、始まりだ!』ってキメ顔してたユーリちゃん」
 「やめろ、人の傷口に塩を塗り込むな」
 「『これで……クリアだ!』ってドヤ顔で言ってたユーリちゃん」
 「だから人の黒歴史を抉るんじゃねえよ! お願いですからやめろください!」
 「じゃあフードを外すです」
 「はい?」
 「ついでにそのクソダサいローブも脱ぐです」
 「おまっ……」

 そんなことできるかと声を荒らげることはできなかった。
 アマリの緩い笑顔が微妙に引き攣っている。 それが正解だと思い込み、指示を出して石板を並べさせたのは他ならぬユーリだ。 筋力値の都合上、並んでいる石板の実に60枚近くを設置したのはアマリで、徒労感をこの場で最も感じているのもアマリだろう。
 マスと石板の並びで魔方陣と誤認したのはユーリであり、言い換えればアマリの徒労の原因はユーリなのだ。 怒られれば素直に謝る準備はできているし、謝罪の印を求められれば応じるのも吝かではない。 と言うより、何事もなくスルーされてしまうほうがユーリとしては気持ちが悪いとさえ思っていた。 主に借りを作りたくないと言う都合で。

 だから大抵のことは頷くつもりだったし、余程のことでなければ従うつもりだった。
 だが、アマリの要求は個人的に余程のことに含まれている。 あくまで個人的に、であり、全裸になれなどと要求していない以上、道義的には余程のこととは言えないだろう。

 「じー」
 「…………」
 「じぃー」
 「…………」
 「じぃーーーーー」
 「……っああ、もうわかったよ」

 ジリジリと距離を詰めながら熱視線を送ってくるアマリにユーリは根負けした。 最終的には身の危険を感じたから、だが。

 「言っとくが触るなよ」
 「え、触るです」
 「即答かよ!」
 「お触りするです。 具体的にはモフるです。 モフモフするです」
 「……ちなみに断ったらどうなるんだ?」
 「脱ぐまで弄られ続けるのと力尽くで組み伏せられるの、どっちが嫌ですか?」
 「どっちも嫌だ!」
 「じゃあ、どっちもするです」

 即答のアマリ。 絶句のユーリ。

 正直な話、もし襲いかかってきても逃げ切れる自信がある。 筋力値が高いアマリは逆説、敏捷値が低いのだ。 諸々の事情によりステータスが大幅に上がっているユーリにとって問題にもならないだろう。

 ——ならない、けど……

 チラリとアマリを盗み見て嘆息。

 ——抵抗は無駄だよな

 そしてもう一度ため息。

 逃げ場があるならいざ知らず、閉鎖空間では逃げきれずにいつか捕まるかもしれない。 組み伏せられるのは流石に勘弁願いたいし、弄られ続けるのも精神的にキツイものがある。 現状でも十分精神的にキツイのだが。

 「……触るのはなしだ。 これ以上妥協はしない」
 「うぅー……わかったですよー」

 明らかに渋々と言った調子で頷いたアマリに頭を抱えたくなるが、それでも身の安全は確保できたのは僥倖だ。 アマリが大人しく約束を守る保証はどこにもないものの、こればかりは信じるしかない。

 今日最大のため息を吐き出してユーリはフード付きのローブを除装する。
 現れたのは絹のように煌めく銀の髪。 その顔立ちは少女然としていて、フォラスとはまた違った方向で精緻に整っている。
 なにより目を引くのは、その頭頂に屹立する耳と臀部から覗く銀色の尾だろう。
 これこそユーリがフードとローブを頑なに脱がなかった理由だ。

 エクストラスキル《人狼》
 ユーリ以外に習得者がいないのでもしかしたらユニークスキルなのかもしれない。 とあるクエストの報酬だったと思われるそれは、全ステータス上昇、戦闘系スキルレベル上昇など、尋常でない利点を所有者に与えてくれる。
 反面、半強制的に髪は銀色に変わり、狼の耳と尾が生えてくると言うユーリにとっては絶大なデメリットもある。 modにある《フェイスチェンジ》を使えば以前通りの黒髪に戻って耳と尾も消えるのだが、ソードスキルを使えばすぐに銀髪獣耳尾付きの状態になってしまうのだ。

 「はぁ……」

 元より少女然とした——否、美少女然とした容姿をしているユーリだ。 これ以上目立つ要素は増やしたくないと思っているのだが、それを誰あろうアマリに見つかったのが運の尽きだったのだ。

 「ふぉおぉぉぉ……」

 当のアマリはユーリの耳と尾を輝く瞳で見つめている。 意外に可愛いもの好きなんだな、と最早投げやり気味な思考で諦めた。
 約束を守る気はあるようで、興味津々どころか全身から触らせろオーラを出しながら、それでも触ろうとはしない辺り、なんだかんだと良識人なのだろう。 脅迫して脱がせた事実から全力で目を逸らせば、だが。

 ちなみにこの話、後になってアマリの夫であるフォラスに文句を言ったところ、『組み伏せられた時点でハラスメント警告が出るんだし、嫌だったら監獄送りにすればよかったのに』と冷静に返されることとなる。
 そのことに気がつかない程度にはユーリも疲労していたのだ。

 「で、これからどうする? これが魔方陣じゃないってことは別になにかがあるはずなんだが……」
 「ふえ? これ、魔方陣ですよ?」
 「は?」
 「え?」

 目を逸らすついでに話を逸らしてみたユーリに、アマリは予想外の返答をする。

 「いや、魔方陣じゃないだろ、これ。 もし魔方陣ならこれで完成だ」
 「ユーリちゃん、魔方陣の定義を知ってるですか?」
 「一辺の和が縦横斜め、全ての列で同じになるように配置する数字パズルだろ? これは8×8だから斜めはないけどな」
 「30点ですね」

 バッサリと切り捨てたアマリは、そこで薄く微笑した。
 ユーリにとっては初見の、表情。 普段の緩さも、戦闘時の危険さも取り払った、むしろ理知的でさえある微笑を伴ってアマリが言葉を繋げる。

 「魔方陣にはいくつかの種類があります。 その分類は汎魔方陣、親子方陣、木星方陣、乗算方陣、奇数偶数方陣、連続方陣、多重魔方陣と多岐に渡ります。 難易度を一概には語れませんが、ユーリさんの言う魔方陣は和算方陣と呼ばれることもある基本形にして一般系の魔方陣ですね」
 「は、お、おう?」
 「どうかしましたか?」
 「いや、お前……」
 「これはまあ、仕方がないでしょう。 あまり見せたくはないですが、ユーリさんにも見せたくないものを晒させているので痛み分けと言うことで」

 クスクスと笑って言うアマリは普段よりも圧倒的に大人びていて、人間的で、理知的だった。
 しかし、それが故に言いようのない違和感に襲われるが、ユーリはそれを言葉に出さずに捩じ伏せる。

 彼女は仕方がないと言った。
 見せたくないと言った。

 ならば見なかったことにするのがマナーだろう。 見てしまっていても詮索しない程度の分別は、ユーリだって持ち合わせているのだ。

 「わざわざ脱がせたのは痛み分けって言う言い訳を成立させるため、か……」
 「はい?」
 「いや、なんでもない。 で、これの解き方は分かるのか?」
 「ええ。 問題はどのルールが適用されているのか、ですが、それに関してはここに答えがありました」

 ヒョイと、なんでもないような自然さで1枚の石板を拾い上げる。 その1枚を持ち上げるのにユーリは両手を使うところだが、アマリにとってはペットボトルを持ち上げるような気軽さであることに微妙な気分を味わいつつ、小さく冠りを振った。

 「親切設計と言いますか不親切設計と言いますか、本当にやれやれですよ」
 「ん、裏に、なんか……」
 「11180。 これは多重魔方陣の解の一部です」
 「は? どう並べたってそんな数にはなら……待て、この並びを和算方陣って言ったよな?」
 「あくまで1つの呼び方ですが」
 「ちょっと待ってくれ……」

 はい、と微笑したアマリは石板を先ほどの位置に戻した。 特に急ぐ気もないようで、ユーリが解答に行き着くのを待ってくれるらしい。

 「(わざわざ和算って言うのなら、和算じゃない魔方陣があるはずだ。 奴はさっき、乗算方陣ってのもあるって言ったし、それは間違いないはず。 和算がたし算、乗算がかけ算。 そしてこれが多重魔方陣……多重、多重……重ねる、多く、重ねる……あっ)……累乗?」

 果たして、それは正解だったらしい。 自分より低い位置にあるアマリの頭が縦に振られる。

 「つっても、これをそのまま累乗したらえらい数になるぞ。 一辺の和が260だから、単純に2乗するとして……67600?」
 「……まさかとは思いますけど、計算したのですか?」
 「まあな。 コツがあるんだよ」
 「では、とても単純です。 石板の数字を2乗した場合の各列の和を同一にします。 もちろん2乗しない場合の和も同一にしてもらいますけど……できますか?」
 「時間があれば」
 「時間はありませんか?」
 「ないとは言えないな」
 「ではお願いしますね。 私は頭脳労働派ではないので」

 ニコリと笑ったアマリは、次の瞬間にはいつもの緩い表情に戻ってユーリを見上げる。 早く指示を寄越せ、と言うことらしい。
 答えを知ってるんならお前がやれよ、とは言わない。
 気を遣った部分もなくはないが、理由の半分以上はミスの埋め合わせと単純に未知の数字パズルを解いてみたいと言うだけのことだ。 普段大人ぶっているけど、こう言うところはまだまだ子供なのである。

 「んじゃ、頑張って解いてみるか」
 「頑張れですよー」

 気の抜ける声援に苦笑いを浮かべつつ、ユーリは石板を俯瞰で見つつ頭で計算を組み立てていった。





 そして1時間後

 「よっと」
 「お日様の光が眩しいですー」
 「いや、太陽じゃないけどな」
 「やっぱり壁を殴って壊すのが手っ取り早かったですねー」
 「俺の苦労が水の泡になるだろうが! そもそもなんだあれ! 魔方陣解いたらファンファーレが鳴って、壁にでかでか矢印出てきて《ここを殴れ》って! だったら最初からそう書けよ! あの時間をマジで返せ!」

 とまあ、オチはそんなところに待っていた。 
 

 
後書き
 ユーリちゃん「これで……クリアだ!(ドヤァ)」
 しーん
 ユーリちゃん「は? あれ?」
 しーん
 ユーリちゃん「嘘、だろ……(顔真っ赤)」

 可愛いユーリちゃん可愛い←

 と言うわけで、どうも、迷い猫です。
 本家のユーリちゃんが可愛くて辛いです。 その可愛さを10分の1、いや、100分の1でも伝えたいんですけど、伝わっているでしょうか?
 伝わっている人は感想版に「ユーリちゃん可愛い」と書き記して置いてください(露骨

 次の予定は……シィちゃんの可愛さを伝えるとしませう。
 ではでは、迷い猫でしたー 
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