| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

憂いの雨と陽への祈り
  それは雨の止まない

 アマリはそれはもうよく眠る。
 起こさなければ丸々1日寝っぱなしなんてこともあるから恐ろしい。 長い睡眠の習慣がない僕からすれば羨ましいようなそうでもないような、微妙なところだけど。
 だからと言うわけでもないけど、アマリを起こすのは気が引ける。 気持ち良さげに眠る彼女はいつもよりも遥かに穏やかな顔をしていて、気の抜けた表情は普段のような演技のない、きっと素のアマリなんだと思う。

 アマリが《アマリ》と言うキャラクターを演じていることは知っている。 それは彼女自身の意思であり、正しいのか間違っているのかなんて部類の話しでもない。 ただ、アマリはそう言う生き方しかできないだけの話しだ。

 閑話休題。

 攻略組から謹慎を喰らって追い出された僕にしなければならないことはない。 レベリングも最前線への立ち入りを禁じられているから効率よくできないし、高効率の狩場は人気があって行きたくないのが本音だ。 僕の悪名は色々なところで広まっていて、自業自得とは言え悪意ある視線に晒されるのを歓迎するほど変態ではないつもりでいる。
 もっとも、禁じられているのは75層への立ち入りであって、本気でレベリングする気があるのなら74層の迷宮区にでも潜れば済む話だ。 あるいは効率のいい隠しダンジョンでもいい。
 それをしないのは今の謹慎を利用して少しでも羽を休めたいからだ。 正直に言えばサボれる時にサボっておきたい。 なにしろ75層の攻略が難航するのは目に見えているし、いよいよボス攻略の段になったら僕たちに声がかかるだろうから。

 「そうなったらのんびりしてもいられないからね……」

 眠るアマリの髪を撫でる。 桜色の髪は柔らかくて、絹のように滑らかだ。
 この程度では起きないだろうとアマリに向かい合う形でベッドに倒れ込む。 右手をアマリの頬に当てながら、顔が緩んでいるだろうことを自覚した。
 アマリと出会ってもうすぐ2年。
 結婚したのは攻略が10層の頃だったから、そっちももうすぐ2年になる。 今まで色々あったし、これからも色々とあるんだろうけど、僕たちの関係はどうやら普通とは少し違うらしい。
 関係、と言うよりも違うのは進展具合、か。

 一緒のベッドで寝ながらも色めかしいことは何も起こらない。 手を繋いで眠るだけ。 起きててもそれ以上と言えば抱きつかれたり膝枕をされたりくらいのものだ。 キスは当然まだだし、その先なんて進む気配すらない。
 そう言うことがしたいのかと問われれば、確かにしたい。 興味がないと言えば嘘になるだろう。 これでも僕は思春期真っ盛りの男の子だ。 その手の情動がないところまで枯れ果ててはいないと思う。

 眠るアマリは無防備だ。
 普段だってドキドキするけど、今は普段以上にドキドキしている。

 ずいっと身体ごと少しだけアマリに近付ける。 吐息がかかるほどの近距離。 アマリの寝息が僕の髪を撫で、心臓は壊れたのかと思うぐらい跳ね回っているような気さえする。 きっと現実の僕の心拍数はとてつもないことになっているだろう。
 別にこのまま口づけをしようとは思っていない。 断じて……嘘、少ししか考えていない。
 でも寝込みを襲うなんて卑劣な真似なんてできるはずもなく、これはそう、予行演習なのだ。 来るかどうか定かじゃないけどいつか来るかもしれないその時のための予行演習。 だから疚しい気持ちはちょっとだけあるにはあるけど何をするわけでもなく見てるだけであって、チキンと言われるのは甚だ不本意だけどそれはまあ確かに相応の評価かもしれないなーとか思ったりもするわけで、まつ毛の長さにちょっとドキッとして薄い唇を見てるととんでもなく邪な気持ちになってきたり……って、僕は一体何をやっているのだろう?

 ショート寸前の思考をなんとか纏めて身体を引こうとした。 やっぱりこれは卑怯な気がして、なにより僕の精神が持たない気がして身体を引こうと、そうした瞬間。

 「あ」

 アマリとばっちり目が合ってしまった。

 いつものように緩々と覚醒するのではなく、まるでロボットにスイッチが入ったかのような淀みない目覚め。 開いた目が僕を捉え、そして自身の左頬に添えられた僕の手を実感し、現状を素早く認識したんだろう。 目覚めてすぐの目が丸く見開かれる。

 ベッドに2人。 息が届くほどの近距離。 僕の手はアマリの左頬に添えられている。

 誤解をするには十分すぎる材料が揃っていて、そしてアマリはきっと正しくそう誤解する。 だから僕は必死になって言葉を重ねるのだ。

 「ちょ、違うからね! そう言うんじゃないからね! そりゃそう言う気持ちがなかったのかと言えばあったけど、でもちゃんと思い直「ふぉ……」

 アマリの声が僕の必死の弁解を遮る。
 その身体はわなわなと震え、爆発一歩手前の様相だ。

 否、爆裂一歩手前、か。

 「あ、アマリさん?」
 「ふぉ、ふぉ……」
 「ふぉ?」
 「フォラスくんのアホーーーーーーーーーーー‼」






 「はぁ……」

 吐く息は重い。
 あれから完全に覚醒したアマリは予想通りと言うか状況的に当たり前と言うか、とにかく僕の行動を誤解して、その鍛え上げた筋力値による剛腕を披露してくれた。
 具体的に言えばグーでドーンだ。
 咄嗟の判断で爆裂を使っての殴打は痛みがないはずなのにとてもとても痛かった。 なにが痛いって、こう、心が?

 なにはともあれ原因は僕にあって、殴打した張本人は顔を真っ赤にしてよくわからない言語を捲し立てながら、要約すれば『ケダモノ変態痴漢猥褻魔! ああもう別居だ出てけーーーーーーっ!』とのことだった。
 僕としては言い訳したいところだったけど、かと言って言い訳の余地はなく、またアマリに聞き入れるだけの余裕がなかったため、僕は大人しく家から追い出されることとなったのだ。

 自業自得因果応報。
 寝込みお襲おうとしたわけではないけどそう見える行動を取った時点で有罪だろう。 実際には思いとどまったとは言え、そう言う思考が頭を掠めたのは事実な訳だし。

 で、家を追い出された僕は31層に来ていた。

 31層。 別名《雨の国》
 由来はプレイヤーが知っている限りずっと雨が降り続けているからだ。 街の人たちに話しを聞けばこの雨は本当にずっと降り続けているらしい。
 SAOでは雨に濡れたところで風邪を引くことはないけど、だからと言って喜んで雨に打たれたがるような奇特なプレイヤーは少ない。 傘もあることにはあるけど戦闘を想定すればそれは邪魔でしかなく、しかも激しく動くと泥濘んだ地面に足を取られて転倒する始末だ。 SAOでの転倒はバッドステータス扱いなのですぐに起き上がることができず、ソロだとかなり危険な思いをすることになる。 パーティープレイでも足の引っ張り合いと言う面白くないことが起こるため、おおよそのプレイヤーはからここは敬遠されているのだ。

 つまり人目につかないわけで、僕のような日陰者には丁度いい層とも言える。 変装道具は家に置きっぱなしだし、かと言って黒猫団のホームに逃げ込むのも気分的に躊躇われた。 アマリに追い出されたのは自分でも意外なことに割とショックだったらしい。

 「いや、そりゃ僕が悪いんだけどさ……って言うかこのまま離婚とかないよね? ありそうだから怖いんだけど……」

 独り言を吐きながら雨の降る外を窓越しに見遣る。
 適当な宿屋に入ったものの、空模様と同様に陰鬱な気持ちは一向に晴れない。

 「ああもう、どうやって謝ろ……。 うあー、経験のなさが恨めし——ん?」

 ジメジメと湿気のこもった言葉を吐き出していると、眼下の路地を走り抜ける赤い人影が目に入った。
 圏内とは言え転倒すると服が汚れたり耐久値が減ったりするのに、そんなことをまるで気にしていないような疾走。 その速度は中々なもので、ハイレベルプレイヤーだと言うことが伺える。
 そこまではまあ気にするほどでもないし、別に他人がなにをしてようと僕の知ったことでもない。 けど、その後に3人の男が武器を片手に追いかけているとなると話しは変わってくる。

 ここは圏内だ。
 一部の例外を除けばいかなる手段を用いてもHPを減らすことはできない。 だから恐らく逃げていただろう赤い人が圏外にでない限りは安全と言っていい。
 けどそれはあくまでHPが減らない、と言うだけであって、武器を持った男に追い回されるのは精神的にきついものがあると思う。

 「僕には関係ないんだけどさ……」

 でも、このままなにもしないのは目覚めが悪いのも確かで……

 「じゃあまあ、暇潰しと言うことで」

 誰に向かって言うでもなく呟いて僕は窓を開ける。 そのまま窓枠に足をかけて路地へと飛び降りた。 難なく着地を決めた僕は隠蔽スキルを発動して駆け出す。
 降りしきる雨に服と髪は一瞬で濡れるけど、その程度の些事はどうだっていい。 今は追いかけるのが先決だ。

 グングンと速度を上げて走り続け、曲がりくねった路地を駆け抜ける。 この街の路地は石畳などの舗装は施されておらず、地面はそのまま剥き出しの土だ。 足跡は数分間その場に残り、追跡は容易だった。
 数分走ってまずは武器を持った3人組を視界に捉える。 その少し前に走る赤い人影を視認したところで大きくジャンプして、更に疾空も使って手近な屋根へと飛び移った。

 別にアサシンごっことか忍者ごっこがしたかったわけではなく、単純に状況がわからないからこその行動だ。
 赤い人を追う3人組を悪だと断定はできないし、武器を持って追い回していることにもそれなりの理由があるかもしれない。 最悪、赤い人はオレンジ……あるいはレッドで、3人組の彼らはそれを捕縛しようとしているのかもしれないのだ。
 追いかけておいてなにを今更と言われるかもしれないけど、介入するなら慎重にいかなきゃいけないだろう。 幸いなことに彼らが走っている先は袋小路だ。 そこまで行けば状況に動きが見えるはずで、介入はそれからでも遅くはない。

 「ん……」

 そして赤い人が袋小路に飛び込んだ。
 急停止して後ろを振り返って後退り。 その視線の先には武器を構えた男が3人。

 なんだろう。 凄まじく偏見でものを言うけど、非常に犯罪くさい。 赤い人からすれば切羽詰まった状況なのかもしれないと言うのに、外野の僕からすればなんとも言えない陳腐な光景に見える。 主たる原因は男たちが共通して浮かべる醜悪な笑みか。

 「へへ、鬼ごっこは終わりかい?」
 「…………」
 「おうおう可哀想になぁ。 んな怖がんなくてもいいんだぜ? ちょっと俺たちを楽しませてくれりゃそれでいいんだ」

 ……前言撤回。
 陳腐な光景に見える、ではない。 これは陳腐な光景そのものだ。

 「ナンパ……いや、もうちょっと悪質かな。 一歩間違えなくても犯罪だね」

 人の少ない層だからこそこの手の人種がのさばっているらしい。

 とは言えこのまま傍観をしてもいられないだろう。 正義の味方を気取るわけでもなく、とても単純にあの手の人種は嫌悪感しか齎さない。
 赤い人の意思をまるで無視した蛮行は見るに耐えない醜さだ。

 「さて」

 ふと息を吐いてから僕は屋根の上から身を躍らせる。
 空中にいながら隠蔽を解除。 赤い人と3人組との間に降り立った。

 「な、なんだてめえは!」
 「なにって言われるとなんだろうね。 うん、まあとりあえずあなたたちの敵って言うのは間違いないかな」
 「ガキはすっこどるぁ⁉」
 「え?」

 僕は呆然と呟いた。
 いや、別にリーダー格らしい男の奇声に驚いたわけではない。 僕が驚いたのは、背後から僕の髪を掠めつつギリギリで顔の真横を槍が通過して、それが寸分違わず男の顔面に炸裂したからだ。 いやもちろんアンチクリミナルコードの防壁で直撃はしてないんだけど、それでも衝撃(ノックバックに加えて精神的な意味合いを含めての二重の衝撃だろう)で男は尻餅を突く。

 「おじさんたちがこの辺りでハッチャケてる女の敵でいいのかね?」

 ニヒヒとでも笑いそうな声で気取った語り。 切羽詰まった状況にいたはずの彼女が誰よりも楽しげに、そして誰よりも怒っていたらしい。 その声に内在している怒気を察するのは容易かった。

 「いやーアスナから噂は聞いてたけど、まさかホントにいるなんてね。 ワンコを捕まえに来たはずなのに変なの捕まえちゃうとはこれいかに? なーんてね」
 「てめえ、は……?」
 「呼ばれてないのに即参上! 稀代の名探偵にしてアル(スター)流槍術の使い手、ウルトラシィちゃんここに推参!」

 ……あの、帰ってもいいですか? 
 

 
後書き
 コラボ第2弾

 と言うわけで、どうも、迷い猫です。
 今年最初の投稿はコラボ第2弾のお届けです。 いい加減本編やれよとか聞こえない←

 今回はざびーさんの作品、《ソードアート・オンライン 神速の人狼》とのコラボになります。 可愛いケモミミと可愛い幼馴染が可愛い作品なので未読の方は是非(ステマ

 コラボ第1弾が恐ろしく長かったですが、今回はそこまで長くならないといいな!(長くならないとは言っていない)

 今話は顔見せなので本格的な話は次話と言うことで。
 ではでは、迷い猫でしたー 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧