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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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幻影の旋律
  友達とこれからと

 「……ああ、そう言うことね」

 ヒヨリさんの後に続いてリビングらしき部屋に案内された僕は、思わず呟いてしまった。
 今回の思惑の大部分と疑問だった点が一気に解明された気分がしてなんとも微妙な感じだ。 踊らされたと言うかはめられたと言うか……

 「よっ、そんな怖い顔するもんじゃないよ、フォラス。 可愛い顔が台無しだぜ?」
 「って言われてもね。 この手の不意打ちはちょっと楽しくないよ」
 「お前さんに不意打ち云々って文句を言われてもねぇ」

 声に皮肉と毒を思いっきり混ぜて放り投げてみても向けられた人はどこ吹く風。 まるで気にした風もなくニヤニヤ笑いで返された。

 そこにいたのはティルネルさんだけじゃなかった。
 リゼルさんとレイさん、それからニオちゃんの3人が僕を待ち構えていて、その顔を見ただけでおおよその事情を察してしまえるメンバーだ。 アスナさんが3人を見ても普通に挨拶していた辺り、きっとグルなのだろう。 多分と言うか間違いなくリンさんもこの企みに参加している。

 「やっぱりお人好しなのかな、あの人は……今回に限れば別にいいけどとは言えないけどさ」

 僕の吐く息は重い。 この後の展開を予想すると余計に。

 「で、当の本人はまだ来てないの?」
 「血盟騎士団に報告があるんだって。 ボクたちがここにいることは知ってるから終わったら来ると思うよ」
 「……本人には内緒なの?」
 「そりゃこんな詐欺みたいな手口は認めないだろうからね」
 「リーダーはフォラスさんと違って真面目ですから」

 ニオちゃんの意識していないだろう毒が中々尖っている。
 確かに僕は真面目とは言い難いしクーネさんは真面目だろう。 真面目に過ぎるからこの手を思いついたとしても実行には移せないくらいには。
 だからと言って正面からそう言われるとさすがの僕でも傷ついた。 ので、ニコニコ笑顔を向けてみる。

 ニオちゃん。 自分の発言に気付いて目がバタフライを開始。
 僕。 ニコニコ。
 ニオちゃん。 必殺の姐御ガードを発動。
 僕。 沈痛に沈黙。

 そんな心温まる交流をしつつ僕の気分はまたひとつ重くなっていった。

 誰が言い出したのかはわからないけど、クエストでケンカ別れした僕たちを見かねて誰かしらかがこの席を準備したのだろう。
 誰が、なんて言ってみたところで今この場に集まっている面々はみんなが共犯だ。 この場にいないリンさんも含めて、他にどれだけの協力者がいるのやら。
 そう言えば道連れにしようと誘った人たちは全員が全員、まるで示し合わせたかのように予定があったわけだけど、これもきっとグルなのだと思う。
 そもそもの話し、アスナさんの攻略パートナーとして血盟騎士団に所属したままのキリトが攻略を理由に断って、それでいてアスナさんが断らなかった時点で察しておくべきだった。

 「今更クーネさんと引き合わされても話すことはないよ。 僕とクーネさんは違いすぎる。 いや、クーネさんだけじゃなくて、僕はみんなと違いすぎるんだ。 価値観の違いは衝突の火種だし、衝突は迷いの源泉だって、そんなことは言うまでもないことだよね? 迷いは剣を鈍らせる」
 「まあ一理あるわな」
 「そうだね、いい機会だから宣言しておくよ。 僕は人殺しだ。 もしもあの時と同じことがあれば、僕は躊躇なく人を殺す。 何度だって誰だって殺してしまえる。 みんなだってまさか殺人を許容したりはしないよね?」
 「それでもボクたちはフォラスの気持ち、ちょっとわかるよ」
 「わからないよ。 僕の感情は僕だけのものだ。 僕の罪が僕だけのものと同じことでね。 誰かに理解されたいなんて思ったことはない。 クーネさんにも言ったけど、友達ごっこはもう終わりにしよう」
 「……フォラスさんにとっては友達ごっこだったんですか?」

 泣きそうな声はニオちゃんだった。
 見れば悔しそうな表情で唇を噛み締めながら俯いている。 罪悪感を感じるほど上等な人間じゃない僕は容赦なく傷つけるための言葉を選んだ。

 「友達ごっこに決まってるでしょ? ここは所詮ゲームだ。 デスゲームだからと言って、僕にとっては遊びの延長でしかない。 MMOに明るくない人もいるから言うけど、ネットの友達は真実の意味で友達なんかじゃないんだよ。 実際に顔を突き合わせてもいないあなたたちに友情を抱くなんて馬鹿なこと、僕はしない」

 重い沈黙が支配する。
 クーネさんを切り捨てた段階でこうしておくべきだったのだ。 優しくて甘い彼女たちに僕の存在は毒でしかない。 価値観の相違は互いにとって望ましくない結果をもたらすのだから。

 この言葉がどれだけ彼女たちを傷つけてしまうのかはわからない。 もしかしたら傷つかないかもしれないし、傷ついて欲しいなんて思うのは浅ましくて醜い願いだろう。
 それでももし傷ついてしまうのなら、そんな優しさと甘さがあるのなら、彼女たちはやっぱりこれ以上僕と関わるべきじゃない。

 だって僕はただの殺人者なのだから。
 僕と一緒にいれば傷つくことは明白だから。

 だからここで終わりにしよう。

 僕は孤独でいい。 人は1人では生きていけないけど、独りでも生きてはいけるのだから。

 だけど

 「んー、難しいことはわからないんだけど」

 これまで沈黙を守っていたヒヨリさんが言う。

 「友達って一緒のことを考えられなかったら友達じゃないの?」

 それは《お喋りしたらお友達》なんて言うとんでもない理論を掲げるヒヨリさんらしい、無垢な疑問だった。

 「違うことを考えてても、許せないとこがあっても友達でいいんじゃないかな?」
 「……でも、価値観の違いは衝突を生むから」
 「うん。 じゃあケンカしようよ」
 「は?」

 無垢で無邪気で純粋な、真っ白な笑顔は眩しくて怖かった。
 なんてことないように僕の理屈を跳ね除ける。 どれだけ言葉を重ねようと、その全てをたった一言で崩されてしまう、そんな感覚。

 「やなことはやだって、ケンカすればいいんだよ。 私よく燐ちゃんに怒られるけど、燐ちゃんのこと大好きだもん。 たまになに言ってるのか全然わかんないけど、でも大好きだもん」
 「でも……」
 「いけないことしたら駄目だよーって叱るのも友達でしょ? だから、フォラス君がいけないことしたら私が叱ってあげる!」
 「そんな簡単な話じゃない! 僕にとってあなたたちは邪魔なんだ! 友達なんて荷物、僕はもう持ちたくない!」

 拒絶の言葉を吐いた僕に、ヒヨリさんの表情は笑顔から悲しそうなものに変わった。
 そうだ。 それでいい。 僕のように血で汚れた人間とこれ以上関わっちゃいけない。 あなたは綺麗なままでいいんだ。

 でも、ヒヨリさんが悲しそうな表情をしながら、僕のことをまっすぐ見て言った。

 「だったらどうして泣きそうなの?」
 「……え?」
 「フォラス君、泣きそうだよ。 すっごく苦しそう」
 「ち、違う! 僕は、僕はっ!」
 「ホントは友達が欲しいんだよね?」
 「違う!」
 「誰かに甘えたいんでしょ?」

 見透かしたような声に、僕の自制は崩れ去る。
 言ってはいけない言葉。 感じてはいけない感情。 願ってはいけない願望。
 僕のような破綻者には望む資格のないことを、僕は口にしてしまった。

 「だったら! だったら……ヒヨリさんが僕の友達になってくれるの? 甘えさせてくれるって言うの? 寂しいって言ったら慰めてくれるって言うの?」

 我ながら無茶苦茶もいいところだ。 こんなの子供のわがままだ。 支離滅裂で意味の一貫しない、ただの子供のわがまま。
 僕が最も嫌い、僕が最も忌避する、僕の中の醜い部分が露出する。

 「僕は人を殺した。 いっぱい殺した。 いっぱい、いっぱい……。 それでも僕の友達になってくれるなんて、僕を叱ってくれるなんて、そんなことできるわけない‼」
 「できるよ。 いけないことしたら駄目だよって叱ってあげるもん」

 それはもう思考に時間を割いていない即答だった。
 笑顔で、僕の目を真っ直ぐに射抜いて、ヒヨリさんは断言した。

 できる、と。

 僕の友達になると、迷いのない目で言う。

 「それに私だけじゃないよー。 燐ちゃんもティルネルさんもクーちゃんもレイちゃんもリゼルちゃんもニオちゃんもアスナちゃんも、みんな友達だよ!」
 「そうだぜ、フォラス」
 「リゼルさん?」
 「アタイはあんたがしたことは許さない。 だから、今度同じことしようとしたらアタイらが全力で止めて、それから叱ってやる」
 「リゼちゃんのお説教は怖いぞー」
 「おいこらレイてめえ、人が真面目に話してるってのに」
 「この前だってうちの新人さん泣かしてたもんね?」
 「無茶なレベリングしてたんだから当然さね。 危ないことしたら叱ってやんのがアタイの役目だろ?」
 「むしろリゼちゃんのほうが危ない気がするよ」
 「よし表出ろ」

 キャイキャイと楽しそうに言葉を投げつけ合う2人を尻目に、今度はニオちゃんが宣言する。

 「私は(タンク)です。 だから、もしもまたフォラスさんが暴走したら、今度こそ私が止めて(守って)みせます」
 「……ニオちゃんに僕が止められると思うの?」
 「はい。 具体的にはこうして……こうです」

 ギュッと左手を腰だめに構えたかと思うと、キレのある抉りこむようなフックのモーションを実演してみせた。
 それはニオちゃんの十八番である《盾殴術》の使用を宣告しているのだろう。 可愛い顔を顔をしてエゲツない限りだ。

 「フォラスさんはすばしっこいですし、確実に当てるために私がエルフの秘薬を使って動けなくしますね」
 「じゃあボクは脚狙いのソードスキルを連発して足止めするよー」
 「アタイは隠蔽使って後ろからグサッとやるさ」
 「あ、ズルーい。 私も頑張るもん」

 重い空気はもうない。
 僕をどうやって大人しくさせるかの談義に花を咲かせ始めた女の子たちを前に僕がなにを言えようか。 静かに沈黙していると、隣でクスクスと笑う声が聞こえた。
 見ればあの物騒な話し合いに参加していないアスナさんが楽しそうに笑っている。

 「……なに?」
 「ふふ、みんなお人好しだね」
 「だね。 僕みたいなのと友達でいようなんて馬鹿だよ」
 「みんなフォラス君のことが好きだからだよ」

 きっとそうなのだろう。
 自惚れなのかもしれないけど、僕はこれだけ多くの人に好かれているらしい。 友情を向けられているらしい。

 その想いが重い。
 でも、それ以上に嬉しかった。

 結局僕は誰かと繋がってないと生きていけない寂しがり屋みたいだ。 わがままな子供のまま、なにも成長していない。
 それでも彼女たちはそれでいいと言ってくれて、それがどうしようもなく嬉しかった。

 「ねえ、アスナさん。 クーネさん、許してくれるかな?」
 「きっと許してくれるよ。 ちゃんと謝れば、きっと」
 「なんて言えばいいと思う?」
 「んー、『色々ごめんね。 これからもよろしく』、とかかな?」
 「そっか」

 そんな簡単なことでよかったんだ。

 「じゃあ、素直に仲直りしてみるよ」






 そして30分後。

 「フォラス、君……?」
 「えっと、この前は色々ごめんなさい。 これからもいっぱい迷惑かけちゃうと思うけど、もしよかったらこれからもよろしくお願いしたい、とか思ってるんだけど……駄目、かな?」
 「駄目です」
 「あ……ん、うん、そうだよね、虫が良すぎたよね……ごめん」
 「嘘。 許します。 だからもう、友達ごっこなんて、そんな悲しいこと言わないでね?」
 「うん。 もう言わない。 絶対に言わないから」

 僕とクーネさんはなんだかんだありながら仲直りに成功した。
 だから、今回の話しは文句なしのハッピーエンドだ。



 「ところでフォラス君。 なんで巫女装束なんて着ているのかしら?」

 あの、クーネさん……綺麗にオチをつけたんだからそのまま終わらせてよ…… 
 

 
後書き
 長く続いたコラボ最終回。
 と言うわけで、どうも、迷い猫です。
 前回の後書きで「コラボは後2話」と言ったがあれは嘘だ!←おい

 と言うのも、この後に予定していたのはアマリちゃんとリンさんのキャッキャウフフ(意味深)なデート回だったのです。
 爆裂魔法少女、ナイチチ☆アマリちゃんとリンさんのデートはとてもとても楽しいことになりそう(少なくとも片方は絶対に嫌がるだろうから余計に)だったのですが、これ以上リンさんイジメをするのは忍びなくなった次第です、はい。
 ちなみに前話での再会もプロット段階では(リンさんの胃がマッハという意味合いで)恐怖の鬼ごっこ回だった予定だったりして。 やっぱり主人公は優しく愛でないといけませんよね←
 まあ、ぶっ殺されかけたり、壁ドンされたり、床ドン顎クイされたり、番外編ではスカート覗きの実行犯にされたり、そんな八面六臂な活躍をしてくれたリンさんに対する放置プレイ……もとい、愛なのです。

 真面目な理由としては、今話でなんだかんだコラボ内での伏線は回収し終わったことに加え、割と綺麗に纏まったところにカオス極まるデート回を置いて終わらせるのがちょっとなーと思ったわけです。 それともうひとつ、実はこちらのほうが切実で、アマリちゃんがフォラスくん意外と2人きりで長時間話すと色々まずいレベルのネタバレが連発してしまい、泣く泣くカットと言う事情も。

 さてさて、こんなにコラボが長く続いたのは私にとっても予想外でしたが、とても楽しかったです。
 次話ではコラボに関する後書きをつらつら書き連ねますので気が向いたら読んでみてください。 ここだと文字数が足らんのじゃよ……

 ではでは、迷い猫でしたー 
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