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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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幻影の旋律
  決別

 予定調和の集団デュエルを終えた僕たちは、特にどこに寄り道をするでもなく、色々な問題を抱えたままの僕らは今回のクエスト、《鍛冶師の願い》の依頼主であるヴェルンドさんの元に向かった。 そもそもが2人限定クエストだったのでクーネさんたちを連れて来てヴェルンドさんに会えるかどうか微妙ではあったけど、それはどうやら杞憂だったらしい。 まあ、途中合流が認められた時点でそうなるだろうとも予想していたので、特に驚くことではない。

 クエスト報告も特筆する何かがあったわけではなく、取り返した魔剣を含む財宝類の返還もスムーズに終わった。
 リンさんたちを見た瞬間、ヴェルンドさんが殺気立った気がしたけど、それはなんでも宝物庫から財宝類を盗み出してケクロプスさんの元に届ける際、一度交戦しているかららしい。 つまり、僕たち側のクエスト受領時に負っていたヴェルンドさんの怪我はリンさんたちが犯人だと言うことだ。
 終始リンさんたちを無視し続けていたのは、そう考えれば仕方のないことだろう。 まあその辺りのあれこれは僕とは無関係なので首は突っ込まない。

 で、現在。
 クエストを終えてからダンジョンを出る道中、明らかに重い雰囲気になっていたクーネさんが気になったけど、僕が何かを突っ込める立場ではないので自重。 と言うか、ヒヨリさんとの交錯の際に起きた事故についての釈明で手一杯になって、正直そこまで頭が回らなかったのだ。
 リンさんは恐ろしいくらい剣呑な視線でこちらを射殺さん勢いだし、アマリに至っては白々しいくらいの無垢な笑顔だった。 唯一の救いはヒヨリさん自身がまるで気にした様子もなくあっけらかんとしていることだけど、むしろ責められたり罵られたりしないほうが辛いとか、これも僕の立場からは何も言えない。

 「で、リゼルさん。 あれはどうするつもりなの?」
 「あん? あー、リーダーの悪い癖だからね。 アタイらにはどうにもできないさ」
 「薄情者」
 「そう言うならあんたがなんとかしてきなよ。 それとも怒ってるのかい?」
 「まさか。 自業自得だって言う自覚ぐらいはあるよ」

 自嘲気味に笑うとリゼルさんも苦笑いで肩を竦める。 ほっとくと『やれやれだぜ』とか言いそうなリアクションには思うところがあるけど、突っ込んでも藪蛇になる未来が見えているので沈黙。 代わりにため息を吐いて後方を見遣った。
 と、後ろを無言で歩くクーネさんと目が合って、けれど、すぐに逸らされてしまう。 生真面目で優しく、穏やかでありながら芯の強いクーネさんらしからぬ行動は、そのまま気まずさの指標だろう。
 どうやら余程許せないらしい。
 それが、《ヒヨリさんに酷いことをしようとした僕》に対する怒りではなく、《僕であればそんなことをしないと信じることのできなかったクーネさん自身》に向けられているのだから本当に始末が悪い。 そう言うところがクーネさんらしいと言えばらしいところではあるけど。

 「あーもう……リゼルさん、前言撤回」
 「あん?」
 「ちょっと行ってくるから後はお願いね」
 「おう、任せときなね」

 即答の了解に苦笑しつつ、その場でターン。 首を傾げるアマリの頭を軽くひと撫でしてから、スタスタとクーネさんに歩み寄る。
 とっくに気がついているだろうし、僕とリゼルさんの会話は何も小声でやっていたわけでもないので当然聞こえていたはずなのに、それでもクーネさんはこちらを見ようとしない。 頑なに、あるいはいじけたように。 僕に非があるとは言え、その行動にイラっとしたので、俯いたままの頭を軽く叩いた。

 「へぶっ……」
 「……ちょっとこっち来て」

 突然漏れた可愛い悲鳴に少しだけドキッとしながらそれを必死に隠して、努めて淡々と言う。
 無言で頷いたクーネさんを先導するように、先を行くみんなとは違う道に入る。 あの隠しダンジョンは環状構造だったからこうはいかないけど、ヴェルンドさんがいるこのダンジョンは普通に入り組んだ構造なので脇道に逸れ放題だ。
 ダンジョンから出るだけなら向こうのメンバーだけでも余裕だし、アマリの相手もリゼルさんたちがやってくれるだろう。 普段であればアマリが最優先だけど、今はクーネさんをなんとかしないといけないし、そこは我慢といこう。 ……後が若干怖いとか、気にしたら負けだ。

 適当に歩いて数分。
 幸いなことにモンスターに出くわすことなく目的地に到着した。
 そこは、ダンジョンの中央に位置する開放部。 中庭、と言う雰囲気がぴったりだろうここは、薄暗いダンジョンの中にあって日が差し込み、適度に木々が生え、草花が地に彩りを添えている。
 一応は安全地帯扱いらしいけど、そもそも人気の少ない層にあるダンジョンの入り組んだ先にあるため、ここまでくるプレイヤーはかなり少ないだろう。 人気のない場所にクーネさんを連れ込んだ、なんて知れたら攻略組の面々に袋叩きに遭いかねない所業だ。

 「……さて、少し話そっか?」

 そんな恐怖の未来を振り払って、僕は適当な倒木に腰掛けると隣のスペースを示して言う。 ここまでくれば諦めたのか、特に抵抗するでもなく座ったクーネさんは、それでもまだ観念していないのか、一向に無言のままだ。

 「ねえ、クーネさん」

 生憎と腹芸は苦手な僕だ。 寄り道も雑談もせずにさっさと本題に入ってしまおう。
 結果、大切な友人を失おうとも、ここでクーネさんの迷いを断ち切っておかないと攻略に響きかねない。 今の状態のクーネさんを放っておけば、ちょっとした戦闘で死んでしまいそうだしね。

 「クーネさんはあの時、僕がヒヨリさんを殺そうとするんじゃないかって、そう思ったんでしょ?」
 「ーーーーっ、それはっ」
 「誤魔化さなくていいよ。 それに、そう思われて当然だしね」

 我ながら情けないくらい自嘲の伴った口調だ。 意外なことに、どうやら僕は結構本気で傷ついていたらしい。 それでもクーネさんを責められるわけもない。

 「クーネさんは僕たちのことを庇ってくれたし、擁護もしてくれた。 攻略組から追放された僕たちに色々と便宜を図ってくれたのも感謝してるし、攻略組に戻った僕たちを真っ先に受け入れてくれたことも感謝してる。 でも、でもさクーネさん。 クーネさんは僕がしたことを許してはいないんだよね?」
 「…………」
 「『気持ちはわかるけど認められない』かな? 『罪に問うつもりも罰を与えるつもりもないけど、絶対に許しはしない』とか、そんなところだよね?」
 「……ええ」
 「ふふ、クーネのそう言う真面目なところ、結構好きだよ。 糾弾しない残酷さを知ってるはずなのに何も言わないクーネさんの優しさと厳しさも好き。 僕のことを信じようとしてくれる甘さも好きだし、でも結局信じられなくて落ち込む繊細さも好き。 うん、好き」

 端から聞けば愛を囁いているように聞こえるかもしれないけど、僕が言う《好き》の意味合いは恋慕からは最もかけ離れている。 聡明で感情の機微に聡いクーネさんはもちろん簡単に察したのだろう。 悔しそうに下唇を噛んで、けれど何も言わない。

 「知ってると思うけど、ここは安全地帯だからモンスターは出てこないし、人もまず来ない。 何をするにしてもここは最適なんだよ」」
 「待っーーーー」
 「僕は僕の罪を誰よりも知ってる。 僕が友達なんてものを求める資格がないことも知ってる。 ……クーネさんたちに甘えて友達を続けてきたけど、多分ここが限界だよ」

 我ながら冷たい声音だと思った。
 この先を口にすればクーネさんを、クーネさんたちを傷つけることになると思うのは自惚れだろうか? そうあって欲しいと言う醜い願望が頭の片隅をよぎり、それでも傷つかないで欲しいと思うのはわがままなのだろうか?
 けれど、ここが限界だ。 これ以上僕のような異常者の友達を続けるのは、ここまでが限界だろう。

 僕と友達であり続ければ、今回のようなことがまた起こる。 価値観の違いが精神を蝕み、疲弊させ、迷いを生む。 この世界で迷いとは最悪の劇毒だ。 迷いを抱いたまま戦うのは自殺行為に等しい。
 クーネさんたちが傷つくさまは見たくない。 だからこそここで断ち切るしかない。

 「僕はね、クーネさん。 何人も人を殺した。 そこに罪悪感はないし、後悔もしていない。 これから先、もしも同じ状況になったら、何度だって人を殺す。 何人だって殺せる」

 宣誓。 と言うには些か血生臭い宣言をここでしておこう。

 「僕は僕の敵に容赦をしない。 僕の敵になり得る人間は排除する。 たとえそれで攻略組から追放されようと、クーネさんたちの敵になろうと、僕の意思は揺るがないよ」

 ひとつ息を吸って、僕は最悪の言葉を投げた。

 「僕はもうここまで破綻してるんだ。 だからもう、友達ごっこは終わりにしよう」

 クーネさんが伸ばした手から逃げるように立ち上がって、僕は最後の言葉を突き刺した。

 「さようなら、クーネさん」












 「……って言う話しをしてただけだよ。 誓って浮気なんてしていませんとも。 だからとりあえずそれを降ろしてくれないかな?」

 オレンジ色のカーソルを頭上に灯したままのアマリが、そこでようやく構えていた《でぃーちゃん》を降ろしてくれた。

 クーネさんを安全地帯に放置して他のメンバーと合流した時点でリゼルさんたちは何があって何を話していたのか察してくれたらしく、無言のまま来た道を引き返していった。 クーネさんを回収しに行ったのだろう。
 空気が読めないのか読まないのか定かではないヒヨリさん辺りは何があったのか僕に聞こうとしていたけど、リンさんがその首を掴んで引き摺って行ったので説明する手間がかからなかったのは幸いだった。 リンさん、グッジョブ。
 これでクーネさんたち《片翼の戦乙女》からは敵対視されるだろうし、リンさんたちからも同様だろう。 平穏無事な幕引きとは言えないものの、これが最も後腐れのない方法なのは確かだ。 僕のような異常者は、健全なあの人たちの敵でなければならないのだから。
 あの人たちの敵になるだけであって、僕の敵ではない。 救いがあるとするならばそれくらいだ。

 「それにしてもアマリ。 ずいぶんなイメチェンだね。 何か心境の変化でもあったの?」

 自業自得でしかない微妙な気分を変えるようにアマリに問いかける。
 それを抜きにしても合流した時からずっと気になっていたので、ここで聞いてしまいたかっただけだ。 決して思考放棄ではない。 なんて、誰に向けているか定かでない言い訳を構築しておこう。

 いや、だって気になって仕方がないと思う。
 アマリ自慢の桜色の髪が初めて会った頃のような黒になっているし、僕が仕立てた覚えのない丈の長い白のワンピースを着ているし、夏でもないのにつばの広い麦わら帽子まで被っているのだから、気にならない方がどうかしていると言っていいはずだ。
 淡い桃色のストールカーディガンを羽織った姿はどこかの令嬢のような上品さを醸し出していて、シンプルな仕立てのワンピースと大人しめのミュールがそれに拍車をかけている。 惜しむらくは素足ではなく白いストッキングを履いていることだけど、そんな些事がどうでもよくなるくらい似合っているとここに明記しておく。 もっとも、手に持ったままの《でぃーちゃん》が微妙に台無しにしている感はあるけど。

 「あはー、リゼルの姐御がくれたですよー。 『変装の必要があるさね』って言ってたです」
 「ん、ああ、そう言うことね」

 短い問答で色々と納得だ。
 僕とアマリは現在、言い訳の余地もなくオレンジプレイヤーだ。 当初の予定であればカルマ解放クエストを受けるまでクーネさんたちが同行するはずだったので問題はなかったけど、今は肝心のクーネさんたちがいない。 つまり、僕たちの潔白(アマリは明らかに有罪だけど)を証明してくれる人がいないので、誰かに見られたら大問題間違いなしだろう。

 それでも僕はまだ普段から変装しているし、ストレージにもいくつか変装道具があるのでなんとかなる。 本気で変装すれば僕を男だと認識することはできなくなり、そうなれば僕の身元が割れることはないと言っていい。 こう言う時、性別が曖昧な外見は便利だ。
 問題はアマリで、桜色の髪は良くも悪くもかなり目立つ。 桜色の髪=アマリと認識されてもおかしくないくらい、その桜色は有名なのだ。 故に変装する場合、まずは髪色をどうにかしないといけない。
 《小さな子を着せ替え人形にする》と言う犯罪スレスレどころか明らかに犯罪臭がする理由で常備していたであろう髪の染色アイテムを使ってくれたのは、この場合で見れば幸運だ。 ついでに言えば趣味に走りすぎないで無難に纏めてくれたこともありがたい。
 友達として、と言うよりはお針子としての仕事に対する報酬は後でアルゴさんを通して払うことにしよう。 少なくとも、もう以前のように会うことはないだろうしね。

 「ほんと、いい人たちすぎるよ……」
 「ですです?」
 「あの人たちがさ、いい人たちすぎるなーって。 僕が持つには不相応な友達だったね」
 「あはー、今更すぎるですよー」
 「だね。 高望みがすぎたんだろうね。 だから破綻した。 自業自得としか言いようがないよ」
 「寂しいですか?」
 「ちょっとね。 けど、仕方ないよ」

 言って、僕はアマリの手を握る。
 いつもの熱が僕の思考を溶かしてくれる。 胸の中に渦巻いていた寂寥感と罪悪感を全部、全部溶かしてくれる。
 トロトロに、トロトロに。

 「僕はアマリがいてくれればそれでいい。 今回のデートはそれを実感するためにあったんだろうね、きっと」

 ーーオマエのみたいなイカれた野郎が友達なんて持てるはずがねえだろう?
 ーーイカれたオマエはイカれたオレたちの仲間だ。
 ーーなあ、兄弟?

 「うるさいよ……」

 幻聴に小さく返して、僕は更にアマリの手を強く握る。
 アマリはいつも通り緩く笑って僕の手を握り返してくれた。 それもまた、いつも通りに。
 だから僕は笑った。 いつも通りに、ニコリと、笑ったのだった。 
 

 
後書き
 クーネさん意気消沈回。
 と言うわけで、どうも、迷い猫です。
 久しぶりの更新すぎて読者の方々に忘れられていないかとても心配です。 ええ、フォラスくんばりの自業自得です。

 さてさて、今回はクエスト報告……のつもりがそれをオールカットしてフォラスくんがクーネさんをいじめています。 他作者様のオリキャラに対して酷い言いようですね←おい
 途中途中にシリアス展開とギャグ展開とを混ぜ込みながら進んできた今回のコラボの中でも特にシリアス要素が強めですが、実を言うと私はこう言う暗くてウジウジした話しが大好物なのです。 一般的なコラボではあり得ない展開でしょうが、そこは優しく見守っていてください。

 これでコラボ本編は終了ですが、これからコラボ短編が始まります。
 ギャグ展開です。 (主に私が)待ちに待ったギャグ展開がメインとなります。 もちろん、今話の内容を引き継ぎつつ回収していく短編もありますが、とりあえずはギャグです。
 と言うことで、コラボはまだまだ続くのじゃ←おい

 ではでは、迷い猫でしたー 
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