| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

幻影の旋律
  狂気乱舞

 「多分、向こうは戦力の分断を図ってくると思う。 まあ、いつも通りの手だし、よくある手だけど、それでもその手が最も有効なのは間違いないからね」
 「あはー、そんなの関係ないですよー。 邪魔する奴は全部ぶっ殺すです」
 「いや、今回はぶっ殺すのはなしね。 殺さないって言うのは絶対条件。 これは譲らないよ」
 「うー、わかったですー……」

 明らかに不満そうな返事に笑いながら僕は考える。

 クーネさんたちがどう思っているのかは知らないけど、今回の遊びは僕たち側が圧倒的に不利だ。
 単純な頭数の差もそうだし、個々人のステータスだって言うほどの差はない。 むしろ色々な面で振り切れている分、向こうが優れている部分が多いだろう。

 単純な敏捷値であれば僕はヒヨリさんに勝てないし、単純な筋力値であればアマリはニオちゃんに勝てない。 指揮能力はクーネさんに劣り、攻撃のバリエーションではリンさんに劣り、隠密性ではリゼルさんに劣り、毒薬類の多彩さではティルネルさんに劣り、連携を考えた立ち回りではレイさんに劣る僕たち。
 過去何度も繰り返してきたクーネさんたちとの模擬戦での勝率は8割を超えるけど、だからと言って余裕で勝っていたわけではないのだ。 あるいはクーネさんはそう思っているかもしれないし、そう誤認するように僕は余裕を演出したりしていたものの、いつだってギリギリの勝利だった。
 今回はそこに3人の手練れが追加されている。 正直に言って勝算はかなり薄いだろう。

 「まあでも、今更キャンセルするつもりもないけどね」

 向こうが僕たちの戦闘スタイルを熟知しているように、こちらも熟知しているのだ。 追加された3人の戦闘スタイルも今までの戦闘で大まかには掴めている。 なら、それらを念頭に置いて策を練るだけだ。

 クーネさんは全体を見渡して指揮を執るのが抜群に巧く、それでいて剣士としても有能であるから相手にするのは大変だ。 敏捷値優位のバランス型片手剣士。 付け入る隙は少ないけど、様々なポジションをそつなくこなすと言う役割上、突き抜けた《何か》を持っていないのが隙と言えば隙だろう。 《武器防御》スキルから派生した《受け流し補正》と《叩き落とし補正》は要注意。

 レイさんは長物武器の利点であるリーチの広さと各種デバフのばら撒きを活かした足止めが脅威。 リーチの長さを逆手に取って懐に飛び込んでも《体術》スキルによって迎撃されるのがオチなのでやっぱり危険だ。 クーネさん同様に《受け流し補正》と《叩き落とし補正》にも警戒が必要、と。

 リゼルさんは高速隠密機動が危険すぎて泣けてくる。 索敵が使える普段の状況でさえ手を焼くのに、索敵を使えない今となっては泣く暇すらないと言うとんでもぶりだ。 使用武器がリーチの短い短剣だからと言って油断はできない姐御は、問答無用で要注意危険人物である。

 ニオちゃんは最早言うまでもないほど鍛え上げられた硬度と、《盾殴術》によって生み出される瞬間火力はもう笑いたくなるくらい危険だ。 僕のような軽装プレイヤーにとっては最も相手取るのが難しく、それでいてアマリの攻撃すらをも受けきってしまうので、実を言うと僕たちからすれば非常に相性の悪い相手だ。

 リンさんに関してはまずその戦闘のバリエーションの多さを警戒しないといけない。 《片手剣》《体術》《投剣》によってほぼ全ての距離に対応可能なスキル構成に加え、本人のプレイヤースキルもかなり高い。 おまけに突発的な事態に対応する頭の柔軟さまで持っているのだから、本当に厄介な相手だ。

 ヒヨリさんは僕以上のスピードとアマリに匹敵せんばかりの瞬間火力を有する化け物……失礼、傑物。 正面からやり合えばまだどうにかできるけど、集団戦になればあの厄介さは言うまでもない。 レイさんとかリンさんとかに足止めされている隙を狙われたら僕でさえ対応できないだろう。

 ティルネルさんに関して言えば毒薬類もそうだけど、やっぱり問題になるのは《弓術》による遠距離攻撃だ。 そもそも彼女しか使えないスキルだし、当然のように公開されていないそれは、僕を打倒する上での切り札になり得る。 危険度で言えば最高値だ。 最優先で潰さないと。

 こうして7人を並べてみると圧倒的だ。 多く見積もっても勝算は1割あるかないか……
 まあ、それは今の状態であれば、だけどね。

 クスリと笑ってアマリを見る。 何もわかっていないだろうアマリに僕はひとつのお願いをした。











 「ルールはもちろん初撃決着よね?」
 「当然だよ。 オプションは集団戦闘の初撃決着。 時間制限はなし」
 「つまり、いつものね」

 ふうと息を吐いて、クーネさんはメニューを操作する。
 集団戦闘のオプションは攻略が50層を越えたところで実装された仕様だ。 ギルド間抗争を想定して、ではなく、アラームトラップでモンスターに囲まれた状況の対処を学ぶために作られたものだろう。 実際、アラームトラップの出現数は目に見えて上がったので、割と有効活用されていたりする。

 「ああ、そうそう。 アマリの《爆裂》だけど、直接攻撃に使ったりしないから安心してね」
 「……それはいつもの嘘かしら?」
 「いやいや、これは本当だよ。 だって、全力で《爆裂》を使ったら死人が出ちゃうしね」
 「……みんな、聞いたわね。 フォラス君が言うことは嘘ばかりだから絶対に信用しないように」
 「うわ、ちょっと傷つくかも」
 「心理戦や揺さぶりはフォラス君の真骨頂でしょう? 警戒して当然です」

 ツンと澄ましたクーネさんの対応は、僕を相手にするのなら当然のものだろう。 なにしろ前科の数が違う。
 ある時は心渡りを使わないと言っておいて使ったり、ある時は体術しか使わないと言っておいて毒を使ったり、そんなことばかりしているので信用されなくて当然だ。

 ニコリと笑いつつ相手の配置に目を配る。 どうやら予想通り、こちらの戦力を分断するつもりらしい。
 ニオちゃんとリゼルさんがアマリに対してさりげなく視線を送り、他のメンバーが僕の挙動を警戒している。 本人たちは気づかれないようにしているつもりのようだけど、僕から見ればバレバレだ。

 だからこそ、付け入る隙がある。

 普段のニコニコ笑顔の仮面で隠してほくそ笑みながら、僕はアマリに視線を投げ、それからデュエル申請を受諾した。
 直後に始まるカウントダウンを尻目に、警戒しているクーネさんたちを見る。 ここまでくれば後はなるようになるだけだ。 策はあるし、打てるだけの手は打ったし、何より仕込みは万全だ。
 クーネさんたちと合流してから今までの長い間、まさか僕が何も仕掛けていなかったなんて、そんな甘いことを考えているようなら勝ちは譲らない。

 さあ、遊び(お楽しみ)の時間だ。










 指揮官であるクーネは段々とゼロに近づくカウントを、もう全く見ていなかった。
 見る余裕なんてない。 一瞬でも目を離せば、気を逸らせば、意識を集中させなければ、フォラスを捉えることは叶わない。 いや、たとえ目を離さずとも、気を逸らさなくとも、意識を集中させていようとも、フォラスの心渡りの前では無力だろう。
 それはそこまで恐ろしい絶技なのだ。
 誰の目にも映らず、誰の気にも触れず、他者の集中を手玉に取り、《意識の空白》を渡る技。
 その原理の説明を細かく受け、それどころか実技のレクチャーまで受けたと言うのに、クーネたちの誰もが《心渡り》修得には至らなかった。 そして看破することさえままならない。
 唯一取れる対抗手段は、だから、《心渡りを使われる前に物量で押し切る》と言う、おおよそ策とは言えないようなものだけだった。

 『圧倒的に不利な状況でも弱気にならない。 それは対人戦に限った話じゃないけど、対人戦では特に重要だよ』

 ふと思い出すのは、柔らかな微笑と共に言われたフォラスの言葉。
 それは何回目だかの模擬戦の後。 1対4の状況でさえ手をこまねいていた頃の話しだ。

 『弱気になれば相手に呑まれる。 相手に呑まれれば活路は絶たれる。 指揮官のクーネさんが呑まれればパーティー全滅だってあり得るんだよ? 常に冷静に、常に活路を探り、常に前を向き、常に先を見る。 それができないならチームのリーダーとしては落第だね』

 妙に実感の篭った忠告を、あるいは叱責をクーネは今でも鮮明に覚えている。
 目の前でニヤニヤと、本人曰くニコニコと笑うフォラスを見て、そしてクーネはひとつ息を吸った。

 錬れるだけの策は練った。 打てるだけの手は打った。 ならば、後はなるようになるだけだと、フォラスと同様に思考を締めたクーネの前で、その決意を嘲笑うかのように悪魔(フォラス)が動く。
 ユラユラと。 ユラユラと。
 そして悪鬼(アマリ)が嗤う。
 狂的に、狂々(あっはぁ)と嗤う。

 どうあっても逃げられない戦いの開始まで後5秒。

 フォラスが1歩踏み出した。

 4秒。

 警戒したクーネたちが身構え……

 3秒。

 アマリが斧を振りかぶり……

 2秒。

 フォラスがポーチからひとつの小瓶を取り出し……

 1秒。

 クーネたち全員が警戒のランクを最大まで引き上げ……

 爆音と衝撃波がデュエル開始を報せる閃光さえも吹き飛ばす。 同時にフォラスの姿が完全に消えた。

 「ーーーー!」

 クーネの指示は爆音に塗り潰されて誰にも届かない。 直後に響く軽い金属音が数箇所から届くが、そこを見ても誰もいない。 あるのはフォラスが愛用しているピックだけ。
 しまったと思う間もなく、トンと軽やかな着地音をクーネは聞いた。 その音をクーネが聞けたのは《心渡り》を何度も見てきたから、ではない。 単純にクーネが渡る対象ではなかったからだ。
 《心渡り》はそもそも対個人向けの技であり、その対象以外の《意識の空白》を渡ることも可能だが、その精度は落ちるらしい。 現に渡る対象であったであろう()()()()()は背後に降り立ったフォラスに気づいていない。

 「まずは1人……」

 そんな楽しそうに笑う悪魔の囁きをクーネは確かに聞いた。 
 

 
後書き
 ラスボス戦開始回。
 《チーム・リンさん》と《クーネさんと愉快な仲間たち》によるラスボス討伐がいよいよ始まりました。
 開始早々に悪魔(フォラスくん)が薬師のエルフを背後から不意打ちしています。 超逃げて。
 しかし、こうして見るとこの小説の主人公はどっちなんだと言う話しですね。 個人的にはクーネさんが候補筆頭で、次点にリンさんですか←おい

 さてさて、次回はなんとびっくりあの人の活躍と、フォラスくんがしたアマリちゃんへのお願いが明らかになる、かも……

 ではでは、迷い猫でしたー 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧