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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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幻影の旋律
  暫定パーティー結成

 最強ギルドはどこか、と言う問いに、僕は迷いなく血盟騎士団だと答えるだろう。
 あそこの構成メンバーは殆どがハイレベル剣士であり、その答えは大体のプレイヤーが等しく共有しているはずだ。
 ならば、最も尊敬しているギルドはどこか、と問われれば、やはり僕は迷いなくひとつのギルドの名を挙げる。

 浮遊城アインクラッドに於いて、彼女たちはかなり有名だ。
 女性プレイヤーのみで構成された攻略ギルド。 その精鋭たちは最強ギルドである血盟騎士団の幹部に引けを取らず、攻略組でも一定以上のポジションを獲得している。

 ギルドの発足時は行き場をなくした女性プレイヤーの救済の場だった。
 SAOは男女比が甚だしく不均衡で、だからこそ女性プレイヤーの立場がかなり弱い。 中にはどこぞの副団長様のように最前線で戦える最強剣士もいることにはいるけど、誰もがあの人のように戦えるわけでもない。
 デスゲームの恐怖に怯え、様々な犯罪行為の標的にされかねない女性たちを救うため、そのギルドは誕生した。

 《片翼の戦乙女》

 攻略ギルドにして、中層ゾーン以下のプレイヤーを支援するギルド。 その存在は女性プレイヤーにとっての救いであり希望。
 僕はそんな彼女たちを心の底から尊敬している。
 まあ、躊躇いなく攻撃しておいて説得力はないだろうけど。

 「……麻痺したヒヨリちゃんを攻撃範囲外に逃れさせるために柄で突いてオレンジ化した、って言うことでいいのかしら?」

 で、現在。
 《片翼の戦乙女》ギルドマスター、白銀のお姉さんことクーネさんは、僕の説明を聞いてそう言った。 尖った目線込みで。
 もっとも、それで恐れをなす僕でもないので、ニコリと笑って肩を竦める。

 「そう言うこと。 それから狼男を麻痺させてここまで撤退。 そろそろ麻痺が回復するだろうから、その辺りはあっちの2人に確認してみれば?」
 「……いいわ。 信じましょう」
 「そんな簡単に信じていいの?」
 「いいのよ。 フォラス君を信じているもの。 でも、ああ言うのはこれっきりにしてくださいね?」

 可愛らしく首を傾げたクーネさんは、そこでようやく視線をいつも通りの柔らかいものに変えてくれる。
 さっきのあれは、元はと言えばいきなり斬りかかられた反撃から始まったことなので大目に見てくれるらしい。 さすがは《片翼の戦乙女》のお母さんだ。
 なんて、そんなことを言おうものなら怒られることは必至だけど。

 「アスナから聞いたよ。 仲直り、できたんだって?」
 「ん? うん、そうだね」
 「そっか。 良かったね」
 「うん」

 素直に頷いた僕に、まるで弟でも見るかのような生暖かい視線を投げてくるクーネさん。
 無性に恥ずかしくなってそっぽを向くと、クスクスと笑われてしまう。

 そう言えば、この人は前からそうだった。
 狂気に惑い、復讐に明け暮れていた僕たちを責めるでもなく、ただ見守り続けてくれていた。 復讐をやめて攻略組に戻って迎えた最初のボス攻略の際、誰もが敬遠する中で僕たちをパーティーに誘ってくれたのもクーネさんだ。

 ギルド内に反対意見だってあっただろう。 ギルドの立場を危ぶませる可能性だってあっただろう。 何も言わなかったけど言いたいことだってあっただろう。
 けど、クーネさんは……《片翼の戦乙女》の創立メンバーである4人は、何も言わずに僕とアマリを受け入れてくれた。
 いつものように笑って、『おかえり』の一言だけで……。
 だからこそ僕もアマリも素直に言えたんだ。 『ただいま』と。

 そっぽを向き続ける僕の頭を、クーネさんがポンと叩く。
 それが無性に嬉しくて恥ずかしくて、僕は無言のまま更に顔を背けた。 そんな僕をクーネさんはまた笑うのだった。
















 「さっきは助けてくれてありがとね。 私はヒヨリって言うんだ。 よろしくね」
 「ティルネルです。 ヒヨリさんを助けて頂いたのに疑ってしまって申し訳ありませんでした」
 「あー、いいよ別に。 目の前で死なれたくなかっただけだし、あの状況なら疑って当然だしね。 えっと、僕はフォラス。 よろしく」

 と、ようやく解毒の終わった白のお姉さんと、終わるまで傍を離れなかった黒のお姉さんの2人は、ようやく落ち着いた状況で自己紹介を始めた。 ボス攻略で顔は知っているし、色々な情報を収集している僕にしてみれば必要のないことだけど、それでも自己紹介は交流の基本だ。 その流れに乗って僕も名乗る。

 ちなみに、ペコリと元気よく頭を下げるヒヨリさんの首から下にある部位がタフンタフン揺れているけど、とりあえずさりげなく目を逸らしておく。 ティルネルさんの装備は身体のラインが露骨にわかるので、そちらからも目を逸らした。

 「さて。 お姉さんたちも動けるようになったみたいだし、僕はもういくね」
 「いくって、どこにいくの?」
 「とりあえずは放置してきた武器の回収。 それからアマリと合流しないと」
 「アマリ?」
 「うん、アマリ。 僕の攻略パートナーで愛する妻。 《惨殺天使》って言った方が通りがいいかな? 一緒に来てたんだけど、途中ではぐれちゃってね」

 正確には別々に転移されたわけだけど、そこまで細かく話す必要もないだろう。

 肩を竦めた僕は、クーネさんたちに一礼してから踵を返す。
 イレギュラーかつ緊急事態だったので仕方がなかったとは言え、僕は攻略組との接触が禁じられている身だ。 これ以上ここに留まる理由もないし、雰囲気を見ている限りクーネさんたちとヒヨリさんたちは元々パーティーを組んでこのダンジョンに挑んでいたらしい。 それならば、やはり僕はいない方がいいだろう。

 そう考えての行動だったけど、僕と然程変わらない背丈のヒヨリさんに手を掴まれ、それは一歩を踏み出す前に止められる。

 「えっと、何かな?」
 「私もいく」
 「はい?」
 「だって、私を助けるために武器を落としちゃったんでしょ? だから、私も手伝うよ」
 「いや、ちょっと待って。 いやいや、かなり待って。 さっきも言ったけど、ヒヨリさんを助けたのは目の前で死なれたくなかっただけで、だからそこまで恩義を感じられても困るよ。 それに、武器を回収するにはあの狼男と再戦しなくちゃだろうし、そうなったらまた危ない目に遭うかもしれないんだよ?」
 「でしたら尚更です。 そのような危地に丸腰で挑もうとする人を放っては置けません」
 「だから……あー、もう、わっかんない人たちだね。 クーネさんからも何か言ってあげてよ」

 眩しい笑顔と穏やかな笑顔で同行を宣言するヒヨリさんとティルネルさん。 その表情から2人とも物腰が柔らかいくせに曲がらない意思を垣間見て、クーネさんにヘルプを出した。
 クーネさんは攻略ギルドのトップと言う立場上、僕に下された処分を詳しく知っているだろうと推測しての救援要請だったけど、それはアッサリと切り捨てられる。

 「もちろん、私もいくわよ」
 「わ、私もいきます……」

 予想外すぎる言葉に固まっていると、クーネさんは微笑を真剣な表情に切り替えた。

 「聞いている限りその狼男は強敵なのよね? だったら戦力は多い方がいいと思うけれど?」
 「そりゃまあそうなんだけど、でも、クーネさんだって知ってるでしょ? 僕は今、攻略組との接触が禁じられてるって」
 「禁じられているのは、攻略組との意図的な接触であって、友達との交流は禁じられていないはずよ?」
 「いや、それは屁理屈って……あー、わかったよ、わかりましたともさ。 どうせ何を言っても聞くつもりはないんでしょ?」
 「足手纏いだ、と言うのなら諦めますが?」
 「このメンツを足手纏い呼ばわりできる奴なんてそうはいないよ、まったく……」

 澄まし顔で首を傾げるクーネさんに肩を竦めて返しつつ、僕は抵抗を諦めた。
 僕は平気で嘘を吐くけど、それでもこうも真っ直ぐに心配されてしまえば嘘を吐いてまで抵抗できるわけもない。

 やれやれと頭を振ってから、未だに掴まれたままの手を上げて降参の意を示す。 すると、ヒヨリさんの手がようやく離れて、その代わりいっそ眩しすぎるくらいの笑顔を見せられた。

 こうして、雪丸奪還作戦に向けて、僕らの暫定パーティーは結成される。
 まあ、そうは言っても実際にパーティーを組むことだけは断固拒否したけど。











 さてさて、この辺りで今回の暫定パーティーを紹介しておこう。

 まずは僕。
 普段は雪丸装備の超軽量級薙刀使い。 今は薙刀も予備武器も持たない、軽装体術使い。 まあ、僕の説明は今更不要だろうから省略。

 次に、僕とは正反対の、白系統装備で身を固めたヒヨリさん。
 使う武器はやはり純白のレイピア。 柄尻に深紅の宝石が嵌め込まれ、刀身に透かし彫りの花が咲くそれは、華奢でありながら荘厳で、一目見ただけでかなりのレアものだとわかる。
 狼男との戦闘を覗き見ていた時の身のこなしと、普段のボス戦での立ち回り、更に自己申告してくれた情報とを総合して考えるに、僕と同じくスピード型。 細剣の特性である正確かつ高速の攻撃で徹底的に相手を苛め抜くのが彼女の役割だろう。 もっとも、僕との違いは明白で、彼女は《一撃離脱》が基本スタイルのアタッカー。
 その高速極まる細剣技巧はどこぞの副団長様と並び称され、今では《流星》の二つ名で呼ばれることもある超有名プレイヤーだ。 戦闘中に揺れまくる胸部も凶器だとか言われているらしいけど、この際気にしない方向でいこう。
 そう言えば、彼女の容姿に惹かれてストーカー紛いのことをするプレイヤーが結構な数いたらしいけど、その悉くが全身黒尽くめの何者かに襲われる、なんて都市伝説めいた噂を耳にしたこともあるけど、その真偽のほどはどうなのだろう?

 そして、ティルネルさん。
 アインクラッドに於いて現在唯一の弓使い。 更に腰に佩いた両刃の片手剣をも使いこなすオールラウンダー。
 黒のチュニックと同色のタイツ。 その上から必要最低限の箇所のみを守る金属製の軽鎧(正確にはプロテクター)と言う、僕のような男の子には些か刺激が強い装備だけど、本人はまるで気にしていないので僕も何も突っ込まない。
 むしろ調剤師の僕としては、右太腿や腰の辺りにチラホラと見えている試験管のようなそれの方が気になって仕方がない。 なんでも、エルフの薬師であるらしい彼女のことだから、きっと僕も知らない秘薬の類なのだろう。
 ちなみに彼女の前職(と言う表現が正確かは微妙なラインだけど)は、リュースラ王国エンジュ騎士団従属薬師。 そして今は、ヒヨリさんのテイムモンスターになっているそうだ。
 エルフのテイムモンスターなんて彼女以外にはいないけど、その穏やかなで優しげなキャラクターと、アインクラッドでは貴重な後衛戦力としての腕前から、攻略組内でも一定の地位を確立している。 これもちなみに、二つ名は《黒の射手》

 続いては《片翼の戦乙女》ギルドマスターのクーネさん。
 白銀の鎧を着込んだ女性騎士。 彼女が羽織る外套の背に施された《片翼を持つ女性が祈る姿》は率いるギルドの象徴であり、SAOに囚われた女性プレイヤーにとっては希望の光だろう。
 その綺麗な容姿と装備からつけられた二つ名は《騎士姫》
 戦闘能力はもちろんのこと、特筆すべきはその指揮能力と危機察知能力だ。 なんでも一度HPを全損しているとかで(だったらどうして復活しているのか、という話しになるけど、その情報だけはどうしても話してくれない)、引き際を見極めるのが抜群に上手い。 《片翼の戦乙女》に限って言えば結成から今まで死者を出していないらしいけど、それはその辺りが如実に効果を発揮しているのだろう。
 ちなみに、攻略組内では希少な《料理》スキルをコンプリートしたプレイヤーで、彼女の作る料理はどれも美味しく、しかも家計に優しいお手頃食材を使ったものばかりだ。 基本的に食事の重要度が低い僕とアマリをして《お袋の味》と言わしめたその腕前は、SAOでもトップクラスだと個人的には思っている。 お袋の味と言った直後、僕たちの頭にゲンコツが落ちたのは完全に余談だろう。

 そして最後は重装備幼女……もとい、ニオちゃん。
 このパーティーの中でもぶっちぎりに幼い容姿をしている彼女だけど、その実、筋力値はこのパーティーどころか攻略組でさえトップクラス。 あのアマリでさえ、単純なステータスでは後塵を拝すると言うのだから驚きだ。
 《片翼の戦乙女》の設立メンバーにして、ギルド内最硬度の純タンク。 それでいて僕よりも更に小柄で、外見だけで言えば小学生高学年にしか見えない。 こっそり教えてくれた年齢に驚いたのは記憶に新しいけど、それでもちゃん付けであることを変えるつもりはない。
 とは言え、タンクとしての腕前は僕でさえ舌を巻くものがあり、いけ好かない聖騎士様に匹敵するほどだ。 ちなみに二つ名は《ロマン盾》
 なんでも、幼女然とした愛らしい容姿で大型武器を振るう姿が可愛らしいから、だとか。 全く以って同感である。

 とまあ、こんな感じの5人編成になる今回の暫定パーティーの目的は、僕が落とした武器の回収。
 いっそこのままボス戦でも始められそうな編成には狼男に同情したくなるけど仕方ない。 雪丸は僕の相棒であり、短剣は僕の大事な持ち札のひとつなのだから。

 さあ、作戦会議を始めよう。


















 一方、その頃。

 (アレはなんだ?)

 1人の少年が岩陰に隠れつつそんなことを考えていた。
 フォラスと同じく黒系統の装備で統一した、闇に紛れるように佇む少年の視線の先。 そこには、膝の辺りまで伸びた長い長い桜色の髪をした少女がいた。

 それだけであれば、少年はそこまで疑問には思わなかっただろう。
 隠しダンジョンとは言え、別にここはインスタンス・マップではないのだ。 自分以外……否、自分たち以外のプレイヤーがいることにそこまでの疑問はない。 それが攻略組でもトップクラスのパワーファイターだと言うことも、少年からすれば驚くには値しない事柄だった。

 少年が驚いたのは、あるいはソレがなんなのか判断しかねているのは、ただ単純に、目の前で起こっている現象があまりにも異質すぎたからだ。

 異質。

 そう。 その一言以外、ソレを表現する術を少年は持たない。

 「ーーーーーーーーーーーーーーッ‼︎」

 野獣のものでさえもう少し大人しいだろうと思えるほどに荒々しい、声にならない咆哮。 そしてその後に続く、大地をも揺るがす轟音。 衝撃。 少女の周囲に展開されていく紫色のウインドウ。

 言葉にしてしまえば、それを表現するのは簡単だ。

 少女が咆哮と共に振り下ろす両手斧の衝撃により、洞窟内の地面や壁、果ては天井までが破壊不能であることを示すメッセージを表示している。 それだけだ。
 しかし、そこに新たな疑問が加わる。

 洞窟が破壊不能でであることは少年とて知っている。
 少年自身はやらないが、それと似通った現象を起こすことは割と簡単だ。 コートの裾に隠してある片手剣を抜き放ち、周囲を何度も刻んでみればそれでいい。

 だが、桜色の少女が起こしている事象は、全く違う。

 たった一撃。
 たったの一撃で少女の周囲に何十枚もの紫色のウインドウが出現し、そして消えていく。

 一部のソードスキルには着弾点を中心に衝撃波を起こすものもあることにはあるが、それとは根本からして違う。 ソレが起こす衝撃波は、その規模があまりにも桁外れなのだ。

 まるでそう、少女の周囲が爆発しているかのような……
 まるでそう、少女自体が爆発しているような……

 「なあ、リン。 アレは一体なんだい?」

 ふと、隣に立つ友人が少年に小声で問い、その更に隣に立つ友人も首を傾げている。 しかし、少年もその答えを持ち合わせていない。

 知るか、と返そうとした瞬間、少年は身も凍るような恐怖の笑声を聞いた。

 「あっはぁ!」

 グリン、と。 人間にはおおよそ不可能と思えるほどの勢いと角度でソレの首が回り、十分に距離を置いていたはずの少年たちをその両の瞳が捉える。
 全身に怖気が走るが、あまりの恐怖に身体が竦んで動かない。

 「あっはぁ!」

 もう一度笑った少女の顔には、人間のそれではない狂気と愉悦とに歪んでいた。 
 

 
後書き
コラボメンバー説明回&別ルートのキャラクター登場回

と言うわけで、どうも、迷い猫です。
《黒の幻影》に登場しているキャラクターの方々がようやくまともに喋りました。 大変長らくお待たせいたしました(土下座
そして、前話から引き続き、地味にオレンジ化しているフォラスくんと、それをあっさり受け入れちゃうクーネさんとの交流が今回のポイントです。
クーネさんはみんなのオカン的なポジションだと個人的には思っているので。

さてさて、コラボ3話目にしてようやく全員登場しましたが、それでも後半の4人はまだ名前すら出ていません。 由々しき事態ですね←おい

次はやっと後半の4人にスポットを当てる予定なので、どうかお楽しみに。

ではでは、迷い猫でしたー 
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