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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百一話 伯爵の憂鬱な日


サイオキシン麻薬の準備です。

最近風邪気味で更新が滞るので済みませんです。

ハルテンベルク伯爵は、以前の捕虜帰還の時に内務省と社会秩序維持局のゴタゴタの影響で上のポストが空いたので、原作より早く昇進しています。

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第百一話 伯爵の憂鬱な日

帝国暦481年5月1日

■オーディン フォルゲン伯爵邸 

 内務省警察総局長エーリッヒ・フォン・ハルテンベルクは妹エリザベートの婚約者の実家フォルゲン伯爵家を訪ねていた。結婚前の挨拶ではなく、公人としてではなく個人としてフォルゲン伯爵家当主に会いに来たのである。

その理由は数日前に知った事態に頭を悩ませていたからである。まさか、妹エリザベートの婚約者カール・マチアス・フォン・フォルゲンが妹との結婚資金の為に不敬罪に次ぐ大罪である、サイオキシン麻薬密売を行っていたのが判ったからである。

この事が外に漏れたら一族全てが破滅だと言う事が判っているからこそ、頭を悩ませているのである。その為にマチアスの兄であるフォルゲン伯爵家当主ハンス・テオドール・フォン・フォルゲン伯爵に相談を持ちかけようと思い立ったのである。

応接室に通され暫く待つとフォルゲン伯爵が現れた。
「此は此は、ハルテンベルク伯爵、今日はどの様用向きで?」
にこやかに挨拶してくるフォルゲン伯爵を見て、お前の弟のせいで苦労しているのが判らないのかと言う怒りが沸々と沸いてきたが、此処は我慢で挨拶を無難に行うようにした。

「いきなり訪ねて申し訳ない、今日は卿に相談があって訪ねて来たのだよ。所で此処の防諜は大丈夫だろうな」
「それは又、いったいどんなことだね」
「卿の愚弟の事だ」

少々嫌みも良いだろうよ、この嫌みに気がつけばだがな。
「愚弟とは、幾ら本当の事とはいえ言い過ぎだ」
「まあ怒るな、弟について興味有ることが判ったのでな」

「興味有るとは?人に聞かれてはいけないことか」
無言で頷いてみせると、フォルゲン伯爵は周りを気にしたあとで頷き返してきた。
「数日前に知った事態だが、愚弟が大変な事をしでかしている」

「それで、いったい何をしでかしているんだ?」
私は耳元でぼそっと伝える。
「サイオキシン麻薬の密売だ」

フォルゲン伯爵は驚愕の表情をする、私も知ったときは驚愕の表情をしたからな。
「それは、本当なのか」
フォルゲン伯爵、声が震えているぞ。

「事実だ、既に証拠も挙がっている」
「何と言うことだ、あの馬鹿め!あの馬鹿のせいで我が家も終わりだ」
フォルゲン伯爵よ絶望に沈んでいるが、卿だけじゃない私も同じ気持ちだ、しかも巻き込まれでだぞ!

「そこでだ、卿と私は一蓮托生だ、そこで相談に来たわけだよ」
「なにか策はあるのか?」
そう情けない顔を御するな、藁をも掴む状態とはこういう事を言うのかもしれないな。

「愚弟の事は、未だ俺だけしか知らん」
本当は信頼できる腹心が知っているが、そこまでは教えんよ。
「と言うことは密かに始末でもするのか?」

ほう、伯爵だけの事はあるが未だ未だだな。
「いや、それは不味い、しかも卿の弟であろう」
「しかし、このまま行けば家名断絶は確実だ」

「急死、病死、事故死などすれば、エリザベートが騒ぎだすだろうし、典礼省も五月蠅いはずだ」
「ハルテンベルク伯爵、卿がエリザベート殿を宥めていただき、典礼省は付け届けさえすれば黙らせられるのではないか?」
「無理だな、エリザベートは激しい娘だ、後追うと言いかねない、さらに典礼省はもっと駄目だ。前職のアイゼンフート伯爵なら付け届けも効いたであろうが、今のマリーンドルフ伯爵は清廉潔白で有名だ、それこそ腹を探られてしまう」

「それでは、そのまま放置するつもりか」
「それはせんさ、だからこそ卿に協力を求めてきたのだから」
「私の協力と言っても出来る限りのことはするが」

やっと本題に行けるな、此しか策がないのだから仕方が無いが、許せよエリザベート。
「愚弟は、軍において大佐待遇の軍属だな」
「確かにそうだが、経理関係だぞ」

「そこでだ、叛徒共との最前戦であるカプチュランカへ派遣させ、そこで戦死させるのだ」
「うむー・・・・・・・・・・なるほど、名誉の戦死か」
「そうだ、有無を言わさずに送り出すのだ」

「しかしだ、生きて帰ってきたらどうするのだ?」
「いや、その基地には定期便の様に敵襲があるそうだ、そこで迎撃戦に参加させ戦死させる」
「しかし、経理では参戦しないのでは?」

「そこは、監視に部下を1人つけて、そいつに手引きさせるさ」
いざと成れば、マチアスを殺すようにすれば良いだけだからな。
「大丈夫なんだろうな?」

「任せておけ、口の堅さは折り紙付きだ」
「さすれば、我が家も卿も、卿の妹も傷が付かないと言う訳か」
「そう言う事だ、愚弟は名誉の戦死で少将閣下だ、名誉であり恥にはならんだろ」

「確かに」
「そこで、卿と私で軍に圧力をかけて愚弟の人事異動を認めさせるのだよ」
「判った、協力しよう」

これで、私の名誉も我が家もエリザベートも助かる、マチウスよ卿が悪いのだ!
「では失礼する」
「ああ、では決行の時に」
「うむ」


帝国暦481年5月2日

■オーディン 憲兵隊総監部

 憲兵隊総監室に数名の人間が集まり密談をしている。普段であれば居眠りをしながらよだれを垂らしている憲兵総監グリンメルスハウゼン大将が鋭い眼光で集まった者達に対峙していた。

「いよいよ、ハルテンベルク伯爵、フォルゲン伯爵がサイオキシン麻薬にカール・マチアス・フォン・フォルゲンが関与している事を気づいたようじゃ」
「閣下、そうしますといよいよ作戦開始ですな」

「ケスラー、その通りじゃ。数日中にハルテンベルク伯爵、フォルゲン伯爵は軍部に圧力をかけに来よう、その時に両者に仕掛けるのじゃ」
「はっ、準備は既にできあがっています」

「ハルテンベルク伯爵も臭いものに蓋では、どうにもならんことを身をもってしるじゃろう」
「全て殿下の思惑通りになるわけですな」
「そうよ、殿下のお陰で素晴らしい成果が見込まれるのじゃ」

この日からハルテンベルク伯爵とフォルゲン伯爵に対する監視が強化され、カール・マチアス・フォン・フォルゲンに対する密かな護衛も更に強化されたのである。


帝国暦481年5月10日

■オーディン フォルゲン伯爵邸

 この日、ハルテンベルク伯爵とフォルゲン伯爵は軍務省人事局人事部長補佐エルンスト・フォン・バウマン少将の訪問を受けていた。本当であれば、密かに圧力をかけたはずが何故か訪問してきたことで怪しんだが仕方ないとハルテンベルク伯爵とフォルゲン伯爵で口裏を合わせて面会した。

「少将、来て貰ったのは他でもない、人事についてなのだが」
「伯爵、それはどう言う事でしょうか?」
「私の弟だが、暫く前線へ送ってもらいたいのだ」

「ほう、それは如何様な理由で」
「弟は、この度結婚することになって、今までは後方勤務であった為に、箔をつけてやりたいのだよ」
「そうだ、我が妹が肩身の狭い思いをしないようにしたいのだよ」

「なるほど、確かにハルテンベルク伯爵家とフォルゲン伯爵家としても武勲があった方が宜しいですね、判りました持ち帰りましてハウプト中将閣下にお伝えして、前線勤務を出来る様に致します」
「少将頼むよ、できれば弟は陸戦専攻だから、最前線の基地に配置して貰えると良いのだが」

「了解しました、伯爵のお考えも考慮して提案致します」
「頼むぞ」
「はっ」

こう言っているが、この話を聞いてホッとする、両伯爵を見て内心バウマン少将は大笑いしていたのである、そしてそろそろ時間かと思い猫を被るのを止めて大笑いを表に出したのである。

「アハハハアハハ、いやはや伯爵達は素晴らしい腹芸ですな」
いきなりの笑いに驚く、ハルテンベルク、フォルゲン両伯爵。
しかし次第に冷静になると怒り出した。

「無礼な、少将何を笑うか!」
「アハハハアハハ、伯爵達の臭い芝居には恐れ入りましたよ」
「何だと高々帝国騎士《ライヒスリッター》の分際で!!」

その時、応接室の扉が活きよいよく開けられた、誰も近寄れさせないようにしていたのにも関わらずであるから、両伯爵の驚きはひとしおであった。

「誰が入って良いと言ったか!」
フォルゲン伯爵が叫ぶが、入ってきた人物を見て、その顔は驚きに変わる。
「ホホホ、久しぶりじゃな、伯爵」

そこにいたのは、先頃の憲兵隊粛正で新たに憲兵隊総監になり更に爵位を伯爵にまであげた、グリンメルスハウゼン大将であったからである。

「グリンメルスハウゼン伯爵が何故此処に」
フォルゲン伯爵は驚きでそれしか言えない。
「憲兵総監と言えども家族間の事には口出し無用にお願いしたい」
ハルテンベルク伯爵は流石に肝が据わっているのか冷静なのか返答が整ってる。

グリンメルスハウゼンは数名の部下と共にここに来ていた、無論事を荒立てない為に館の者達はあらかじめ潜入していた草が催眠ガスで眠らせ、向後の憂いがないようにした後で密かに現れたのである。バウマン少将もそのお膳立ての為に現れたのであった。

「しかし、どうやって此処へ?」
「ホホホ、フォルゲン伯爵、ハルテンベルク伯爵共に聞かれたら不味い事であるしの、卿等以外は暫く寝て貰ったのじゃ」
「グリンメルスハウゼン伯爵、我々に聞かれて困ることなど無いぞ!」

些か苛ついてきたのかフォルゲン伯爵ががなりだす。
「ホホホ、その様に無体なことを言うでないわ、そちの弟のことじゃ」
ハルテンベルク伯爵とフォルゲン伯爵はその話を聞いて少し顔色を変える。

「な、な、なんの事ですかな」
「左様、弟君の事とは何か有りましたかな」
フォルゲン伯爵はどもりはじめ、ハルテンベルク伯爵はすっとぼけた態度である。

「ほー、此でも関係ないと言えるかの」
ブレンターノ准将が多数の資料と映像記録を立体映像で次々に映していく、それにはカール・マチアス・フォン・フォルゲンがサイオキシン麻薬の密売に関与していることなどが事細かく描写されていた。

それを見た2人は、今までの威勢など何処かへ飛んで行ったかのように崩れ落ち、頭を抱えたり絶望の淵に立たされた思いになっていった。考えることは、憲兵総監に知られた以上は最早どうしようもない、此処で賄賂や取引や口封じなどは全く無意味だと言う事は強行突入してきたグリンメルスハウゼン伯爵以下に我が家の護衛が誰1人来ないことで判るのだから。

フォルゲン伯爵はもう我が家はお仕舞いだ・・・一族こぞって死罪だ・・・・
ハルテンベルク伯爵も我が家もお仕舞いだ、私の地位もエリザベートも全て・・・
更にグリンメルスハウゼン伯爵が鬼気として特大の爆弾を投げつける。
全く持って相変わらず食えない爺である。

「恐れ多くも皇帝陛下もカール・マチアス・フォン・フォルゲンのサイオキシン麻薬密売はご存じじゃ」
まさに特大の精神攻撃である、2人は完全に恐怖と絶望に落とし入れられた。即ち己だけではなく一族の破滅を、そしてフォルゲン伯爵はカール・マチアス・フォン・フォルゲンに対する怒りを、ハルテンベルク伯爵はマチアスに騙されたエリザベートを哀れんだ。

グリンメルスハウゼン伯爵は更に畳みかける。
「恐れ多くも陛下は、卿等がカール・マチアス・フォン・フォルゲンを謀殺しようとしたこともご存じで、大層お怒りのご様子で『己の身可愛さに、事実を告げずに策を持って隠そうとは何事ぞ』そう仰ったわ」

完全にガクブルのハルテンベルク伯爵、フォルゲン伯爵、もう完全に顔色は真っ青である。そこへ救世主が現れた、グリンメルスハウゼン伯爵の言葉である。
「しかしな、皇帝陛下はこうも仰った『サイオキシン麻薬の流通は予の憂慮する事じゃ、ハルテンベルク伯爵、フォルゲン伯爵がサイオキシン麻薬の撲滅に手を貸すのであれば、今回の件は斟酌してもよい』との思し召しでですぞ」

その話を聞いて、2人とも少しではあるが顔に赤みが戻ってきた、そして縋るようにグリンメルスハウゼン伯爵に話しかけて来る。その姿はとても大貴族とは思えない状態であった。

「グリンメルスハウゼン伯爵、皇帝陛下のお役にたてれば、愚弟の件は何とかして頂けるでしょうか」
「カール・マチアスだけを処罰して両家に傷が付かないようになるのでしょうか?」
矢継ぎ早に質問をしてくるがその表情は必死であったが、グリンメルスハウゼンやバウマン、ブレンターノ達はテレーゼの影響か内心では吹き出していたが、外見では如何にも真剣な表情をしていた。

「恐れ多くも皇帝陛下は、カール・マチアス・フォン・フォルゲンも名誉を与えて卿等にも名誉を与える方法をお教え下さったのじゃ、卿等一生の忠誠を皇帝陛下に捧げられよ、さすれば皇帝陛下も卿等に栄誉をお与え下さるとのことじゃ」
2人は話を聞いているうちに、希望に満ちた顔になっていった。

「よいか、卿等は儂の指揮下で動いて貰う、カール・マチアス・フォン・フォルゲンに手出しは無用じゃ、我々が監視致すでな。暫くはそのままでいるのじゃ、密売組織を叩くのは製造工場まで調べた後じゃ、その日は明年後半とするからフライングは駄目じゃ、卿等がなにか良からぬ事をすれば直ぐに皇帝陛下の元へ伝わるようになって居る、努々裏切り無きようにな」

その話を聞いて2人とも、首をブンブン振って判りましたと言い続けるのであった。
その後散々脅かされた後で開放されて2人で話し合うのである。

「ハルテンベルク伯爵、絶対に裏切らないで頂きたい」
「フォルゲン伯爵も同じですぞ」
「「無論、皇帝陛下に御逆らいするなどあり得ません」」

そう言いならが2人は絶対に大人しくグリンメルスハウゼン伯爵の指示に従うことを決めたのである。



■オーディン ノイエ・サンスーシ 小部屋

小部屋では笑い声が起こっていた。
皇帝陛下、テレーゼ、グリンメルスハウゼン、ケーフェンヒラー、ケスラーが集まっていた。

「そうか、それほどまでに青くなっておったか」
「真っ青でしたぞ」

「あれだけ脅しておけば下手な動きもしない訳ね」
「念のため両家には徹底的な監視を行っております」
「それぐらいはせんとな」

「しかし、これでマチウスも陛下のお役に立つ日が来ますな」
「全くじゃな、泳がせてきた甲斐があったというものじゃ」
「殿下のアイデアで一気に諸悪の権化をつぶせそうです」

「そうじゃな、テレーゼの大手柄じゃ」
「いえいえ、みんなの手助けがあったからです」
「殿下からアイデアをいただけなければ、単なる売人の逮捕で終わったかもしれません」

テレーゼはみんなから賞められて、取りあえずは嬉しそうにする。
「これで、あとは軍の内部に居る流通の親玉を燻りだして製造工場を潰すだけになりました」
「もう目安は付いているんでしょう?」

「はい、サイオキシン麻薬の流通経路を逆に辿りました所、イゼルローン要塞近隣星系に辿り着きました、どうやら軍の輸送ルートで運ばれているらしく、関係している部署に探りを入れているところであります、そして10月の人事異動でそれらに工作員を配属させ監視致します」

「成るほど、それは楽しみじゃ」
「そして一斉検挙は、殿下のアイデア通り482年10月で調整致します」
「ええ、そうしてちょうだい」

「テレーゼや、なぜその時なのじゃ」
「お父様、あの者が卒業後に事件を解決する様に誘導し手柄を立てさせる事で、
不利益を受ける連中の憎悪を一身で受けて貰う為ですわ」

「つまりは、此方に向くはずの門閥の憎悪をあの金髪と赤毛に被らせる訳ですな」
「テレーゼが我が娘で良かったわい、もしも叛徒にでも生まれて居ったら目も充てられんな」

「全くですな、殿下は鬼才といえましょう」
「ケーフェンヒラー、そんな人を化け物扱いしないでよ」
「ハハハ、良いではないか」

こうして、ノイエ・サンスーシの夜は明けていくのであった。
 
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