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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第一部 桐嶋和ENDルート
  第40話 宣戦布告

H13年4月 第2週の土曜日

 sai vs toya koyo の対局が終わるのを僕はジッと待っていた。

 進藤ヒカルが通うネットカフェで彼を待ち伏せして――。

 ネット碁に集中する彼の背中を眺めながら。

 ヒカルがWWGOの対局画面を閉じようとしたとき背後から声をかける。

「へー。正体不明のネット棋士saiって進藤ヒカル新初段だったんだ」「へ?」

 驚いた顔をして振り返ったヒカルがこちらを見る。

「しかも、さっき対局してたtoya koyoってネット碁で話題になってるホンモノの塔矢名人でしょ?」

「いやー。途中から見てたけど、タイトル戦の碁に匹敵する名局だったよね」

「あ、い、う……」

 混乱したヒカルが金魚のように口をパクパクさせる。

「いやー。ずっとsaiと対局したいって思ってた知り合いがいてさ。saiのこと探してたんだ」

「お、お兄さんはだれ?」

 フードのついたパーカーを羽織って顔が深めのフードに隠れるようにして、クックックッ……とか言ってそうな悪役になったイメージで口元だけニヤリと歪める。

「うーん。無敗のネット棋士Aiのメッセンジャーかな?」「え?」

 そう言って用意していた手紙を渡す。

「Aiからsaiへの挑戦状。対局はネット碁でAiのいる日時は紙に書いてるから」

「えっ?どういう……」

「理由は知らないけどsaiの正体は隠してるんだよね? Aiと勝負するなら今日のことは忘れる」

 有無を言わさず言葉を続ける。

「あとコレが何に見える?」「……えっ?の、のーと?」「ふーん。佐為も?」

 暫しの沈黙。あまり顔を合わせ続けるのも不味いか。

「――そっか。ま、よろしくね。Aiとの対局」「え、ちょっと……待っ!」

「追ってきたらsaiの正体はバラすから」 

 言い放って呆然とする進藤ヒカルの元から立ち去った。

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 我ながらスマートなやり方じゃないってのは分かってる。
 他に方法がなかったのかな?考えたけど思いつかなかった。

 けどね。このヒカルの碁の世界に来て2年が過ぎた。
 普通はありえない人生で二度目の成人も迎えた。
 2年なんてアッという間とか言うけど、元の世界の記憶が少しずつ薄れていくのが分かる。

 正直言って怖いよ。彼女-桐嶋和-がいない世界で独り生きてくことが。
 本当にツライよ。自分の築いて来た関係が何一つない世界で生きてくことが。
 人生これからってときに異世界に召喚された勇者が世界を滅ぼした物語に共感を覚える。

 これから先は碁の神様に喧嘩を売るターンだ。

 藤原佐為が消滅する前に望み通り< Ai vs sai >の対局の舞台を用意した。

 さあ最強を決めよう。toya koyoとの名局を超える最高の棋譜を残そう。

 碁打ちの気持ちも分からない僕に、碁の神様の考え何て分かるはずもないから……。

 これからは元の世界に帰るために、ありとあらゆる棋士に喧嘩を売ろう。

 藤原佐為と対局して、帰れなかったら、佐為が消えてしまうまでの間に何度も対局しよう。

 佐為が消えてしまったなら、次は塔矢行洋と……。

 それでも戻れないなら、ありとあらゆる棋士に和-Ai-が片っ端から喧嘩を売って――。

 この世界の人間の囲碁をすべて壊そう。ソレガカミサマノノゾミ?

 彼女は天元位を取れたのだろうか?
 彼女は僕を忘れてはいないだろうか?
 元の世界で僕はどうなったのだろうか?

 2年も別の世界で過ごして元の世界の仕事にすぐに復帰できるのかな?

 この2年間ずっと彼女が好きだったヒカ碁という物語を壊さないように。
 割れ物を扱うような慎重さを持って少しずつ少しずつ、この世界に向き合ってきた。

 奈瀬明日美がプロ棋士になったヒカルの碁に似た別の世界。

 僕は元の世界に帰るため世界に対して宣戦布告する決意を固めた。 
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