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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第一部 桐嶋和ENDルート
  第38話 変化

H13年2月

 倉田厚は機嫌が良い。馴染みの碁会所で常連に気安く話しかける。

「ねえねえ。見た? 見た? この間の桑原のじーさんの対局」

「いやー。前から桑原のじーさんは余裕ぶっこいてるフリしてるって思ってたけど、まさか新初段シリーズで中押負けしちゃうとか死守してる本因坊の座も危ういよね」

「えっ?有望な新人に花を持たせたって?
 いやいやじーさんに限ってそんなことないでしょ。ちゃんと棋譜見たー?」

「あーーーっ、たしかにアマチュアには分かりにくい碁だよね!」

「うん。女流棋士。まあ女流とか関係なく棋譜を見る限り間違いなく強いよカノジョ」

「女流のタイトルなら数年内にいくつか取っちゃうんじゃない?」

「師匠がさ自分にとって本当にコワイ奴は下から来るって言ってたけどホントだね」

「まあオレも塔矢アキラとかが追いついて来る前にもっと上に行っとかないと!」

「へー。週刊碁のインタビューで尊敬する棋士をネット碁のAiって言ったんだ。面白いヤツ」

「あっ! Aiってアレか韓国の安太善をネット碁で負かしたって1年くらい前に噂になってたヤツだ」

「あーもう。指導碁が始まる時間か。そうそう。奈瀬明日美初段。名前覚えてたらいいよ」

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H13年 3月 side-Asumi

 新初段シリーズでの桑原本因坊との対局は私の人生の中でも最高といえる会心譜となった。

 対局が終わった後に桑原先生が優しい目をして……。

――良い碁じゃったの。心に残る碁じゃった。彼にも伝えてあげるとよい

 私にだけ聞こえる小さな声でそう呟いた気がした。

 桑原本因坊を相手に中押勝ちしたことを伝えたときは彼も流石に驚いていた。
 そして棋譜を覚えて元の世界に戻ったら必ず彼女に伝えると言ってくれた。

 初めて彼の中に私の棋譜を残すことができてホントに嬉しかった。

 新初段シリーズの対局と週刊碁に掲載されたインタビューの影響で、私は囲碁界随一の和-Ai-マニアとして知られるようになってしまった。
 棋士名鑑の尊敬する棋士の項目にもバーチャルネット棋士の和-Ai-と書いた。

 お陰で緒方先生や一柳先生から和-Ai-の碁を研究する会に誘われている。
 二人は多忙なトップ棋士なので、もし研究会をすることになったら新人棋士の私が主催となるらしい。

 彼に相談したら部外者だし研究会とか詳しくないから分からないけどと前置きした上で――。
 笑いながら「面白そうだから良いんじゃない?」と返されてしまった。

 3月には新入段の免状授与式があった。
 プロになったお祝いにお母さんが奮発してくれたレディースのフォーマルに身を包み式に参加した。
 同期の新入段棋士は進藤と越智。私が一番年上のお姉さんになるから研修会ではしっかりしないとね。

 初戦の相手は宮島広美二段、二戦目の相手は真柴と同期の辻岡さんか……。
 進藤は初戦にライバル視している塔矢アキラとの対局が決まり気合が入っていた。

 前から春には彼が住んでいるアパートの隣の部屋が空くと聞いていたので、プロ試験に合格してから必死に両親を説得して、囲碁の勉強という名目で部屋を借りた。

 ちゃんと学校には実家から通うことを約束して、手合日のある水曜日の前夜とか週1,2回だけ親に連絡して借りたアパートに泊まることを許して貰った。少人数の身内の研究会なら主催できるかもという気がしてきた。

 緒方先生は塔矢行洋が保持する“十段”のタイトルに挑戦している。
 塔矢行洋先生は名人・十段・王座・天元・碁聖を保持するタイトル五冠。
 七大タイトルの残りは棋聖が一柳先生で、本因坊が桑原先生だ。

 中でも私にとっては“天元”のタイトルは少し特別なもの。
 心の師匠-桐嶋和-が初挑戦したタイトルだ。

 棋聖・名人・本因坊の3つは三大タイトルと呼ばれ、まずは挑戦者を決めるリーグ入りの必要がある。(*ちなみに三大リーグ入りした女性棋士はいない)

 天元はトーナメント制である上に、同様の十段戦・王座戦・碁聖戦に比べて本戦トーナメントの出場枠が多いのが特徴で若手が初タイトルとして戴冠することが多い棋戦と言われている。

 天元戦の予選トーナメントは4月から始まる。勝ち続ければ12月に塔矢行洋天元に挑戦できる。

 私は和-Ai-とは二子の置き碁で指導碁を打ってもらいながらも互先の対局を行うようになった。
 ネット碁のAiは彼の意志で閉店休業中で、私はAsumiのアカウントでRX-7(緒方九段)やichiryu(一柳棋聖)やzelda(和谷)やYang(楊海八段)、関西棋院のプロとネット碁で対局するようになっていた。 
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