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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第一部 桐嶋和ENDルート
  第35話 試験後

「ありがとうございました」「ありがとうございました」

 盤上で死力を尽くした二人が頭を下げる。しかし片方は勝者で片方が敗者。
 勝者が静かに席を立とうとしたとき、下を向いたまま敗者が声をかける。

「――――Ai」「!?」

「以前に言ってたよな。ネット碁のAiに憧れて棋風を変えたって」「……うん」

「オレもAiとネット碁で打ったことがある」「そうなの?」

「今日の対局はAiのような打ち回しだったぜ」「うん、ありがとう。嬉しい」

 席を立って私も最後に残る進藤と越智の1局を見守る。

 今日勝って4敗を守った伊角さん、私に負けて4敗となった和谷。
 越智が進藤に勝てば三つ巴のプレーオフの可能性が残る。
 この場に二人はいない――――どんな気持ちで結果を待つのだろう。

 強い人、勝った人が上に行く。この勝負の世界で誰もが覚悟していること。
 その覚悟あっての上で皆も今まで共に笑い語り合ってきた――。

 二人の対局が終わる。この日の勝者2人が残る2枠のプロ入りを果たした。

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H12年11月 side-Asumi

 プロ試験に合格したご褒美に私は彼に旅行に連れて行ってもらった。

 本因坊秀策が生まれた瀬戸内の因島。

 桐嶋和さんは秀策のファンで10代のころに秀策の棋譜を何度も並べたらしい。
 だから七大タイトルでも本因坊のタイトルには特にこだわりがって、本因坊リーグ入りして後1勝が届かず本因坊挑戦を逃したときは涙を流して悔しがったらしい。

 彼は中国史が好きで外国語を学んだって聞いたけど、中国史に限らず歴史全般が大好きらしい。
 観光地を巡っていると色んな話を聞かせてくれる。仕事柄出張が多いって言ってたけど旅慣れしてる。

 彼が私に隠し事をしているのは知っている。
 未来に起きるかもしれない出来事や、彼と桐嶋和さんのプライベートでの深い話とか私には話せないことが一杯あるのは分かってる。

 けど最近の彼の言動から気づく。たぶん彼には元の世界に帰るアテがある。

 最近では桐嶋和さんの手がかりが全然見つからなくても彼が焦ることはない。

 何かが起こるのを待っている。……そんな気がする。

 プロ試験が終わった後に進藤からAiのことを聞かれたと伝えたとき彼は少し何かを考えて「じゃあAiの棋譜をいくつか渡してあげたら?」と答えた。

 そして和-Ai-のホームページも随分と知られたけど手がかりもないし、問い合わせも対処が難しいほど増えて来たからと今年の12月末でネット碁のAiの活動は休止すると言った。

 尾道の街に泊まって暖談という店でお好み焼きを食べた。
 尾道は歴史情緒のあふれる街で彼はこれからオシャレな店もどんどん増えると言っていた。
 本場の尾道ラーメンやじゅーしーな穴子丼、美味しい紅茶やケーキも食べた。
 千光寺公園や美術館にも連れて行ってもらった。

 尾道の景色を眺める彼の瞳が、今ではなく遠く未来の世界を見つめていたことに私は気づいてたけど……それでも彼との旅行を大切な思い出にしようと楽しんだ。

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H12年11-12月 side-Asumi

 プロ試験が終わってから忙しい日々が続く。私の母親のところに進藤のお母さんが相談に来た。
 来年に中学3年生になる進藤はプロになったから進学は考えてないらしい。

 私もプロになったから学校を辞めて彼や和-Ai-との時間を増やしてタイトルを取ることに専念しようかと考えたけど……彼に相談したところ珍しく今までにないくらい強い意志で反対された。

 桐嶋和さんも高校生でプロになったけど真面目に学校通って卒業したらしい。

 大人になってから学生時代の友人関係や青春の思い出、囲碁の世界と関係ない交友といった繋がりの大切さに気づいても遅いからと言われた。 
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