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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第一部 桐嶋和ENDルート
  第30話 進藤ヒカル vs 奈瀬明日美

H12年9月後半 side-sai

 才能や境遇も人それぞれなれど、とにかくたくさん勝ったものがプロになれるという分かりやすい競争の中でヒカルは体調を崩し一敗したものの好対局を続けている。

 今日の対戦相手はヒカルと同じく順調に勝ち星を重ねる奈瀬という少女。

 いつにもましてヒカルも気合十分の表情で対局の場に臨む。

(なあ佐為、若獅子戦の後に院生のみんなでした話覚えてるか?)

(saiと同じ正体不明のネット棋士のAi……奈瀬が憧れて影響を受けた相手)

――ええ。覚えてますよ。先日の和谷の話も

(こないだ和谷が言ってた。今じゃあネット無双とかsaiよりも強いとか言われてるらしい)

――ヒカル、私のことは良いですから今は自分の対局に集中して下さい!

(わかってる。けどAiっていう知らない奴よりsaiが弱いと思われてるのはイヤだ)

 残念ながらAiというものの碁に触れる機会はありませんでしたが、噂の強者に対して機会があれば相まみえたいと心惹かれるのも事実。

 私のことでヒカルが気負うのが少し気がかりですが二人の対局を大人しく見守りましょう。

●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇

 二人の対局が始まる。碁は手談とも呼ばれる。藤原佐為ほどの打ち手ともなれば、相手の一手一手の意図はかなり読み取れる。

 しかし奈瀬明日美の碁には時折り佐為にも意図が見抜けない手がいくつも現れる。

 ヒカルの白が3線を這っているのだから当然ノビかと思いきや予期せぬ左辺に黒が放たれる。
 当然ながら下辺4目の頭にヒカルの白がハネて黒4子がダメ詰まる。

(なるほど。下辺はさらに手抜きで左辺ですか)

(たくさん手をかけた壁なのに壁攻めが心配になりますね)

 自らの構想にこだわるあまり意地になってないかと相手を見つめる。

 彼女の目には不安も油断も奢りもなかった。
 かといって相手を奇策に嵌めようとするような意図があるようにも感じない。

(白に攻められるくらいならと、まさか黒の4子を迷いなく捨てますか)
 
 佐為でさえ彼女の大胆な構想に驚きを隠せないでいた。

 彼女の打つ石の一手一手からは明らかに意思がこもった、
 ただひたすらにまっすぐに自らの碁が切り開く先を信じる強い想いを感じる。
 ヒカルとの対局を見守っている佐為まで清々しい気持ちになるほどの。

 彼女の想いにヒカルの石までが引っ張り上げられているように感じる。

 なんとなんと心踊らされる碁であることか!

 互いが工夫した手を打ち工夫した手を返してくる
 このプロ試験という負けられないはずの一戦で無難な手を選ばない。

 まるで石を持つ手が勝手に新しい道を切り開いていくよう――。

 羨ましい。柄にもなくヒカルに嫉妬を漏らす。

 私が碁盤に眠っていた150年の間に囲碁は確実に進化していた。
 黒と白の平等を期すべく設けられた江戸の時代にはないコミというルールもそう。

 黒番においてはそのコミの負担を解消する為に、より積極的に仕掛ける囲碁へと変わっていた。

 現代の碁を知る喜びをネットの碁で学んだ。

 私の生まれた平安時代には貴族のたしなみとして好まれた碁。

 しかしながら私のように純粋に“神の一手”を極めようとするものは平安の世には少なかった。

 虎次郎と共に生きた江戸の時代には碁所が設けられ家元が優秀な棋士を育て互いに切磋琢磨し、神の一手への探求は大きく飛躍していた。

 そして身分や貴賤を問わず己が実力のみを持って競い合う現代のプロ棋士たちの囲碁。

 今や囲碁の世界戦も開始され、日ノ本に碁を伝えた唐の国、中国や韓国にもプロの碁打ちがいると聞く。

 ヒカルといることに不満はない。

 けれでも神様はいったい私の我がままをいつまでお聞き下さるのか。

 互いに反発し激しく争う二人の碁が終盤へと向かう。
 中央の厚みに地がどれくらい見込めるのかという碁は形勢判断が難しい。

 佐為もどちらが勝ちなのかすぐに計算することは難しい。

 この勝負、最後にヨミ勝つのはどちらか――。 
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