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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第一部 桐嶋和ENDルート
  第21話 萌芽

H12年春

 帰宅すると奈瀬さんが和-Ai-と対局していた。頻繁に連絡をやり取りするのが億劫になり今や合鍵を渡していて自由な出入りを許している。

 いつの間にか彼女とは色んな話をしてかなり親しくなった。

 漫画ヒカルの碁の話は流石に伝えることはできないけど、僕が元の世界へ戻る方法を探していること、僕と同じようにこの世界にいるかもしれない桐嶋和を探していること、そして元の世界に繋がる鍵が、このノートパソコンに宿る囲碁AIソフトの和-Ai-しかないことを伝えた。

 素人が院生にアドバイスするのもおこがましかったが、ただ和-Ai-と打つだけではなく、今まで通りの基礎の勉強は欠かさずに続けるようお願いした。

 桐嶋和でさえ和-Ai-から碁を学んだのは、プロとなってキャリアを重ね棋士としての実績を上げた後だった。院生である奈瀬さんの棋力が彼女に及ぶとは思えない。
 
 ヨミの力が強くないと和-Ai-の深淵のヨミを感じることができない。

 ある日のこと奈瀬さんが院生の手合いで初めて伊角さんに勝ったと報告してきた。

「自分でも大満足の一局よ! 見てほしかったわ!
 あんな碁が打てたのは間違いなく先生のお陰ね」

 奈瀬さんは桐嶋和のことを憧れの棋士で心の師匠と呼び、実際に対局して教える和-Ai-を先生と呼んでいる。

――思えば奈瀬さんって環境的に不遇な原作キャラクターじゃないかと個人的には思ってる

 囲碁で強くなるための一番の近道は強い人にたくさん打ってもらう事だと聞く。佐為に毎日の指導を受けたヒカル、塔矢名人を父親に持ち門下生とも頻繁に打つ機会があるアキラくん、森下門下の和谷、九星会に所属する伊角さん、様々なプロ棋士の指導碁を受け続けてきた越智。真柴や本田も師匠がいたはず?

 彼女-桐嶋和-も院生時代に当時タイトルホルダーだった棋士に弟子入りして学びプロになった。

 聞けば、奈瀬さんはプロの師匠どころか今まで師事する人すらいなかったそうだ。そういえば和の師匠も、珍しくプロフィール欄に師匠の名前がない棋士だったけど、あの人の場合は台湾出身で来日してからプロになったという経緯がある。特定の人物に師事しなくてもプロになる前からプロ棋士や研究会には頻繁に足を運んでいたはずだ。
 
 奈瀬さんは原作では若獅子戦に参加していたってことは1組で16位以上の実力があったということ。

 いくら才能があっても独学や我流で強くなるには限界がある。

 囲碁の話じゃないけど以前に僕の会社のエンジニアから小学生のころからプログラミングを我流で学んでいた子が、大学に入ってから優秀な教員の下でいちからプログラミングを学んだ子に、入社2年で追い抜かれたって話を聞いたことがある。

 本人に全く興味がない場合はどうしようもないけど、才能のある人間が優秀な指導者に会うタイミングって大切なのだと思う。

 原作ではあまり実力や才能があるような描写がされなかった奈瀬さんだけれど、そういった環境の面を考慮すれば仕方のなかったことかもしれないと思った。後は押しかけてでも学びたいっていう積極性が足りなかったのかな?

――彼女もヒカ碁はもっと女性の棋士が活躍して欲しかったって言ってたしな

 奈瀬さんが彼女のことを慕ってくれるのは素直に嬉しいし、この世界で初めて和のことを話せる特別な存在。奈瀬さんも僕から彼女の話を聞いたことで碁に対する心構えが変わったと言っていた。

 そんな真摯な姿勢も相まって和-Ai-の碁を貪欲に吸収して棋力を高めた奈瀬さんが、院生1組中位の順位となって5月の若獅子戦を迎えることになった。 
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