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孤城落城

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第二章

「殿、どうされますか」
「上洛されますか」
「都に行かれますか」
「どうされますか」
「別によいであろう」
 義景はその面長の顔で言った、頭の後ろがやけに出ていてそれが目立つ。
「そうせずとも」
「そうされるのですか」
「上洛はされませぬか」
「しかしそれではです」
「織田家が」
「よいよい、何もせずともな」
 何も考えていない声だった。
「別にな」
「ですがそうなればです」
「織田家が何をしてくるかわかりません」
「兵を向けて来るやも」
「何万もの大軍を」
「向けてきてもどうということはない」
 義景の言葉は変わらない。
「何でもないわ」
「織田家の軍勢はかなりの数ですが」
「鉄砲も多く」
「そして将も揃っております」
「尋常な相手ではないですが」
「何、どうとでもなる」
 義景の言葉は変わらなかった。
「そこはな」
「いえ、そう言われますが」
「織田家の軍勢と当家の軍勢を比べますと」
「実際に数はかなり違います」
「あちらは五万、当家は二万です」
 そこまでの違いがあるというのだ。
「そして武具もよいとか」
「ですからここはです」
「殿ご自身が出陣されて下さい」
「そして兵達にご自身が命じて下さい」
「戦えと」
「やはり殿が言われるとです」
 朝倉家の棟梁である彼自身がというのだ。
「兵達も奮い立ちます」
「ですからここはです」
「戦われるならそうされて下さい」
「降るなら別ですが」
「降る筈がなかろう」
 最初からそのつもりはないとだ、義景はそう言った家臣には眉を怒らせて言い返した。
「朝倉家は代々守護代を務めてきた家、織田家は陪臣だったのじゃ」
「だからですか」
「そうじゃ、成り上がりにどうして降る」
 こう言うのだった。
「だからじゃ」
「戦ですか」
「一時有頂天になっておるだけじゃ」
 織田家、そして信長はというのだ。
「すぐに潰れる、それまでの辛抱じゃ」
「だから戦われますか」
「そうするぞ」
 義景は戦をするつもりだった、しかしそれでもだった。
 彼自身は出陣しなかった、総大将が城にいて遊びそして側室の部屋に入り浸っていることは兵達も知っていてだ。
 士気は奮わなかった、只でさえ織田家との数や武具が違い彼等は敗れ続けた。家臣達はこの有様に歯噛みした。
「駄目じゃ、総大将がおられぬのでは」
「どうにもならぬわ」
「織田家が強いのではない」
「我等が弱い」
「これではじゃ」
「どうしようもないわ」
 それこそというのだ。
「我等は滅びるわ」
「もう金ヶ崎の城も陥ちた」
「一乗谷まですぐじゃぞ」
「これではどうしようもないわ」
「当家は終わりじゃ」
 彼等は一乗谷の方を見て歯噛みした、もう覚悟していた。だがこの時はだ。 
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