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拒食症

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第一章

                 拒食症
 岡村晃司は身長一七八と高いと言っていい背丈の持ち主だったが体重はそれよりも目立ち九十五キロあった。所謂肥満体型だ。言うまでもなく食べることは大好きで肉も甘いものも好きだ。
 中学三年で既にそれだけの身長体重であり動くだけで辛いものがあり丸々とした体型は鈍重さが見てもわかるものだった。
 そうした外見だが彼もまた人間であり恋愛やそういった感情を持っていた、高校に入学してすぐにクラスメイトになったある小柄な娘に告白したが冷たい言葉でこう言われた。
「私デブは嫌だから」
 これで終わりだった、彼はあえなく失恋したがここから彼はクラスの女子だけでなく男子そして噂話を聞いた中学の時の同級生達に会えばこのことを言われる様になった。
 これで何とも思わない人物かというとそうではなかった、それでだった。
 晃司はストレスから食べなくなった、すると忽ちのうちに体重が減っていった。
 これに彼は喜んでだ、ごく一部の親しい友人達に笑ってこんなことを言った。
「痩せればいいんだよね」
「おい、まさかと思うけれどな」
 その親友の一人風祭翔平は怪訝な顔になって晃司に問うた、背は晃司と同じ位だがすらりとしたスタイルをしている。一本の感じの太くしっかりとした眉と一重のアーモンド型の瞳、立派な鼻と引き締まった唇を持っている。黒髪を少し脱色させて右で分けている。
 その彼がだ、こう晃司に問うたのだ。
「このまま食わないつもりか?」
「食べたら太るよね」
 晃司は翔平に思い詰めている顔で答えた。
「あと運動をした方がいいね」
「ああ、運動はな」
 それ自体はとだ、翔平も否定せずに答えた。
「いいぜ」
「じゃあランニングとか筋トレはじめるから」
「それはいいんだけれどな」
「あとお菓子とかお肉とか食べない様にしてとにかく食べ過ぎない様にして」
 そうしてというのだった。
「太らない様にしないとね」
「御前気にしてるんだな」
「太ったから振られて太っているから言われてるから」 
 だからだというのだった。
「もうね」
「ダイエットするのか」
「するよ、痩せるから」
「痩せるのはいいけれど考えろ」
 翔平は晃司の思い詰めた表情と口調に心配になって言った。
「いいな」
「何を?」
「だからだ、御前もう痩せればいいって思ってるだろ」
「だから痩せればいいんじゃ」
「違う、本当に考えろ」
 晃司の性格が決して悪くない、穏やかで人懐っこいというよさを持っていることを知っているからだ。翔平は彼の友人でいる。高校も一緒だ、それで友人として言ったのだ。
「人を外見で嫌だとか言う女だろ」
「あの人は?」
「そんな奴に振られて何だっていうんだ」
 晃司を真剣に気遣う顔で言った。
「何でもない、それで囃し立てる奴なんか気にするな」
「翔平はそう言うけれど」
「いいか、食え」
 翔平は晃司に面と向かって忠告した。
「運動はすべきだが食いながらしろ」
「けれど食べると太るよ」
「多少太っていてもいいんだ」
「だから太っていたから」
「いいから食え、さもないと大変なことになるぞ」
「大変なことって今よりも?」
 晃司は翔平に自分が今現在置かれている状況から言い返した。
「僕デブとか豚とか言われて本当に辛いから」
「だからか」
「うん、もう食べたくないよ」
 精神的にだ、こう思っているというのだ。
「それで身体動かしていくから」
「そんなことをしたらな」
「痩せるから、それでもうデブとか言われない様になるから」
 思い詰めた表情は変わらない、そしてだった。 
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