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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第6話 その瞳は嫉妬の焔に焦がれて

 ヒュームとレオが獅子ご・・・・・・・・・鬼ごっこしてる頃、与一はジャンヌの誘導で誰も近寄らない別の場所で話していた。

 「あのシーマって奴がサーヴァントだと!?」
 『はい。ですから如何かマスターも彼に気を許し過ぎないで下さい。少なくとも組織の関係者であるか無いかの判別が済むまでは』
 「分かった。けど如何して実態化してるんだ?あのままだけでも魔力を消費し続けるんだろ?」
 『それがあのシーマなる者は受肉してるようなのです。もしかすれば彼のマスターが既に聖杯を管理してる可能性もあります』
 「マジか、クソッ!それで?アイツの真名は・・・・・・分からないんだったか?」

 与一の指摘通り、ジャンヌはルーラーとしての能力の弱体化の一つに真名看破が使用できずにいる。

 『重ね重ねすみませんマスター。少なくともシーマと言う名の英雄・反英雄は存在しないので、真名を隠す偽名であると思われます』
 「そうか。それにしても俺の目にはステータスどころかサーヴァントとすらも気づけなかったが、そう言う宝具とかってあんのか?」
 『ある平行世界のサーヴァントの一体が、真名を隠す鎧の宝具を着こんでいましたが、自身をサーヴァントである事すらも隠すなど聞いた事が有りません。恐らく彼のマスターの仕業でしょう』
 「そうか・・・・・・」

 ジャンヌの言葉に与一は、矢張りサーヴァントには魔術師のサポートが必要なのではと悩む。
 自分が魔術師として役立てればいいが、結界しか張れない到れぬ身だと。
 しかし実際には結界すら張れていない。与一がやっている事は魔力供給のみだ。
 その事実に自覚が無い与一は、これからは自分もジャンヌをサポートしなければいけない、魔術も一日でも早くより高み至らなければならないと叱咤した。
 魔術の基本の基の字も知らず、偶然魔術回路のオンオフの切り替えが出来る様になった身でしかないのに。


 -Interlude-


 放課後。
 与一は今、宙に居た。
 別に武〇術や月〇を身に着けて飛んでいる訳では無い。
 義経主観で言えば、自分達から態々挨拶に来てくれた風間ファミリー(2-Fメンバーのみ)を歓迎したのだが、与一だけちゃんと挨拶しない上、主たる義経に恥を書かせたと言う理由により、弁慶による制裁で窓からプールまで投げ飛ばされてしまったのだ。
 だが、

 「あっ、手元が狂った。これじゃあプールまで届かないけど・・・まぁ、いいか」
 「えぇえ~!?」

 与一は頭から地面に向けて落下中。
 それは流石に不味いとジャンヌが助けようと動こうとした時、誰よりも速く動いたのがシーマだった。
 シーマは瞬時に与一の落下地点に辿り着いて、キャッチして頭からの落下を防ぎ、一瞬で抱えて2-Sまで戻って来た。

 「危ない危ない。折檻するかは弁慶の勝手だが、もう少し気を付けないといかんぞ?」
 「いや~、わるいわるい。うちの穀潰しをド~モ。ほら与一、お前も礼を言え」
 「姉御が俺を投げたんじゃねぇか!」
 「んん?」
 「う゛っ!?け、けど俺は礼なんて言わねぇぞ!そいつは俺達を悪さしようと企む組織からの刺客かもしれねぇんだッ!」
 『マ、マスター!?』

 あれだけ周囲に関わらせる事を拒んでいたのにもこの発言に、ジャンヌは与一にだけ聞こえる声で叫ぶ。
 しかし与一は弁慶からの圧に切羽詰っているので、ジャンヌの諌言もほぼ全く聞こえていない。
 だが助けたにも拘らずいちゃもん付けられている当のシーマは、

 「これがジュンの言っていた中二病と言う奴か。哀れな」
 「ご理解ドーモ。それでもやっぱりお灸をすえる必要があるな」
 「待て待て姉御!さっき失敗しただろ!?痛ててて、離せッ!」
 「安心しろ。さっきは手元が狂ったが、今度は全力投擲するからな。そぉいッッ!!」
 「おっ、おわぁああああああああぁあああああああ~~!!?」

 宣言通り、今度こそプールに着水――――だけでは済まなくて、あまりの勢いに四、五回プール内で跳ねた位だ。

 「よ、与一の身が心配だから、ちょっと様子見て来るッ!」
 『マスターっ!』

 義経とジャンヌは各々それぞれで与一の身を案じて、急ぎ出て行ってしまった。
 それを見送ってから漸く復帰する風間ファミリーの面々。
 しかし彼女達とすれ違う様に戦闘意欲を充実させすぎている百代が来た。

 「義経ちゃ~ん☆たったかお~っ♪」
 「遂に来たか」

 予想通りの武神襲来にめんどくさがりの弁慶が溜息をつく。
 代わりにそれを治めるべく、クラウディオが現れる。
 完璧執事の説得と提案により、見事この場を治める。
 その2人の会話で義経への挑戦を求めるクリスと一子が名乗り上げたが、考える事は皆同じようで既に順番待ち状態だと言う。

 「ところでシーマは挑戦しないの?」

 何となくシーマへ声を掛けた一子。

 「ん?いや、興味はあるが今の所そこまでの意欲は感じられぬ。余は最後でいいから全力で挑んでみるが良い――――と言いたいところだが、一子よ。アルバの許可は取らなくてよいのか?」
 「ふぐむ!?だ、大丈夫よ。何としてでも了解を取り付けてみせるわ!」
 「ならばよいが・・・・・・・・・そう言えば百代」
 「ん?」

 話しかける相手を妹から姉に切り換える。

 「一応言っておくが、今日のシロウとの組手は無しだぞ」
 「な、何で!?」
 「矢張り気付いていなかったか。今朝戻って来なかったのだから当然であろう?」
 「ぐっ!?け、けどアレは私が悪い訳じゃ!」
 「それはシロウ本人に言ってくれ。それに奴はもう予定を入れてしまって、どちらにしろ無理であろうよ」
 「むーーー!」

 不満から唸る百代だが、今日も何時も通り士郎に組み手をしてもらうつもりだったため、当然収まりがつかない。だから、

 「ならシーマ、お前が相手してくれよ?」
 「余と?」
 「そう言えばお前と一度も組手もした事なかったし、これからの為(・・・・・・)にもどの程度出来るか見極めとかなきゃいけないだろ?」
 「「「「「「?」」」」」」

 百代の言葉の意味をよく理解できていない風間ファミリーの面々。
 反してシーマは考え中。

 「・・・・・・・・・ふむ。良かろう――――と言いたいが良いのか?」

 百代に言うでもなく、他の誰かでも無く、目を瞑りながら言うシーマ。

 「聞こえていないフリするならそれでも良いが、グラウンドの何処かを使って勝手に始めるぞ?勿論周囲に被害が出るやも知れぬが構わぬな?」
 「そりゃ困る!」

 何時の間にいたのか、鉄心が反論して来た。

 「矢張り盗み聞いていたか。義経対百代に備えていたのだろうが、あまり良い趣味とは言えぬな」
 「むぅ」
 「爺の趣味の悪さなんて今更如何でもいい。それよりも、シーマと戦うから結界張ってくれよ。さもなきゃ施設が壊れるぞ」

 酷い言われようである。その上、破壊する前提の言い方だ。

 「周囲に気を配る位はせんか」
 「配るがもしもと言う事が有るだろ?で、張るのか張らないのか?」

 百代の言葉に返事をせずにシーマへと視線を向ける鉄心。

 「お主は良いのか?」
 「本音は兎も角、建前の言葉には一理あるだろうと、一応自らを納得させた」

 溜息をつく鉄心。
 一番嫌がりそうな者が決めているのだから、元凶の祖父たる自分が反対する訳にもいかず、

 「第二グラウンドでやるぞい。見学したい者は巻き込まれぬよう遠く離れた所で見る様に」

 認めるしかなかった。


 -Interlude-


 鉄心の言う通りに従って第二グラウンドに降りてきて向かい合う2人。
 それを離れた地点で見ている様々な観客たちは好き好きに言う。

 「学長の言う通り離れてるけど、意味無いんじゃないか?」
 「そうよね~。百代お姉様にかかれば誰であろうと一撃で沈めるわよ!」
 「だっていうのに変に粋がりやがって、イケメンのくせして生意気な!」

 百代のファンクラブや百代贔屓の生徒は似たようなことを言う。

 「しかしそんな格下と戦う場合、川神さんがあんなに戦意に満ちているだろうか?」
 「それにこの戦い、川神さんから切り出したと言うではないか?」
 「ではやはり相応な強さが有るのではないか?」

 京極の様な楽しめるなら何でもいいと言う中立思考の者達は、慎重な言葉で測る。

 「――――と、様々な意見が出ているが、実際は如何なのだ我が友冬馬よ?」
 「シーマさんについては私達も解らないと言うのが正直な所です」
 「シーマの戦うどころか組手すらボクたち一度も見た事ないもんね」
 「「ただ・・・・・・」」
 「ん?」
 「いえ、なんでもありません」
 「ううん、なんでもない」

 サーヴァントだからとは言えない冬馬と小雪。
 それ以前にサーヴァントがどれほどの戦闘力を持ちえているのか、二人も知らないので分からないと言う言葉は嘘では無いのだ。

 「けどモモ先輩の圧勝のヴィジョンしか浮かばねぇぜ?」
 「まあね、何と言っても最強だし」
 「自分もそう思えるが・・・・・・犬は如何見る?」
 「アタシには分からないけど、前にも言ったけどお姉様曰く“壁越え”らしいのよ。京はどう思う?」
 「さあ?あんまり興味ないし。旦那様はどう思います?」

 答えたら認める事になるので沈黙する大和。
 それに大和も百代の圧勝と言うのは同意見だ。何せ一番近くで百代の理不尽なまでの強さを見続けてきたのだから。
 だが一応まゆっちに質問する――――が、

 「まゆっちはどう思う?」
 「強いです。私など足元にも及ばないほど」
 「え?」

 何時もの控えめでオーバーリアクション+松風対応のまゆっちでは無く、真剣な表情でシーマを見つめ続けながら返した来たのだ。
 それら観客たちから雑音を受ける当人はしれっとしていた。

 「・・・・・・」

 士郎製のレプリカの剣を振りつつ、マスターと念話中だ。

 『――――よく解らないんだが如何して百代と?』
 『理由はシロウ自身にある。反省せよ』
 『なんでさ?』
 『ストレス解消役で戦わなければならない余は、いい迷惑だ。いい加減自覚するのだな』
 『だから何がさ?』
 『念話終了』
 『ちょっ――――』

 一方的に念話を打ち切るシーマ。
 それを察した百代はニヤッと笑う。

 「もう済んだのか?」
 「済ませた」
 「ほお。それにしても凄い言われようだが大丈夫か?」

 何がと言わない。
 観客たちの会話の内容である。
 別に一人一人デカい声量で喋っている訳では無い。百代とシーマの聴音は常人とはかけ離れているので聞こえるのだ。勿論態と抑える事も出来るのだが、

 「言いたい者達には言わせておけばいい」

 シーマとしては気にする理由にはならない。

 「それとも、精神的に弱った余を叩きのめすのが趣味だったのか?」
 「ハッ!そんなわけあるか」

 シーマは何となしに、百代は不敵な笑みを浮かべながら構える。

 「両者準備は良いな?」
 「うむ」
 「いつでも」
 「では――――始めいッ!!」

 直後、瞬間的にシーマへ突っ込みながら主砲を放つ。

 「川神流――――無双正拳突きィっ!」
 「フッ」

 同じように百代へ突っ込んできたシーマの刺突による切っ先がぶつかる。
 直後、両者の衝突により生み出された衝撃波が結界全体を震わせる。
 その現実に先程までシーマへの過小評価で満ちていた観客達が押し黙って息をのむ。
 瞬間、少し下がろうとした百代だが、その隙をつかれて剣の柄で顎を強く打ち上げられて脳震盪が起きる。
 何時もならそこで瞬時に瞬間回復を行い脳震盪を治すが、シーマに隙が無いので、宙で空気を蹴って広範囲技でやり返す。

 「(川神流省く)――――扇風蹴!」

 足を中心に扇方の気を作り、それを勢い良く振りかぶるようにして豪風で相手を吹き飛ばす技。
 しかしシーマは豪風をいとも容易く切り裂き、百代の足を掴んで、

 「ラッ!」
 「ガッ!?」

 士郎から教わった柔道の要領で叩き付ける。
 対して百代は脳震盪も続いていたので、まともに受け身が取れずに背中に大きな負荷を受ける。
 直にその場から距離を取って瞬間回復で体を治す。
 矢張り百代の顔に浮かんでいるのは屈辱からの怒りでは無く、強者との戦いから生じる喜悦だった。

 「バトルジャンキーさはどこまでも抜けないな、お主は」
 「戦う美少女に何て言い草だ!押し倒してやる・・・!」

 文句を言っても笑っている。それほど楽しいのだろう。
 仕切り直しと互いに突っ込み、剣と拳、拳と蹴り、技と体の応酬が高速で繰り返されて行く。
 並みの武術家では一瞬で沈む一撃一撃を両者とも防ぎ捌き躱し続ける。
 あまりの速度と威力により大気が悲鳴を上げ続け、ある種の特別な領域にまで成り上がる。
 しかもこれがお互い本気ではない――――手を抜いてるのだから凄まじいものだ。

 「ま、まぐれよこんなの・・・」
 「そ、そうよ私たち百代お姉様があんな子に・・・」
 「いやいやどっちもスゲーゼ!?」
 「こんな拮抗するなんて、シーマ(アイツ)凄く強かったんだな!」
 「チョーヤバイ!マジでファンになりそう!」

 それを結界外から見ていた生徒達は、少数ながら百代が手加減しているから戦いが続いているだけと呟く者もいたが、多数は手のひらを返して手汗握る者や声援を掛ける者と白熱する戦いの気に当てられて熱に満ちていた。

 『これは手出しできませんね』

 経緯は知らないが2人が闘うと言う事で、いざとなれば庇い百代を救い出そうと考えていたジャンヌだったが、到底手出しできる状況では無かった。
 それに話には聞いていたが、英霊でもなく齢18歳でサーヴァントの身体能力に付いて来られるとはと、百代の動きに驚嘆と関心が彼女の中で広がったいた。
 ちなみにマスターたる与一は気絶中。
 そして自分の従者を助けた義経は、百代とシーマの戦いに真剣な表情で完全に見入っている。特にクラスメイトで同じ剣士だったと気づいたシーマに熱い視線を注いでいた。

 (義経じゃあんな動きも剣戟も出来ない。朝から見た時から強い人だと感じていたが、義経とは比べ物にならないほど剣士として完成してるのでは?)

 義経は今後、シーマを同い年のクラスメイトとして接する事は出来ないだろう。
 彼女の瞳はまるで、英雄に憧れる少年のように輝いている。羨望の眼差しで見続けているからだ。
 此処まで百代と互角な戦いを見せ続けているシーマに、別の者達――――風間ファミリーも驚いていた。

 「いやー、熱い戦いじゃねぇかッ!」
 「まさかシーマが此処まで凄いとは!」
 「剣士として自分もいつかはあの域に至れるだろうか・・・・・・如何した犬?」
 「・・・・・・・・・」

 クリスの指摘を受けている一子は黙っている。
 無視している訳ではない。見入っているが義経とは違う彼女の瞳に移る感情――――それは嫉妬だ。
 数年前から百代に憧れて部の世界に足を踏み入れて、努力してきた。
 努力――――努力して努力して努力して努力して努力して努力しても未だに追いつけない憧れの存在。
 それだけなら嫉妬を抱く事など無い――――少なくとも百代には。憧憬の具現とはそういうモノだ。
 だが――――だが、同い年の急に現れた少年が今、百代と同じ地平で戦い繰り広げている光景を見せ続けられれば、まるでいとも容易く憧憬の具現の隣に並ばれれば、醜い劣情――――嫉妬を抱くなと言うのは無理らしからぬことだった。

 『お前にはそこへ至る才能が足らない』

 今の師匠たるアルバに言われた事も嫌でも思い出す。
 勿論それだけで終わらず、見事自分の修業に耐え抜けば、無理矢理にでもその境地に立てる様に仕込んでやれるとも言われている。
 確かにこの道を行けば憧憬の具現と同じものを、いずれ(・・・)見れるようになるだろう。
 だがいずれ(・・・)だと言う残酷な現実が、努力の天才たる一子に焦燥と嫉妬を自覚なしに覚えさせているのだ。

 そんな周囲の事など勿論お構いなしに互いの矛を間地合わせ続ける2人。
 百代がシーマの蹴りを利用して足を踏み台に高く飛びあがると、両手にそれぞれ似て非なる技を繰り出す為に気を練り上げて形とする。
 まずは左手から、

 「川神流――――星殺しッ!」

 一撃必殺の極太ビームは、そのままシーマへ一直線に伸びるがシーマがそれに狼狽える事は無い。
 今だ真名は不明だがセイバーたるシーマはアーチャーの適正も高いのか、弓兵並みの視力を以て気の乱れや歪みの位置を特定できるので、

 「ハァアアッ!」

 極太ビーム目掛けて剣をブーメランのように投擲し、打ち破る。
 しかしそれは囮だったようで、瞬時にシーマの懐にまで接近すると、

 「星穿ちぃッ!」

 百代が魔術の存在を知る切っ掛けとなったあの日の夜、対軍神としてその場の即興で編み出した技をシーマへ向けて放つ。
 だがそれを片腕だけで防がれる。シーマに星穿ちが通じなかった訳では無い。耐久力が規格外だったわけでもない。
 理由はシーマがもう片方の腕で百代の右腕を掴み、士郎から教わった“とある武術”の技を駆使して経穴を突いて腕に装填されていた気を勝手に放出から霧散させたのだ。

 「グッ!?」

 だが懐に居るので、直に川神流の蹴り技を与えようとしたところで、剣のブーメランが戻って来る時に自分が射線上に居る事を咄嗟に察知して、地を蹴りその場から離れてそれを躱す。

 「フッ!」
 「ふぅ」

 瞬時に瞬間回復で腕を治し不敵な笑みを浮かべる百代に対し、速度も回転も高速で戻って来た剣の柄を容易に掴みとり、一息つくシーマ。
 シーマを見て、まだまだ余裕そうだなと嬉しくなる百代が再度仕掛けようと地を蹴ろうとした所で、

 「今日はこの辺でよかろう」
 「なっ」
 「別に真剣な死合でも無いし、お互いがこれからも(・・・・・)よりよく連携できる位の確認は終わったろう?」
 「むむ・・・」

 シーマの制止と言葉に押し黙る百代は正直続けたかったが、互いの戦力確認が建前だったので、それを理由に戦えたのだから指摘されれば聞き入れるしかなかった。
 百代が渋々ながら構えを解いたのを見て肩を竦めるシーマだったが、何か思い出したように言う。

 「そう言えば百代は此処で油を売っていてよいのか?」
 「何の話だ?」
 「今日の放課後、葉桜清楚の歓迎会をシロウの家の庭でやる話になったと聞いていたが――――ホントに知らんのか?」
 「知らないぞ!何だその話は!?」
 「朝、早速葉桜清楚に口説きに来ていたと聞いたが、3-Sのほぼ全員で歓迎会をやると言う事であったが、聞いていなかったか」

 シーマの話など初耳だったようで、悔しそうに唸る百代。

 「ぐぬぬぬっ!――――で、士郎の家で今もうやってるのか!?」
 「料理を作らなきゃならんだろうから今、買い出し中であろうな」
 「士郎がよく使う食材の買い出し先と言えば・・・・・・・・・あそこか!サンキュ、シーマ!」

 地を蹴り、おもっいきり跳躍した百代は直に見えなくなった。
 それを見送ったシーマに鉄心が近づく。

 「孫娘が面倒を掛けたの」
 「構わなくはないが仕方あるまい」
 「すまぬな・・・・・・ところで」
 「ん?」
 「モモに清楚ちゃんの歓迎会の事を教えたのは態とかのぉ?」
 (清楚ちゃん?)
 「ああ。これ以上は食い下がられる可能性もあるからな。次はシロウ自身に面倒を見てもらう」

 意外と好い性格しているシーマに左様かと呟く鉄心。
 ただ、

 「ならお主自身で作った面倒事は自分で処理するんじゃぞ?」
 「は?」

 何を言われているのか理解する間もなく、シーマの背後から多くの生徒が詰めかけて来た。

 「感動したぞ、君!」
 「ファンになりたいからファンクラブを作る許可をくれないか!」
 「来週の日曜日、私と七浜のホテル街でデートしない?」
 「今日から私をシーマ様の(モノ)にしてください・・・!」

 如何やら今の戦闘で、調子よくファンになったと自称する者達とよく解らない方向性で暴走する者達だった。
 その後シーマは暫くの間、押し寄せて来た者達を抑えるのに時間を割かれる羽目となった。
 ちなみに、とある一人のガングロ女子生徒がシーマを押し倒そうとタックルして来たが、それを躱して当身で気絶させたとか。


 -Interlude-


 とある事情で関西から関東の神奈川県川神市に引っ越して来た松永燕は、引っ越しの荷解きの大かたを終えて街を出て冬木に来ていた。
 最初はとある事情―――――ある巨大企業のVIPから受けた仕事に役立たせるために周囲の散策を行おとした所で、財布から落とした一枚の写真をたまたま目に停めた人が写真に写る男の子を知っている事からいろいろあって此処に来たのだ。

 「住所なんて知らなかったから会えるのはまだまだ先の事だとばかり思ってたけど、こんなに早く会えるかもしれないなんて・・・」

 何時もの明るさを無意識に伏せて、緊張と期待が入り混じった表情で教えてもらった住所に近づいて行った。

 「此処を右に・・・・・・って!?」

 それは不意打ち。
 角を曲がったところで、数年前から会いたいと渇望していた人物の背中が見えたのだ。
 背中だけなら兎も角、あの赤銅色の髪は間違いないと判断するが、思わず隠れてしまった燕。
 覗き見るように顔だけ出すと、如何やら買い物中の様で買い物袋を片手に持ちながら同じく買い物袋を片手に持つアラフィフの女性――――所謂近所のおばちゃんと談笑していた。
 赤銅色の髪は勿論、横顔は昔の面影が有りながら、美形とは言い難いが十分イケメンに類する横顔に受け手を安心させてくれる笑顔――――間違いなく・・・。

 「うわぁ!し、士郎だぁ!見ない間に身長もずいぶん大きくなってるし、何というか・・・・・・うん。凄くカッコイイ・・・っ!」

 このまま覗き見ているなんて趣味も悪いし、元々会いたいが為に冬木(此処)まで足を運んだのだ。此処は偶然を装って出て行こうと決心した直後、空から黒髪長髪の美少女が降って来た。
 しかも

 「ッッッ!!?!?!??」

 その女はあろう事か、士郎に開いている方の手を自分の手に絡めてくっ付いて来たのだ。

 「――――ダ・レ?あのオ・ン・ナ・・・・・・ッッ!!!」

 士郎と士郎に抱き付いている女を見る燕の瞳からハイライトが段々と失われて行き、街角のある家の塀のコンクリートに手を置いていた箇所は、彼女の握力によって擬音が鳴り響くと同時にたちまち粉々に砕いた。
 そんな怒り心頭の筈なのに逆に不思議と冷静になってきた燕は、士郎にくっ付いているのが武神、川神百代である事に気付いた。
 そこへ丁度自分の携帯が鳴り響き開くと、とある巨大企業の仕事を依頼して来たVIP――――九鬼紋白だったのを確認して繋ぐ。

 「・・・・・・はい。はい、もう着きました。あっ、そう言えば例のターゲットを一度でも倒すのが今回の依頼なんですよね?」
 『うむ!――――だが矢張り、厳しそうか?』
 「そう言う事じゃないんです」
 『ん?』

 では一体何なのだと電話の向こうの紋白は首をかしげる。
 だからこそ燕の次の言葉は完全に予想外だった。

 「倒すなんて甘い事言わないで、いっその事、殺しちゃっていいんじゃないでしょうか?」
 『『は・・・・・・・・・ハァアアっっ!??』』 
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