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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第一部 桐嶋和ENDルート
  第14話 年が明けて

H12年1月 銀座にある回らないお寿司屋さん

「く、桑原本因坊が……どうして?」

 緒方先生と待ち合わせた都内の寿司屋の個室。予期せぬ大物との遭遇に動揺を隠せずにいた。

「スマン岸本。どうしても断れなかった」

「ほほほ。賭けに負けたのにも関わらず今夜の予定を誤魔化そうとしたオヌシが悪い」

「……今夜は桑原先生が奢ってくれるから遠慮せず好きだけ食べろ」

 とりあえず頼まれていたAiの数枚の棋譜を緒方先生に手渡す。
 あ、注文は……おまかせとかコースでお願いします。好き嫌いとか(あるけど)無いです。

「次からはネット碁でAiを見つけたら、こちらの予定は気にせず直に携帯にメールをくれ」

「ほほう。これが緒方くんや一柳のヤツが熱を上げとるという噂の和ちゃんか」

「……どういうことです?」

「電話でも少し話したが未だ桐嶋和らしき女性は見つかっていない。
 国内はもちろん中国や韓国の知り合いにも声をかけたんだがな……」

「お陰でAiが日中韓のプロの一部で注目されていることが分かった。
 ネット碁を嗜む若手の棋士が数名叩きのめされて話題になっている」

「ほほほ。この黒石が一柳か。ほう。これは、これは」

「え?一柳先生のアカウント名はichiryuと聞きましたが?」

「ああ。これは研究会で若手棋士に頼まれて代わりに打ったらしい」

「それでじゃ。この棋譜は若手の研究会でも検討されての。話題になっとるらしい」

「対局数が多くないとはいえ未だ無敗。誰がAiを破るか日中韓で競争になっている」

「一柳のヤツもAiを見つけたら次こそはリベンジすると息巻いておったの」

「倉田がいうには韓国の安太善もAiに敗れたらしい」

「この棋譜を見ても他に教えて貰った棋譜からしても……ハッキリ言ってAiの棋力はオレの想像以上だ。」

「公式戦に比べ持ち時間の少ないネットの早碁とはいえ恐るべき打ち手じゃの」

「そっちは桐嶋和について何か分かったか?」

「いえ。何一つ分かりません」

「こうなってくるとオレにはネット碁のAiが桐嶋和と同一人物なのか分からん」

「はい。……私も緒方先生の話を聞いて自分の知る桐嶋和にしては強すぎるように思えます」

「とりあえず分かったことはAiは中国ルールで打っている。恐らくコミも5目半ではない。厳しい打ち手だ」

(トッププロ恐るべし!いくつかの棋譜でそこまで分かるのか!?
 確かに中国の囲碁AIを使用している和-Ai-は中国ルールで打ってる。コミも7目半だ。)

「以前に言ってたな。日本にいないなら中国か韓国にいるかもしれないと」

「……はい」

「AiはJPN(日本人)かもしれないが中国で碁を打っている可能性が高い。また何か分かれば連絡する」

(どうしよう……思った以上に大袈裟な話になってる。)

 僕と緒方先生の話が落ち着いたところで棋譜を眺めていた桑原本因坊が口を挟む。

「囲碁界に新しい波を起こす1人と聞いたが……」

「どうしました?」

「ふむ。これはヒトが打った碁かのう?」

 その一言に衝撃が走り背筋から冷や汗が流れる。僕は動揺を抑えようと寿司を口に運び、落ち着いてお茶を飲もうとする。

「どういう意味です?」

 お寿司に合わせたソーヴィニヨン・ブラン(白ワイン)を飲みながら緒方先生が怪訝な表情で問いかける。僕も遠慮せず純米酒に手を付けようかと気をそらす。

「ワシのシックスセンスじゃ」

「シックスセンス?」

「第六感じゃよ。棋譜を見れば見るほどAiの碁はこの世のものとは思えん」

「バカバカしい! じゃあ何だっていうんです?」

「神か、悪魔か、果ては異世界からやってきた囲碁星人か……」
 
 その後はトッププロ達が評するAiのネット碁の特徴について聞きながら高級な寿司と純米酒を頂いたが味の記憶は殆どない。

 帰り際に御馳走になったお礼を桑原本因坊に告げる際、ほろ酔いの勢いで思い切った質問をする。

「桑原先生、僕が探してる桐嶋和は……彼女は……いますか?」

 この世界に存在するのか?と言外に問いかけた。

「……ふむ。ワシのシックスセンスでいいんじゃな?」

「はい。お願いします。」

「そうじゃな…………」

 一瞬の静寂に唾を飲む。

「わからん」

「は?」

「わからん。が、オヌシが諦めなければ……また何処かで会える」

「え?」

「ほほほ。天国か。地獄が。この世とは限らんがの」

 そう言い残して桑原本因坊は闇の中に消えていった。 
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