和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

H11年7月

　Aiの対局数は30局ほど、対局者は大半はAiの強さを測りかねていた。

　Aiに底知れぬ強さを感じた対局者も稀にいたが、上級者である彼らからすれば明らかに悪手と映るほどの常識外れの斬新な手によりAiをプロ棋士だと思うものはいなかった。

　Aiはチャットを禁止に設定していたし1週間ほどでWWGOから静かに消えた。

　そして入れ替わりに現れたsaiが連日の対局を行いネット碁の世界を震撼させたことで、Aiの名は皆の記憶から消えていった。

　あるプロ棋士を除いてーー

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　緒方精次二は混乱していた。ほろ酔いで打ったネット碁の一局。
　結果は白番を持って133手での中押負け。

　最初は酔っていたので序盤にミスがあったのかと思ったが……手が進むごとに酔いが醒める。

　改めて棋譜を検討し直すと対局時に抱いていた印象が大きく変わる。
　悪手や疑問手もあり付け入る隙があると感じていたはずだった。

　序盤に緒方が放った右上の攻めを放置して積極的に動く見慣れない手順に自由奔放な囲碁だと感じた。

　相手の手抜きを咎めた白石のハサミに対して黒石のツケは露骨な感じがする。

「これが好手とは思えないが……」

　白石はタタキで最強に反発。
　タタキから10数手は、ほぼ一本道の繊細な駆け引きが続く。

「ここはヒネリすぎたか。結果的に損になったようだ。」

　気が付けば白石が上辺の低い所に拘ってしまったため右辺がペチャンコになってしまった。

「これは……剛力の一手……」

　最強に攻めて白石の形を崩したが、黒石も危ない。

「これで戦えると読めているとしたら……おそろしい」

　白の緒方が中央の要を取ったものの、隅のイジメが厳しい。

　117手を迎えるころには地合いは黒がハッキリと優位となる。
　白は必死に手を作るが黒は見切ったように手を放つ。
　白のツナギに対して黒が退路を絶ったところで緒方が投了した。

　棋譜を見返しても自らの手に悪手らしき悪手が見当たらない。

　「Aiか……何者だ？　アマとは思えんが…」

　「JPN(日本人)となっていたが……。しかし日本のプロに思い当たる打ち手がいない。」

　特に序盤では公式戦では見たこともない柔軟な打ちまわしが多くプロが研究途中の新手をネット碁で試したとも思えた。

　「まさか早碁でオレが見事に手玉にとられるとはな」

　ベストな状態で対局できなかった後悔よりも相手への称賛が勝った。

　どちらにせよ、再び打ちたい。

　そう思える魅力的な棋譜が緒方の手に残っていた。

　新しい時代の訪れを肌で感じることができる碁打ちとの出会いに胸を期待を膨らませて気分よく愛車に乗り込み棋院へと向かった。