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色を無くしたこの世界で

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ハジマリ編
  第27話 思惑

 稲妻町、鉄塔前。
 モノクロ世界から来た刺客、スキアとの勝負に見事勝利したフェイ、アステリ、ワンダバの三名は、スキアの造ったこの模造品の世界に立っていた。

「負けてしまいましたか…………さすがはモノクロームの一角であるカオス様を負かしただけの事はあります」

 そう、スキアは静かに唱える。
 最初に会った時のように、黒い日傘をさしながら宙に浮遊する彼を見詰め、アステリは眉を顰める。
――なんだ……?
――勝負に負けたのに……どうしてこんなに余裕そうなんだ……?

「やはり私などでは太刀打ち出来ませんでしたか……これではクロト様に怒られてしまいますね……」
「…………嘘吐き」
「……!」

 悲しそうに話すスキアの言葉を遮るように、アステリは呟いた。
 アステリの突然の言葉に、スキアも、そして隣にいたフェイやワンダバまでもが訝し気な顔でアステリを見る。

「お前は勝負に負けた…………このまま帰ればクロトに罰を与えられるはずだ。それなのに、どうしてそんなに余裕そうなんだ」
「そんな……嫌ですね…………アステリさん」

 「余裕、だなんて」とスキアは目を細め笑って見せると、アステリを見詰め、言葉を返す。

「そんなモノ、ありませんよ。私もクロト様の事は怖いですから。それに――――試合はまだ、これからですよ……アステリさん」
「!?」

 スキアの言葉にアステリは目を丸くする。
 隣にいたフェイも、同様に驚きの表情を浮かべると「どう言う事だ」と声を張り上げ、スキアを睨み付けた。
 そんな彼等を嘲笑うかのように、スキアは微笑むと、穏やかな口調で言葉を続ける。

「質問にお答えしたい所ですが……残念です。そろそろ時間切れ、なので…………」
「時間…………? …………!」

 眉を顰め、怪訝そうにスキアを見詰めてたフェイは、直後自分の目に映った風景に思わず目を疑った。
 スキアの言葉を合図にしたように、影で出来た世界がボロボロと崩れ、その姿を消していく。
 まるでパズルのピースが抜け落ち消えていくように、崩落し穴の開いた空間の先に、鮮やかな色彩が見え隠れする。

「私はクロト様の部下の中では力の弱い部類に入ります…………なので、あまり長時間、影の世界を維持する事が出来ません。……お約束通り、アナタ方を元いた世界にお帰しいたします」

 そう、言葉を並べるスキアは崩落していく影の世界に呑まれるように、その身を消していく。

「待て、まだ話は……!」
「ご安心を…………また近々、お会いする機会があります」
「え…………」

 アステリの言葉にスキアはそう、笑いかけると最後にその大きな単眼を見開き

「その時に、嫌でも質問の答えが分かりますよ」

 そう囁いた。

「っ………………」

 次の瞬間、三人が目を開くと見慣れた風景が映った。

「…………どうやら、帰ってきたみたいだね……」

 周囲を見渡し、フェイがそう言葉を零す。
 あの異様な影の世界もスキアもいない。
 ただただ見慣れた、稲妻町の風景がそこにはあった。

「……」
「……アステリ、大丈夫?」

 暗く、曇ったような表情で立ち尽くすアステリにフェイは声をかける。
 自分の名を呼ぶ声に気付き、振り返ったアステリは心配そうに自分を見詰めるフェイとワンダバを見ると、「うん……」と不安そうに目を伏せた。

「さっきの言葉が気になっているのか……?」

 ワンダバの問いに、小さく頷く。

「"近々会う機会がある"…………一体、どう言う事なんだろうね……」
「分からない……けど。……多分、近々また何か仕掛けてくるんだと思う」
「全く……しつこい奴だな!」

 腕を組み、呆れた様にワンダバは唱える。
 そんな彼とは裏腹に、アステリは沈みこんだ表情のまま、強く右手を握り絞めた。

「…………アステリ」
「大丈夫…………行こう。天馬が待ってる……」
「うん……」

 そう言葉を返したアステリの瞳は、それでも揺れていた。 
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