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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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非常識野球

 
前書き
この小説では女子野球を9イニング制でいこうと思います。
本当は7回制ですが、9回制の方が楽しそうなので(笑) 

 
「礼!!」
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」

試合はそのまま13対8で音ノ木坂学院は無事に初勝利を上げることができた。

「やったぁ!!初勝利!!」
「やったね穂乃果ちゃん!!」

まだ一試合が終わっただけなのに、まるで全国制覇した高校球児のような喜びようの面々を見ながらわざとらしく咳払いをする。それで正気を取り戻した面々は、すぐさま剛の前で円陣を組む。

「まずお疲れ様。とりあえず勝ててホッとしているが、内容はまだまだって感じだな」

だが始まってわずか数週間の野球部が強豪相手に渡り合ったことには素直に脱帽する。偉大な選手に褒められたことで、彼女たちはどこか気恥ずかしそうにしていた。

「このまま二試合目に入るが、痛い場所がある奴はいるか?」

初めてのことだらけで体を痛めたものがいるかもしれないと確認してみるが、全員首を横に振り大丈夫なことをアピールする。それに小さくうなずいてから、剛は次の試合のオーダーを発表する。

「一番キャッチャー穂乃果」
「はい!!」
「二番セカンド凛」
「はいニャ!!」

ここまでは先程の試合と同じ、ただ、ここからの打順に若干の変化が見られた。

「三番レフト真姫」
「はい」

先程の試合四番だった真姫を三番に上げた打順。そしておそらくそのまま絵里を四番に入れるのだろうと考えていたが、想定外の名前が飛び出した。

「四番ピッチャー海未」
「!?は!!はい!!」

思わぬ名前に呼ばれた方もビックリして声が裏返る。その時海未は思わず絵里の方を見たが、彼女は別段驚いた顔も見せずにこやかだった。

「五番ショート絵里」
「はい」
「六番センター希」
「はいは~い」
「七番サードにこ」
「ニコッ!!」
「八番ライト花陽」
「はい!!」
「九番ファーストことり」
「はい!!」

一試合目先発した花陽を外野に置いて後から登板させる予定のスターティングオーダー。一試合目と変化は少ないようだが、中軸を大きく変えていることで全員の衝撃は大きい。

「あと20分くらいしたら試合になるから、それぞれ準備して置いてくれ。無理だけはしないように」

一度解散し休息や次の試合の準備に入ることにする。円陣が解けると、凛から花陽にある質問が飛んだ。

「ねぇねぇかよちん」
「何?凛ちゃん」
「二試合目の打順ってどういうことかな?」

一試合目の打順は剛の出身校、東日本学園の打順の組み方をしたオーダー。しかし、二試合目の打順が変わっているのは、それをより生かすためなのかどうか、彼女たちにはわからなかった。

「たぶん、ダブルスタンダードオーダーなんじゃないかしら?」
「ダブルスタンダード?」

またしても聞き慣れない言葉に全員がクエスチョンマークを浮かべる。それに対し答えたにこは、鼻高々に語り始める。

「東日本学園ではあまり使われることはないけど、二つのグループで攻撃を組み立てるの」
「というと?」
「通常の一番から始まる考え方と、中軸に一番打者の役割ができる打者を置いて二人の一番打者で得点を量産するスタイルよ。ただ、第二の一番打者をどこに置くのかが難しいから、一般的には使われない手法ね」

うまくハマればいいが、失敗すれば大崩れしてしまう打順。そのリスクを最小限に抑えるのが、このチーム一番の選手である絢瀬絵里。

「絵里は足も早いし長打もある。たぶん絵里、希、にこで一点、最悪でも1アウト一、三塁を作って花陽でスクイズ。もしくはことりになんとかしてもらおうと考えてるのね」

一番打者の条件と中軸の条件を兼ね備えている絵里をあえて五番に置き、クリンナップ並びに第二の一番打者をやらせる打順、にこはそう考えていた。

「へ~、なんか難しいね」
「何言ってるのかわかんないニャ」

分かりにくい言葉の羅列に頭を抱えている穂乃果と凛。彼女たちを除いた他の面々はにこの説明を理解し、感心していた。だが、実際には剛の考えはさらに上を行っていたことを後に知ることになる。



















「二試合目は後攻!!」

試合開始直前じゃんけんを終えた穂乃果が声高らかに結果を叫ぶ。数少ない練習試合、できるだけどちらにも対応できるようにと、じゃんけんに勝った穂乃果は後攻を取ってきたのだ。

「すぐ防具着けて準備しろ、始まるぞ」

一仕事終えたキャプテンに声をかけつつベンチ前に整列する。その後、ついに第二戦が開幕した。
七球の投球練習を終え試合開始。この試合では穂乃果が配球に困った際だけ剛が指示を出すことにしているため、穂乃果はパパッと初球のサインを出し、海未がモーションに入る。

ビュッ バシッ

「ストライク!!」

無難にアウトローでストライク。海未の球種はストレートとシュートに小さく曲がるスライダー。球種は決して多くはないが、そこを配給でカバーするのがキャッチャーの役割。

(これで行けるかな?)

頭の中では悩んでいるが、表情には一切表れず淡々とサイン交換をしているように見える。二球目は真ん中にハーフスピードのボール。打ちやすい球に打者は当然動くが、それが手元で変化した。

「サード!!」
「わかってるわ」

小さな体を大袈裟に動かし簡単に一塁をアウトにする。変化量の少ないスライダーをカットボールのように使い、凡打を打たせるような配球。

(真っ直ぐで厳しいところを突ける海未だからこそできる投球だな。球が速い分、より効果がある)

ただストレート系のボールしかないため、タイミングを崩すことはできない。色々緩急を付けれるボールは練習したが、どれも海未には合わず、今のスタイルになっている。

カキーンッ

「ライト!!ボール・・・せ・・・サード!!」

テンポよく二人を打ち取ってのクリンナップ。初球からシュートで詰まらせにいったが、相手に適応され長打を浴びる。その際穂乃果の指示が遅れ、中継がずれ一気に三塁を陥れられた。

(こればっかりは経験値が物をいう。あと2ヶ月で覚え込ませるしかない)

配球、指示、キャッチング、様々な役割がある捕手は負担が大きい。しかし、それゆえにチームの中心がそこにいる安心感は計り知れない。

「穂乃果!!自信持ってやれ!!ミスしていいから!!」

主将で捕手、その重役を担ったことがあるからこそ、落ち込んでしまうとチームの士気に影響を与えることをよく理解している。普通の人物ならこの声掛けでもなかなか切り替えられないが、穂乃果は違う。ポジティブシンキングの彼女なら、簡単に切り替えられる。

カキーンッ

「ありゃ」

その直後の初球、甘く入ってしまったストレートをレフト前に痛打される。ゆっくりサードランナーがホームイン、一点を先制される。
その後、四球とエラーで一点を追加されたものの、その後をなんとか抑えて二点に止めた。

「打たれるのは仕方ない。問題はそのあとをしっかり抑えることだ」

円陣で軽く声をかけすぐさま攻撃に入る。

カンッ

先頭の穂乃果がライト前にポトリッと落とし出塁。続く二番の凛に、剛からサインが飛ぶ。

「よーし!!」

グッと背伸びしてバットを構える。バントの構えがないことに相手キャッチャーは訝しげな表情を浮かべるが、セオリーで考えればバントなため、野手にブロックサインを送る。

スッ

投手がクイックモーションで動き出したその瞬間、一塁ランナーの穂乃果がスタートを切る。投球は外角へのスライダー。

カキーンッ

それを打って出る凛。だが、打球はセカンドの正面。本来ならゲッツーコースだが、あらかじめスタートを切っていた穂乃果はすでに二塁に到達しており、一塁だけアウトになる。

(正面か。打球はよかっただけに惜しいな)

初球からリスクの高いエンドランを仕掛け、敵を揺さぶりにかかった剛。結果は失敗だったが、ランナーを進めることはできたのでこれはこれでよし。

(真姫は普通に打たせていい。そのために三番を上げたんだから)

続いての真姫にはダミーサインを送る。真姫はそれにうなずくと、構えに入る。

カンッ

高々と打ち上がった打球。センターはバックし、それをキャッチした。それを見てから、穂乃果がタッチアップで三塁に向かう。
外野の深いところまで飛んだため、相手は到底間に合わないと内野に返球。しかし、それをこの男が許すはずはない。

「穂乃果4つだ!!」
「えぇ!?」

楽々三塁到達と思われた走者をあろうことかホームに突入させる。当然これには敵味方関係なく驚愕する。

「くっ!!」

穂乃果がホームに突入したのを見て慌ててバックホームする二塁手。しかし、女子野球はどうしても送球が弱い。無謀に思えた策は瞬く間にハマり、穂乃果が生還する。

「ナイスラン穂乃果」
「は・・・はい・・・」
「全員、こっちがやったプレーをやり返されるなよ。ランナーは常に先を狙っていると思え」
「「「「「はい!!」」」」」

非常識と思えるような野球。しかし、それを実行するには確実な裏付けがある。剛の培ってきた経験が無謀な攻めを可能にしていく。














その後は海未がポップフライを上げてしまい初回は一点止まり。二回はそれぞれランナーを出したものの無得点に終わる。そして三回の表・・・

「海未ちゃん!!腕振っていこ!!」
「打たせていいよ!!」
「はい」

額の汗を拭い穂乃果のサインを受ける海未。2アウトを取ってはいるものの、ランナー満塁のピンチ。カウント1ボール1ストライクからの三球目。

キンッ

一二塁間への打球。機敏な動きを見せる凛が飛び付くものの、打球は無情にもライトへと抜けてしまう。

「バックホーム!!」

三塁走者がホームイン。続いて二塁走者も返ってくる。ライトの花陽はボールを捕球すると、そのままステップして送球する。

パシッ

穂乃果目掛けて放られたそれはわずかに放物線を描きつつも捕手の元に到着し、穂乃果が滑り込む走者へとタッチする。

「アウト!!」

高々と挙げられる右腕。見事な返球を見せた花陽を他の面々が温かく迎え入れる。

(やっぱり花陽は丁寧にプレーをするからスローイングはいいな。バッティングは慎重すぎててんでダメだが)
「にこ、次から投げるぞ。海未はそのままサードに入れ」
「「はい!!」」

二試合目は海未、にこ、花陽の順に三回ずつ投げさせる予定。にこが投げる時は海未をサード、花陽が投げる時はにこをサードに戻し海未をライトへと入れる。

(んで、またこっちは一番からなんだが・・・)

ガッ

「あら!!」

難しい球を打ち上げてアウトになる穂乃果。彼女は勢いこそあるもののどうにもムラがあり、変な球に手を出してしまう。

(もっとバッティングを練習させるべきか?でも守備もまだまだ練習しないとだし・・・)

頭を悩ましているうちに続く凛が高めの際どい球を見逃し三振しベンチに返ってくる。

「やっちゃったニャ・・・」
「ドンマイ、凛ちゃん」

ガックリと落ち込む凛を励ます花陽。それを穂乃果やことりも励ましていると、グラウンドから快音が響き渡る。
ライトスタンドに突き刺さる弾丸ライナー。それを放った少女は得意気な表情でベースを一周していた。

「わっ!!すごいよ真姫ちゃん!!」
「あれがホームラン!?」
「生で初めて見たニャ!!」

それをきっかけに大盛り上がりのベンチ。あまりに見事な当たりに剛も拍手を送る。
そしてベンチに戻ってきた少女を、全員が手荒く迎え入れていた。

「よくやったわ!!真姫!!」
「ナイバッチやね」
「さすが真姫ちゃん!!」
「ビックリしちゃいました!!」

大興奮の仲間たちを見た少女は髪の毛をクルクルといじりながらドヤ顔を浮かばせていた。

「ま、当然よね」

インコースに狙いを定めてのフルスイング。打撃専門とも言える彼女に取っても、会心の当たりだったのだろう。
続くと海未と絵里が四球で出塁したものの、希が外に逃げていくスライダーを空振り三振。3対2で四回へと入っていく。

四回からマウンドに登ったチーム一小柄な少女。彼女は球威はないものの、変化の大きなカーブと抜群の制球力で四回、五回を三人ずつで打ち取る。だが、六回に掴まった。

カキーンッ カキーンッ

コースは決して甘くない。しかし、如何せん球種がカーブしかない。さすがは全国の上位に進出するチームだけあり、そのカーブだけに狙いを絞ると瞬く間に捉え始めた。
右打者は体からストライクに入ってくるボールを引っ張り、左打者は逆らわずに流す。結果、長短打を集中され三点を失った。

「や~ん、打たれちゃったニコ」
「そのわりに応えてないわね」
「にこっちらしいね」

全然落ち込んでいない少女の姿を見て逆に落ち込んでいたチームに笑顔が見られた。ただ、打線は敵の二番手投手を捉えられずに2対6で終盤に突入する。

「花陽、穂乃果」
「「??」」

六回も無得点に終わり守備に着く音ノ木坂学院。その際バッテリーを剛は呼び止めると、二人に耳打ちする。

「ここからの配球は俺がする。穂乃果、花陽の配球の感じを覚えろ」
「わかりました」
「お願いします!!」

一試合目の大量失点は守備のミスも多かったが、何よりも花陽を生かした投球をさせられなかった。ポジティブシンキングの穂乃果に引っ込み思案の花陽を引っ張らせたかったが、そもそもの“土台”ないので、まずはそこから教えなければいけないと剛は考えた。

「さて、ここからが重要だな」

このチームの全員が正式なポジションに着いての初めての守備。今後のチームの命運を占うのは、言うまでもなかった。



 
 

 
後書き
一回ここで切りましょうかね。
次は七回以降の試合をやりたいと思います。 
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