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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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適材適所

「う~ん・・・」

ベンチで腕を組み腰をかけている剛は頭を悩ませていた。その視線の先にいるのは、ピンチに額の汗を拭っているエースの姿。

(2アウト二、三塁。追い込んではいるけど、向こうはタイミングが合ってきている。ここは必ず止めれるって自信を持ってスプリットを使うべきだが・・・)

花陽の球種はストレートとスライダー、ナックルにスプリット。ランナー三塁で落ちる球を使うのはパスボールのリスクが高く勇気が必要とされている。ただ、近年ではそんなリスクなどお構い無しにワンバウンドする落ちるボールを使う者は多いが。

(穂乃果はまだ経験が浅い。そのリスクを払ってサインを出せるか?)

この試合は選手たちに任せているだけに、その一挙手一投足に注目を寄せている。穂乃果は打者をチラリと見ると、サインを送る。花陽はそれにうなずくと、ランナーを牽制しつつセットポジションに入り、投球動作に入る。

ビシュッ

小さな体をいっぱいに使い、腕を振り下ろす。ストレートのように見えたボールは、打者の手元で落ち、空振り三振に仕留めた。

「なんとか凌いだな」

まだ試合は五回が終わったところなのに、まるで試合が終わったかのような安堵の息を漏らす。それもそのはず、現在五回の裏を終了し9対8。勝ってはいるものの、褒められた試合内容ではないため、剛はずっとヤキモキしていた。

(打撃はいい。みんな思いきりがいい分よくバットが振れている。問題は守備だ)

ベンチに戻ってきた穂乃果たちを迎え入れるヒフミトリオ。現在は試合開始時とポジションが大きく変わっており、このようになっている。

P 花陽
C 穂乃果
1B 希
2B にこ
3B 海未
SS 絵里
LF 真姫
CF 凛
RF ことり

「花陽の球数は?」
「94球です」

ストライク先行でピッチングは申し分ないのだが、守備のミスが多すぎる。凛は厳しい打球にも素早い動きで対応できるのだが、雑なところがありスローイングが安定しない。その際一塁を守っていた真姫は低めの暴投を捌く技術がないため、この二人でのミスだけで3つ。
エラーではないが、最初の布陣ではことり、にこの肩が弱いため、ランナー二塁時に外野にゴロでヒットが飛ぶと、もれなく一点を取られてしまう。

「海未!!次から行くぞ」
「はい!!」
「花陽は・・・ファースト。希がサードに入って」
「はい!!」
「OK」

まだ手探りな状態なため仕方がないことではあるが、自分の能力を見極める力の無さに落ち込んでしまう。それを悟られる訳にはいかないので、常に平静を装うようにしてはいるが。

ガッ

守備のことで悩んでいると、先頭の凛が高めのボールを打ち上げサードファールフライに倒れる。

「うぅ・・・打てなくなってきたニャ・・・」

一打席目のクリーンヒット以降まともな当たりがない少女がガックリと落ち込みながらベンチに返ってくる。

「凛。もう少しゾーンを下げろ。お前は足が速いんだから転がせる低めを狙った方がいい」
「なるほど!!わかったニャ!!」

選手の長所を活かしていくためのアドバイスを確実にしていく。これも監督としての重要な役割なため、剛は一人一人のプレーをじっくりと観察している。
その回は打撃に定評のある絵里と真姫も凡退し、三者凡退に終わる。その後ポジションを変え、海未がマウンドに上がった。

キンッ

「ファースト!!」
「あわわ!!」

地を這うような打球に腰が引け、ボールを弾いてしまった花陽。しかし、ベースカバーに走っていた海未に丁度転がっていき、何とかアウトにすることができた。

(そうだった。花陽は守備練してないんだった)

長いイニングを投げるために徹底的に走り込みをさせていたため、今守備についている少女が経験不足なことに気が付いた監督。打球を処理する際、やはり経験が浅いとどうしても怖がりエラーをしてしまう場合が多い。

(でも九人しかいないから、花陽を引っ込めることなんかできないし・・・)

そもそも海未が掴まったら再度花陽をマウンドに上げる形にしたいので、彼女をベンチに下げることなどできない。だが、内野ゴロが多くなる海未の投球では、彼女をファーストに置くことなどできない。

(ヤバイ・・・これはヤバイ・・・)

守備の勝てる形が一行に思い付かず、頭を抱える。そんな中でも試合は進んでいき、ライトにライナー性の当たりが飛ぶ。

「はいはい!!任せて!!」

速い打球にも恐怖を抱くことなく、前進し、前屈みになりながらボールを捕球することり。そのままにこに走りながらボールを返すその姿は、様になっていた。

(あいつ、うまくなったよな)

以前まで弱々しい女の子って印象を受けていた人物が、どんどんうまくなっていくのを見て、彼は感心するのと同時に、あることを思い付いた。

(この布陣なら意外と・・・)

その後ランナーを出したものの、何とか踏み留まった音ノ木坂野球。彼女はグラブでハイタッチしながらベンチに帰ってくる。

「ことり、次からファーストに入れ。花陽はそのままライトに」
「「は!!はい!!」」

いきなりのポジション変更に戸惑いながらも声を大にして返事をする。
その回は希が四球で出塁したものの、海未、にこ、花陽と相手投手を捉えられず凡退。終盤の七回の裏、ことりがファーストミットを片手にポジションへと着く。

(あと三回。そろそろ何ヵ所かポジションを決めたいが・・・)

現時点で決まっているのは投手花陽、海未と捕手の穂乃果のみ。他のポジションは各々の得手不得手が見え隠れしてしまい、うまいこと決められない。

キンッ

「サード!!」
「ほい!!」

三遊間への鋭い当たりだったが、なぜかそこに希がおり難なくキャッチ。一塁へとスローイングする。

「ありゃ!!」

投げた瞬間そんな声が出た。真っ正面過ぎて雑になったのか、投げられたボールは中途半端なバウンドをしそうな高さになる。

「ほっ!!」

伸びてもギリギリ届くかどうかというボール。しかし、ことりはそれをショートバウンドで器用にキャッチした。その理由は、彼女がベッタリと両足を広げ、捕球位置を前にしたから。

「あれ捕ってくれたら守備は楽だよな」

内野手は捕ってからすぐに一塁に投げるため、握り変えの早さが重要になる。しかし、経験が浅い彼女たちは当然スローイングが荒れる傾向にある。そんな中ことりは、高い柔軟性を誇る体を目一杯使い、多少逸れたボールも次々キャッチしていく。

(ことりは肩は弱いけど、捕ってからが早いしボールの捕球技術もある。ギリギリでのバックホームも、あそこからなら十分間に合うか)

手元にあるホワイトボード。野球場のようなものが書かれたそれの一塁ベースの所に、『ことり』と名前を書き込む。

(ことりのファーストは決まったけど、にこがセカンドにいるとライトからのカットマンが弱いな・・・)

セカンドには強肩の選手を置くのが主流となっている現在。その理由はライトの頭を越された際、サードにボールを送るのにカットマンに入るのがセカンドであるため。カットマンは少ない方が持ち変え等の時間が短縮できるのだが、肩が弱いと間に二人挟まなければならなくなり、余計な時間がかかってしまう。

カーンッ

「よっと!!」

センター前に向けるかと思われた当たりをギリギリ追い付いたにこ。彼女は右足で飛び上がると、一塁のことりにジャンピングスロー。それも、胸元にキチッとストライクで送球する。

(あいつ、見せるの好きだよなぁ・・・!!)

目立ちたがり屋の気があるにこを見て苦笑いを浮かべていた剛は、あることが思い付き、ベンチに帰ってきた面々にさらなる指示を出す。

「次からにこがサード、凛がセカンド、希がセンターに入って。それと絵里と海未を入れ換えで」

二回を無失点に抑えた海未をあっさりと替えるその采配に疑問を抱きながらも、監督からの指示なのだと納得させる面々。
八回の表、ことりがライト前にポトンッと打球を落とすと、穂乃果がレフト前にヒットで一、二塁のチャンス。そこで回ってきた凛に、剛が声をかける。

「見逃し三振でもいいからベルトより高いボールは振るな。それより低いのは自由にいけ」
「わかったニャ!!」

普通三振してもいいから見逃すなと言うのだが、あえてこのような指示を出したのには理由がある。

ビュッ

セットポジションからの初球。内角低めへとストレート。

カキーンッ

凛はベルトよりも低めにきたその球を強振すると、打球は右中間を鋭く抜けていく。

「追加点!!」

ことり、穂乃果とホームに返ってきて沸き上がるベンチ。だが、それよりも驚くべきことが起きようとしていた。

「凛ちゃん!!ホーム行けるよ!!」

サードコーチャーをしているヒデコのその声を聞いて打った凛までもホームに突入する。

「そうは・・・させない!!」

わずかなもたつきの間に先の塁を狙う少女を刺すため、カットからホームへと投げるセカンド。だが、キャッチャーがボールを受けタッチしようとしたところで、凛の手がホームに触れた。

「やったぁ!!」
「ランニングホームランよ!!」
「やるじゃない!!」
「すごいよ凛ちゃん!!」

男子よりも前に守る傾向の女子野球。しかし、それでもランニングホームランはなかなか出ない。それを実現させたのは、彼女の足。

「ナイスバッティング」
「剛さんのおかげニャ!!」

拍手を送る青年に嬉しそうな笑みを浮かべる凛。体は小さいが、抜群の身体能力でダイヤモンドを駆け巡るその姿にみんな狂喜乱舞していた。

待望の追加点を加えての守備。音ノ木坂学院はまたまた守備の変更を行う。

「絵里、穂乃果」

新たなバッテリーを呼び止め声をかける。

「ここからは俺がサイン出す。コースも出すから、その通りに投げてくれ」
「わかりました」
「了解です」

残り二回の配球を行うという剛。その狙いは、守備を確定させるため。コントロールのいい絵里で、狙ったところに打たせる戦法である。

(向こうの打者は八番から。となるとここは・・・)

投球練習を終えたバッテリーにサインを送る。野手よりの投球フォームから、海未に勝るとも劣らない速球を投げ込む絵里。

ギンッ

鈍い音でボテボテの当たりが三塁線に転がる。

「任せるニコ!!」

その打球をバナナのようにファールグラウンド側に広がりながら、スムーズにボールを捕って一塁へ転送。華麗な動きから放たれたボールは、ことりの真正面に吸い込まれる。

(やっぱりにこは送球が安定してるな。肩が弱くてもこれだけ安定していれば、十分にサードを任せられる)

セーフティに強襲、三遊間への緩いゴロ。三塁手は様々な種類の打球に対応しなければならず、その重要性から近年では遊撃手よりもサードにうまい選手を置く高校も増えてきている。

(次は凛が短い距離ならどうかってところだな)

続いてのバッターにはセカンドに回っている凛のところに打ってもらう。だが、敵は未完成なところも多い高校生。当然狙い通りにいくはずもなく・・・

カンッ

「げっ!?」

打球は絵里の足元からセンター前へと抜けていこうとしている。

「大丈夫ニャ!!」

だが、その打球に猫のような素早い動きで反応する少女がいた。彼女は逆シングルでそれを捕ると、先の回のにこのように一塁へジャンピングスローする。

「うわっ!!」

送球の安定性が問題視されていた凛。案の定一塁へ送球は荒れたが、ことりの柔軟な動きでそれをカバーした。

(ことりがファーストなら凛を内野に置くのも十分ありだ。凛の肩はいいし、ライトの深いところに行っても一本で返せる)

おまけににこがサードにいることで低いボールは確実に捌ける。穂乃果にもそのレベルまでは確実に行かせようと思っているため、このポジションも十分に通用する。

(さて、問題はこいつだ)

ササッとサインを出し、カウントを整える。2ボール1ストライクからの四球目、相手の一番打者はベルト付近のボールを打ち上げる。

(普通ならこれは抜ける、けど)

左中間を抜けるかという当たり。しかし、そのボールにあっさりと追い付き捕球する希。

「いやぁ、ええ打球打つなぁ」

おとぼけたような彼女の声に力が抜けそうになるが、会心の当たりが抜けなかったことに大濠中央は悔しそうにしている。

(やっぱりだ。あいつ、打者の()()()で守備位置を変えてやがる)

薄々感じてはいたが、まさかと思う気持ちが先行し、信じられなかった。だが、希は確かに一球ごとにシフトを細かく変えており、そこに的確にボールが飛んでくる。

(穂乃果のサインが見えるわけではないだろうし、データがまだ揃ってないうちからそんなことをやれるのはなぜかはわからない。だが、あいつの力があれば、外野の守備が確実になる)

絵里のショートも申し分無いし、花陽と海未のどちらがライトに入っても肩がいいため、ホームでのクロスプレーが狙いやすくなる。

(ド素人の集団のはずだったのに、全員適材適所なポジションがあったじゃないか。こりゃあ十分戦っていけるぞ)

思わぬ形で守備の形が決まったことに喜ばずにはいられない。その後の試合のことなど頭から抜け落ちかけている青年をよそに試合は進んでいった。


 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
これにてポジションは決まった形になりましたね。
よくラブライブの野球構想で見るものとは全く違うと思いますが、意外とこの形が私は好きなんですよね。
次はもう一試合目の練習試合です。練習がてら一試合進めていこうかと思ってますのでご了承ください。 
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