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実は丸わかり

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第六章

「呼び出しよ」
「職員室にな」
「職員室って?」
「そこに呼び出しよ」
「先生がね」
「先生が?何かな」
 とりあえず心当たりがなかった。そう言われてもだ。
 大体だ。彼等の言葉におかしなところがあることに気付いてだ。徹はこう彼等に尋ねた。
「それでどの先生なのかな」
「あっ、御前の担任のな」
「伊倉先生だよ」
「ああ、あの先生なんだ」
 そう言われてだ。徹も納得した。彼等の目が泳いでいることには気付かなかったが。
 だがそのうえで立ち上がって職員室に向かった。廊下を歩く時は何で呼ばれたのか考えているだけだった。
 だが職員室の前でだ。彼女を見てだ。その考えは吹き飛んだ。
 それで胸をばくばくと慣らして驚きを隠せないままだ。こう言った。
「あっ、村中さん」
「あの、ちょっといいかな」
 背の高い徹を見上げてだ。理絵は自分の前に立つ彼に言ってきた。
「あのね。今からね」
「うん。何かな」
「ちょっと。渡したいものがあるの」
「僕に?」
「とはいってもここじゃあれだから」
 職員室の前ならだというのだ。
「だからね」
「場所。変えるんだ」
「ちょっと来て」
 こう言ってだ。徹のその手を引く様にして。
 学校の屋上に連れて行った。そしてそこでだった。
 彼にあるものを手渡した。それは。
「えっ、これって」
「そう。よかったら食べて」
 こう言ったのだ。クッキーが入った白い袋を手渡したうえで。
「自分で焼いたけれど。まずかったら御免ね」
「あの、村中さんが自分でって」
「それでね」
 顔を彼から逸らしてそのうえで。その顔を真っ赤にさせたうえでさらに言う。
「これからも。よかったら食べて」
「僕が食べていいんだ」
「そうよ。それで返事は?」
 真っ赤になったままの顔でだ。徹に問うた。
「井上君の返事は」
「食べたいって?」
「まだ食べてないけれどね」
 味について尋ねる場面ではないからだ。ここで問うたのだ。
「よかったら言って。これからも食べたい」
「嘘みたいだけれどいいかな」
 これがだ。徹の返答だった。
「村中さんの作ってくれたクッキーね」
「クッキーだけじゃないけれどね」
「お菓子ね。これからもね」
「食べてくれるのね」
「何でもね。だってね」
 理絵の手作りのクッキーをもらった喜びのあまりだ。彼は自分から言った。というよりかはだ。自分からついつい言ってしまったのだった。
「村中さんが作ってくれたものだから」
「そう。私が作ったものだから」
「食べさせてもらうよ」
 これが徹の返答だった。
「ずっとね。これからもね」
「そう。よかった」
「けれど本当に僕でいいんだよね」
「恥ずかしいから言えないわ」
 多くはだとだ。理絵は何とか徹の方に顔を向けた。そしてだ。 
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