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転生・太陽の子

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差し出される星と時の手を

RXは建物の屋根に着地して、ギャンザがいたであろう場所を見下ろす。そこには5メートル程の巨大な穴がぽっかりと開いていた。RXが繰り出したライダーパンチ。その拳圧のみでこれだけの破壊力である。

「光太郎!」

その場に退避していたイヴが駆けてきた。
RXはイヴを見つめ、コクリと頷く。そしてイヴの元に降り立ち、変身を解く。

「もう大丈夫だ。イヴ、怪我はないかい?」

「うん…。私、震えて何もできなかった…。光太郎のパートナーなのに…」

イヴはシュンと俯き、落ち込んでいる。それを光太郎は苦笑して頭を撫でてやった。

「焦らなくてもいいさ。人間は誰も完璧な人なんていないんだ。俺にできることは俺に任せてくれればいい。だからイヴはイヴにできそうなことをしてくれれば、俺はそれで充分だよ」

そう励ましてくれるが、その言葉は逆にイヴを悩ませてしまう。自分にできて光太郎にできないもの。「光太郎にできないもの」が全くイメージできなかったのだ。目の前の優しい人は何でもできてしまう超人、というのがイヴのイメージだ。

光太郎の聴覚が小さな物音を捉えた。
すぐに身を翻すと、巨大なクレーターとなった穴からボロボロの手が伸びてきた。ギャンザだ。

ギャンザは辛うじてあの凄まじい拳圧から生き延びていた。しかしもう戦う力は残っていないようだ。這い上がってきたものの、既に立ち上がれるほどの体力も残っておらず、地に伏せている。

「誰だ!」

光太郎は後方に向かって叫ぶ。突然の行動にイヴは驚いて光太郎の後ろに隠れ、光太郎の上着の端を掴んでいる。

2人の前に、シルクハットの男と女子高生が現れた。
どう見ても普通の人間だったが、光太郎の中に蓄積されている戦闘経験がただの人間ではないと直感していた。

シルクハットの男は光太郎とイヴを一瞥し、次に倒れ込んでいるギャンザ視線を移した。

「そう睨まないでください。あなたと敵対するつもりはこちらにはありませんので」

そう言って女子高生と一緒に光太郎とイヴの横を通り過ぎる。そしてギャンザの目の前で足を止めた。

「ギャンザさん、道タオの力に目覚めたら我らの同志になるという約束、忘れた訳ではありまセンよね?」

「う…うるせ…。なにが道だ…! こん…な使えない力掴ませ…やがって…!」

「今まで散々その使えない力とやらを使い、市民を襲っていたアナタに言われたくはありまセンね」

「ホントっスよねー。おかげでこの街のお店、どこもお休みでショッピングもできなかったっスよー」

女子高生が愚痴る。
しかしそんなことは今のギャンザには関係ない。今ギャンザが渇望しているのは、自分をこんな目に遭わせたあの男を殺すことしか頭になかった。

「もっとだ! もっと…強力な力を寄越せ…! 今度こそ…あの野郎をブチ殺す!!」

その言葉に光太郎は身構えるが、シルクハットの男は淡々と告げる。

「…残念ですが、あなたに次はありまセンよ」

「なんだと…?」

ドクン

その直後、ギャンザの体に異変が起きた。
常人の倍以上あった筋肉がみるみる縮んでいく。

「な、なんだ…お、俺の体が…俺の筋肉が…」

「力を過信しすぎましたネ。我らの話も碌に聞かず力を酷使し過ぎた結果デス」

「ふふ、力を使い過ぎたおじさんに待つのは死お わ か れ♡」

「う…うぎゃあああああぁぁぁ…!!」

ギャンザは断末魔の叫びを残し、瞳の光を消失させて命を散らせた。

シルクハットと女子高生は、地に伏す殺人鬼から既に興味を失っていた。振り返り、光太郎の姿をじっと凝視している。

「どういうことだ! その男と貴様たちの関係はなんだ!?」

「この男の力は我々が与えた。ただそれだけデスよ」

光太郎の疑問にシルクハットの男が答える。

「なにっ!」

「しかしアナタには感謝しているのデスよ? この男は大切な力を己の欲望の為に暴走させていた。そんな男を同志に加えても、いずれは足を引っ張る存在になっていたでしょう」

「そうなんですよー。だから代わりに倒してくれたお兄さんにはお礼をしなくちゃですねー」

そう言って女子高生はトコトコと無造作に光太郎に近寄ってきた。警戒を緩めない光太郎だったが、女子高生が起こしたアクションは全くの想定外なものだった。

唇を近づけて「お礼に熱いチューを」と目を閉じて迫ってきたのである。

慌てて女子高生の顔を掴んでこれ以上の接近を防ぐ光太郎に、「駄目!」と光太郎の体を引っ張るイヴ。

そんな修羅場にシルクハットの男は溜息をついた。

「キョーコさん、それくらいにしておきなさい」

「ハーイ。お兄さん、また次の機会にね♡」

「絶対駄目!」

シルクハットに諭されて、離れていく女子高生に断固拒否するイヴであったが、光太郎は未だ顔を赤くして動揺していた。ギャンザの拳よりも強力であったかもしれない。

「自己紹介がまだでしたネ。私の名はシャルデン=フランベルク。星の使徒の一員デス」

「私はキリサキ=キョーコ。同じく星の使徒っスよー」

シャルデンとキョーコはそう名を明かした。しかし聞き覚えのない言葉があった。光太郎は警戒を緩めず疑問を口にする。

「星の使徒とは何だ?」

光太郎の問いにシャルデンは丸形サングラスを光らせた。

「世界を創り変えるもの、デスよ。この世界はクロノスが管理支配していることをアナタはご存知デスか?」

「クロノスだと?」

「秘密結社クロノス…。それがこの世界を裏で支配している存在なのデス。我々星の使徒は、そのクロノスを壊滅させ、新しい世界を創り上げるのを目的としていマス」

秘密結社クロノス。その単語を聞いて、光太郎の脳裏には暗黒結社ゴルゴムの存在が浮かび上がる。

そしてシャルデンは右手を光太郎に差し出した。

「アナタの力は申し分ナイ。我々の同志となり、一緒にクロノスを討ち滅ぼしましょう!」

光太郎は差し出されたシャルデンの手を見やる。クロノスという組織は初耳であったため、ゴルゴムと同じような響きはあるものの悪であると断ずることはできない。それに、目の前の2人の目は、目的の為なら人の命を奪うことも躊躇しないであろう闇が垣間見えた。

光太郎はシャルデンの手を払う。

「俺の正義は俺が決める!」

「そう…デスか。いずれまたお会いすることもあるでしょう。その時には良い答えが頂けることを願っていマスよ」

そう言い残し、シャルデンは去っていく。キョーコも光太郎達に手を振りながら後をついていき、この場には屍となった殺人鬼と光太郎達。そして先程までの戦闘の激しさがウソだったかのような静寂だけが残されていた。











街で噂になっていた殺人鬼が死んだ。
その事実は一晩で街中に広がり、翌日には今までの閑散さとは比べ物にならないくらいに人が溢れている街並みがあった。それを窓から見下ろすイヴは目を丸くしていた。今までこんな大勢の人を見る機会がなかったのだろう。

そんなイヴを見て、この街の市長は「これも君たちのおかげだ」と礼を述べた。

光太郎達は現在、ここルーベックシティーの市長の元に呼ばれていた。あの後警官が駆けつけ、ギャンザの屍を引き渡した。その報はすぐに市長であるカール=ウォーケンに伝えられ、市長として是非礼を、と宿にまで迎えを寄越したのだ。

そしてこの場にはトレインとスヴェンも来ていた。カールの話によると、トレインとは昔馴染みらしく、警察では歯が立たない今回の事件解決に頼み込んだらしい。しかしせっかく飛んできたにも関わらず、いざ到着したら全てが終わってましたよ、という有様だった。

「わざわざ来てくれたのに、済まなかったな。トレイン」

カールが謝罪する。しかしトレインは全く気にする素振りを見せない。

「気にすんなって。事件が解決してんなら良いことじゃねえか。俺はこの上等なミルクだけでも満足だぜ?」

ニカッと笑うトレイン。その姿を見て、カールは「変わったな」と微笑した。

そしてカールは改めて光太郎に向き合う。

「君には事件解決の報酬を個人的に支払いたいと思う。1500万イェンを用意した。受け取ってもらえるかな?」

「1500万イェン!?」

背後でスヴェンが目玉を飛び出させそうな勢いで叫ぶ。後で話を聞いたが、スヴェンとトレインには多額の借金があるらしく、掃除屋としての報酬もほぼ借金の返済に充てられるという。

しかしそんなもののない光太郎に、この金額は不必要であった。光太郎は少し考え、そして言葉を返す。

「それなら、100万イェンを当分の生活費に充てるため、頂きたいと思います。残りはこの街のために使って下さい」

この街は殺人鬼ギャンザの影響が広がっていた。今は街を行き交う多くの人たちの中にも、心に傷を負ってしまった者も多くいるはずだ。こういった人々の心のケアを光太郎は願う。

そしてRX時の攻撃の余波が道路に巨大な穴を開けてしまったり、近くの窓が割れたりするなどの影響も出てしまっていた。その償いの意味も含まれていたが…。

その光太郎の言葉を聞き、カールは驚いた表情を見せたが、爽やかに言い放つ光太郎に頭を下げた。

「ありがとう。この街の人間を代表し、感謝する」

そんな嬉しそうな表情の育ての親を見て、トレインは「ありがとよ」と光太郎に向かって小さく呟いた。












秘密結社クロノス。
その本部の場所を知る者はほとんどいない。そこに跪くひとりの女性がいた。女性の名はセフィリア=アークス。クロノス特殊部隊のリーダーであり、ナンバーズの<Iワン >の位を与えられている。

前方に映し出されたクロノスの長老からセフィリアに新たな指示が出される。

「クリードの手先、星の使徒の足取りが掴めたようだな」

「ハッ! 現在ベルゼーが星の使徒の2人を追い、今頃接触していると思われます」

「…道の力か。道の力は世界平和の障害となる。必ず世界から抹消せよ。そしてそれを破った男、南光太郎という掃除屋をクロノスの力とするのだ!」

「分かりました。全ては、クロノスのために…!」

セフィリアは立ち上がり、ターゲットの元へ向かう。



時の番人クロノ・ナンバーズに目をつけられた、光太郎の運命や如何に!? 
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