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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第4章:日常と非日常
  第121話「片鱗」

 
前書き
日常(魔法が関わらないとは言ってない)な話です。
まぁ、うん、なのはに拒絶されたオリ主(笑)君が黙ってる訳がないです。
 

 




       =優輝side=





「……優輝…!おい、優輝!」

「っ、ごめん。ボーっとしてた」

 腐れ縁なのか、中学2年生でも同じクラスになった聡に強く呼びかけられる。
 ボーっとしていたため、ちょっと驚いてしまった。

「どうした?なんか様子がおかしいぞ?」

「いや、ちょっと考え事していてな…」

「そうか。ならいいや」

 聡もあまり気にしなかったのか、すぐに別の話に切り替わる。
 …助かった。さすがに聡もそこまで鋭くなかったか…。





「……ふぅ」

 しばらく経ち、昼休み。さっさと昼食を食べて、人気のない所で一息つく。

「…優輝君」

「…司?」

 そこへ、司がやってきた。

「ちょっと心配になっちゃって…」

「まぁ、一日中は…ね」

 同じクラスだからか、司はずっと心配してくれていたみたいだ。

「…その、大丈夫?ずっと普段通りの“フリ”をするの」

「まぁ、演技は苦手じゃないし…。普段の“僕”を演じるだけなら、何とかなるよ」

「…やっぱりなっちゃったんだね…()()()に…」

 苦笑いしながら、司は言う。
 …そう。今の()は性別が変わってしまっている。
 原因はもちろん、昨日の戦闘での神降しだ。司達にも伝えてたし。
 今回は一日で戻るとは限らないので、霊術で誤魔化しているという訳だ。
 以前みたいに椿と“繋がり”を深める事はできないしね…。

「えっと、姿は霊術として…声は?」

「声は魔法だよ。声真似でもできるけど、こっちの方が楽だし」

「なるほど。…あ、私が認識阻害の結界を張るから、しばらくは楽にしてて」

「ありがと」

 司が霊力で結界を張ってくれたので、私の変装を解く。
 体格とかも変わるから、制服がガバガバに…。

「っ………」

「あーあ……って、どうしたの司?」

「いや…えっと、ギャップについ…」

 顔を赤くして逸らした司は、恥ずかしそうに言う。
 …まぁ、傍から見たら男物の制服をはだけさせた女の子だからね。

「…いつぐらいに戻りそう?」

「椿の見立てだと、しばらくは…って所かな?あの時の神降しは瞬間的にとは言え、以前のよりも強く影響が残っているから、因子も結構あるみたい。…それに、以前のような荒治療はしたらダメだからね…」

「まぁ、あれは……椿ちゃんがずるいし…」

 何か違う言葉が聞こえたような…?まぁ、気のせいか。

「…でも、だからと言って今日はちょっと様子がおかしかったね?思考も女性になるのなら、演技とはいえ優輝君があそこまでボーっとするなんて…」

「ん…まぁ、ちょっとね…」

 帝の事もあるけど、実は今朝椿に言われた事が気になっていたのだ。
 …って、今ナチュラルに帝の事名前で…もう男の時も名前呼びでいいか。

「椿に言われたんだ。“あれほどの無茶をして、魂が無傷なのはおかしい”ってね」

「魂が無傷…?」

「神降しは、やりすぎると“志導優輝”という存在が意味消失する…って言うのは、以前の時も話したよね?」

「う、うん…」

 しかも、今回は前回よりも影響が強いというおまけ付きだったりする。

「さらに、その後は存在の“格”を無理矢理上げるという事をした。…例え一時的とは言え、そんな神を超えようとする行為は無茶に他ならない」

「…そんな事を行えば、少なくとも魂が傷つく…」

「その通り。最悪砕け散るね。ついでに言えば肉体もね。実際吐血したし」

 いくら英霊と化した私でも、無事では済まないはず。

「…なのに、無傷?」

「そう。私にも全然検討はつかないんだけどね。でも椿曰く、因子に浸食されて魂が書き換えられることも、無茶をした事による損傷も一切ない。まるで、どちらにも適応したかのように、全くの無傷。……我ながらおかしい」

「……………」

 “格”を上げるという行為は、それをするだけで肉体が耐えれなかった。
 魂に至っては、それと同等以上の負担があったはずだ。
 例え少なかったとしても、何かしらの影響があったはず……なのに。

「…思えば、魔法に関わり始めた時からそうなの」

「え……?」

「前世とかでは、無茶をすればその分しばらくは動けなかった。…でも、今ではいくら無茶をしても、後遺症は絶対に残らない。どんな負担も、その時だけのものに過ぎなかった」

 人の身で神の力を使っても、そうだった。
 本来なら腕が消し飛び、決して戻らないはずの反動が…私にはなかった。

「……何かを代償としている。…多分ね」

「それは……」

「気のせいだとは決して断言できない。だって、“あり得ない”が何度もあるんだから。……例えば、感情の一種が欠けてるとか」

 なぜ、“僕”が司や緋雪の好意に気づいても靡かなかったのか…。
 こじつけになるとは言え、辻褄は合う。

「そう…“恋愛感情”の欠如。そう言った環境で育った訳でもないのにも関わらず、今の私……“僕”にはそれが欠けている。前世で片想いをしたにも関わらず…ね」

「それが…代償?」

「さぁね。これだけかもしれないし、もっと他に代償を払っているかもしれない。運命とか、そういったモノとかね。詳しくはさすがに分からないよ」

 今まで目を逸らしてきた…と言うより、気にしている暇はなかった。
 だけど、目を向けてみれば…自分でも思う程、自分はおかしい。

「…大丈夫」

「…司?」

「…何があっても、私は優輝君の味方でいるから」

 司はそういって私の手を握ってくれた。
 …無意識に自分に恐れを抱いていたのに、気づかれたのか。

「…ありがとう」

「うん。…そろそろチャイムが鳴るし、戻ろう?」

「そうだね。…よっと」

 霊術を掛け直し、私は普段の“僕”へと姿を変える。
 魔法で声も変えて…よし、これで大丈夫。

「よし、戻るか」

「うん」

 いざ戻ろうとして…ふと、昨日のあの男の力と“格”を上げた時の感覚を思い出す。

「(…あの時の、力…)」

 魔力でも、霊力でも、ましてや神力ですらない。まさに領域外の力。
 明らかに未知の力なはずなのに…なぜか、既視感があった。

   ―――ドクン

「っ―――!?」

 その瞬間、脳裏に何かが横切る。
 それは…転生の時に会った、女神の姉妹だった。

「(今、のは……!?)」

 転生の時、“僕”は一切抵抗できなかった。
 あの得体の知れない力で拘束され、消し去られそうになったはずだった。
 ……なのに、今脳裏に横切った光景は…。

「(…対峙、していた?)」

 明らかに応戦していた。もちろん、そんな記憶はない。
 転生する前に、一体何があったのか…。

「(でも、既視感の正体は分かった)」

 あの男の力と、“格”を上げた時の感覚の正体…。
 おそらく、転生の時の神…もしくはそれと同等の存在が持つ“力”なのだろう。
 …色々納得がいった。…が、また一つ謎が増えたか…。

「…優輝君?また考え事?」

「ん、まぁ、ちょっとな。大した事でもないし、合点がいったし気にしないで」

「優輝君がそういうならいいけど…相談したかったらいつでも頼って?」

「分かった」

 “何か”があった。…それは確かだろう。だけど、その記憶が欠如している。
 気にしないようにしていたが、同じ力の持ち主が襲ってきた。
 そうなれば無関係と放置する訳にもいかない。

「(“先”は見えない。なら、想定して動くしかない…か)」

 結局の所、何かが分かった訳ではない。
 昨日の話し合いで決めた通り、いつも通りに鍛えて備えるしかない。









 …でも、どうしてなのだろうか。
 領域外の力。…そう感じたはずなのに…。





   ―――どうして、“馴染み深い”と一瞬思えてしまったのだろう。















       =奏side=





「…なのは?」

 休み時間、なのはが私の教室の前を走っていった。
 ちなみに、中学に上がってからクラスも変わって、私達は結構ばらけている。

「何か様子がおかしかったような…?」

 思えば昨日から少しおかしかったように思える。
 ちょっと気になったので、私も見に行くことにした。



「なのは」

「あ、奏ちゃん…」

 廊下の端、階段近くになのははいた。
 話しかけると、やっぱりなのはの様子はいつもと違った。
 なんというか…気まずさを抱えているというか…。

「どうしたの?こんな所に…」

「えっと…ちょっとね…」

 誤魔化そうとしているなのはを見ていると、後ろから誰かの気配が。
 これは……。

「あ………」

「神夜…それに、アリサとすずかも」

 なのはを追いかけてきたであろう神夜に、私と同じで走っていったのを見て出てきたらしいアリサとすずかがやってきた。
 すると、なのはは神夜を見て気まずそうにしていた。

「(……もしかして?)」

 なのはの様子から、魅了が解けたのではないかと私は思った。
 私の場合はあっさり突き放したけど、なのはの事だから引きずっているのかもしれない。だから、気まずく思ってこうしてここまで来たのだろう。
 …結局心配されて逆効果だったみたいだけど。

「…………」

「奏ちゃん……?」

 どこか焦燥感を出しながら来る神夜に対し、私はなのはを庇うように前に出る。

「なのはっ!…って、奏…?」

「ふぅ、追いついた…」

 私が前に出た事で神夜は止まり、アリサとすずかも追いつく。

「…どうしてなのはを追いかけているの」

「どうしてって…それは、なのはが洗脳されてるから解こうと…」

「洗脳?何を証拠に?」

 “洗脳されている”と言うワードから、なのはの魅了が解けていると確信する。
 アリサとすずかに目で尋ねてみれば、肯定の意が返ってきたし間違いない。

「そんなの、俺を突然拒絶するようになったんだから、当然だろ!?」

「それは証拠として足りないわ。証拠としたいのなら、魔法や霊術の形跡。もしくは思考回路の歪み、精神や魂の変質を見つけてから言って」

「…それ、最初の二つはともかく他は難しいわよ」

「そう?どの道、証拠としては足りないわ」

 なのははだいぶ怯えてしまっている。
 私達転生者のように精神が既に育っている訳でもなく、アリサやすずかのように早い段階で解いた訳でもなく、今までずっと魅了されていた。
 “魅了されていた”と言う点以外は、純粋に育ってきたなのはにとって、魅了が解けた際のショックは計り知れないだろう。何せ、今までの人間関係が“そうさせられていた”と言う事になるのだから。

「それに、“拒絶される”と言うのは、貴方にその原因があるという事。洗脳による拒絶だと言うのなら、もっと酷く拒絶される」

「っ……奏も、俺が悪いと言うのか!?」

「そうだけど?だって、貴方は無意識とは言え、私達を魅了していた。私達だけじゃない。この学校、出会ってきた全ての女性に魅了を掛けてきた」

 自分でわかる程、どこか冷めた思考になる。
 以前までは、ここまではいかなかったはず…。どうしてだろうか?

「そ、そんな訳…!」

「第一に、優輝さんが原因と言うのならいつなのはに洗脳を施したと言うの?タイミングがないわ」

「それは!あの男が襲撃してきた時に…!」

「それこそありえない。あの時の優輝さんはあの男を倒すために無茶をしていた。私が確認していた時点で既に体がボロボロだったのに、そんな事する時間はない」

 そこまで言って、私自身気が付く。
 …一体、なのははいつ、どうやって魅了を解いたのか。

「だったら、あの男とあいつは…!」

「…グルとでもいうつもり?いい加減にしなさいよ」

「だが!そうでもないと…!」

「いい加減にしてよ!」

 平行線。全く話が合わない。
 そう思っていると、後ろにいたなのはが大声でそういった。

「なんでいつもいつもあの人を悪いように言うの!?それがなかったら、私だってここまで神夜君の事嫌いにならなかったのに!人を騙して、洗脳なんてしてるの神夜君の方でしょ!早くフェイトちゃん達を元に戻してよ!」

「な、なのは!?」

「ちょっ、なのは!?」

 そのまま、神夜に掴みかかるなのは。
 完全に感情が爆発している。それに、琴線に触れたのか泣いてもいる。

「元に…戻してよ…!」

「なのはちゃん…。落ち着いて…ね?」

 すずかが何とか引き剥がし、慰める。
 残った私とアリサは、その様子を見て神夜を睨んだ。

「っ………」

「……最低ね。見下げ果てたわ。なのはを泣かすなんて」

「誰かを悪く言う前に、自分の事を振り返るべきよ」

 もう、彼をかつて魅了してきた相手として見る事はない。
 …ただ、“女の子を泣かした最低な男”として見るだけだ。

「お、俺は……」

「結局、話すだけ無駄だったわね」

 これ以上は無駄だと判断したアリサは、すずかと共になのはを連れて去っていった。
 認識阻害の霊術は使っていたけど、“なのはを泣かせた”と言う事実は消えない。
 詳しい事情が分からなくても、神夜がなのはを泣かしたのは周知になった訳だ。
 …優輝さんとの前世の思い出が消された意趣返しにはなったかな。
 これでもそれなりに恨みは持ってたもの。

「…なんで…全部、あいつが……!」

 私も戻ろうとして、その際に後ろからそんな声が聞こえた。

「(……また一悶着ありそうね…)」

 近い内に優輝さんに手を出してくるかもしれない。
 …でもまぁ、優輝さんなら、大丈夫だろう。









       =優輝side=





「……っ」

「っと。うん、形にはできたね」

 学校から帰ってくると、椿が葵に矢を放っていた。
 まぁ、葵は簡単にそれを掴んで握り潰してたけど。

「何やってるの…?」

「あ、優ちゃんお帰りー」

「ばれなかったでしょうね?」

「司は気づいてたけどね」

 いくら事前に言ってたとはいえ、あんなあっさりわかるとは思わなかったけど。

「所で何やってたの?魔力の矢なんか放って…って、魔力?」

 自分で言って、途中で気づいた。
 椿は先程、葵とユニゾンしていないにも関わらず、魔力を使っていた。

「私たちも基礎から鍛え直すついでに、魔力も使えるようにしようと思ってね」

「かやちゃんの魔力は雀の涙程しかないけど、使えるに越した事はないからね」

「なるほどね…。ユニゾンした時の感覚を覚えてるから、扱いも難しくないものね」

 既に矢の形に魔力を固めている。霊力での時と遜色ない。

「それにしても、基礎から鍛え直すって…別に怠ってた訳でもないのに?」

「…このままじゃいけないと思ったからよ」

「え?」

「また戦いについていけなくなるのは、嫌だからよ」

 …そう言った椿の顔は…何か悔やんでいるように見えた。
 もしかすると、以前の主の事を…。

「……わかった。私も付き合うよ」

「え?別にいいけど…そういえば、今の優輝って戦えるの?」

「それもついでに確かめるよ。いつまでこのままかは分からないし、この体にも慣れておかないとね」

 体格だけでなく、性別も変わった事でどこまで男の時と違うのか分からない。
 それを確かめるためにも、私は椿と一緒に少し鍛え直す事にした。





「…こんなものね」

「魔導師ランクで表すと、短期決戦でDくらいかな。状況によるけど」

「魔法限定だとそんなものね」

 夕飯間近まで特訓し、大体は掴めた。
 元々椿は魔力がなかったし、今でも少ないからあっさり扱いは覚えた。
 私も自分の力量がどんなものか大体は分かった。

「優ちゃんは…若干機動重視になってるね」

「身体能力が変わってるからね。総合的に見れば男の時より数段劣ってるよ」

「時間も時間だし、夕飯の用意をしましょう」

 結構ギリギリまで特訓してたので、すぐに用意を始める。

「…ところで優ちゃん」

「今の貴女は、“どちら”なのかしら?」

 その時、二人からそんな事を言われる。

「……えっと、いつから気づいてた?」

「貴女が体の調子を確かめていた時よ」

「ほとんど最初からじゃん。…あ、今は“優輝”だよ」

 …そう。私は何度か“優奈”になっていた。
 なんというか…着々と“もう一人の自分”として出来上がってる気がする…。

「…大丈夫なの?」

「うーん、魔法とかを行使してると度々切り替わる感じかな。後は、以前のように成り切ったり…後は、感情が昂ったりすると切り替わるかも」

「司ちゃんとか知ってる人には伝えておいた方がよさそうだね」

「そうだね」

 先日の件で色々謎も残っているのに、面倒事も増えたなぁ…。
 とりあえず、今日はさっさと夕飯と風呂を済ませて寝よう。









「……………」

 その日の深夜…になるのか?
 ()は白い空間にいた。なんというか、靄が掛かっている感じもするが…。

「……一応、初めましてになるのかな?」

「っ…!?」

 後ろから声を掛けられ、すぐさま振り向く。
 …気配を感じなかった?いや、今までそこにはいなかった…!

「緋雪……じゃないな。…そうか、僕が今男の体な事から考えると…“優奈”か」

「正解。さすがは私。いやまぁ、これくらい分かってもらわないと困るけど」

 そこにいたのは、緋雪にそっくりな少女。だけど雰囲気が違った。
 緋雪との違いは髪留めがカチューシャかリボンの違いだな。こっちはリボンだ。

「…夢、というよりは精神の中か?」

「両方って所かな。夢の性質を利用して今のこの空間があるし」

 僕は確かに普通に眠ったはずだ。
 それなのにこの空間がある事から推察したが…ふむ。

「お前自身が対話したいからこうした…か?」

「人格同士が話す機会なんてこれぐらいしかないからね」

「まぁ、それもそうだな」

 人格を切り離す事ができれば、憑依とか使って対話できるが…。
 …って、憑依とかを前提にしてる時点でおかしいけど。

「それで、話したい事ってなんだ?」

「単純に私の事とちょっとした事かな」

「お前の事?」

「うん」

 …僕や椿たちが気づいていない事でもあるのだろうか?

「私は確かに創造魔法…いや、“創造”の性質によって生まれた人格ではあるわ。志導優輝の親戚である“優奈”としてね。ここまでは貴方も知ってるでしょう?」

「ああ」

「記憶自体は共有しているけど、感性は違ったりする…のはまぁ、人格が違うから仕方ないかな」

「記憶も一部分は共有できていないけどな」

 主に人格が引っ込んでいる時は、映像を靄が掛かった状態で見ているような感じで、記憶が曖昧になっている。

「ここからが本題よ。私は創造された人格…それは間違いない。でも、女性の体になってなり切ったから生まれた訳じゃない。実際の要因は神降しよ」

「神降し…椿の因子が入ってきたからか?」

 いや、第一にいくら創造魔法というレアスキルがあるとは言え、人格の創造なんて…。…待て、何かおかしい。何故気づいていなかった?創造魔法は所詮“魔法”だ。魔力がなければ使えないはず。なのに人格の創造、そして以前司を助ける時に行った英霊化に、魔力は使っていない…!

「…本当に気づいてなかったんだね。…私は創られた人格とはいえ、れっきとした“貴方そのもの”なの。ただ、“女性だったら”と言う可能性を持った…ね」

「可能性…?それと、神降しになんの関係が…」

「種類や法則が違うとはいえ、神の力に触れたから…って言うのが切欠だと思ってるわ。…私も、先日のあの人形の力に触れたから気づけたのだけど」

「待ってくれ。理解が及ばない」

 何か、何かを見落としているのか…?
 それに、“人形”?こいつは、あの男の正体が判っているのか…?
 …本当に、僕のもう一つの人格なのか…?

「……何にも思い出せていないのね」

「なんの事だ…?」

「いえ、まだその時じゃないだけよ。…ここまでにしましょう。この対話は今回限り。だけど、貴方が“気づいた”…もしくは“思い出した”のなら、もう一度この場を設けるかもね。…まぁ、必要がなくなってるかもしれないけど」

「待て、話が見えない……!」

 続きを聞こうとしても、意識が薄れていく。…目を覚ますのだろう。
 それを眺めながら、“優奈”は少し微笑んだ。

「…本当に、“人間”は凄いよね。私や貴方自身がそうなったから良く分かったけど…うん。今度は、全部わかった状態で話をしたいな。…じゃあ、またね。“優輝”」

「っ…………!」

 意味深な事を呟いたのを聞いて……僕は、目を覚ました。













「志導優輝!お前に…決闘を申し込む!」

「……………」

 …あまりに唐突な、織崎のその言葉に、私は顔が引きつるのを隠せなかった。

 結局、あの夢での対話の真意は分からず、男に戻る事もなかった。
 帝はある程度普通には戻ったけど…やっぱり以前に比べて大人しかった。
 そのまま休日までズルズルと過ごして…アースラに呼ばれたと思えばこれだった。

「…なんで?」

「お前が全ての元凶だからだ!俺が勝てば、皆を元に戻してもらう!」

「……はぁ」

 クロノを見れば、なんか疲れた表情をしていた。
 今この場には、私以外に椿や葵、司や奏と言った魔法関連の面子に加え、アリサやすずかも来ている。…どうやら招待されたらしい。

「『…どういうことだ?』」

「『すまない。止めようとは思ったんだがな…神夜を大人しくさせるには、一度望みを叶えた方が手っ取り早いと思ったんだ。…正直胃が痛い』」

「『あー……』」

 相変わらずの話の聞かなさだったのだろう。
 そして、私を原因だと思い込み、こうして戦いを申し込んできた…と。

「『…手っ取り早いのには同意だけど…』」

「『…どうした?』」

 今の私は、常に霊術と魔法を使っている状態にある。
 その二つがなければ充分に戦えるんだけど、ある場合は…厳しいな。
 戦えはするけど、バレる危険性が高い。

「…まぁ、お前が納得するなら…」

「…私が代わりに受けるよ!」

「………司?」

 そんな事を考えていたのが分かったのか、了承しようとして司が割り込んできた。

「なっ…!?どうして、司が…」

「私だって、色々思う事があるんだから。…それに、今の優輝君はこの前の神降しで本調子じゃない。だから代わりに受けるの」

 司が割り込んだ事で、織崎は大いに驚く。
 …まぁ、好きな相手が代わりに勝負を受けに来たんだからな。

「『…いいのか?』」

「『大丈夫。それに、今の優輝君は大きなハンデがある状態だから、私の方がいいでしょ?色々思う事があるのは確かだし』」

「『…わかった』」

 念話で聞いて、確信した。
 …司は、この決闘を機会に、織崎に対する自分の気持ちを打ち明けるつもりだ。
 
 …簡単に言えば、司は織崎に対して堪忍袋の緒が切れたらしい。

「条件はそのままでいいよ」

「け、けど……」

「洗脳とか言ってる上に、強硬手段に出た割に覚悟が小さいよ?」

「っ…分かった…!司…司も、元に戻して見せる…!」

 少し渋った織崎だけど、司の言葉が琴線に触れたのか覚悟を決める。
 …こうして、織崎と司の決闘が始まる事に決まった。













 …どうでもいいけどさ、急展開な上に私置いてけぼりなんだけど。













 
 

 
後書き
色々伏線を出しつつ最後に急展開を置いていくスタイル。
いや、ホント急展開になりました。
色々気になる事はあるけど、その中でオリ主君(笑)が我慢の限界になった訳ですね。
どう考えても踏み台的行為ですけどそこまで追い詰められている訳です。
…そして、そこへトドメを刺すかの如く相手が好きな人。
司もオリ主君(笑)に言いたい事とかがあるので、ちょうどいい機会って感じです。 
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