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時代が作るもの

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第二章

「それでじゃないか?」
「それでかな」
「ああ、四十年代から徐々にローテーションとかストッパーとか出て来ただろ」
「大体ね」
「中継ぎもできていってな」
 つまりピッチャーの分業制が確立していったのだ。
「西本さんとか野村さんがやっていってな」
「近藤さんもだね」
「それでじゃないのか?」
 友人は分業説、野球の仕方が変わったのだろうと言う。
「それでじゃないのか?」
「それでかな」
「ああ、そう思うけれどな」
「稲尾や杉浦が必要じゃなくなった」
「いてもな」
 今も稲尾や杉浦の様な有り得ないまでのスタミナのピッチャーがいてもだというのだ。
「普通の先発の一角だろ」
「エースにしても」
「今はローテーションがあるんだぞ」
 友人はまた先発ローテーションの話を出した。
「連投とか必要ないだろ」
「そうなのかな」
「今時一人のピッチャーに連投させる監督がいるか?」
「いないね」
 このことはすぐに言えた。
「流石にね」
「だろ?今の野球になってるからな」
「だからピッチャーの勝利数もなんだ」
「四十二勝は凄いけれどな」
 稲尾の記録だ。一シーズン辺りの最多勝利数のタイ記録だ。
「それだけ酷使されてたってことだからな」
「そういえば杉浦も」
「肩壊しただろ」
「うん、二度も」
 それで杉浦の選手生命はあまり長いとは言えないものになった。二百勝ももう少しで達することができなかった。
「なったよ」
「それ自体が異常だろ」
「一人のピッチャーに負担を集中させることは」
「それ自体が駄目なんだよ」
「それはそうだね」
「御前もそう思うよな」
「壊れるからね」
 故障はだ。僕も頭の中に入れていた。それで権藤のことを思った。そのかつての大投手、二年で終わったこの選手のことを。
「実際に権藤も」
「だろ?稲尾だってな」
「選手の活躍期間はな」
「短かったね」
「そう何年も無茶できるか」
 彼は忌々しげな顔にもなって述べた。
「無理だろ」
「うん、確かにね」
「だからな。連投とか自体が間違いなんだよ」
「先発でとか」
「野球ゲームでもないぞ」
 普通野球ゲームだと先発で完投すると早くても次の試合は出られない。出てもスタミナが切れていて戦力にはならない。
「もうな」
「うん、そういうものだね」
「ああ、ないからな」
 彼はその野球ゲームのことも僕に話していく。
「とてもな」
「そうだよね。じゃあ」
「ああ、その時代の野球自体に問題があったんだよ」
「確かあの頃は」
 昭和三十年代、その頃は。
「監督は」
「凄い人揃いだったけれどな」
「三原、水原、鶴岡ってね」
 今も言われる日本三大監督だ。
「首相やれる様な人達だったよね」
「今の首相なんかよりずっと風格があっただろうな」
 そう思う。僕もまた。 
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