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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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長所と短所の使い分け

 
前書き
夏の高校野球もいよいよ今日ベスト8が出揃いますね。
ちなみに作者の地元は初戦で早々に消えましたorz 

 
日曜日、ついにその日はやって来た。

「行きますよ、穂乃果」
「よっし!!来い!!」

ベース間の距離でキャッチボールができるまでに成長した少女たちは、楽しそうな表情を見せながらアップを取り組んでいた。

「楽しそうなやね、あの子たち」
「そうね」

一方その少女たちから距離を置いたところで黙々とバットを振っている絵里と彼女を気遣うように声をかけている希。その二人の後ろには、一回り背の低い金髪の少女が心配そうに見つめていた。

「お姉ちゃん」
「何?亜里沙」

心配そうに姉に声をかけた亜里沙に、絵里は笑顔を見せながら近付いてくる。

「・・・頑張ってね!!」
「えぇ、もちろんよ」

本当はこの勝負、姉に勝ってもらいたいと思えない亜里沙は、複雑な心境だった。姉を応援したいが、野球を続けてもらうためには、この勝負に敗北した方がいいのだから。

「絢瀬、ちょっといいか?」
「わかりました、今行きます」

天王寺に呼ばれ走っていく姉の姿を心配そうに見つめたままの妹の頭を、副会長が撫でる。

「心配せんでもええよ、亜里沙ちゃんの気持ちは絵里ちもようわかってるから」
「本当ですか?」
「うんうん。せやから亜里沙ちゃんは何も心配せんとそこにいてくれればええんや」

小さな少女を落ち着かせるために、優しく声をかける希。彼女たちは視線を絵里に向け、亜里沙は祈るように手を合わせていた。

















「ヒデコ!!フミコ!!よろしくね!!」
「うん!!任せて!!」
「ボールは来ないようにしてね」

アップが終わり、守備位置へと散っていく穂乃果たち。その中に、野球部ではないメンバーが混ざっていた。

「あの子たちは?」
「向こうは人が揃ってないから、今回だけの助っ人らしいわ」
「なるほどね」

彼女たちは穂乃果と同じクラスの友人で、野球部を発足させる時に補助くらいならやってもいいといってくれた面々である。ちなみに、球審も彼女の友人であるミカがやってくれることになっている。

「ええの?相手に任せて」
「判定に不服があったらいつでも言っていいそうよ。まぁ、そんなことしなくても打てる自信はあるけど」

相手から事前に渡されたヘルメットを被り打席へと向かっていく絵里。彼女の視線の先にはマウンドに立つ小さなツインテールの少女がいる。

「矢澤さんよね、彼女」
「はい!!そうです」

キャッチャーを務める穂乃果に問い掛けると、彼女は丁寧な口調で答える。

「彼女がエースなの?」
「まさかぁ、違いますよ」
「ちょっと!!何よその言い草!!」

あまりの穂乃果の言い分にマウンドから怒声を上げるにこ。他の守備に散っている者たちは、苦笑いを浮かべていた。

「にこ先輩は現時点では三番手です。本当は野手として使いたいんですけどね」
「へぇ」

先日のピッチャーテストの際、天王寺が投手にしようか迷う位置にいたのが、今マウンドにいる矢澤にこ。その小さな体から穂乃果のミット目掛けてコントロールよくボールを投じている。

(この子をマウンドに上げなきゃいけないほどのレベルしかないの?それとも何かいいボールでも持ってるのかしら?)

見たところ何の変哲もないボールしか持ってないように見えるが、彼女を選んだのは甲子園史上最高と称される名捕手天王寺なのだ。何かあると疑ってしまうのも無理がない。
結局、何を理由に彼女を選んだのかわからないまま、規定の投球練習が終わり勝負の時が来る。守備につく音ノ木坂野球部のポジションは・・・

P 矢澤にこ
C 高坂穂乃果
1B 西木野真姫
2B ヒデコ
3B 園田海未
SS 星空凛
LF 南ことり
CF 小泉花陽
RF フミコ

(ライト方向に助っ人をまとめてるってことは、打たせたいのはレフト方向。つまり来るボールは・・・)

守っているポジションを見ておおよそ来るボールを予測する絵里。その彼女に向かってにこは大きく振りかぶると、第一球を投じる。

「!!」

その瞬間、彼女は思わず仰け反った。にこが投じたボールが、自分に向かって飛んできたからだ。
デッドボールになると思われた投球。しかし、そのボールは絵里の手前で変化し、穂乃果のミットへと吸い込まれる。

「ストライク!!」
「か・・・カーブ・・・」

にこの投じたボールは極一般的に使用されるカーブ。右バッター目掛けて投じることで、ストライクゾーンにコントロールすることができ、相手の腰を引かせることができる。

「ナイスボール!!にこ先輩!!」
「当ったり前よ!!」

返球する穂乃果と得意気にそれを受け取るにこ。対して絵里は、徐々に鋭い目付きになっていく。

(やられたわ、あんなカーブを持ってるなんて・・・)

油断していたことを自覚し、集中力を高めていく。バッテリーは素早いサイン交換を終えると、間髪入れずに次の投球に入る。

(間が短い!!)

近年学生野球では自分たちの優位に持ち込むため、ボールを返球されたらすぐに投球に入るチームもある。彼女たちは実力が不足している分、テンポ良く投げることで敵にチャンスを与えないようにとしているのである。

ピュッ

(外角!!遠・・・)

投じられたストレートは一秒にも満たずにミットへと吸い込まれる。穂乃果が小気味いい音を鳴らすと、球審のミカが右手を挙げる。

(初球のせいで遠く感じたわ。いいコントロールしてるわね)

本職は投手ではないはずなのに、まるで洗練された投手のようなコントロールを見せる小さな少女に感心せずにはいられない。しかし、脱帽している時間はない。バッテリーはすぐさま次の投球に入った。

(このコントロールで三番手なら、恐らく球種は多くない。ストレートにタイミングを合わせる!!)

セットポジションに切り替わったにこ。彼女は足を上げることなく、スライドさせるように前に踏み出す。

(クイック!!)

素早い投球フォームから投じられたのは先程とほとんど変わりのない普通のストレート。それにタイミングを合わせていた彼女はバットを振り抜く。

クッ

「!!」

だが、捉える瞬間、ストレートだと思われたボールが微妙に変化した。

ガキッ

「海未ちゃん!!」
「はい!!」

ボテボテの打球が三塁前に転がり、海未が冷静にそれを処理し一塁にスローイングし、アウトにした。

「やられたわ、まさかカットボールまで持ってるなんて」
「今のはストレートですよ、生徒会長」

決め球として使用された球種について感想を述べる絵里だったが、穂乃果の言葉に目を見開く。

「にこ先輩はセットポジションだとどうしても体重が乗せきれなくてボールがスライダーしてしまうんです。だからピッチャーにしにくいらしいですけど、今回はそれがうまくハマりました」

一昔前は振りかぶるよりセットポジションの方が球威が落ちると言われていたが、それは体重移動がうまくできないからと言われている。現在はそのイメージも払拭されつつあるが、にこのように体重を乗せきれない者ももちろん存在する。

「次!!海未!!頑張りなさいよ!!」
「はい!!任せてください」

一打席目を終えたことで海未がマウンドに上がる。変わったにこはセンターに行くと、花陽がサードに入った。

「引っかけてもうたね、絵里ち」
「えぇ。まさかナチュラルスライダーをあんな使い方するなんて・・・」

海未が投球練習をしている間、ベンチへと戻ってきた彼女に希が声をかける。

「ポジションを変えて来たってことは、あの子はにこっちみたいなタイプじゃないのかもしれんね」

大和撫子を思わせるような容姿の少女がマウンドから幼馴染みへと腕を振る。その姿は先程のにこよりも上体を傾かせ、腕を若干下ろして投げていた。

「サイドスローね。でも、スピードはかなり出てるわ」
「120kmくらいかな?女の子にしてはかなり速いね」

現在日本の女子野球での最速は126km。つまり今マウンドにいる投手は女子野球トップクラスのスピードボールを投じていることになる。

「でも問題ないわ。私はシニアの時、もっと速い投手といくらでも対戦してるんだから」

中学時代男子に交じって硬式野球をしていた絵里は、これよりも速い投手といくらでも対戦している。別段恐怖を覚えることなく、打席へと向かう。

(お姉ちゃん)

その背中に声をかけることもできなかった亜里沙は、静かに両手を握り合わせていた。










「よーし!!花陽ちゃん!!凛ちゃん!!よろしくね!!」
「はい!!」
「任せるニャー!!」

投球練習を終えて野手に声をかける主将。声をかけられたメンバーは、それに元気に返事する。

(さて、行こっか、海未ちゃん)
(えぇ、全力で行きますよ)

一つ深呼吸をしてから、セットポジションに入る。そこからゆったりと足を上げ、上半身を屈め、足を踏み出し腕を振るう。

(真んn・・・!?)

甘いコースに来たボールに反応しかけたが、その軌道にバットを止める。判定はストライクだったが、絵里は不満な様子はなく、冷静さを保っていた。

(なるほど。そういうことね)

それと同時に、小さく笑みを浮かべバットを構える。例によって海未はボールをもらうと、すぐさま投球動作に入った。

ビュッ

横手から投じられたストレート。絵里はそれを鋭いスイングで打ち返す。

カキーンッ

「「「「「!!」」」」」

快音を響かせた打球はあっという間に外野まで飛んでいくと、フェアゾーンから大きくそれ、ファールスタンドへと飛び込んでいく。

「はぁ~、びっくりしたぁ・・・」

フェアだったら間違いなくホームランだった打球に、心臓が止まりそうになっていた穂乃果が大きく息を吐く。他の面々も同様の反応だが、ベンチで見ている天王寺だけは何も心配要らないと言わんばかりの表情だった。

(天王寺先生のあの表情・・・私は打たされたわけね)

この対決が決まった時からおおよそわかってはいたが、絵里は彼の表情を見て確信を持った。“リードは天王寺がしている”ということに。

(園田さんのボールはシュートしてくる。サイドスローにすることでより回転を横にして変化を大きくしているのね。今の打球が切れたのもそれが原因)

本来シュート回転するボールは、力が伝わりきっていないため投手としては悪いものとされている。しかし、公立校や弱小私学に時おり出現するのが、このようにボールをシュート回転させる投手。マシン慣れしている強豪校は、これにより捉えるまで時間がかかるのだ。

(もし最初打ちに行っていたら間違いなく引っかけていたわ。でも、もう見切った)

バットを握る手に力が入っている打者を見て、穂乃果は天王寺に視線を向ける。彼はその意図を読み取りうなずくと、穂乃果から海未にサインが出された。

(ここでその球ですか!?)
(大丈夫!!海未ちゃんならできる!!)
(全く・・・あなたという人は・・・)

出されたサインに思わず苦笑いを浮かべた海未だったが、彼女は穂乃果のことをよく知っている。そんな彼女の出すサインを、拒むことなどするはずがない。

(行きます!!ラブアロー・・・シュート!!)

若干厨二病なところのある海未は心の中でそんなことを思いながら、ボールを握りミット目掛けて投じる。

(甘い!!)

それは真ん中高めに甘く入って来てしまい、絵里はフルスイングでそれを捉える。打ち上げられた打球は外野の奥深くまで飛んでいき・・・

「オーラーイ!!」

パシッ

レフトを守っていたことりが、フェンスに片手を付けてキャッチした。

「くっ・・・もうひと伸びがなかったわ」

悔しげに奥歯を噛み締める絵里。だが、作戦通りの海未と穂乃果は、マウンド上でハイタッチしていた。

「決まったね!!海未ちゃん!!」
「心臓が止まるかと思いました」

最後に投じたボールは、それまで投じられたストレートとは少し違う。通常のストレートは、バックスピンをかけた際、一回転するごとに縫い目が4ヶ所空気抵抗を受けるフォーシームが主流であり、海未が投げた最初の二球もこれに当てはまる。
だが、最後に投じたのは一回転ごとに空気抵抗を受ける縫い目が2ヶ所しかないツーシームと呼ばれるストレート。このボールはストレートよりもシュートしやすいボールであるため、ムービングボール全盛期のメジャーでよく使用されている。
最後のボールがそれまでよりも変化量が大きかったため、絵里は完璧に捉えたはずだったが、わずかに芯を外し、スタンドインしなかったのである。

「惜しかったね、お姉ちゃん」
「えぇ、でも大丈夫。次は必ず打つわ」

駆け寄ってきた妹の頭を撫で回すが、肝心の妹の表情は暗い。彼女の本心としては、姉に野球をやってもらうために、ここで負けてもらった方が気が楽だからだ。

「さて、最後はどんなピッチャーなのかし・・・ら・・・」

泣いても笑っても最後の対決となる打席。その相手がどんな投手なのかと思いマウンドを見た彼女は、言葉を失った。

「うわっ!!」
「あ!!ごめんなさい!!」

先程までの堂々とした投手たちとは全然真逆の、オドオドした眼鏡ッ娘がそこにいたからだ。



 
 

 
後書き
今守備についているのはあくまでも暫定ポジションですね。絵里たちが入ってくるとポジションも変わってきます。
そして最後のマウンドに上がったのは皆さんお分かりの通り、あの子です。どんな投球をしてくれるか、お楽しみに。 
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